梅雨らしいじめじめした暑さの神社。 その住人の巫女は床に這いつくばり、少しでも冷たい床を求めごろごろと動いていた。その巫女、霊夢がふと口を開く。
「あんたって結構ガラ悪いわよね」
「あぁ?」
台所から汗だくのメイドが顔を出した。普段の飄々とした表情はどこへやら眉間にシワは寄り、床に寝そべる霊夢を睨み付ける。
「ほら、そういうところが」
「蒸し暑い部屋のなかで朝からへばってた巫女のために、暑い思いをしながら素麺を湯がいてやってるメイド様にかける言葉か」
「朝からじゃなくて昨日からよ」
「尚更悪いっつーの」
「ほら、口悪い」
咲夜は台所へと引っ込んで鍋をかき混ぜる。
口が悪いと指摘されたことで思うところはあったのか、一息置いて落ち着いた様子で口を開く。
「……私のガラが悪いのが事実だとしても、あなたの性格もよっぽどよね」
「あ、誤魔化した。そんなこと言って。私のことが好きなくせに」
「っ、あなたもでしょ」
一瞬言葉につまりかけたが、何事もなかったようにいつも通りに軽口を叩く。
面白くない。いつもからかわれてばかりだし、たまには少しからかってみるのもいいかも知れない。
「まあそれはおいておいて、素麺できた?」
「さておくなって」
「できたの?」
さらりと受け流し質問すると、ちっと舌打ちが聞こえてきた。今の霊夢の位置からでは見えないが、また眉間にしわを寄せているんだろうなと想像すると笑いが込み上げた。でもここで笑ってしまっては意地悪将軍咲夜を超えた意地悪になることはできない、と堪えて。
「もう数秒でできるけど素直じゃない巫女にはやらないわ」
「じゃあ巫女やめる」
すぐに返ってくる意地悪な返事に同じく意地悪に返す。
「そっちじゃないから。ばか」
拗ねた?とからかうように聞いてみると、全然、と。
「拗ねてるじゃない」
「ほんっと性格悪いわこのくそ巫女」
「悪かったって。だから素麺よこせ」
「いーや。素直じゃないアホ紅白にはあげない。一人で食べる」
ああ本格的に拗ねさせてしまったみたい。でも素直にはなれず。
「一人で三把は食べ過ぎだから食べてあげるって」
「頑張るから」
「……太るわよ」
「素麺だから大丈夫」
「素麺って実は油使ってるって知ってた?」
「知ってる。でも食べるから」
これは、謝らなければ一日ぶりの昼御飯がなくなる。少し焦る、しかし素直に謝るのは癪に触る。
「…………悪かったわ」
ぶっきらぼうに言った。すぐに返事は返ってくる。台所に向いたまま、明らかに不機嫌な声で、ぼそりと。
「なにが」
「素直じゃなかったこと」
「何の話」
気付くとこちらを向いており、先程までの不機嫌な様子はどこへやらにやにやといやらしく笑っている。
「くっ、あんたも性格悪いわ」
「あなたほどじゃないわ」
どうしても素直に謝るまでは食べさせる気がないのか。正直なところそろそろ胃が悲鳴を上げている。……私の体は夏バテってものを知らないらしい。
「ああ!もう、私もあんたのこと好きってこと」
畳を睨みながら、吐き捨てる。きっと咲夜は見慣れた意地悪な笑みを浮かべているのだろう。
「ありがとう」
思っていたよりもストレートに返事をされて、驚いて顔を上げる。本当にただ聞きたかっただけだったのかと寝そべったままに見あげると、咲夜は照れた様子もなく飄々とした様子で。
「ところで、食べないの」
机の上には涼しげな小さなガラス容器。中には薄い赤茶の液体、もうひとつの大きな皿には白い艶々の絹糸が綺麗な山に盛られている。
「ほんっとうにガラも性格も悪いわね!」
「よく言われるわ」
