Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

レミリアの病気

2013/05/11 09:24:47
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 ある日、レミリア・スカーレットは『うー』としか鳴けなくなっていた。


「う……うーっ!?(な、何よこれっ!? 何でこんな変なしゃべりしか出来ないわけ!?)」
 朝、起きたレミリアはベッドの上でもぞもぞごろごろもにゅもにゅして、何とかかんとか身を起こす。
 そしてもぞもぞもそもそようじょっぽい行動をしながらお洋服を着替えるわけなのだが、そのためにやってくる従者、十六夜咲夜に『おはよう』と声をかけたところ『うー☆』としか言えなくなっていたのだ。
「……お嬢様、朝からどうされたのですか? そんな、愛玩動物が主人の気を引くために愛想を振りまきまくるような声を出して」
「うー!(えらい具体的ね内容が! そうじゃなくて、咲夜! わたしのしゃべりが変なのよ!)」
「……えーっと、確か、ここにねこじゃらしが……」
「うー! うー!(んなもの何に使う気だっ! そうじゃなくて、人の話を聞きなさいよ!)」
「と、言われても、お嬢様が何を仰っておられるのかがわからなくて……」
「ううー!(わかってるわよね!? あなた、絶対に、わたしの言葉、理解してるわよね!?)」
「待ちなさい、咲夜!」
「なっ……!? パチュリー様!」
「うー!(パチェ!)」
「……どうされたのですか。こんな朝早くに。
 普段なら、ベッドの上で死体のごとく寝転がっているはずなのに……」
「甘いわね、咲夜。あなたはこんな言葉を知っている?
『早起きは三文の得』!」
「ちなみに三文って、現代の貨幣価値で言うとおよそ100円ぽっちですわ」
「じゃ、明日からやめるわ」
「うっうー!(そうじゃなくて! あなた、何かしにきたんじゃないの!? 何でそこで速攻、帰ろうとしてるのよ!)」
 朝に弱いというわけではなく、夜起きて昼眠るという規則正しい逆転生活(引きこもり生活ともいう)を送っている紫色の魔女にレミリアはツッコミを入れる。
 魔女、パチュリー・ノーレッジは、どこから取り出したのか眼鏡をすちゃっと装着し、ぱらららっ、と手にした本をめくって、背中に『どがしゃぁぁぁぁぁぁぁん!』と弾ける稲光を背負って、叫んだ。
「これは稀代の奇病! その名も『うー☆ うー☆病』よっ!」
「な、何ですってー!?」
「う、うーっ!?(な、何だってー!?)」
 誠、ノリのいい反応をする二人であった。
 パチュリーは『げほげほげほ!』と大声出したせいで思いっきりむせながら、
「……物の本によると、この病気は、普段、『うー☆』という言葉の似合う愛らしいつるぺたようじょがごく稀に発病する病気と言われているわ。統計を取ってみると、レミィくらいの年齢の子が多いみたい」
「うー!(わたし、500歳よ!)」
「何言ってるの見た目五歳児」
「うー!(誰が五歳児だっ!)」
「まあまあ、お嬢様。確かに、パチュリー様は言い過ぎです」
「うー……(咲夜……)」
「お嬢様は7歳児くらいには見えますよ」
「うっうっうー!(それと五歳児とどれほどの差があると言うのあなたは!?)」
「ですが、パチュリー様。これでは困ったことになります」
「大丈夫よ。レミィの言葉なんて、普段から真面目に聞いてる子なんていないでしょ。みんな、右から左に流しているわ」
「仮にそうだとしてもです」
「ううー!(否定しなさいよっ!? そこはっ!)」
 実際のところ、紅魔館の中で、そこまでの不忠義を働く輩はいない。
 せいぜい、『レミリアお嬢様かわいー!』とぬいぐるみ扱いされ、『よーちよちよち』と赤ちゃん扱いされる程度だろう。
 普段と何も変わらないのだ。
「個人的には、咲夜。レミィのこの状態は、私にとっては好ましいのよ」
