「茨華仙さま。
あなた様は、後悔と言うものをしたことはございますか?」
「ええ、そりゃもう」
――具体的には、あんたと知り合ったこととか。
と、彼女、茨華仙こと茨木華扇は心中で呻いた。
彼女の前で、何やら悲痛な表情を浮かべているのは霍青娥。自他共に認める少女愛主義者で極めて邪悪な仙人である。
なお、『邪悪』と言う言葉が世間一般における『邪悪』とは意味が違うことは言うまでもない。
「……華扇さまは、先日、幻想郷のあちこちで起きたお祭り騒ぎをご存知でしょうか」
「ああ、あの人気獲得競争ですか」
「……そうです」
「あれが何か?」
何か、こやつがそれについて後悔するようなことがあっただろうか、と記憶を反芻する。
曲がりなりにも仙人を名乗る華扇。その記憶力には自信があった。
思い返してみても、それに該当するようなファクターは見当たらない。
「はっきりと申し上げますならば、わたくしは争いごとは好みません。
特に、物理的な荒事は苦手な方でして」
「まぁ、それが得意だと言うような輩……はいますけれど、面と向かって、他人にそれを言うのはどうかと思われますね」
「ええ。ですので、今回は後ろで眺める立場を選択させて頂きました」
「はあ」
それが何か悪いと言うのだろうか。
華扇は、青娥の話がさっぱり見えず、ただ首を傾げるだけだ。
「……そもそも、です。
少女とは眺めて愛でるべき。手を出すなどもってのほか。ましてや手をあげるなど言語道断。そのような輩は、たとえお天道様が許したとしても、このわたくしが、千の苦痛と万の苦しみをもって、永遠に覚めぬ無間地獄に叩き落してやる所存」
「をい」
言わんとすることはわかるが、いささか、言葉が物騒すぎる。
そして、こやつの場合、それをマジでやりかねない。
「ええ。ですが、しつけとは必要なものでございます。
言って聞かぬなら叩いて教えることも、時には必要」
「それは否定しません」
と言うか、彼女自身がとある巫女に対してそれを行使しているからである。
もっとも、あの巫女は、他人にひっぱたかれたくらいで己を改めるような人間ではないのだが。
それについては色々と思うところもあるのか、「とはいえ、しつけと暴力を履き違えるのはよくありませんよね」と、珍しく華扇は青娥に同意する。
「ええ、全くその通りでございます。
さすがは茨華仙さま。きちんと、そうした区別も出来ているのですね。
昨今の大人と言うものは、まぁ、なんと申しましょうか、まだまだ精神が子供のまま、体だけが大きくなった方々も珍しくはないと、人里のお方にうかがうこともしばしば」
「よくないですね、その傾向は」
「ええ、困ったものです」
そして、変なところで仙人として共通しあっているこの二人は、割と深刻な話題について、うんうん、と難しい顔でうなずいている。
「しかしながら、今回はそれが裏目に出ました!」
と、そこでいきなり、青娥が声を荒らげた。
振り上げた拳で、どん、とテーブルを叩く彼女。
「……少女は眺めて愛でるべき……! それは正しい……! けれど、虎穴に入らずんば虎児を得ずっ!」
「……言葉の意味がまるでわかりません」
言葉と言うか、今、彼女が発した数フレーズの時点ですでに理論が破綻している。
と言うよりは、理論と言う名の言葉の接続詞が斬鉄剣クラスの名刀で真っ二つに両断されていた。
「わたくしは、ある意味では、己に慢心していたのですっ!
何かと動作のかわいいこいしちゃん! 一生懸命頑張る布都ちゃん! ちょっと今回、たが外れちゃったけど、そこもかわいい神子ちゃんっ!
彼女たちを眺めるだけで、わたくしは満足でした! それは否定しません!
ですが、それは、わたくしに『進歩』を失わせていたのですっ!」
「これ以上、進歩しなくていいから」
割と、華扇はまだ冷静であった。
冷静な彼女のツッコミは、しかし、ヒートアップした青娥には通じない。
もちろん、ヒートアップしていようがいなかろうが通じないのは言うまでもない。
「わたくしは、後日、その己の浅はかな思慮に絶望いたしました!
