「茨華仙さま。今少し、お時間頂きたいのですが」
「暇じゃないので」
「左様ですか。
もしかして、修行の休憩中でしたか?」
うぐっ、と言葉に詰まるのはお団子頭が特徴的な茨華仙こと華扇ちゃんである。
その一方、彼女の前でにこにこ笑っているのは、邪仙こと霍青娥。
「まぁ……いや、そういうわけでも……」
そんな二人が顔を突き合わせているのは人里の一角、甘味処。
こんなところに、修行中の仙人が来るわけはないわけで。
しかも、テーブルの上に、美味しそうなあんみつとあんこたっぷりのお団子が載っているとなれば、色んな意味で言い訳不可能である。
しかし、そこは霍青娥。「なるほど。さすがは茨華仙さまです」と、何か勝手に納得する。
「えーっと、その……何か用事ですか?」
微妙に居心地悪いのか、視線逸らしつつ、華扇は目の前の相手に尋ねる。
青娥は『はい』とうなずくと、
「実はですね、華扇さま。
華扇さまに、少しご協力いただきたいことがありまして」
「全力で断りたいのですが」
「話だけでも」
ここで華扇は迷った。
青娥の話を聞くイコールろくでもないことに巻き込まれるのが、これまでのルール。そして、幻想郷と言う世界は、そのルールを生きるものに押し付けてくる。
変な言葉が来る前に、ここを退散するのが吉――そう判断した華扇は、『いえ、私はこれにて』と立ち上がろうとする。
……立ち上がろうとするのだが、彼女には、目の前のあんみつとお団子を無視することは出来なかった。
「先日より、華扇さまに、わたくし、色々とお世話になっておりますが」
「……はぁ」
その一瞬の迷いの間に、相手は会話する態勢に入ってしまった。
こうなると、無視して逃げるのは何か色んな意味でアレである。
仕方ないから、華扇は相手の言葉に耳を貸すふりしつつ、目の前のあんみつとお団子に全てを注ぎ込むことにした。
「一方的にお世話になるばかりで、華扇さまにお礼をしていなかったことを忘れておりました。
大変、申し訳ございません」
そこで、と青娥。
「少々お時間を頂きたいのです」
「……好きにしてください。
ただし、これを食べ終わってから」
これから始まる、恐らく、己にとっての災難に備えて、せめて目の前の幸せだけは全力で受け止める華扇ちゃんであった。
場所を移して、こちら、華扇ちゃんのおうち。
彼女に連れられ、楚々とやってきた青娥が、『実はですね』と一言。
「華扇さまに、こちらを」
と、彼女がどこからともなく取り出したのは、見事な出来のチョコレートケーキであった。
「え?」
思わず、華扇も目を丸くする。
青娥がなぜ、このようなことをするのか。それが全く想像がつかなかったからだ。
「さあ、どうぞ。お納めください」
「あ、いや、その……。
な、何ですか? これは」
「お礼ですわ。
華扇さまに差し上げるものとして、何がふさわしいか。
適当なものや粗末なものでは、高名な仙人である華扇さまには無礼になってしまいますので、ずいぶん悩みました」
「えーっと……」
「風の噂に聞いたのですが、華扇さまは、こうした甘味がお好きとのこと。
無難なお礼になってしまうのは申し訳ないのですが、角の立たないのは、やはり、食べ物かな、と」
そこで、このようなケーキを焼いて持って来たのだ、と青娥は言った。
華扇の目は、青娥が取り出したケーキに注がれている。
つい先日からのダイエットに成功し、ようやく、晴れて今日から大好きな甘いものを食べられるようになった彼女にとって、それは、まるで宝物のように見えた。
「わたくし、お料理には自信を持っております。
今回のこれも、それなりの出来であると自負いたしますし、味も保証いたしますわ。
さあ、どうぞ」
「……ち、ちょっと待ってなさい」
「はい」
華扇は一度、奥に引っ込むと、しばし、自問自答する。
青娥があのようなことをしてきた理由。それをすることで、彼女にどんな得があるのか。これは彼女の陰謀ではないか。などなどエトセトラ。
しかしながら結局のところ、思考は、『だけど、あいつがまともに悪事働いたことがあったか?』に終結してしまう。
確かにあの青娥、もうどうしようもないくらいのダメ人間ではあるが、それでも唾棄すべき相手ではないし、頂く名前通りの邪悪な輩でもない。
