「百年後、ねぇ」
新聞の特集は百年先の未来予想。
念写の鴉天狗の持っているような小さな機械が普及し、皆はそれで話したり遊んだりするようになる。
風を操り部屋の温度を暖かく、冷たく、自由に操れるようになる。
氷室のようなものは全ての家庭に設置され、食品を長く安全に保存できる。又食品を温めるための道具もできて、いつでも冷たいものを冷たく、温かいものを温かく食せるようになる。
機械の鳥は空を、機械の獅子は地を駆ける。
狩猟はあまり行われなくなり、農耕も機械に頼るようになる…………
「ほとんど八雲紫に聞いた現在の外の世界ですので当たらずとも遠からず、と言ったところでしょう」
「紫が。珍しいこともあるものね」
巫女と鴉天狗は二人ならんで腰掛け、持ってきたばかりの新聞を片手に雑談をする。
「すこーしばかり謝礼を申し出たら進んで引き受けてくれましたよ」
「謝礼?……私の写真じゃあないでしょうね?」
「ええ、今回は。外の世界の新聞も見せてもらって、中々いい経験をしました」
霊夢は今回はという言葉が引っ掛かったので突っ込みかけるがやめておく。今日はそんな気分ではないのだ。
「外の世界の新聞って、何が載ってるの?」
「私の新聞とそう変わりませんでした。外の世界の新聞の方が下世話なゴシップが多かった程度ですかね」
「文々。新聞よりも?」
「文々。新聞よりも、です」
文は失礼な、とでも言いたげに眉間にシワをよせ言った。
霊夢は軽くごめんごめんと言い、再び呟いた。
「百年後、ねぇ」
「百年後、霊夢さんはどうしているんでしょうね」
何気なく返事をすると霊夢はぼーっとしたまま口を動かした。
「何言ってるのよ。私は人間なんだから、その頃にはとっくに死んでるわ」
返ってきたのは当たり前のことと言わんばかりの言葉。
「でもあんたは変わって無いんでしょうね。千年も生きててそれなんだから」
何事もなかったかのようにあっさり流して話を続けようとする霊夢に衝撃を受け、言葉が詰まる。
「霊夢さんが、死んでるとは限らないですよ。百年なんて案外一瞬です」
「私はまだ二十も生きてないのよ?一瞬だとは思えないわ」
慌てて反論するともっともな意見が返ってくる。余裕がない自分に頭の隅で警鐘が鳴るが無視して無理矢理に言葉を引っ張り出す。
「百年くらい生きる人間なんてザラにいますよ!」
「ザラにゃいないわ」
「なら、たまに!どうして霊夢さんがその『たま』じゃないと言い切れるんですか!」
「だって、」
「異変解決なんてしてるからですか?いくら安全になったとは言えども、危険は伴いますしね。わかりました。私が今から行って全ての人妖に話をつけてきましょう」
「ちょっと待ちなさいってば。異変のせいじゃないから」
羽を出して飛び立とうとした文の肩をつかんで引き留める。力が強かったわけではないが一気に頭が冷め、一呼吸おいて口を開く。
「なら、なんだと」
「そうね、強いて言うなら」
「ならば?」
「『勘』ね」
へたり、文は膝から崩れ落ちた。今にも泣きそうに震えた声で囁く。
「霊夢の勘に、勝てるわけがないじゃない」
霊夢の勘は異常なほどに鋭い。博麗霊夢に関わったことのある人妖なら周知の事実。
「でしょう?諦めなさい」
霊夢が少し寂しげにこちらに笑いかけた。
地に這いつくばったままに見上げる。
今は烏の濡れ羽と呼ばれるような、艶のある少々青みを帯びた黒いその髪もいずれ白く染まり、透き通った栗色の虹彩もいずれ濁る。そんなことはわかっていた。わかっている。でも。
「でも、諦めないの。霊夢、できるだけ長く、生きて」
「まあ、わざわざ死ぬ気はないわ」
「ちゃんと寝て、食べて、無茶はしないで。お酒もほどほどに」
「うっ……少しは考えてみる」
「考えるだけじゃなくて、するの!わかった?」
文は立ち上がると霊夢の肩に手を置き迫る。
霊夢は少々驚いたような困ったような顔をしながら、わかった、わかったから。と言い文を押し戻した。
「本当あんたたちは心配性よね」
「……あなたはそれだけ愛されてるのよ。鬼にも、吸血鬼にも、天人にも、妖怪の賢者にも。……私にも」
「知ってるわ」
「知ってるって知ってる。でも、言いたいの。霊夢、愛してる」
じっと目を合わせて言う。霊夢の瞳に自分のいつになく真面目な顔が写って見えた。
「私は、みんな好きよ」
それは、優しい拒絶。
「霊夢は本当に優しくて、平等ね」
「それは、巫女だから」
「いえ、霊夢だから、なのよ。今までの巫女とは違う、霊夢だから。みんなあなたを愛するの」
霊夢の瞳が揺れた。
「……ありがとう。私はみんなが好きよ」
柔らかく微笑んだ霊夢の顔は可愛らしくて。
「知ってるわ」
無理矢理にいつもの笑みを取り繕って、さっきの霊夢の言葉を真似て返した。
新聞の特集は百年先の未来予想。
念写の鴉天狗の持っているような小さな機械が普及し、皆はそれで話したり遊んだりするようになる。
