秋? 冬。 谷? 山。
寝そべる太陽、元気な寒さ、かじかむ風、風邪。
スペイン風邪、天然痘、梅毒、エイズ。
病膏肓に入る。不治の病、後悔、恋の病。お医者様でも草津の湯でも?
そうだ、温泉。あるの? あるわ。地底にね。わたしとあなたの。
入りに行く? 行かない、かえる。会いにかえる。
かえる、けろちゃん、守矢のお山。古池や。古明地や。
くちんとひとつ。いったいだあれ?
誰何の声を。私とあなたで、やまびこあわせて、合計ふたつ。
「あなたなの?」
いいえ、わたし。他には誰も。わたし以外。
いないのはあなた? ちがう、わたし。勝手に離れたのは。わたし。わたしのほう。あなたじゃない。
くしゃみ、鼻水、鼻づまり。
鼻ちょうちん? 違う、たき。そう、滝。妖怪の山の滝。
ならば、ここは旧都じゃないわ。
「河童の住処?」わたしがいるのは。
さむさ。寝たら死ぬ。生きたくて寝るのに。
生きても、死んでも。寝てるみたいに。
寝ている私。おきて寝返り。
気づかぬうちに隣をうつもの。もう、誰もいない隣を。
おや? おやおやおや。
あらまあ、いたわ。わたし以外。ほら、あすこに。
「ほら、元気出して」
「気にしないで姉さん。こんなの毎年の冬の恒例じゃない」
い、芋、妹。
あの二人は姉妹なのね。へえ、ふうん。知ってた。
「どっかの騒霊姉妹の次女みたい、でなくてもいいからさ、少しは元気だそ?」
「テンションは、ちゃあんと騒霊姉妹なみよ。長女のだけど」
「軽口はいえるのね。元気はあるじゃない」
「ま、人里に行ったお姉ちゃんを迎えに行く程度のカラ元気はありますよーだ」
「いまみたいに?」
「いまみたいに」
姉妹の神様。豊穣? 寂しさ? 侘び寂び?
「せっかくだから穣子も人里に来ればよかったのに」
「無理。信仰元気色々たりない」
「人里で補給できるじゃない。今年はそれなりに豊作だったし」
「それでもいや」
「まったく」
「お姉ちゃん、人里に何しに行ったの?」
「これよ」
「手袋と。マフラーとセーターと。あと……はあ?焼き芋ぉ?!」
いも、いもうと、やきいも。
「くしゅん」
「ほら、穣子」
「なに?」
「もうちょっと寄せて。首筋向けて」
「うん」
妹を巻き込む、真っ赤なマフラー。とっても長いね、姉のマフラー。
巻き込んで? 妹を?
スカーレット? きゅっとして?
ドカーン?
「人里の焼き芋だっておいしいわよ。たまには穣子も自分以外が作ったの食べてみたいでしょ?」
「そうだけどさあ。さめちゃうじゃない。こんな寒さだと。雪も降りそうだし」
「だから穣子も誘ったのよ。一緒に人里へって」
「そんなこといいながら、どうせ帰りの懐炉代わりにかったんじゃないの?」
「穣子は食べたくない?」
「……食べたい」
「じゃあ、帰ったら一緒に食べましょ、暖めなおしてから」
「……うん」
お腹すいた? お腹すいた。食べてもいい? 食べなくてもいい。妖怪だから。妖怪だから? わたしだから?
死ぬ。死ぬ? わたしが? あなたが。
「私ね、穣子。いつか言おうと思ってたのだけど」
「何?」
「石焼芋のシーズンって、秋じゃなくて冬じゃない」
「だから?」
姉、顔、白い息。近づけて。
そういえば。わたし出るとき鍵締めた? わたし鍵あった? わたし部屋あった?
部屋の鍵、家の鍵、誰かの鍵。鍵で開ける。部屋を空ける。入り込む、鍵。そこに。
あると入れる。ないとダメ。鍵持ってないや、わたし。ノックしなきゃ。だから、入るには。
わたしが聞こえる? わたしが見える? わたしを覚えて? わたしにあけて?