わたくしの見てないところっ! いいえ、見ることを最初から拒絶したところで、まさか、まさかあのような……!」
「……えーっと」
どうしよう、そろそろ聞いたほうがいいのかな。聞くのやめといた方がいいのかな。とりあえず、脳天ぶん殴って気絶させて黙らせようかな――などと。
一瞬の間に、華扇の頭の中に、『青娥を黙らせて事なきを得る方法』が144通りくらい思い浮かぶのだが、そのどれもが次の瞬間に否定されてしまう。
華扇に未来を見通す力などはないのだが、それでもその行為全てが無駄であると悟ってしまう。
――経験とは、恐ろしいものであった。
「秦こころちゃんという、新たなダークホース的かわいい少女の出現があるなんてっ!!」
――華扇は、とりあえず、沈黙した。
沈黙したまま、視線だけを逸らそうとして、しかし、それが出来なかった。
それをやってしまうと、何というか、もう色んな意味でひどい目にあいそうだった。物理的ダメージはなくとも、主に心の部分に。
「こんな……こんなことって……! こんな悲劇が、幻想郷で起きてしまうなんてっ!」
「いや悲劇て」
「悲劇ですわっ!
仮にも、このわたくし、霍青娥があのようにかわいらしい少女の存在に気付かないなんてっ! そんなこと、今まではなかったのですっ!」
すっげーマジ顔だった。
どんだけ理論が破綻していようとも、どんだけ言ってる言葉が腐っていようとも、眼力と言うか迫力ってやつぁ、有無を言わさぬ説得力を持たせてくれるんだなぁ、と華扇はこの時、改めて学習した。
「髪の毛ピンク! 無表情! つるぺた! アホの子! 世間知らずっ!
かわいさの満漢全席ではないですかっ!」
ほめてんだか馬鹿にしてんだかわからない、相手の特徴列挙して、拳を握り締め、それをぶんぶん上下に振りながら、青娥。
「さらに一生懸命属性といじられ属性を兼ね備え、やることなすことどっかずれてるお間抜け属性までっ!
あら? 布都ちゃんに姉妹っていたのかしら? ――なんて思ってしまいました!」
「それに私にどうツッコミ入れろって言うのあなたは!?」
ようやく、華扇のエンジンも温まってきたらしい。
どんとテーブル叩き、びしっと相手を指差しながら、華扇はノリとキレのいいツッコミを一発。
「そのようにかわいらしい少女が、あの後、登場していたなんてっ!
どうして、わたくしはそれに感づかなかったのかっ! どうして、それに気付かなかったのかっ!
気付いていたのなら、出演依頼があった際、断るなんてしなかったのにっ!」
「来てたの!? 出演依頼!?」
「だって仙人ですもの」
ちなみに華扇には来なかった。
「もう! もう、もう、もう!
あの時ほど、己の愚かさを呪ったことはございませんでしたっ……! あの時のわたくしは……あまりにも馬鹿で……!」
「うわこいつマジ泣きだ」
華扇はこの時、『こいつを更生させるのは巫女を更生させるよりも無理だ』と直感的に判断した。
積み上げてきたものがあまりにも違いすぎる。
人間――無論、人間ならずとも――積み重ねてきた歴史が、そのまま人の形を形作る。
霍青娥という仙人が築き上げてきたその歴史は、ちょっと楔打ち込んだくらいじゃ壊れるわけもない、まさに難攻不落、堅牢な要塞のごとき。
とりあえず破城砲レベルのツッコミとか用意しないといけないなー、と華扇は思っていた。
「これほどの後悔、仙人になってから感じたことはありませんでしたっ!
わたくしは……わたくしは、これからどうすれば……!」
「真人間になれ!」
とりあえず、言っても無駄だとわかっているのだが、当たり障りのないツッコミで様子を見ることにする。
すると青娥は、突然、はっとしたような表情を浮かべた。
「……そう。そうですわね……。
そういうことだったのですね、華扇さま!」
「え? あれ?」
まさか、たった一言で更生成功?
世の中、何がきっかけになって物事好転するかわからないと言われているが、こんな簡単なことで?
事実は小説よりどうたらこうたら?
「さすがは華扇さま……! このわたくしの悩みを、たった一言で断ち切るなんてっ!
真人間……そう……。
今回の一件、こころちゃんに出会うには、あの騒ぎに参加しなければならなかった……。
あの騒ぎに参加するということは、布都ちゃん、こいしちゃん、神子ちゃんに手をあげるということっ! しかも、己の欲望のためだけに!
それは仙人として、そして一人の淑女として、やってはいけない過ち!
わたくしは初心に立ち返らなければいけなかった……。たとえ、その瞬間の出会いを逃しても、これからの出会いとふれあいを! そして、淑女としての基本! 『少女は眺めて愛でるもの』!