あなたにね。瀟洒なメイドは小さく囁き、つるりと素麺を啜った。
「あんたって結構ガラ悪いわよね」
「あぁ?」
台所から汗だくのメイドが顔を出した。普段の飄々とした表情はどこへやら眉間にシワは寄り、床に寝そべる霊夢を睨み付ける。
「ほら、そういうところが」
「蒸し暑い部屋のなかで朝からへばってた巫女のために、暑い思いをしながら素麺を湯がいてやってるメイド様にかける言葉か」
「朝からじゃなくて昨日からよ」
「尚更悪いっつーの」
「ほら、口悪い」
咲夜は台所へと引っ込んで鍋をかき混ぜる。
口が悪いと指摘されたことで思うところはあったのか、一息置いて落ち着いた様子で口を開く。
「……私のガラが悪いのが事実だとしても、あなたの性格もよっぽどよね」
「あ、誤魔化した。そんなこと言って。私のことが好きなくせに」
「っ、あなたもでしょ」
一瞬言葉につまりかけたが、何事もなかったようにいつも通りに軽口を叩く。
面白くない。いつもからかわれてばかりだし、たまには少しからかってみるのもいいかも知れない。
「まあそれはおいておいて、素麺できた?」
「さておくなって」
「できたの?」
さらりと受け流し質問すると、ちっと舌打ちが聞こえてきた。今の霊夢の位置からでは見えないが、また眉間にしわを寄せているんだろうなと想像すると笑いが込み上げた。でもここで笑ってしまっては意地悪将軍咲夜を超えた意地悪になることはできない、と堪えて。
「もう数秒でできるけど素直じゃない巫女にはやらないわ」
「じゃあ巫女やめる」
すぐに返ってくる意地悪な返事に同じく意地悪に返す。
「そっちじゃないから。ばか」
拗ねた?とからかうように聞いてみると、全然、と。
「拗ねてるじゃない」
「ほんっと性格悪いわこのくそ巫女」
「悪かったって。だから素麺よこせ」
「いーや。素直じゃないアホ紅白にはあげない。一人で食べる」
ああ本格的に拗ねさせてしまったみたい。でも素直にはなれず。
「一人で三把は食べ過ぎだから食べてあげるって」
「頑張るから」
「……太るわよ」
「素麺だから大丈夫」
「素麺って実は油使ってるって知ってた?」
「知ってる。でも食べるから」
これは、謝らなければ一日ぶりの昼御飯がなくなる。少し焦る、しかし素直に謝るのは癪に触る。
「…………悪かったわ」
ぶっきらぼうに言った。すぐに返事は返ってくる。台所に向いたまま、明らかに不機嫌な声で、ぼそりと。
「なにが」
「素直じゃなかったこと」
「何の話」
気付くとこちらを向いており、先程までの不機嫌な様子はどこへやらにやにやといやらしく笑っている。
「くっ、あんたも性格悪いわ」
「あなたほどじゃないわ」
どうしても素直に謝るまでは食べさせる気がないのか。正直なところそろそろ胃が悲鳴を上げている。……私の体は夏バテってものを知らないらしい。
「ああ!もう、私もあんたのこと好きってこと」
畳を睨みながら、吐き捨てる。きっと咲夜は見慣れた意地悪な笑みを浮かべているのだろう。
「ありがとう」
思っていたよりもストレートに返事をされて、驚いて顔を上げる。本当にただ聞きたかっただけだったのかと寝そべったままに見あげると、咲夜は照れた様子もなく飄々とした様子で。
「ところで、食べないの」
机の上には涼しげな小さなガラス容器。中には薄い赤茶の液体、もうひとつの大きな皿には白い艶々の絹糸が綺麗な山に盛られている。
「ほんっとうにガラも性格も悪いわね!」
「よく言われるわ」
あなたにね。瀟洒なメイドは小さく囁き、つるりと素麺を啜った。
小波さんの話好きです、次作楽しみにしてます