というか、むしろ、ちょっと方向性は違うものの、純粋に己を高めようとする仙人であることに違いはないのだ。
少なくとも、華扇は、これまで青娥と付き合ってきて、彼女に対してそのような印象を抱くに至っている。
――彼女は決意した。
「お待たせしました」
青娥は、ケーキを側のテーブルの上に置いて、自分はその横に立ち尽くしている。椅子もあるのにだ。
華扇は彼女に『どうぞ』と席を勧める。そこで始めて、彼女は椅子に腰を下ろす。
「私一人だけと言うのは何ですから」
華扇が持っていたのはお茶だった。
それを青娥に勧め、手にしたナイフでケーキを切り分ける。
「まあ、よろしいんですか?」
「ええ」
「ありがとうございます、茨華仙さま。
さすがは、わたくしが尊敬する仙人さまですわ」
「……」
青娥は華扇に対して、こんな風な言葉と視線を向けてくることがある。
そこに悪意はなく、純粋な意思が瞳には浮かんでいる。
華扇だって仙人だ。それくらい見抜くことは出来る。
「では」
さっきあんみつとお団子をお腹一杯食べたのに、甘いものは別腹の華扇ちゃんは、ケーキを一口する。
「……これはっ!」
外側はぱりぱりにコーティングされたチョコレート。内側はふわっふわのスポンジ。もちろん、ケーキ自体にチョコを練りこんでいるため、口の中に広がるカカオの風味がたまらない。
スポンジとスポンジとの間には、濃厚な、チョコクリームと言うよりは溶かしたチョコレートそのものがサンドされている。
さらに、そのチョコクリームの中には口の中に入れるととろりととろけるチョコの塊がたくさん。
まさに、これぞチョコレートケーキといわんばかりのチョコレートケーキであった。
「美味しいですか?」
「……へっ?
あ、いや、えっと、はい。大変。はい」
美味しさのあまり感動に打ち震えていた華扇が、慌てて、青娥の言葉に返事をする。
青娥は『よかったです』と微笑んだ後、上品に、チョコレートケーキを一口、口にした。
「廟のものの食事はわたくしが管理しております。
朝・昼・晩、バランスよく適度な量。それから、美味しいおやつ。もちろん、お昼寝タイムを設けてありますので、健やかに、そしてかわいらしく、皆、日々を過ごしております」
もう、こいつ、仙人じゃなくて保母さんやったほうがいいんじゃなかろうかと華扇は思った。
実際、青娥にとって、保母さんはある意味、天職ではなかろうか。
彼女の性癖を考えると、絶対に、近づけてはならない職業であるのは言うまでもないが。
「実を申し上げますと、これ、華扇さまには味見も兼ねてもらっていたのです」
「はあ」
「うちは、特に布都ちゃんと芳香が甘いものが大好きで。
あんまり食べ過ぎると虫歯になると言っているのですけれど、これがなかなか」
ちなみに、一度、虫歯になって永遠亭に連れて行かれた布都は、響くドリルの音にただならぬ恐怖心を叩き込まれたのだそうな。
以後、甘いものを食べた後、彼女は必ず歯磨きをするようになったらしい。
「うふふ。申し訳ありません、華扇さま。
けれど、美味しいと言ってもらえて、大変、光栄です」
「いえ。それについては。
しかし、これほど上手に料理を作れるのはスキルですね。私ではとてもとても」
「あら、そんなことありません。
やはり必要なのは、努力と継続、そして反省と反復ですわ。華扇さまは、わたくしよりも、ずっと、そこに長けておられるのですもの。
いずれ、わたくしよりも、ずっと美味しいケーキを作ってしまいそうで」
「そんなことありません。
よいですか、霍青娥。謙遜と言うのは人間の美徳の一つです。
しかし、度が過ぎれば、それはただのいやみとなってしまいます。相手が認めているのなら、それを誇らないと」
「まあ、確かに。そうですわね。
さすがは茨華仙さま。わたくし、考えを改めさせられました」
美味しいお茶とお菓子があれば、女の子同士の話は進む。
実に和やかに、そしてゆったりと、二人の間の時間は過ぎていく。
「ですが、最初の頃は、このような奇妙奇天烈なお菓子があるとは夢にも思っていませんでした」
「私もそうです。初めて食べた時は衝撃を受けました」