これを思い出せということだったのですね、茨華仙さまっ!」
「全力で違うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
――とか思っちゃうのは、やっぱり私も生き物なのね、うふふ、と。
華扇は心の中で『あー、やっぱ無理だったかー』と思いつつも淡い期待を抱いてしまった自分を思いっきり叱咤しつつ、とりあえず、出せる限りの声量でもって絶叫した。
「あんた一体、どんな幸せ回路してるわけ!? 霊夢ですらそこまで物事自分都合で前向きに考えたりしないわよっ!?」
「やはり、あなた様は、わたくしの遥か上を行く仙人さま! 今のお言葉、しかとこの胸に刻み込ませていただきます!」
「そっちの意味じゃなくて本来の意味で刻みこめっ!」
「――はっ! こうしてはいられない!
わたくしはこれから、こころちゃんとの出会いを探して幻想郷に参りますっ! まず、イベントフラグは出会いから!
ありがとうございました、茨華仙さま!
あ、ついでにご一緒にいかがですか?」
「私の全身全霊をかけて断るっ!」
「さすがは茨華仙さま。大局的かつ自然に己を構えることで、幻想郷全ての少女を愛するその姿。幻想郷、全紳士淑女の、まさに憧れ! 鑑です!」
「そんな連中と私を同一視しないでちょうだいっていうか何度も何度も言うけれど私を仲間に巻き込むなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
――最近、うちらのご主人様、楽しそうにしてるよね。
――あたし、知ってる! あれ、はっせいれんしゅー、って言うんだよ!
――ご主人様が楽しそうで何よりだよねー。
――ねー。
というような会話を、華扇が飼ってるペット達がしているかどうかはわからないが、動物とは本能的に人の本質を見極めると言われている。
つまり、今の華扇は精力に満ち、充実していると言うことを、彼らは理解しているのである。だからこそ、皆、そろって華扇に温かい眼差しを注いでいるのだ。
「それでは、ありがとうございました! やはり、華扇さまに相談してよかった。
これからも、よろしくお願いいたしますね」
「帰れっ! 二度と来るなっ!」
「それではごきげんよう~」
「って言っても聞いてないわよねどうせ!
だぁぁぁぁぁっ! もぉぉぉぉぉぉ! 幻想郷の馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
そんな華扇の姿を、幻想郷一般の表現かつ視点から見ると、下記のようになる。
――打たれ弱いな、と。
あなた様は、後悔と言うものをしたことはございますか?」
「ええ、そりゃもう」
――具体的には、あんたと知り合ったこととか。
と、彼女、茨華仙こと茨木華扇は心中で呻いた。
彼女の前で、何やら悲痛な表情を浮かべているのは霍青娥。自他共に認める少女愛主義者で極めて邪悪な仙人である。
なお、『邪悪』と言う言葉が世間一般における『邪悪』とは意味が違うことは言うまでもない。
「……華扇さまは、先日、幻想郷のあちこちで起きたお祭り騒ぎをご存知でしょうか」
「ああ、あの人気獲得競争ですか」
「……そうです」
「あれが何か?」
何か、こやつがそれについて後悔するようなことがあっただろうか、と記憶を反芻する。
曲がりなりにも仙人を名乗る華扇。その記憶力には自信があった。
思い返してみても、それに該当するようなファクターは見当たらない。
「はっきりと申し上げますならば、わたくしは争いごとは好みません。
特に、物理的な荒事は苦手な方でして」
「まぁ、それが得意だと言うような輩……はいますけれど、面と向かって、他人にそれを言うのはどうかと思われますね」
「ええ。ですので、今回は後ろで眺める立場を選択させて頂きました」
「はあ」
それが何か悪いと言うのだろうか。
華扇は、青娥の話がさっぱり見えず、ただ首を傾げるだけだ。
「……そもそも、です。
少女とは眺めて愛でるべき。手を出すなどもってのほか。ましてや手をあげるなど言語道断。そのような輩は、たとえお天道様が許したとしても、このわたくしが、千の苦痛と万の苦しみをもって、永遠に覚めぬ無間地獄に叩き落してやる所存」
「をい」
言わんとすることはわかるが、いささか、言葉が物騒すぎる。
そして、こやつの場合、それをマジでやりかねない。
「ええ。ですが、しつけとは必要なものでございます。
言って聞かぬなら叩いて教えることも、時には必要」
「それは否定しません」
と言うか、彼女自身がとある巫女に対してそれを行使しているからである。
もっとも、あの巫女は、他人にひっぱたかれたくらいで己を改めるような人間ではないのだが。
それについては色々と思うところもあるのか、「とはいえ、しつけと暴力を履き違えるのはよくありませんよね」と、珍しく華扇は青娥に同意する。
「ええ、全くその通りでございます。
さすがは茨華仙さま。きちんと、そうした区別も出来ているのですね。
昨今の大人と言うものは、まぁ、なんと申しましょうか、まだまだ精神が子供のまま、体だけが大きくなった方々も珍しくはないと、人里のお方にうかがうこともしばしば」
「よくないですね、その傾向は」
「ええ、困ったものです」
そして、変なところで仙人として共通しあっているこの二人は、割と深刻な話題について、うんうん、と難しい顔でうなずいている。
「しかしながら、今回はそれが裏目に出ました!」
と、そこでいきなり、青娥が声を荒らげた。
振り上げた拳で、どん、とテーブルを叩く彼女。
「……少女は眺めて愛でるべき……! それは正しい……! けれど、虎穴に入らずんば虎児を得ずっ!」
「……言葉の意味がまるでわかりません」
言葉と言うか、今、彼女が発した数フレーズの時点ですでに理論が破綻している。
と言うよりは、理論と言う名の言葉の接続詞が斬鉄剣クラスの名刀で真っ二つに両断されていた。
「わたくしは、ある意味では、己に慢心していたのですっ!