「冬はあなたの季節でもいいと思うの」
「私はべつに焼き芋の神じゃないし」
「まー、いいじゃない、そんな細かい事」
「あとさー、姉さん。普通こういうことって恋人同士でしない?」
「そうね。恋人同士でしてみたいわね」
「姉さん恋人いるの?!」
「いないわ。穣子は?」
「……いない」
「お姉ちゃんとするのは嫌?」
「……別に」
「そう」
「あの、あえて言うなら……まんざらでもないといえなくも無い感じ? 姉さんとは」
「私もよ。穣子とは」
妹、顔紅く。無意識に。
妹、紅く。ふじわらの? 不死の病?
殺すの? 生きるの? ころし愛? ころし文句?
フェニクス、火の鳥、太陽の火、八咫烏、地獄鴉。
地獄の釜の蓋もあく。
年末、お正月。
一度はまともに帰ってきなさい。
おねえちゃん言ってた。眠る目を見て。目をそらして。まじめに。まともに?
帰る? カラスが鳴くからかあえろ。烏いないけど。
たいへん、鴉、いないなら。わたしがさがしにいかないと。わたしがあすこに、かえるためには。
それは、しかたの、ないことでしょう? わたしがこんなに、おそくなっても。
わたしに、ゆうきが、ないわけじゃない。けっして、決して。わたしのゆうき。
ゆうき。ゆうぎ? 星熊勇儀? 三歩で死んだ、わたしの遊戯。踏み出したばかりの、わたしのゆうき。
突破しないと、あなたに会えない。わたしとあなたの、散歩の勇気。
そうしてあなたに会いに行き。あなたの勇気は起きている?
あなたの遊戯は何見せる? あなたの部屋は、わたしにひらく?
そういえば。秋も過ぎ行き。
二人は家路に。私に気づかず。
静かに、穣り、手をつなぐ。
妹のほうが、より強く。
姉はきづいてないだろな。
あいにかえるの? 愛に生く? それともまさか、ころし会い?
わたしのかぜは、不治のかぜ。
寝そべる太陽、元気な寒さ、かじかむ風、風邪。
スペイン風邪、天然痘、梅毒、エイズ。
病膏肓に入る。不治の病、後悔、恋の病。お医者様でも草津の湯でも?
そうだ、温泉。あるの? あるわ。地底にね。わたしとあなたの。
入りに行く? 行かない、かえる。会いにかえる。
かえる、けろちゃん、守矢のお山。古池や。古明地や。
くちんとひとつ。いったいだあれ?
誰何の声を。私とあなたで、やまびこあわせて、合計ふたつ。
「あなたなの?」
いいえ、わたし。他には誰も。わたし以外。
いないのはあなた? ちがう、わたし。勝手に離れたのは。わたし。わたしのほう。あなたじゃない。
くしゃみ、鼻水、鼻づまり。
鼻ちょうちん? 違う、たき。そう、滝。妖怪の山の滝。
ならば、ここは旧都じゃないわ。
「河童の住処?」わたしがいるのは。
さむさ。寝たら死ぬ。生きたくて寝るのに。
生きても、死んでも。寝てるみたいに。
寝ている私。おきて寝返り。
気づかぬうちに隣をうつもの。もう、誰もいない隣を。
おや? おやおやおや。
あらまあ、いたわ。わたし以外。ほら、あすこに。
「ほら、元気出して」
「気にしないで姉さん。こんなの毎年の冬の恒例じゃない」
い、芋、妹。
あの二人は姉妹なのね。へえ、ふうん。知ってた。
「どっかの騒霊姉妹の次女みたい、でなくてもいいからさ、少しは元気だそ?」
「テンションは、ちゃあんと騒霊姉妹なみよ。長女のだけど」
「軽口はいえるのね。元気はあるじゃない」
「ま、人里に行ったお姉ちゃんを迎えに行く程度のカラ元気はありますよーだ」
「いまみたいに?」
「いまみたいに」
姉妹の神様。豊穣? 寂しさ? 侘び寂び?
