Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

仙人、修行が足りず

2013/07/18 20:56:50
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「あら」
「げ」
 声がかかった瞬間、彼女――茨木華扇はその場から逃げようとした。
 しかし、目の前のテーブルで『私を食べて』と彼女のフォークを待っているガトーショコラを捨て置くことは出来ず、一瞬の迷いを見せた瞬間に、相手が近づいてきた。
「ごきげんよう、茨華仙さま」
「……霍青娥。どうして、あなたは私の行く先々に現れるのですか……」
「ただの偶然ですわ」
 と、ころころ笑うのは霍青娥。
 自他共に『邪仙』を名乗る輩であるが、最近、華扇は、『こいつは悪い奴じゃないんだろうな』と思うようになっている。
 もちろん、『悪い奴じゃない』のなら『いい奴』であるというルールは適用されないのだが。
「美味しそうですね」
「ええ、まあ、美味しいですよ」
「そういうのがお好きなのですね」
 かわいらしいですわ、と青娥。
 長年、仙人やっていて、質素な食生活に慣れている華扇ちゃん。そんな彼女に新鮮な感動をもたらしてくれた『ケーキ』というか『洋菓子』と言うものは、まさしく新しい世界との邂逅であったという。
 要するに『こんなに美味しいものを知らないで生きてきた人生、なんて時間を無駄にしてきたんだろう!』ということだ。
 なお、仙人とは『質素』と『禁欲』が是であるのはいうまでもない。
「別にいいでしょう。私が何を食べていても」
「ええ、そうですね。
 食事は万物の源。美味しいものをお腹一杯食べるのが、何よりも正しいことです」
 それについては異存はない。
 華扇は、『……で?』と視線で相手に言葉を促した。
「こちら、よろしいですか?」
「……まぁ、お好きにどうぞ」
 それでは、と楚々とした仕草で華扇の対面に腰を下ろす青娥。
「本日は、こちらの紅魔館に、少し用事がありまして」
「あなたのところの住人も、こうした食べ物が好きなのですか?」
「子供ですから」
 なるほど、と思わず納得。
 甘いものが嫌いな子供と言うのは、あまり聞かない。それは、種族年齢その他諸々の要素を考慮しても、世間の常識といって相違ないだろう。
「おみやげを買って帰らないといけません」
「それは結構な心がけですね」
「ですが、それが目的と言うわけではなく」
 言われて、ちらりと見ると、青娥は何やら大きな紙袋を持っていた。
 それが理由ですか、と問いかけると、『さすがは茨華仙さま。優れた洞察力です』と、こちらをバカにしてるんだか本気でほめているんだかわからない言葉が返ってくる。
「実はこちらに」
 がさごそ、と紙袋の中から取り出したのは、かわいらしいくまさんぬいぐるみ。
「こちらを、このお館の少女にプレゼント、と……」
「中に何か入れてないでしょうね」
「ええ、もちろん」
 とか言いつつ、以前、それに盗聴器を仕込もうとしていた青娥である(ちなみにその時は、華扇が相手をへち倒して没収している)。
『ちょっと見せなさい』と相手からぬいぐるみ取り上げ、しげしげと観察する。
「……何もないようね」
「当然です。
 華扇さま、わたくしは、嘘はつきませんよ」
 自分基準で物を言ったり、冗談を言うこと数あれど、確かに思い返してみれば、青娥が他人に嘘をついたことはなかったような気がする、と華扇。
 もっとも、嘘を平然とつくような輩が、曲がりなりにも『仙人』を名乗る身分になれるかどうかと考えると、青娥の言葉も当然と言う感じではあった。
「なるほど。
 それで、どんな風の吹き回しですか?」
「わたくしにとって、かわいらしい少女は庇護と慈しみの対象です」
「あー」
 もうそれ以上言わなくていいから、と華扇は言った。
 そう。この霍青娥、病的なまでの少女愛主義者であるが、その対象に向ける愛情は本物である。色々ひんまがったところはあるにせよ、彼女のその信条と言葉には疑う余地はない。
「お近づきになったプレゼントですわ」
「まぁ……はい、そうですか、としか」
「それに、少女には、お人形さんもいいけれどぬいぐるみ、特にくまさんが似合うと思いませんか!?」
 ものすっげーどうでもいいことをほざく青娥のセリフを、華扇は華麗にスルーした。
 ここで余計なことを言えば、また変なことになりかねないと判断したのだ。幻想郷では、こうした危機予測と回避スキルに長けているものが長生きするのである。
「――と、あら。ちょうどいいところに」
 と、そこで青娥の視線が左手側を向く。
 そちらを見れば、たまたま遊びに来たのか、それともおやつでもつまみに来たのか、紅魔館の名物お嬢様の一人、フランドール・スカーレットが、辺りをきょろきょろ見回しながら、ちょこまかとしたかわいらしい動作で歩いている。
 その彼女が近くまで来たところで、青娥が、『ごきげんよう』と声をかけた。
「こんにちは!」
 フランドールは、自分に声をかけてきた相手に屈託のない笑顔を返す。
 その彼女に、「まあ。きちんと挨拶が出来て偉いですね」と青娥。
 フランドールは嬉しそうににこにこ笑いながら、「なぁに?」と尋ねてくる。
「実はですね、先日、お招きいただきましたお礼に、こちらを」
「うわ、おっきなくまさん! これ、フランにくれるの!?」
「ええ、もちろん。よろしければどうぞ」
 そういうところだけ見てると普通の子供好きなんだけどなぁ、と華扇は思った。
 人間、やはり見た目と言うものは大事である。いや、この場合は『見てくれ』と言ったほうが正しいか。
 まともに子供と接しているところを見るだけならば、本当に、ただの『子供好きの優しい女性』といった感じなのに、どうして口を開くとああなるのか。
 人の人格ってのはわからないものね、と彼女はケーキをもぐもぐ。
 ぬいぐるみを受け取り、目を輝かせていたフランドールは、青娥の顔を見上げてお礼の言葉を口にする。