何かと動作のかわいいこいしちゃん! 一生懸命頑張る布都ちゃん! ちょっと今回、たが外れちゃったけど、そこもかわいい神子ちゃんっ!
彼女たちを眺めるだけで、わたくしは満足でした! それは否定しません!
ですが、それは、わたくしに『進歩』を失わせていたのですっ!」
「これ以上、進歩しなくていいから」
割と、華扇はまだ冷静であった。
冷静な彼女のツッコミは、しかし、ヒートアップした青娥には通じない。
もちろん、ヒートアップしていようがいなかろうが通じないのは言うまでもない。
「わたくしは、後日、その己の浅はかな思慮に絶望いたしました!
わたくしの見てないところっ! いいえ、見ることを最初から拒絶したところで、まさか、まさかあのような……!」
「……えーっと」
どうしよう、そろそろ聞いたほうがいいのかな。聞くのやめといた方がいいのかな。とりあえず、脳天ぶん殴って気絶させて黙らせようかな――などと。
一瞬の間に、華扇の頭の中に、『青娥を黙らせて事なきを得る方法』が144通りくらい思い浮かぶのだが、そのどれもが次の瞬間に否定されてしまう。
華扇に未来を見通す力などはないのだが、それでもその行為全てが無駄であると悟ってしまう。
――経験とは、恐ろしいものであった。
「秦こころちゃんという、新たなダークホース的かわいい少女の出現があるなんてっ!!」
――華扇は、とりあえず、沈黙した。
沈黙したまま、視線だけを逸らそうとして、しかし、それが出来なかった。
それをやってしまうと、何というか、もう色んな意味でひどい目にあいそうだった。物理的ダメージはなくとも、主に心の部分に。
「こんな……こんなことって……! こんな悲劇が、幻想郷で起きてしまうなんてっ!」
「いや悲劇て」
「悲劇ですわっ!
仮にも、このわたくし、霍青娥があのようにかわいらしい少女の存在に気付かないなんてっ! そんなこと、今まではなかったのですっ!」
すっげーマジ顔だった。
どんだけ理論が破綻していようとも、どんだけ言ってる言葉が腐っていようとも、眼力と言うか迫力ってやつぁ、有無を言わさぬ説得力を持たせてくれるんだなぁ、と華扇はこの時、改めて学習した。
「髪の毛ピンク! 無表情! つるぺた! アホの子! 世間知らずっ!
かわいさの満漢全席ではないですかっ!」
ほめてんだか馬鹿にしてんだかわからない、相手の特徴列挙して、拳を握り締め、それをぶんぶん上下に振りながら、青娥。
「さらに一生懸命属性といじられ属性を兼ね備え、やることなすことどっかずれてるお間抜け属性までっ!
あら? 布都ちゃんに姉妹っていたのかしら? ――なんて思ってしまいました!」
「それに私にどうツッコミ入れろって言うのあなたは!?」
ようやく、華扇のエンジンも温まってきたらしい。
どんとテーブル叩き、びしっと相手を指差しながら、華扇はノリとキレのいいツッコミを一発。
「そのようにかわいらしい少女が、あの後、登場していたなんてっ!
どうして、わたくしはそれに感づかなかったのかっ! どうして、それに気付かなかったのかっ!
気付いていたのなら、出演依頼があった際、断るなんてしなかったのにっ!」
「来てたの!? 出演依頼!?」
「だって仙人ですもの」
ちなみに華扇には来なかった。
「もう! もう、もう、もう!