「ええ。わたくしも、いわゆる和製の砂糖菓子には口が慣れておりましたが、このような洋風のものは、そもそも口にしたこともなくて。
布都ちゃん達も、大層、気に入っていましたよ」
「ですが、少し、重たいんですよね。たくさん食べ過ぎると胸焼けをしてしまいます」
「わかります。
なので、うちでも、『ケーキは一人一つまで』を徹底しておりますわ。
おかげで取りあいなども起こりませんし」
「正しい教育ですね。
あ、お茶、いかがですか?」
「まあ、すみません。それでは、頂きます」
華扇が青娥に提供しているお茶は、普段、彼女が飲むようなお茶ではなく、紅魔館で買ってきた紅茶である。
やはり、ケーキには紅茶、それも少し苦味の強いティーが似合っている。
「西洋では、紅茶と言うのは牛乳で作るものだと聞いております」
「ロイヤルミルクティーですね。
紅魔館の館主は、それが好きだそうです。
けれど、私は、こういう……何というか、普通に淹れた方が」
「わたくしはレモンティーですわね。あの品のいい香りがたまりません」
「お茶も好きなのですか。意外ですね」
「あら、仙人ですもの。そういう、ちょっと気取ったものは大好きですよ」
「確かに。我々は見栄っ張りなところがありますからね」
実に平和で優雅な、午後のティータイム。
二人の会話は弾み、和やかな空気は続いた。
「――さて。
長居してしまいました。そろそろ帰って、お夕飯を作らないと」
「そうですか。長く引き止めてしまってすみません」
「いえいえ。
あ、そのケーキ、なまものですので早めにお召し上がりくださいね」
「ええ」
「それでは、茨華仙さま。ごきげんよう」
ぺこりと頭を下げた彼女は、空へとふぅわり舞い上がり、やがて華扇の視界から姿を消す。
それを見送った華扇は、『青娥も、たまにはまともなときがあるものだ』と至極感心していた。
「次は、こちらから、今日の礼を返さなくては」
相手の礼儀には礼儀で返す。
それは仙人でなくとも、人と人の付き合いでは当然のことだ。
今度、さりげなく、彼女の好きな食べ物を聞き出しておこう。そう、華扇は決めると、食べ残しのケーキを氷室へと持っていく。
「これで、明日はお茶の時間が楽しみになりそうね!」
――ちなみに、ケーキは、まだ9割くらいが残っていたことだけを追記しておく。
たまにはこんな風に、静かな一日もあるという、そんな華扇ちゃんの日常であった。
「暇じゃないので」
「左様ですか。
もしかして、修行の休憩中でしたか?」
うぐっ、と言葉に詰まるのはお団子頭が特徴的な茨華仙こと華扇ちゃんである。
その一方、彼女の前でにこにこ笑っているのは、邪仙こと霍青娥。
「まぁ……いや、そういうわけでも……」
そんな二人が顔を突き合わせているのは人里の一角、甘味処。
こんなところに、修行中の仙人が来るわけはないわけで。
しかも、テーブルの上に、美味しそうなあんみつとあんこたっぷりのお団子が載っているとなれば、色んな意味で言い訳不可能である。
しかし、そこは霍青娥。「なるほど。さすがは茨華仙さまです」と、何か勝手に納得する。
「えーっと、その……何か用事ですか?」
微妙に居心地悪いのか、視線逸らしつつ、華扇は目の前の相手に尋ねる。
青娥は『はい』とうなずくと、
「実はですね、華扇さま。
華扇さまに、少しご協力いただきたいことがありまして」
「全力で断りたいのですが」
「話だけでも」
ここで華扇は迷った。
青娥の話を聞くイコールろくでもないことに巻き込まれるのが、これまでのルール。そして、幻想郷と言う世界は、そのルールを生きるものに押し付けてくる。
変な言葉が来る前に、ここを退散するのが吉――そう判断した華扇は、『いえ、私はこれにて』と立ち上がろうとする。
……立ち上がろうとするのだが、彼女には、目の前のあんみつとお団子を無視することは出来なかった。
「先日より、華扇さまに、わたくし、色々とお世話になっておりますが」
「……はぁ」
その一瞬の迷いの間に、相手は会話する態勢に入ってしまった。
こうなると、無視して逃げるのは何か色んな意味でアレである。
仕方ないから、華扇は相手の言葉に耳を貸すふりしつつ、目の前のあんみつとお団子に全てを注ぎ込むことにした。
