「茨華仙さま。実はご相談差し上げたいことが」
「またですか」
つい先ほど、博麗神社にて、堕落しきった巫女(華扇ちゃん視点)で徹底的にお説教してきた華扇ちゃんこと茨華仙。
その帰り道、人里の甘味処で大好きなあんみつを口にしようとしたところでこいつに捕まった。
「こちら、よろしいでしょうか?」
「……まぁ、好きにどうぞ」
こいつ――それは、目の前の相手を示す、華扇の中でのワードの一つ。
相手の名前は霍青娥。
邪仙を自称する、見た目には普通の美人の彼女。しかし、その性格はひねくれ曲がっているというか斜め上方向にムーンサルトしながらスターダストレヴァリエである。
何言ってるかわかんねぇだろ? 私もわかんねぇんだ。
「実は先日、こちら、人里を見て回っていると、興味深い少女を見つけました」
「はあ」
気の抜けた返事をしつつ、華扇はあんみつ一口。
もうそろそろ寒くなってくるこの季節、冷たいあんみつを頼む客は少ない。
しかし、だからといって、店主がこれを作るのに全く気を抜いていないことがよくわかる、見事な味わいであった。
あんこの甘さは控えめに。しかし、あんこそのものの味は決して失わず。
口の中で主張するその甘さに、しかし立ち向かうがごとく、弾ける果汁の果物たち。
さらに、昨今、紅魔館や風見幽香といった洋食を主体にする者たちのおかげで流行り始めた洋風お菓子の筆頭、ソフトクリームが、そのあんみつの上でとろりととろけている。
あんこと果物の味わいに混ざる、その絹のような味はまさに絶品。
店主は言った。『俺は自分の作るあんみつには自信を持っていた。だが、この、クリームあんみつってやつを、俺は知らなかった。その時、俺は悟ったね。俺はまだまだ修行不足、井の中の蛙だったんだ、と。よいものを取り入れ、自分をさらに極めていく――これが、料理人をやっている楽しみさ』と。
彼が作り出した、そのクリームあんみつのあじわいは、幻想郷で1、2を争うのは間違いない――そう、華扇は確信していた。
――要するに、あんみつ美味しくて笑顔ハッピー華扇ちゃんということである。
「それがこちらになります」
突如として、華扇の目の前に写真が取り出された。
視線を上げると、青娥がそれを華扇に向けて差し出している。
「どこに持っていたのですか」
青娥の服を一瞥する限り、ポケットなどは見当たらない。
尋ねてみると、青娥はにっこり、「このような裏技が」と胸の谷間からそれを取り出してみせる。
「この写真を見てください」
そんな風に、幻想郷に住む大多数の少女たちが怒りと悲しみと嘆きに満ちたラストワード解き放ちそうな青娥は、写真に写っている相手を示す。
「……この子は?」
それは、不思議な人物だった。
まず、小柄な少女である。
しかし、その『小柄』というのは一般的な意味での『小柄』を想像すると裏切られる。
端的に言うと、彼女は『小さすぎる』のだ。
屈託のない笑顔を浮かべた、かわいらしい、小さな女の子。いかにも青娥が飛びつきそうな属性満載の彼女であるが、
「彼女は、少名針妙丸ちゃんというそうです」
「どこで聞き出してきたんですか」
「それはまぁ、色々と」
壁抜けという術を使うほか、何か変なところで妙に華扇すら驚く術を極めているのが青娥である。
気配を探られず、他人の周囲に溶け込むことなど朝飯前なのだろう。
「こちら、見てわかる通りに、小さな少女です」
「小さすぎる気がしますが」
「小人だそうです」
「なるほど」
それならば、このサイズも納得が行く。
華扇はうなずき、『ってことは、このサイズのあんみつでも、この子にはすごい量なのよね。羨ましいわ……』とか思っていたりした。
ちなみに華扇ちゃんの夢は、『甘いものをとことんお腹一杯』であった。
仙人としての目標が、日々、斜め上方向にずれつつある華扇ちゃんである。
「華扇さま。
少女と言うのは、すなわち、『育ちきっていないつぼみ』でございます」
「はあ」
「このような少女も、それに該当するでしょう」
「ええ、そうですね」
「幻想郷の少女を愛するわたくしとしては、ぜひとも、お近づきになりたい」
「あなたいい加減警察に突き出しますよ」
「しかしながら、わたくしは、ふと思ったのです」
「ええ」
「少女とは、何であるか、と」
いきなり哲学的なこと言い出した青娥である。
華扇はとりあえず、話の流れは無視してあんみつ、全部、平らげた。ややしばらくして、店員の女の子が温かいお茶を持ってくる。
ちなみに、このお茶はサービスであった。
「少女とは、幼い、まだあどけなさの抜けきらない女の子のこと。
しかし、その体がそもそも小さい子は少女に当たるのか? これはすごく難しい問題だと考えております」
「私はさっぱり共感しません」
「体が小さければ少女なのか? 幼さが抜けきらなければ少女なのか? あざとかわいければ少女なのか?