「ありがとう! 仙人のおばちゃん!」


 ――その瞬間、青娥の笑顔が凍りついた。


「……?
 おばちゃん、どうしたの?」
「お、おば……。
 ……い、いいえぇ。な、何でもありませんわ。お、おほほほほほ。
 だ、大事にしてくださいね」
「うん!」
 フランドールはぬいぐるみを抱えて、嬉しそうにぱたぱたと足音を立てて去っていく。
 それを引きつり笑顔で見送っていた青娥が、そのまま、どさっ、とかいう音と共に椅子の上に腰を下ろした。
「……おばちゃん……。わたくしが……おばちゃん……」
 霍青娥。
 実年齢がいくつかは不明であるが、人里を歩けば『美人のお姉さん』と言う評判が立てられる相手だ。
 その彼女に容赦なく叩きつけられた『おばちゃん』の一言。
「……子供ってのは、悪意がない分、激烈にきついことをさらりと言うのよねぇ……」
 ぽつりとつぶやく華扇の一言が聞こえたのか、それともそうではないのか。
 ふらりふらりと立ち上がった青娥は、「……ごきげんよう、茨華仙さま」と肩を落として去っていく。
「わたくしが……おばちゃん……。少女たちの目から見てそのように見えると言うこと……!?
 ……そんなはずはない……! 毎日の美容体操、運動、食事、お肌ケア、あらゆるものに取り組み、努力しているこのわたくしが、そんな、おばちゃんだなんて……!
 ……待って、よく考えるのよ、霍青娥……。
 少女は純真で純粋な存在……その瞳は、わたくしの真の姿を見据えている……!
 つまり、わたくしの中のどこかに、年老いたものを感じさせるものがある……! これはいけない……! わたくしは、己に自惚れていたのよ……!
 不老不死は完璧ではない……! 心の中のどこかに隙を見せれば、そこから人は老いていく……!
 ふ……ふふっ……! さすがは……! このわたくしに足りないことを気付かせてくれるなんて……!」
「目がうつろだわ……」
 口では何とかかんとか、今の状況を前向きに考えようと努力する青娥ではあるが、その雰囲気はごまかせない。
 と言うか、小さな子供にとって、彼女たちくらいの見た目になれば、充分、誰もが『おじさん』であり『おばさん』なのであるのだが――それは言わないほうがいいだろう。
「ま、ほったらかしといても実害は出ないだろうし」
 それに何より、『へこんだ青娥』と言うのを見るのがあまりにも新鮮で、かつ、おもしろユカイであったため、あえて何も言わないいじわる華扇ちゃんであったとさ。
青娥さんじゅうななさい。
haruka
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
このピンクはホント幸せそうにお菓子食べるなあ。
やーん美味しいー! って声が聞こえてくるw
2.奇声を発する程度の能力削除
良かったです
3.名前が無い程度の能力削除
少女ばかりの幻想郷で大人の女性としての風格があるんだよきっと
決しておばちゃんではない
4.名前が無い程度の能力削除
珍しく華仙ちゃんが声を荒げずにすみましたね。
去っていく静娥さんを見ながらケーキ頬張る姿を想像すると、シュールで笑えました。
静娥さん、頑張って。
5.絶望を司る程度の能力削除
どんまい・・・としか言いようがねぇなこれはwww
6.名前が無い程度の能力削除
平均年齢が低いから相対的にOVAちゃんになっちゃうんだ。仕方ないね
7.名前が無い程度の能力削除
若返りなら聖に聞けばいいじゃんw
でもこれ紫とか神奈子とかがお姉さんって呼ばれてたら精神病むだろうなあwww
8.名前が無い程度の能力削除
冒頭3文字で笑った作品はこれが初めてだ。
9.名前が無い程度の能力削除
食いしん坊な華仙ちゃん可愛い、そして凹んだ青娥ちゃんも可愛い。

青娥ちゃんは若くて美しいナウなヤングです