「春ですよー?」
「あら、いらっしゃい」
太陽の畑。
そこに現れたリリーホワイトを、風見幽香は笑顔で出迎えた。
「おー、道に迷ったですよー」
「あらあら、どこに行きたいの?」
「花が咲くと、早く春が来る、の友達に呼ばれたですよー」
「うん?」
「南の女神様のところに行きたいですよー」
謎かけめいたリリーホワイトの言葉に、幽香は首を傾げる。
と、そこへ近くで花見をしていた二ッ岩マミゾウがのっそりと顔を出した。
「なんじゃなんじゃ」
「あら、化け狸さん。この子が道に迷ったようなのだけれど」
「花が咲くと、早く春が来る、の友達に呼ばれて、南の女神様のところへ行くですよー」
「そりゃ、花が咲いたら春じゃろうなあ」
マミゾウも首を傾げる。
「そもそもそんな女神、幻想郷にいたかしら?」
「ふむ……何か聞き覚えはあるんじゃが」
思案げな顔をしたマミゾウは、ぽんと手を叩いて幽香とリリーホワイトを見やった。
「ちょいと調べ事をしとくるから、少し待っといてくれんかえ」
「はあ、いいけど」
では失礼、と走り去っていくマミゾウを、幽香は呆気にとられて見送る。
リリーホワイトは困った顔をしながらきょろきょろと周囲を見まわしていた。
* * *
「謎は解けたぞい」
マミゾウがそう言って戻ってきたとき、幽香とリリーホワイトは花畑近くの風見邸で紅茶を飲んでいた。
「紅茶美味しいですよー」
「あら、おかえり。何が分かったの?」
「花が咲くと早く春が来るっちゅーんは、言い方が正確ではなかったんじゃな」
リリーホワイトを見つめて、マミゾウは眼鏡の奥の目を細める。
「花咲き、疾く春、というのが正しいのではないかえ」
「はなさきとくはるですよー」
「やっぱりそうかえ。となると、南の女神様ってのはディオーネのことじゃな?」
「おー、そうですよー」
やっぱりそうかえ、とマミゾウは満足げに頷いた。幽香は困惑してマミゾウとリリーホワイトを見比べる。
「どういうこと?」
「まあ、お前さんに説明しても分からんじゃろうが、要するにこの子の行き先は外の世界っちゅーことじゃ」
「あらあら、そうだったの。道理で見慣れない格好をしていると思ったわ」
幽香はリリーホワイトを見やって、得心したように頷く。
「というわけで、儂はこの子を外の世界に送ってやろうかと思うんじゃが」
「ええ、それがいいでしょうね」
「よし。ほんじゃお主、行こうかの。リリーホワイトじゃったか」
マミゾウに問われ、リリーホワイトは傍らに置いていたバットとグラブを手に取って立ち上がった。
「はい、シェイ・リリーホワイトですよー。28歳、オーストラリアから来たですよー」
「ええのう、オーストラリア。異国の話、聞かせてもらえんかのう」
「いいですよー。でも野球の話ぐらいしかできないですよー」
マミゾウと肩を並べて、リリーホワイトは風見邸を後にする。
あの白人さん、うっかり幻想郷に迷い込んでしまったのだろうが、外来妖怪のマミゾウに任せておけば無事に外に帰れるだろう。面白い外来人さんだったわねえ、と幽香はその後ろ姿を見送りながら微笑んだ。
明日からチームに合流するんだっけ? 無事に帰れそうでよかった。
というか、女子プロ野球をチェックしてる人が自分以外にもいて嬉しい…。
吉村と村田は病院内で静かに息を引き取った―
そういやオーストラリアは冬真っ盛り。野球もできないし春も来ないし迷い込んだのかもしれませんぬ