――考える命題はつきません」
「あなた、仙人になってずっとそんなこと考えてきたんですか」
「元より、永遠に、かわいらしい少女を愛でるために仙人になることを目指した身の上」
「でしょうね。もう言うだけ無駄だと思いますが言っておきます。一回、ピチュってから出直して来い」
「話を元に戻します。
この少女、針妙丸ちゃんについて、わたくしは彼女を『少女』とすべきかどうか、悩みました。悩み続けました」
「あら、このお茶美味しい。
すいません。お代わりお願いしてもよろしいですか?」
「はーい。少々お待ちくださーい」
早々に、華扇は青娥の話に耳を傾けることを放棄した。
世の中、生きている限り、無駄なものはないと言われているが、それでもどうやっても無駄なものって存在するものなのだ。
「しかしながら、華扇さま。
世の中の時間と言うのは有限でございます。わたくし達のような不老不死であってもそれは同じこと。
見せ掛けの時間は無限となりますが、費やすことが出来る時間は有限――。
悩み、迷うことも人生では大切なことではございますが、必要以上の時間を費やしてしまっては本末転倒となってしまいます。
何か率直に解決できる手段はないか。それを考えるのも、人生の一つ」
「お待たせしましたー」
「あ、すいません。どうも」
何やらまともなこと言ってる青娥の話は、やっぱり華扇は無視した。
渡されるお茶が実に美味しい。どうやら、主人は使うお茶の葉を変えたようだ。
「そこでわたくしは、とある天狗に大枚はたいて突撃取材を依頼しました。
彼女から渡された写真がこちらになります」
またもや一枚の写真がテーブルの上に。
あーもーめんどくさいなーとか思いつつ、華扇はその写真をちら見した。
ばんっ、と。
直後、青娥がテーブルを叩く。
「これをご覧ください!」
店内に響き渡るのではないかと思うほどの大きな声。
慌てて、華扇は「ちょっと! 静かにしなさい!」と声を上げてしまう。
「……すいません。つい、取り乱してしまいました」
頬を赤くして、居住まいを正す青娥。
こちらに視線を向けてきている人々に、「ご迷惑をおかけして申し訳ございません」とぺこぺこ頭を下げる。
そういう礼儀正しさだけは仙人っぽい青娥である。
「……恐るべき事実です。
わたくしは、まさかこのようなことが実際に存在するのかと、己の目を疑いました。
しかし、そこは幻想郷。
『常識にとらわれるものは幻想郷では生きていけない』――この言葉の意味を思い知りました」
「またあいつか」
何かもう色々めんどくさいことの影にこいつありとか言われつつある緑の頭が思い浮かぶ。
頭のてっぺんの触覚(若芽?)をぴこぴこ動かしつつ、不敵な笑みを浮かべている少女の顔は、とりあえず、脳内から削除した。
はっきり言ってうざかった。
「そう……。
少名針妙丸ちゃん……彼女は小人……。しかし! 小人だからと言って、彼女がつるぺたであることはイコールでは結びつかないのです!」
一体どこからどうやって撮影したのか。青娥から渡された写真は、針妙丸の上着の袷の乱れを見事に捉えた写真であった。
覗くのは確かな谷間。しかも、服の起伏から察するに、彼女を自分たちの身長に置き換えて考えるとかなりのスタイルの持ち主であることは想像するに及ばない。
「わたくしはこれを、『ぷちぼいん』と名づけました! ロリ巨乳に続く、新たな少女のスタイルですっ!」
いっぺん、こいつの頭をかち割って脳みそ取り出して洗剤で徹底的に洗浄してやろうかと華扇は思った。
思って実行しかけたが、青娥の頭はマグナムスチール製のメリケンでもかち割れないだろうなということを思って行動に移すのはやめといた。
「どうですか、華扇さま!? 驚きの事実です!