「はあ」
「今、レミィは『うー』という言葉に色々な意味を乗せている――それは、あの羽の動きを見ても明らかだわ」
 レミリアはこくこくと首を縦に振った。
 ちなみに、彼女の感情というのは、その羽の動きを見れば大体わかると言われている。
 喜んでいる時はぱたぱた上下に動き、悲しい時はしゅんと垂れ下がり、何か興味のあることを見つけるとぴくんと上に跳ねるのだ。
 紅魔館のメイド達の間で、『あれ、犬で言うとしっぽよね』と言われている由来である。
「つまり、これは一種の圧縮言語よ。
 この圧縮言語というのはとても難しいの。一つのワードに無数の単語の言葉の意味を乗せて構築することで、極めて端的かつ単純に一つの文章を組み立てられるわ。これによって、魔法を扱う際の呪文詠唱を可及的に短縮することが出来る。それは、単純に詠唱速度の上昇にもつながるし、複数のワードの組み合わせで無数の意味を羅列させることで、術式の複雑化、精緻化、そして強力な魔法を作成することにもつながるの。
 私でも、圧縮言語の習得は困難を極めているわ。レミィのこの状況を観察することで、圧縮言語魔法の研究に役立てることは出来ないか――そう考えているのだけど、ダメかしら。三日くらいは、ちゃんと責任を持って世話するから」
「うー!(わたしは犬や猫か!)」
「何言ってるの、紅魔館の愛されマスコットが」
「うー!?(え!? わたしってそういう扱い!?)」
「困ります、パチュリー様。
 そういうのは、また今度にしてください」
「うぅーっ!(また今度とかじゃなくて恒久的にやめんかぁぁぁぁぁっ!)」
「ちっ」
「うっ!?(今、露骨に舌打ちしたわよね!?)」
「まぁ、けど、ほったらかしといても治る病気よ。大体、一日か二日ね」
「ちっ」
「うー!?(咲夜、今、あなたも舌打ちしたわよね!?)」
「まさかそんな」
「うー!(だから、あなた、わたしの言葉理解してるでしょ、絶対!)」
 だけど、困りましたね、と咲夜。
 確かに、このままでは、レミリアが何を言っているか理解することが出来ない。
 普段、レミリアなど、『どうせお嬢様だから』とろくなこと言わないと判断されているとはいえ、たまにまともなことを言うのは事実だ。
 その、ごく稀な『まともなこと』を言う機会が、今日、訪れないとも限らないのである。
「それも大丈夫よ。
 レミィ、今、あなたは色々なことを言おうとしても『うー』としか言えないのでしょ?」
 うんうん、とうなずくレミリア。
「じゃ、逆にしなさい。
「えっ、どういうこと?(うー?)」
 いきなり、まともなことがしゃべれるようになったレミリアである。
「な、治ったうー!(治ったわ、って何じゃこりゃ! 治ってないじゃないの-!)」
「だから、『色々なこと』を言おうとしたら『うー』としか言えないのだから、『うー』って言えば、色んな事が言えるのよ」
「いわゆる一つの逆転現象ですわね」
「そういうこと」
「何だそりゃー!(うううー!)」
「知らないわよ、そんなの。私は医者じゃないもの」
「今度、永琳さまのところにお嬢様をお連れしましょう」
「そうね。注射してもらってきなさい」
「うっうー!(いやー!)」
「ですが、パチュリー様。
 どうして、お嬢様は、このような奇妙な病気に?」
「研究が必要ね」
「あと、どうしてお嬢様くらいの女の子しかかからないのですか?」
「おっさんが『うー』とか言ってたら殺したくなるでしょ」
「なるほど」
「10歳を超えたら女の子とはいえ『うー』って言ってたら痛々しくて見てられないし」
「あー」
「ま、命に別状ないんだし、レミィがいなくても紅魔館は普通に回るから。ほっときゃいいわよ」
 いきなり投げやりなパチュリーであった。
 彼女はさっさと部屋から退散し、かくて、室内に残されたレミリアは「……最悪だわ(……う~)」と呻き、咲夜は「では、お嬢様。朝ご飯にいたしましょう」と割と動じてないのだった。