あの時ほど、己の愚かさを呪ったことはございませんでしたっ……! あの時のわたくしは……あまりにも馬鹿で……!」
「うわこいつマジ泣きだ」
華扇はこの時、『こいつを更生させるのは巫女を更生させるよりも無理だ』と直感的に判断した。
積み上げてきたものがあまりにも違いすぎる。
人間――無論、人間ならずとも――積み重ねてきた歴史が、そのまま人の形を形作る。
霍青娥という仙人が築き上げてきたその歴史は、ちょっと楔打ち込んだくらいじゃ壊れるわけもない、まさに難攻不落、堅牢な要塞のごとき。
とりあえず破城砲レベルのツッコミとか用意しないといけないなー、と華扇は思っていた。
「これほどの後悔、仙人になってから感じたことはありませんでしたっ!
わたくしは……わたくしは、これからどうすれば……!」
「真人間になれ!」
とりあえず、言っても無駄だとわかっているのだが、当たり障りのないツッコミで様子を見ることにする。
すると青娥は、突然、はっとしたような表情を浮かべた。
「……そう。そうですわね……。
そういうことだったのですね、華扇さま!」
「え? あれ?」
まさか、たった一言で更生成功?
世の中、何がきっかけになって物事好転するかわからないと言われているが、こんな簡単なことで?
事実は小説よりどうたらこうたら?
「さすがは華扇さま……! このわたくしの悩みを、たった一言で断ち切るなんてっ!
真人間……そう……。
今回の一件、こころちゃんに出会うには、あの騒ぎに参加しなければならなかった……。
あの騒ぎに参加するということは、布都ちゃん、こいしちゃん、神子ちゃんに手をあげるということっ! しかも、己の欲望のためだけに!
それは仙人として、そして一人の淑女として、やってはいけない過ち!
わたくしは初心に立ち返らなければいけなかった……。たとえ、その瞬間の出会いを逃しても、これからの出会いとふれあいを! そして、淑女としての基本! 『少女は眺めて愛でるもの』!
これを思い出せということだったのですね、茨華仙さまっ!」
「全力で違うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
――とか思っちゃうのは、やっぱり私も生き物なのね、うふふ、と。
華扇は心の中で『あー、やっぱ無理だったかー』と思いつつも淡い期待を抱いてしまった自分を思いっきり叱咤しつつ、とりあえず、出せる限りの声量でもって絶叫した。
「あんた一体、どんな幸せ回路してるわけ!? 霊夢ですらそこまで物事自分都合で前向きに考えたりしないわよっ!?」
「やはり、あなた様は、わたくしの遥か上を行く仙人さま! 今のお言葉、しかとこの胸に刻み込ませていただきます!」
「そっちの意味じゃなくて本来の意味で刻みこめっ!」
「――はっ! こうしてはいられない!
わたくしはこれから、こころちゃんとの出会いを探して幻想郷に参りますっ! まず、イベントフラグは出会いから!
ありがとうございました、茨華仙さま!
あ、ついでにご一緒にいかがですか?」
「私の全身全霊をかけて断るっ!」
「さすがは茨華仙さま。大局的かつ自然に己を構えることで、幻想郷全ての少女を愛するその姿。幻想郷、全紳士淑女の、まさに憧れ! 鑑です!」
「そんな連中と私を同一視しないでちょうだいっていうか何度も何度も言うけれど私を仲間に巻き込むなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
――最近、うちらのご主人様、楽しそうにしてるよね。
――あたし、知ってる! あれ、はっせいれんしゅー、って言うんだよ!
――ご主人様が楽しそうで何よりだよねー。
――ねー。
というような会話を、華扇が飼ってるペット達がしているかどうかはわからないが、動物とは本能的に人の本質を見極めると言われている。
つまり、今の華扇は精力に満ち、充実していると言うことを、彼らは理解しているのである。だからこそ、皆、そろって華扇に温かい眼差しを注いでいるのだ。
「それでは、ありがとうございました! やはり、華扇さまに相談してよかった。
これからも、よろしくお願いいたしますね」
「帰れっ! 二度と来るなっ!」
「それではごきげんよう~」
「って言っても聞いてないわよねどうせ!
だぁぁぁぁぁっ! もぉぉぉぉぉぉ! 幻想郷の馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
そんな華扇の姿を、幻想郷一般の表現かつ視点から見ると、下記のようになる。
――打たれ弱いな、と。
こころちゃんが可愛い過ぎて死にそうですっ!
いつも楽しみにしています。秦こころと古明地こいしはすごい人気を獲得しましたね
至言ですね。まさしくその通り。