このようなことが現実に存在する――まさに幻想郷の神秘! 針妙丸ちゃんのサイズから言わせてもらえるならば、リアルサイズの動くフィギュア!
彼女には悪いですが、これに魅力を感じない紳士淑女はいないと言っていいでしょう!」
馬鹿でけぇ青娥の声に、『うんうん』とうなずいている奴らがあちこちに見受けられた。
あいつらまとめて、説教符『72時間耐久正座』の餌食にしてやろうと、この時、華扇は心に決めた。
ちなみに、この奥義を食らった某神社の巫女は、それから一週間ほど、華扇の言うことに対してとても素直だった。
「このようにかわいらしい、しかし、妖艶な魅力を備えた少女がいる! 幻想郷にやってきたことは、それだけで、わたくしの仙人人生のクオリティをハイクオリティに仕上げてくれます!
そして、同時に、まだまだ我が無知を思い知らされます! この世界は、まだまだ、わたくしの知らない神秘に満ちている! なんと素晴らしきことでしょう!」
あちこちで、『ああ、全くだ』だの『俺達の戦いはこれからだ』だの『神秘の世界ゲンソーキョーか。胸が熱くなるな』などとぬかす阿呆どもの声が聞こえた。
とりあえず華扇は、手にしたお茶を飲み干した。
「しかし、わたくしに、その全てを受け入れ、抱擁するだけの度量がないのもまた事実! わたくしには、まだまだ、仙人としての修行が足りません!
茨華仙さま! わたくしは、新たな修行に入ります! 茨華仙さまを見習って! あなたのような幻想郷で随一の仙人となるべく!」
そこで自分を比較に出して欲しくなかったが、とりあえず華扇は、熱を帯びて演説する青娥を無視して席を立って会計へと歩いていく。
店員の少女が「いつもありがとうございまーす」とまぶしい笑顔を見せてくれた。
「己を高め、幻想郷に住まう少女全てにとってふさわしい仙人となってみせます!
わたくし、頑張ります! 華扇さま! 見ていてくださいね!」
「いやぁ、いつもいつも美味しい和菓子をありがとうございます。こちらのほうこそ」
「いえいえ」
「あ、どうも店主さん。ありがとうございます」
「いやいや、いいってことよ。
仙人さま、また来てくれよな」
ぐっ、と親指立てていい笑顔を見せてくれるシブメン店主。輝く歯がまぶしい。
「それでは、わたくしはこれにて! さあ、頑張りますわよーっ!」
青娥が店から立ち去った。
その彼女を信奉する紳士淑女のツラは覚えておこうと華扇は思った。店内一瞥しといた。
「それでは、ごちそうさまでした」
人里の一角にある、シブメン店主の甘味処。
そこは仙人も認める味をあなた達に提供してくれるでしょう。
人里に立ち寄った際には、是非とも、いらしてください。店主店員一同、心より、お客様をお待ちいたしております。
※なお、たまにピンク頭の仙人さまや青い髪の仙人さまがいらしていることがあります。仙人さまの前では粗相のないよう、お気をつけください。
「またですか」
つい先ほど、博麗神社にて、堕落しきった巫女(華扇ちゃん視点)で徹底的にお説教してきた華扇ちゃんこと茨華仙。
その帰り道、人里の甘味処で大好きなあんみつを口にしようとしたところでこいつに捕まった。
「こちら、よろしいでしょうか?」
「……まぁ、好きにどうぞ」
こいつ――それは、目の前の相手を示す、華扇の中でのワードの一つ。
相手の名前は霍青娥。
邪仙を自称する、見た目には普通の美人の彼女。しかし、その性格はひねくれ曲がっているというか斜め上方向にムーンサルトしながらスターダストレヴァリエである。
何言ってるかわかんねぇだろ? 私もわかんねぇんだ。
「実は先日、こちら、人里を見て回っていると、興味深い少女を見つけました」
「はあ」
気の抜けた返事をしつつ、華扇はあんみつ一口。
もうそろそろ寒くなってくるこの季節、冷たいあんみつを頼む客は少ない。