「一方的にお世話になるばかりで、華扇さまにお礼をしていなかったことを忘れておりました。
大変、申し訳ございません」
そこで、と青娥。
「少々お時間を頂きたいのです」
「……好きにしてください。
ただし、これを食べ終わってから」
これから始まる、恐らく、己にとっての災難に備えて、せめて目の前の幸せだけは全力で受け止める華扇ちゃんであった。
場所を移して、こちら、華扇ちゃんのおうち。
彼女に連れられ、楚々とやってきた青娥が、『実はですね』と一言。
「華扇さまに、こちらを」
と、彼女がどこからともなく取り出したのは、見事な出来のチョコレートケーキであった。
「え?」
思わず、華扇も目を丸くする。
青娥がなぜ、このようなことをするのか。それが全く想像がつかなかったからだ。
「さあ、どうぞ。お納めください」
「あ、いや、その……。
な、何ですか? これは」
「お礼ですわ。
華扇さまに差し上げるものとして、何がふさわしいか。
適当なものや粗末なものでは、高名な仙人である華扇さまには無礼になってしまいますので、ずいぶん悩みました」
「えーっと……」
「風の噂に聞いたのですが、華扇さまは、こうした甘味がお好きとのこと。
無難なお礼になってしまうのは申し訳ないのですが、角の立たないのは、やはり、食べ物かな、と」
そこで、このようなケーキを焼いて持って来たのだ、と青娥は言った。
華扇の目は、青娥が取り出したケーキに注がれている。
つい先日からのダイエットに成功し、ようやく、晴れて今日から大好きな甘いものを食べられるようになった彼女にとって、それは、まるで宝物のように見えた。
「わたくし、お料理には自信を持っております。
今回のこれも、それなりの出来であると自負いたしますし、味も保証いたしますわ。
さあ、どうぞ」
「……ち、ちょっと待ってなさい」
「はい」
華扇は一度、奥に引っ込むと、しばし、自問自答する。
青娥があのようなことをしてきた理由。それをすることで、彼女にどんな得があるのか。これは彼女の陰謀ではないか。などなどエトセトラ。
しかしながら結局のところ、思考は、『だけど、あいつがまともに悪事働いたことがあったか?』に終結してしまう。
確かにあの青娥、もうどうしようもないくらいのダメ人間ではあるが、それでも唾棄すべき相手ではないし、頂く名前通りの邪悪な輩でもない。
というか、むしろ、ちょっと方向性は違うものの、純粋に己を高めようとする仙人であることに違いはないのだ。
少なくとも、華扇は、これまで青娥と付き合ってきて、彼女に対してそのような印象を抱くに至っている。
――彼女は決意した。
「お待たせしました」
青娥は、ケーキを側のテーブルの上に置いて、自分はその横に立ち尽くしている。椅子もあるのにだ。
華扇は彼女に『どうぞ』と席を勧める。そこで始めて、彼女は椅子に腰を下ろす。
「私一人だけと言うのは何ですから」
華扇が持っていたのはお茶だった。
それを青娥に勧め、手にしたナイフでケーキを切り分ける。
「まあ、よろしいんですか?」
「ええ」
「ありがとうございます、茨華仙さま。
さすがは、わたくしが尊敬する仙人さまですわ」
「……」
青娥は華扇に対して、こんな風な言葉と視線を向けてくることがある。
そこに悪意はなく、純粋な意思が瞳には浮かんでいる。
華扇だって仙人だ。それくらい見抜くことは出来る。
「では」
さっきあんみつとお団子をお腹一杯食べたのに、甘いものは別腹の華扇ちゃんは、ケーキを一口する。
「……これはっ!」
外側はぱりぱりにコーティングされたチョコレート。内側はふわっふわのスポンジ。もちろん、ケーキ自体にチョコを練りこんでいるため、口の中に広がるカカオの風味がたまらない。
スポンジとスポンジとの間には、濃厚な、チョコクリームと言うよりは溶かしたチョコレートそのものがサンドされている。
さらに、そのチョコクリームの中には口の中に入れるととろりととろけるチョコの塊がたくさん。
まさに、これぞチョコレートケーキといわんばかりのチョコレートケーキであった。
「美味しいですか?」
「……へっ?
