「さぁ……準備はいいわね?全力で行かせて貰うわよ」
草木も眠る丑三つ時、普段の余裕ぶった表情を消し去り、神妙な顔でそう切り出した姫様に小さく頷いてから、ニヤニヤとした表情で隣に座っているてゐに視線を向ける。
余裕綽々といった感じね……確かに、この勝負が始まって、もう早くも十二回目になるけど、常に勝者は貴女だったものね。余裕でも当然だわ……でもね、今回も同じようにいくとは思わないことね。何しろ取って置きの秘密兵器があるからね。
「じゃあ、先ずは私からいくよ。明日の事もあるから、早く終わらせたいしね」
そんな私の思いを知らず、てゐが元気よく手を上げる。成る程、絶対に自分が勝つと思っているのね。なら、その自信を粉々に砕いてあげようかしら。見れば姫様も特に焦る事もなく、てゐに先行を譲っている。どうやら、向うも相当自信があるみたいね……今回はてゐよりも姫様の方が厄介かも知れない。
「……へぇ、二人とも相当自信あるんだね。でも、私には勝てないと思うけどなぁ」
予想と違ったであろう私達の反応に、少し不満気な表情をしながら、ゴソゴソと自分の服から一枚の写真を取り出して床に置くてゐ。
私と姫様は視線を交わして頷き合うと、その写真に視線を落とす。そこに写っていたのは、見慣れた竹林、そこには不釣合いなダンボール……そして、心なしか不安そうな顔をして、その中に入っている優曇華。これは……可愛いじゃない!誰よ、こんなに可愛い子を捨てたのは!百万回殺してもまだ足りないわ!
「題名『捨て鈴仙』。いやー、この前かくれんぼしてたら、偶然こんなことになっててねぇ……この見つかるかどうか不安がってる顔が、まるで拾ってもらえるかどうかを心配してるみたいでしょう?」
「拾う!例え永琳が反対しても、絶対に拾う!そして毎日一緒にお風呂に入って、抱きしめて眠るわ!」
「姫様、私が反対するわけないじゃないですか。というより、姫様のお手を煩わせず、私が面倒見ますのでどうかご安心を」
優曇華の不安そうな顔は珍しくないが、それがダンボールと組み合わさるだけでここまでの威力を発揮するとは……場所が人気のない竹林というのも、捨てられた感が出てて、ベストマッチだわ。
「ほらほら、ギブアップするなら早く言ってよ。私、明日鈴仙と遊びに行くから、そろそろ寝たいんだよね~」
「ふっ、そうね。確かに今までなら、これで私には打つ手が無かったわ。そもそも貴女達と違って、私はあんまりあの子と過ごす時間が無いからね……でも今日は違うわ!」
てゐの言葉に小さく笑みを浮かべてそう答えると、姫様は袖口から写真を取り出して床に置く。それは月の光を一身に受け、佇んでいる優曇華の姿。表情もキリッとしており、さっきのてゐとは違って優曇華の綺麗な面を押し出している。
いや、それはいいんだけど……よく見ると写真の中の優曇華の腕の中には、何故か姫様が俗に言うお姫様抱っこの状態で納まっており、満足そうな表情を浮かべて、優曇華の首に手を回している。
「たまたま廊下で寝ちゃったのを、あの子が運んでくれたみたいでね。その途中で目が覚めて、驚いてくっ付いたのを、たまたまその場に居たイナバが撮ったみたいで」
「あの子、結構力あるのね~」なんて、楽しそうに笑っている姫様を横目で睨みながら、てゐが小さく歯軋りする。ああ、そう言えばこの前お姫様抱っこを頼んだけど、恥ずかしいからって断られたって言ってたわね。
成る程、完全にてゐを狙い打ってのこの写真って訳ね。つまりはてゐを抑えれば勝てる、と……その読みのおかげでこの勝負、私の勝ちだわ!
