本日は晴天なり。からりと晴れて程よく風も吹いているお洗濯日和。
ここ最近続いていた雨で溜まっていた洗濯物を一気に洗ったついでに、おそらく溜め込んでいるだろう汚れ物を洗濯しようと神社に飛んだ。
「やっぱりね」
「何が?」
「いえ何も」
洗い立ての巫女服を干して振り返る。「ああ、うん。するつもりではいたわよ」と明らかな出任せを言っていた霊夢は、うつ伏せになってじっと私の顔を見ていた。
「終わった?」
「ええ」
「お茶淹れるわね」
「ありがとう」
じりじりと肌を焼く日差しから逃げるように庇の下に入り、空を仰ぐ。この分ならすぐに乾くだろう。
梅雨が控えているとは思えないほどいい天気だ。妖精メイド達が仕事をサボっていないといいんだけど。
薬缶が立てる甲高い音が止み、しばらくして意識を向けなければ気づかないぐらい小さな足音が近づいてきた。
お盆を卓袱台に置いたのだろうか。かすかに固いもの同士がぶつかる音がして、する、と腕が首に回される。
甘えたいのだろうか。珍しいことも――
「っ、ぐ!?」
突然、回された腕に力がこめられた。ぎりぎりと首を締め上げられまともな呼吸ができない。
一分ほどの格闘の末ようやく解放され、咳き込みながら涙の浮かぶ目で振り返ると、霊夢はなぜか膨れっ面だった。
「こ、殺す気!?」
「いや、落とす気」
なんでダメだったんだろうとかぶつぶつ言いながら荒っぽく隣に座る。
ちら、と横目に私の顔色を窺い、バツが悪そうに頭を掻いた。
「あんた最近まともに寝てないでしょ。顔色悪いしうっすらクマできてる」
なるほど、来た時にじっと顔を見ていたのはそういうことだったのかと合点がいって、いやだからといって未遂とはいえ気絶させることはないだろうと思い直す。
「ああでもしないと寝ないでしょ」
「人の考え読まないでよ」
「読んでない。ちょっと勘がいいだけ」
こんな時にまではたらかなくてもいいのに。
寝不足ぐらい日常茶飯事だ。弊害といえば美鈴の料理と間違えて豆板醤を入れてしまったぐらいだろうか。その時は有無を言わさず三日ほど暇を出された。
「ほら、膝貸してあげるから」
細い太ももをぽんぽんと叩いて頭をのせろと促す。
「……でもまだ仕事が」
「少し寝るぐらい問題ないでしょう」
「お茶飲んでな」
「あーもう!」
肩を組まれ、強引に頭を置かれた。
「ごちゃごちゃ言うな! 大人しく寝てればいいの!」
ぺちんと額を軽く叩かれ、そのまま目を覆われる。
小さな手で生み出された暗闇が眠りへと誘う。その誘惑を断ち切って、時を止める。
膝の上から抜け出し、華奢な身体を縁側に横たえる。代わりに自分が正座して霊夢の頭をのせ、時を動かす。
「んあ?」
視点のずれに気づいて霊夢が声をあげた。
「なんで」
「寝てないのはあなたも同じでしょうに。このところ毎晩妖怪退治に駆り出されてたんでしょう?」
「うぐ」
「夕方になったら起こすからしばらく寝なさい。あなたに倒れられたら仕事どころじゃなくなるわ」
「……嘘よ」
「あら、疑うの?」
「……ふん」
寝返りをうって向こうを向いてしまった。することもなくて濡れ羽色の髪に指を通すとぴくりと肩が跳ねた。払い除けられるだろうと思っていたら、それすらも面倒になったのかそのまま眠ってしまった。
穏やかな風が瞼を重くする。
……少しくらいなら、問題ないだろう。一応「遅くなるかも」とは言ってあるし。
欠伸を噛み殺して、ゆっくりと瞼をおろした。
寝かしつける=絞め落とす に直結しちゃう霊夢さんがとても霊夢さんで可愛かったです
きっとブン屋さんが撮った写真にはふたり並んで仲良く眠る姿が映ってるんだろうなあ
この2人の組み合わせ、大好きです