しかし、だからといって、店主がこれを作るのに全く気を抜いていないことがよくわかる、見事な味わいであった。
あんこの甘さは控えめに。しかし、あんこそのものの味は決して失わず。
口の中で主張するその甘さに、しかし立ち向かうがごとく、弾ける果汁の果物たち。
さらに、昨今、紅魔館や風見幽香といった洋食を主体にする者たちのおかげで流行り始めた洋風お菓子の筆頭、ソフトクリームが、そのあんみつの上でとろりととろけている。
あんこと果物の味わいに混ざる、その絹のような味はまさに絶品。
店主は言った。『俺は自分の作るあんみつには自信を持っていた。だが、この、クリームあんみつってやつを、俺は知らなかった。その時、俺は悟ったね。俺はまだまだ修行不足、井の中の蛙だったんだ、と。よいものを取り入れ、自分をさらに極めていく――これが、料理人をやっている楽しみさ』と。
彼が作り出した、そのクリームあんみつのあじわいは、幻想郷で1、2を争うのは間違いない――そう、華扇は確信していた。
――要するに、あんみつ美味しくて笑顔ハッピー華扇ちゃんということである。
「それがこちらになります」
突如として、華扇の目の前に写真が取り出された。
視線を上げると、青娥がそれを華扇に向けて差し出している。
「どこに持っていたのですか」
青娥の服を一瞥する限り、ポケットなどは見当たらない。
尋ねてみると、青娥はにっこり、「このような裏技が」と胸の谷間からそれを取り出してみせる。
「この写真を見てください」
そんな風に、幻想郷に住む大多数の少女たちが怒りと悲しみと嘆きに満ちたラストワード解き放ちそうな青娥は、写真に写っている相手を示す。
「……この子は?」
それは、不思議な人物だった。
まず、小柄な少女である。
しかし、その『小柄』というのは一般的な意味での『小柄』を想像すると裏切られる。
端的に言うと、彼女は『小さすぎる』のだ。
屈託のない笑顔を浮かべた、かわいらしい、小さな女の子。いかにも青娥が飛びつきそうな属性満載の彼女であるが、
「彼女は、少名針妙丸ちゃんというそうです」
「どこで聞き出してきたんですか」
「それはまぁ、色々と」
壁抜けという術を使うほか、何か変なところで妙に華扇すら驚く術を極めているのが青娥である。
気配を探られず、他人の周囲に溶け込むことなど朝飯前なのだろう。
「こちら、見てわかる通りに、小さな少女です」
「小さすぎる気がしますが」
「小人だそうです」
「なるほど」
それならば、このサイズも納得が行く。
華扇はうなずき、『ってことは、このサイズのあんみつでも、この子にはすごい量なのよね。羨ましいわ……』とか思っていたりした。
ちなみに華扇ちゃんの夢は、『甘いものをとことんお腹一杯』であった。
仙人としての目標が、日々、斜め上方向にずれつつある華扇ちゃんである。
「華扇さま。
少女と言うのは、すなわち、『育ちきっていないつぼみ』でございます」
「はあ」
「このような少女も、それに該当するでしょう」
「ええ、そうですね」
「幻想郷の少女を愛するわたくしとしては、ぜひとも、お近づきになりたい」
「あなたいい加減警察に突き出しますよ」
「しかしながら、わたくしは、ふと思ったのです」
「ええ」
「少女とは、何であるか、と」
いきなり哲学的なこと言い出した青娥である。
華扇はとりあえず、話の流れは無視してあんみつ、全部、平らげた。ややしばらくして、店員の女の子が温かいお茶を持ってくる。
ちなみに、このお茶はサービスであった。
「少女とは、幼い、まだあどけなさの抜けきらない女の子のこと。
しかし、その体がそもそも小さい子は少女に当たるのか? これはすごく難しい問題だと考えております」
「私はさっぱり共感しません」
「体が小さければ少女なのか? 幼さが抜けきらなければ少女なのか? あざとかわいければ少女なのか?