「それでは、最後は私ですね」
ポケットから写真を取り出し、見やすいように二人の間に置く。その写真を覗きこんでから二人は、パチパチと瞬きをして勝ち誇ったような表情になる。まぁ、この写真だけではそうでしょうね。
「何よ、ただ白衣を着てるだけじゃない。珍しいって言えば珍しいけど、それだけじゃない」
「お師匠様らしくないですね。あーあ、今日は姫様の勝ちかぁ」
「ふふふっ、二人とももう一度写真の優曇華の顔をよく見てください」
私がそう言うと、二人とも怪訝そうな表情で、もう一度写真に視線を落とす。よし、言うのならこのタイミングね。
「実はそれ実験の後で撮った写真なんですが、あの子その時水を全身に被りまして」
写真に視線を落としていた二人は、顔を上げて私を見つめてくる。その視線は「だから、何だ」と言いたげだ。私はそんな二人に微笑んでから、ヒョイッと写真を拾いヒラヒラと動かしながら、話を続ける。
「私その時にうっかり、今貴女が被ったのは試作品の薬で、今すぐ服を脱がないと危ないって言ったんですよ……そしたらあの子、泣きそうな顔で「下着まで滲みた」って」
それで察したのか、二人とも目を大きく見開いて、ヒラヒラと動いている写真を凝視してきた。さて、止めを刺してあげましょうか。
「いいから早く脱ぎなさいって言って脱がしたら、変えの服が無かったみたいだから、私の白衣を貸してあげたんですよ。ほら、顔真っ赤でしょう?それはそうよねぇ、この下に何も着てないんだから……そしてね、この後こう言ったのよ。「私がこんな格好するの、師匠の前だけですからね」って」
私がそう言った瞬間、姫様とてゐは鼻を押さえると、勢いよく天井に視線を向ける。多分、師匠の所を自分に当て嵌めたんでしょうね……それにしてもあの時の優曇華は可愛かったなぁ。あ、思い出したら鼻血が……ん?今、カタンって音が廊下からしたような気がするけど。
きっと気のせいね。そんなことより、二人とも私の勝ちで文句ないみたいだし、商品の『一日鈴仙一人締め券』で何しようかな。
翌日、優曇華と遊びに行く予定だったてゐの絶叫で、駆けつけると一枚の紙を握り締めて優曇華の部屋で号泣しているてゐを発見し、その紙に書いてあった『探さないで下さい』の一文に私と姫様が卒倒したのは、また別のお話。
「ごめんね、妖夢。いきなり夜中に押しかけて、暫く泊めてなんてお願いして」
「いえ、それは別に構わないのですが……大丈夫ですか?昨日、尋ねて来た時からそうでしたが、目が虚ろですよ?」
「ああ、うん……大丈夫、ちょっと皆のイメージが変わっただけだから……」
草木も眠る丑三つ時、普段の余裕ぶった表情を消し去り、神妙な顔でそう切り出した姫様に小さく頷いてから、ニヤニヤとした表情で隣に座っているてゐに視線を向ける。
余裕綽々といった感じね……確かに、この勝負が始まって、もう早くも十二回目になるけど、常に勝者は貴女だったものね。余裕でも当然だわ……でもね、今回も同じようにいくとは思わないことね。何しろ取って置きの秘密兵器があるからね。
「じゃあ、先ずは私からいくよ。明日の事もあるから、早く終わらせたいしね」
そんな私の思いを知らず、てゐが元気よく手を上げる。成る程、絶対に自分が勝つと思っているのね。なら、その自信を粉々に砕いてあげようかしら。見れば姫様も特に焦る事もなく、てゐに先行を譲っている。どうやら、向うも相当自信があるみたいね……今回はてゐよりも姫様の方が厄介かも知れない。
「……へぇ、二人とも相当自信あるんだね。でも、私には勝てないと思うけどなぁ」
予想と違ったであろう私達の反応に、少し不満気な表情をしながら、ゴソゴソと自分の服から一枚の写真を取り出して床に置くてゐ。
私と姫様は視線を交わして頷き合うと、その写真に視線を落とす。そこに写っていたのは、見慣れた竹林、そこには不釣合いなダンボール……そして、心なしか不安そうな顔をして、その中に入っている優曇華。これは……可愛いじゃない!誰よ、こんなに可愛い子を捨てたのは!百万回殺してもまだ足りないわ!