あ、いや、えっと、はい。大変。はい」
美味しさのあまり感動に打ち震えていた華扇が、慌てて、青娥の言葉に返事をする。
青娥は『よかったです』と微笑んだ後、上品に、チョコレートケーキを一口、口にした。
「廟のものの食事はわたくしが管理しております。
朝・昼・晩、バランスよく適度な量。それから、美味しいおやつ。もちろん、お昼寝タイムを設けてありますので、健やかに、そしてかわいらしく、皆、日々を過ごしております」
もう、こいつ、仙人じゃなくて保母さんやったほうがいいんじゃなかろうかと華扇は思った。
実際、青娥にとって、保母さんはある意味、天職ではなかろうか。
彼女の性癖を考えると、絶対に、近づけてはならない職業であるのは言うまでもないが。
「実を申し上げますと、これ、華扇さまには味見も兼ねてもらっていたのです」
「はあ」
「うちは、特に布都ちゃんと芳香が甘いものが大好きで。
あんまり食べ過ぎると虫歯になると言っているのですけれど、これがなかなか」
ちなみに、一度、虫歯になって永遠亭に連れて行かれた布都は、響くドリルの音にただならぬ恐怖心を叩き込まれたのだそうな。
以後、甘いものを食べた後、彼女は必ず歯磨きをするようになったらしい。
「うふふ。申し訳ありません、華扇さま。
けれど、美味しいと言ってもらえて、大変、光栄です」
「いえ。それについては。
しかし、これほど上手に料理を作れるのはスキルですね。私ではとてもとても」
「あら、そんなことありません。
やはり必要なのは、努力と継続、そして反省と反復ですわ。華扇さまは、わたくしよりも、ずっと、そこに長けておられるのですもの。
いずれ、わたくしよりも、ずっと美味しいケーキを作ってしまいそうで」
「そんなことありません。
よいですか、霍青娥。謙遜と言うのは人間の美徳の一つです。
しかし、度が過ぎれば、それはただのいやみとなってしまいます。相手が認めているのなら、それを誇らないと」
「まあ、確かに。そうですわね。
さすがは茨華仙さま。わたくし、考えを改めさせられました」
美味しいお茶とお菓子があれば、女の子同士の話は進む。
実に和やかに、そしてゆったりと、二人の間の時間は過ぎていく。
「ですが、最初の頃は、このような奇妙奇天烈なお菓子があるとは夢にも思っていませんでした」
「私もそうです。初めて食べた時は衝撃を受けました」
「ええ。わたくしも、いわゆる和製の砂糖菓子には口が慣れておりましたが、このような洋風のものは、そもそも口にしたこともなくて。
布都ちゃん達も、大層、気に入っていましたよ」
「ですが、少し、重たいんですよね。たくさん食べ過ぎると胸焼けをしてしまいます」
「わかります。
なので、うちでも、『ケーキは一人一つまで』を徹底しておりますわ。
おかげで取りあいなども起こりませんし」
「正しい教育ですね。
あ、お茶、いかがですか?」
「まあ、すみません。それでは、頂きます」
華扇が青娥に提供しているお茶は、普段、彼女が飲むようなお茶ではなく、紅魔館で買ってきた紅茶である。
やはり、ケーキには紅茶、それも少し苦味の強いティーが似合っている。
「西洋では、紅茶と言うのは牛乳で作るものだと聞いております」
「ロイヤルミルクティーですね。
紅魔館の館主は、それが好きだそうです。
けれど、私は、こういう……何というか、普通に淹れた方が」
「わたくしはレモンティーですわね。あの品のいい香りがたまりません」
「お茶も好きなのですか。意外ですね」
「あら、仙人ですもの。そういう、ちょっと気取ったものは大好きですよ」
「確かに。我々は見栄っ張りなところがありますからね」
実に平和で優雅な、午後のティータイム。
二人の会話は弾み、和やかな空気は続いた。
「――さて。
長居してしまいました。そろそろ帰って、お夕飯を作らないと」
「そうですか。長く引き止めてしまってすみません」
「いえいえ。
あ、そのケーキ、なまものですので早めにお召し上がりくださいね」
「ええ」
「それでは、茨華仙さま。ごきげんよう」
ぺこりと頭を下げた彼女は、空へとふぅわり舞い上がり、やがて華扇の視界から姿を消す。
それを見送った華扇は、『青娥も、たまにはまともなときがあるものだ』と至極感心していた。
「次は、こちらから、今日の礼を返さなくては」
相手の礼儀には礼儀で返す。
それは仙人でなくとも、人と人の付き合いでは当然のことだ。
今度、さりげなく、彼女の好きな食べ物を聞き出しておこう。そう、華扇は決めると、食べ残しのケーキを氷室へと持っていく。
「これで、明日はお茶の時間が楽しみになりそうね!」
――ちなみに、ケーキは、まだ9割くらいが残っていたことだけを追記しておく。
たまにはこんな風に、静かな一日もあるという、そんな華扇ちゃんの日常であった。
作者を間違えたかな・・・
青娥さんのお母さんぷりが何とも。
とても和みましたが、華仙ちゃんのリバウンドが心配です。
華