――考える命題はつきません」
「あなた、仙人になってずっとそんなこと考えてきたんですか」
「元より、永遠に、かわいらしい少女を愛でるために仙人になることを目指した身の上」
「でしょうね。もう言うだけ無駄だと思いますが言っておきます。一回、ピチュってから出直して来い」
「話を元に戻します。
この少女、針妙丸ちゃんについて、わたくしは彼女を『少女』とすべきかどうか、悩みました。悩み続けました」
「あら、このお茶美味しい。
すいません。お代わりお願いしてもよろしいですか?」
「はーい。少々お待ちくださーい」
早々に、華扇は青娥の話に耳を傾けることを放棄した。
世の中、生きている限り、無駄なものはないと言われているが、それでもどうやっても無駄なものって存在するものなのだ。
「しかしながら、華扇さま。
世の中の時間と言うのは有限でございます。わたくし達のような不老不死であってもそれは同じこと。
見せ掛けの時間は無限となりますが、費やすことが出来る時間は有限――。
悩み、迷うことも人生では大切なことではございますが、必要以上の時間を費やしてしまっては本末転倒となってしまいます。
何か率直に解決できる手段はないか。それを考えるのも、人生の一つ」
「お待たせしましたー」
「あ、すいません。どうも」
何やらまともなこと言ってる青娥の話は、やっぱり華扇は無視した。
渡されるお茶が実に美味しい。どうやら、主人は使うお茶の葉を変えたようだ。
「そこでわたくしは、とある天狗に大枚はたいて突撃取材を依頼しました。
彼女から渡された写真がこちらになります」
またもや一枚の写真がテーブルの上に。
あーもーめんどくさいなーとか思いつつ、華扇はその写真をちら見した。
ばんっ、と。
直後、青娥がテーブルを叩く。
「これをご覧ください!」
店内に響き渡るのではないかと思うほどの大きな声。
慌てて、華扇は「ちょっと! 静かにしなさい!」と声を上げてしまう。
「……すいません。つい、取り乱してしまいました」
頬を赤くして、居住まいを正す青娥。
こちらに視線を向けてきている人々に、「ご迷惑をおかけして申し訳ございません」とぺこぺこ頭を下げる。
そういう礼儀正しさだけは仙人っぽい青娥である。
「……恐るべき事実です。
わたくしは、まさかこのようなことが実際に存在するのかと、己の目を疑いました。
しかし、そこは幻想郷。
『常識にとらわれるものは幻想郷では生きていけない』――この言葉の意味を思い知りました」
「またあいつか」
何かもう色々めんどくさいことの影にこいつありとか言われつつある緑の頭が思い浮かぶ。
頭のてっぺんの触覚(若芽?)をぴこぴこ動かしつつ、不敵な笑みを浮かべている少女の顔は、とりあえず、脳内から削除した。
はっきり言ってうざかった。
「そう……。
少名針妙丸ちゃん……彼女は小人……。しかし! 小人だからと言って、彼女がつるぺたであることはイコールでは結びつかないのです!」
一体どこからどうやって撮影したのか。青娥から渡された写真は、針妙丸の上着の袷の乱れを見事に捉えた写真であった。
覗くのは確かな谷間。しかも、服の起伏から察するに、彼女を自分たちの身長に置き換えて考えるとかなりのスタイルの持ち主であることは想像するに及ばない。
「わたくしはこれを、『ぷちぼいん』と名づけました! ロリ巨乳に続く、新たな少女のスタイルですっ!」
いっぺん、こいつの頭をかち割って脳みそ取り出して洗剤で徹底的に洗浄してやろうかと華扇は思った。
思って実行しかけたが、青娥の頭はマグナムスチール製のメリケンでもかち割れないだろうなということを思って行動に移すのはやめといた。
「どうですか、華扇さま!? 驚きの事実です!