「せっかくだから穣子も人里に来ればよかったのに」
「無理。信仰元気色々たりない」
「人里で補給できるじゃない。今年はそれなりに豊作だったし」
「それでもいや」
「まったく」
「お姉ちゃん、人里に何しに行ったの?」
「これよ」
「手袋と。マフラーとセーターと。あと……はあ?焼き芋ぉ?!」
いも、いもうと、やきいも。
「くしゅん」
「ほら、穣子」
「なに?」
「もうちょっと寄せて。首筋向けて」
「うん」
妹を巻き込む、真っ赤なマフラー。とっても長いね、姉のマフラー。
巻き込んで? 妹を?
スカーレット? きゅっとして?
ドカーン?
「人里の焼き芋だっておいしいわよ。たまには穣子も自分以外が作ったの食べてみたいでしょ?」
「そうだけどさあ。さめちゃうじゃない。こんな寒さだと。雪も降りそうだし」
「だから穣子も誘ったのよ。一緒に人里へって」
「そんなこといいながら、どうせ帰りの懐炉代わりにかったんじゃないの?」
「穣子は食べたくない?」
「……食べたい」
「じゃあ、帰ったら一緒に食べましょ、暖めなおしてから」
「……うん」
お腹すいた? お腹すいた。食べてもいい? 食べなくてもいい。妖怪だから。妖怪だから? わたしだから?
死ぬ。死ぬ? わたしが? あなたが。
「私ね、穣子。いつか言おうと思ってたのだけど」
「何?」
「石焼芋のシーズンって、秋じゃなくて冬じゃない」
「だから?」
姉、顔、白い息。近づけて。
そういえば。わたし出るとき鍵締めた? わたし鍵あった? わたし部屋あった?
部屋の鍵、家の鍵、誰かの鍵。鍵で開ける。部屋を空ける。入り込む、鍵。そこに。
あると入れる。ないとダメ。鍵持ってないや、わたし。ノックしなきゃ。だから、入るには。
わたしが聞こえる? わたしが見える? わたしを覚えて? わたしにあけて?
「冬はあなたの季節でもいいと思うの」
「私はべつに焼き芋の神じゃないし」
「まー、いいじゃない、そんな細かい事」
「あとさー、姉さん。普通こういうことって恋人同士でしない?」
「そうね。恋人同士でしてみたいわね」
「姉さん恋人いるの?!」
「いないわ。穣子は?」
「……いない」
「お姉ちゃんとするのは嫌?」
「……別に」
「そう」
「あの、あえて言うなら……まんざらでもないといえなくも無い感じ? 姉さんとは」
「私もよ。穣子とは」
妹、顔紅く。無意識に。
妹、紅く。ふじわらの? 不死の病?
殺すの? 生きるの? ころし愛? ころし文句?
フェニクス、火の鳥、太陽の火、八咫烏、地獄鴉。
地獄の釜の蓋もあく。
年末、お正月。
一度はまともに帰ってきなさい。
おねえちゃん言ってた。眠る目を見て。目をそらして。まじめに。まともに?
帰る? カラスが鳴くからかあえろ。烏いないけど。
たいへん、鴉、いないなら。わたしがさがしにいかないと。わたしがあすこに、かえるためには。
それは、しかたの、ないことでしょう? わたしがこんなに、おそくなっても。
わたしに、ゆうきが、ないわけじゃない。けっして、決して。わたしのゆうき。
ゆうき。ゆうぎ? 星熊勇儀? 三歩で死んだ、わたしの遊戯。踏み出したばかりの、わたしのゆうき。
突破しないと、あなたに会えない。わたしとあなたの、散歩の勇気。
そうしてあなたに会いに行き。あなたの勇気は起きている?
あなたの遊戯は何見せる? あなたの部屋は、わたしにひらく?
そういえば。秋も過ぎ行き。
二人は家路に。私に気づかず。
静かに、穣り、手をつなぐ。
妹のほうが、より強く。
姉はきづいてないだろな。
あいにかえるの? 愛に生く? それともまさか、ころし会い?
わたしのかぜは、不治のかぜ。