「題名『捨て鈴仙』。いやー、この前かくれんぼしてたら、偶然こんなことになっててねぇ……この見つかるかどうか不安がってる顔が、まるで拾ってもらえるかどうかを心配してるみたいでしょう?」
「拾う!例え永琳が反対しても、絶対に拾う!そして毎日一緒にお風呂に入って、抱きしめて眠るわ!」
「姫様、私が反対するわけないじゃないですか。というより、姫様のお手を煩わせず、私が面倒見ますのでどうかご安心を」
優曇華の不安そうな顔は珍しくないが、それがダンボールと組み合わさるだけでここまでの威力を発揮するとは……場所が人気のない竹林というのも、捨てられた感が出てて、ベストマッチだわ。
「ほらほら、ギブアップするなら早く言ってよ。私、明日鈴仙と遊びに行くから、そろそろ寝たいんだよね~」
「ふっ、そうね。確かに今までなら、これで私には打つ手が無かったわ。そもそも貴女達と違って、私はあんまりあの子と過ごす時間が無いからね……でも今日は違うわ!」
てゐの言葉に小さく笑みを浮かべてそう答えると、姫様は袖口から写真を取り出して床に置く。それは月の光を一身に受け、佇んでいる優曇華の姿。表情もキリッとしており、さっきのてゐとは違って優曇華の綺麗な面を押し出している。
いや、それはいいんだけど……よく見ると写真の中の優曇華の腕の中には、何故か姫様が俗に言うお姫様抱っこの状態で納まっており、満足そうな表情を浮かべて、優曇華の首に手を回している。
「たまたま廊下で寝ちゃったのを、あの子が運んでくれたみたいでね。その途中で目が覚めて、驚いてくっ付いたのを、たまたまその場に居たイナバが撮ったみたいで」
「あの子、結構力あるのね~」なんて、楽しそうに笑っている姫様を横目で睨みながら、てゐが小さく歯軋りする。ああ、そう言えばこの前お姫様抱っこを頼んだけど、恥ずかしいからって断られたって言ってたわね。
成る程、完全にてゐを狙い打ってのこの写真って訳ね。つまりはてゐを抑えれば勝てる、と……その読みのおかげでこの勝負、私の勝ちだわ!
「それでは、最後は私ですね」
ポケットから写真を取り出し、見やすいように二人の間に置く。その写真を覗きこんでから二人は、パチパチと瞬きをして勝ち誇ったような表情になる。まぁ、この写真だけではそうでしょうね。
「何よ、ただ白衣を着てるだけじゃない。珍しいって言えば珍しいけど、それだけじゃない」
「お師匠様らしくないですね。あーあ、今日は姫様の勝ちかぁ」
「ふふふっ、二人とももう一度写真の優曇華の顔をよく見てください」
私がそう言うと、二人とも怪訝そうな表情で、もう一度写真に視線を落とす。よし、言うのならこのタイミングね。
「実はそれ実験の後で撮った写真なんですが、あの子その時水を全身に被りまして」
写真に視線を落としていた二人は、顔を上げて私を見つめてくる。その視線は「だから、何だ」と言いたげだ。私はそんな二人に微笑んでから、ヒョイッと写真を拾いヒラヒラと動かしながら、話を続ける。
「私その時にうっかり、今貴女が被ったのは試作品の薬で、今すぐ服を脱がないと危ないって言ったんですよ……そしたらあの子、泣きそうな顔で「下着まで滲みた」って」
それで察したのか、二人とも目を大きく見開いて、ヒラヒラと動いている写真を凝視してきた。さて、止めを刺してあげましょうか。
「いいから早く脱ぎなさいって言って脱がしたら、変えの服が無かったみたいだから、私の白衣を貸してあげたんですよ。ほら、顔真っ赤でしょう?それはそうよねぇ、この下に何も着てないんだから……そしてね、この後こう言ったのよ。「私がこんな格好するの、師匠の前だけですからね」って」
私がそう言った瞬間、姫様とてゐは鼻を押さえると、勢いよく天井に視線を向ける。多分、師匠の所を自分に当て嵌めたんでしょうね……それにしてもあの時の優曇華は可愛かったなぁ。あ、思い出したら鼻血が……ん?今、カタンって音が廊下からしたような気がするけど。
きっと気のせいね。そんなことより、二人とも私の勝ちで文句ないみたいだし、商品の『一日鈴仙一人締め券』で何しようかな。
翌日、優曇華と遊びに行く予定だったてゐの絶叫で、駆けつけると一枚の紙を握り締めて優曇華の部屋で号泣しているてゐを発見し、その紙に書いてあった『探さないで下さい』の一文に私と姫様が卒倒したのは、また別のお話。
「ごめんね、妖夢。いきなり夜中に押しかけて、暫く泊めてなんてお願いして」
「いえ、それは別に構わないのですが……大丈夫ですか?昨日、尋ねて来た時からそうでしたが、目が虚ろですよ?」
「ああ、うん……大丈夫、ちょっと皆のイメージが変わっただけだから……」
幻想郷が平和そうで何よりです