このようなことが現実に存在する――まさに幻想郷の神秘! 針妙丸ちゃんのサイズから言わせてもらえるならば、リアルサイズの動くフィギュア!
彼女には悪いですが、これに魅力を感じない紳士淑女はいないと言っていいでしょう!」
馬鹿でけぇ青娥の声に、『うんうん』とうなずいている奴らがあちこちに見受けられた。
あいつらまとめて、説教符『72時間耐久正座』の餌食にしてやろうと、この時、華扇は心に決めた。
ちなみに、この奥義を食らった某神社の巫女は、それから一週間ほど、華扇の言うことに対してとても素直だった。
「このようにかわいらしい、しかし、妖艶な魅力を備えた少女がいる! 幻想郷にやってきたことは、それだけで、わたくしの仙人人生のクオリティをハイクオリティに仕上げてくれます!
そして、同時に、まだまだ我が無知を思い知らされます! この世界は、まだまだ、わたくしの知らない神秘に満ちている! なんと素晴らしきことでしょう!」
あちこちで、『ああ、全くだ』だの『俺達の戦いはこれからだ』だの『神秘の世界ゲンソーキョーか。胸が熱くなるな』などとぬかす阿呆どもの声が聞こえた。
とりあえず華扇は、手にしたお茶を飲み干した。
「しかし、わたくしに、その全てを受け入れ、抱擁するだけの度量がないのもまた事実! わたくしには、まだまだ、仙人としての修行が足りません!
茨華仙さま! わたくしは、新たな修行に入ります! 茨華仙さまを見習って! あなたのような幻想郷で随一の仙人となるべく!」
そこで自分を比較に出して欲しくなかったが、とりあえず華扇は、熱を帯びて演説する青娥を無視して席を立って会計へと歩いていく。
店員の少女が「いつもありがとうございまーす」とまぶしい笑顔を見せてくれた。
「己を高め、幻想郷に住まう少女全てにとってふさわしい仙人となってみせます!
わたくし、頑張ります! 華扇さま! 見ていてくださいね!」
「いやぁ、いつもいつも美味しい和菓子をありがとうございます。こちらのほうこそ」
「いえいえ」
「あ、どうも店主さん。ありがとうございます」
「いやいや、いいってことよ。
仙人さま、また来てくれよな」
ぐっ、と親指立てていい笑顔を見せてくれるシブメン店主。輝く歯がまぶしい。
「それでは、わたくしはこれにて! さあ、頑張りますわよーっ!」
青娥が店から立ち去った。
その彼女を信奉する紳士淑女のツラは覚えておこうと華扇は思った。店内一瞥しといた。
「それでは、ごちそうさまでした」
人里の一角にある、シブメン店主の甘味処。
そこは仙人も認める味をあなた達に提供してくれるでしょう。
人里に立ち寄った際には、是非とも、いらしてください。店主店員一同、心より、お客様をお待ちいたしております。
※なお、たまにピンク頭の仙人さまや青い髪の仙人さまがいらしていることがあります。仙人さまの前では粗相のないよう、お気をつけください。
私もそれに1票入れたく思いますむしろしんちゃんに入れたくおm(以下略
むしろ華仙のスイーツ(笑)がブレない。あーた早苗と同類やないすか。
実はせいしんコンビはそうなんじゃないかと思っていたがそう考えた人は他にいたとは驚きだ