風を操り部屋の温度を暖かく、冷たく、自由に操れるようになる。
氷室のようなものは全ての家庭に設置され、食品を長く安全に保存できる。又食品を温めるための道具もできて、いつでも冷たいものを冷たく、温かいものを温かく食せるようになる。
機械の鳥は空を、機械の獅子は地を駆ける。
狩猟はあまり行われなくなり、農耕も機械に頼るようになる…………
「ほとんど八雲紫に聞いた現在の外の世界ですので当たらずとも遠からず、と言ったところでしょう」
「紫が。珍しいこともあるものね」
巫女と鴉天狗は二人ならんで腰掛け、持ってきたばかりの新聞を片手に雑談をする。
「すこーしばかり謝礼を申し出たら進んで引き受けてくれましたよ」
「謝礼?……私の写真じゃあないでしょうね?」
「ええ、今回は。外の世界の新聞も見せてもらって、中々いい経験をしました」
霊夢は今回はという言葉が引っ掛かったので突っ込みかけるがやめておく。今日はそんな気分ではないのだ。
「外の世界の新聞って、何が載ってるの?」
「私の新聞とそう変わりませんでした。外の世界の新聞の方が下世話なゴシップが多かった程度ですかね」
「文々。新聞よりも?」
「文々。新聞よりも、です」
文は失礼な、とでも言いたげに眉間にシワをよせ言った。
霊夢は軽くごめんごめんと言い、再び呟いた。
「百年後、ねぇ」
「百年後、霊夢さんはどうしているんでしょうね」
何気なく返事をすると霊夢はぼーっとしたまま口を動かした。
「何言ってるのよ。私は人間なんだから、その頃にはとっくに死んでるわ」
返ってきたのは当たり前のことと言わんばかりの言葉。
「でもあんたは変わって無いんでしょうね。千年も生きててそれなんだから」
何事もなかったかのようにあっさり流して話を続けようとする霊夢に衝撃を受け、言葉が詰まる。
「霊夢さんが、死んでるとは限らないですよ。百年なんて案外一瞬です」
「私はまだ二十も生きてないのよ?一瞬だとは思えないわ」
慌てて反論するともっともな意見が返ってくる。余裕がない自分に頭の隅で警鐘が鳴るが無視して無理矢理に言葉を引っ張り出す。
「百年くらい生きる人間なんてザラにいますよ!」
「ザラにゃいないわ」
「なら、たまに!どうして霊夢さんがその『たま』じゃないと言い切れるんですか!」
「だって、」
「異変解決なんてしてるからですか?いくら安全になったとは言えども、危険は伴いますしね。わかりました。私が今から行って全ての人妖に話をつけてきましょう」
「ちょっと待ちなさいってば。異変のせいじゃないから」
羽を出して飛び立とうとした文の肩をつかんで引き留める。力が強かったわけではないが一気に頭が冷め、一呼吸おいて口を開く。
「なら、なんだと」
「そうね、強いて言うなら」
「ならば?」
「『勘』ね」
へたり、文は膝から崩れ落ちた。今にも泣きそうに震えた声で囁く。
「霊夢の勘に、勝てるわけがないじゃない」
霊夢の勘は異常なほどに鋭い。博麗霊夢に関わったことのある人妖なら周知の事実。
「でしょう?諦めなさい」
霊夢が少し寂しげにこちらに笑いかけた。
地に這いつくばったままに見上げる。
今は烏の濡れ羽と呼ばれるような、艶のある少々青みを帯びた黒いその髪もいずれ白く染まり、透き通った栗色の虹彩もいずれ濁る。そんなことはわかっていた。わかっている。でも。
「でも、諦めないの。霊夢、できるだけ長く、生きて」
「まあ、わざわざ死ぬ気はないわ」
「ちゃんと寝て、食べて、無茶はしないで。お酒もほどほどに」
「うっ……少しは考えてみる」
「考えるだけじゃなくて、するの!わかった?」
文は立ち上がると霊夢の肩に手を置き迫る。
霊夢は少々驚いたような困ったような顔をしながら、わかった、わかったから。と言い文を押し戻した。
「本当あんたたちは心配性よね」
「……あなたはそれだけ愛されてるのよ。鬼にも、吸血鬼にも、天人にも、妖怪の賢者にも。……私にも」
「知ってるわ」
「知ってるって知ってる。でも、言いたいの。霊夢、愛してる」
じっと目を合わせて言う。霊夢の瞳に自分のいつになく真面目な顔が写って見えた。
「私は、みんな好きよ」
それは、優しい拒絶。
「霊夢は本当に優しくて、平等ね」
「それは、巫女だから」
「いえ、霊夢だから、なのよ。今までの巫女とは違う、霊夢だから。みんなあなたを愛するの」
霊夢の瞳が揺れた。
「……ありがとう。私はみんなが好きよ」
柔らかく微笑んだ霊夢の顔は可愛らしくて。
「知ってるわ」
無理矢理にいつもの笑みを取り繕って、さっきの霊夢の言葉を真似て返した。
しかし、自分を好いてくれる相手に対して、
自分は周りみんなが好きだ、って返すのはひどく残酷な回答ですね…
みんなが好きってすぱっと言えてしまう辺り霊夢さんらしいです。私のイメージですけどね!
私はその残酷さが結構好きです。