 そして。

「きゃー! お嬢様、かわいー!」
「うーって言ってください、うーって」
「うー! うー!(こらー! 離せ-! 人をマスコット扱いするな-!)」
「いやーん、かわいいー!」
「わたし、これ、部屋に持って帰る-!」
 と、メイド達からおもちゃにされたり。

「うー☆ と鳴く少女がいるということでカメラ撮影に参りましたわ! どちらに! その少女はどちらにいらっしゃるんですか!?」
「お嬢様」
「うー! うー!(あいつに捕まったら、わたしの貞操とか色んなものがやばいでしょ! 隠れてるから秘密にしてて!)」
「カリスマガードしてたら余計に刺激すると思いますよ」
 鼻息荒く邪仙に追いかけ回されたり。

「れっみりっあさーん、今度、レミリアさんみたいなようじょをモチーフにしたフィギュアを作るので、ビデオ撮影させてくださーい」
「お嬢様」
「うっうー!(えーい! 幻想郷にまともな奴はいないのかー!)」
「いると思ってたんですか?」
 片手にごっつい業務用カメラを携えた緑色の巫女に追いかけ回されるレミリアであったという。


「……う~(疲れたわ……。今日は人生の中で、一番、疲れたわ……)」
「あれ、お姉様、どうしたの?」
「うー?(あら、フラン)」
「うわ、お姉様、かわいい」
 部屋の中でダウンしていたところに、彼女の妹がやってくる。
 妹――フランドールは、早速、レミリアの口調に興味を持ったようだった。
「うー、うー(もうどうでもいいわ。今日は本当に疲れたの。悪いけど、あなたの相手はして上げられないわ)」
「そっかー。ざんねんー」
「……う?(……あら?)」
「なに?」
「……うー、うー? うー(フラン、あなた、わたしの言ってることがわかるの?)」
「うん。どうして?」
 さすがは、血を分けた姉妹であった。
 自分が何を言っているかわかる――ただそれだけで、レミリアは、己の胸に色々な想いが去来するのを覚えた。
 彼女は、「……うー(……そう。ありがとう、フラン)」と優しい笑みを浮かべて、フランドールの頭をくしゃくしゃとなでた。
 それが気持ちいいのか、フランドールは目を細めて、嬉しそうに笑う。
 ――ちなみに。
「うー、うー、うー」
「うー! うー、うー」
「ううー! うー」
「うっうー!」
「……あのお二方は、一体、何を話してるんでしょうか」
「……さあ」
 その有様を横から眺めるメイド達には、吸血鬼姉妹が『うー』という単語のみで楽しそうに会話をしている光景に、一種異様なものと果てない萌えを覚えていたという。
 なお、この日、別にフランドールも『うー☆ うー☆病』を発病していたわけではなく、単に姉にあわせて『うー』と言っていただけというのが判明するのだった。


 そして、翌日。
「咲夜! 治った! 治ったわ!」
「ちっ」
「だから、あなた、また露骨に舌打ちしたわよね!?」
 無事にレミリアの病は完治していた。
 咲夜は『よかったですね、お嬢様』と笑顔を向けて、彼女を連れて朝食の場へと歩いて行く。
 そして、それを後ろから眺めるのは、
「パチュリー様。結局、何が原因だったんでしょう?」
「多分だけど、カリスマのせいじゃない?」
「けど、お嬢様のカリスマがブレイクして久しいですけれど」
「何もカリスマは他者を威圧するためのものである必要はないわ。
 他者を魅了する――それもまた、カリスマと言うのではないかしら」
「あー、ブレイクってそういう」
 と、勝手に話にオチをつける魔女と司書がいたりするのであった。
~あふた~すと~り~

「お嬢様。人里および幻想郷で、ただいま、お嬢様のカリスマが急上昇しています」
「あら、そう。いいことじゃない」
「はい。『うー☆ うー☆ レミリア』という商品を作って販売したのですが、これがまた大ブレイク。
 工場をいくつも動かして、ようやく生産が追いつくと言うほどでして。紅魔館の財政も、また潤いました」
「あんた何余計なことしてくれてるわけ!?」
「あと、当日のお嬢様の愛らしい姿を収めた『びでおかめら』を守矢神社で販売してもらったところ、こちらも大人気」
「すぐにやめさせなさいよっ!」
「今日は、サインおよび握手会の予定が入っております」
「人に了解取らずに勝手なことするなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「やです」

 完!
haruka
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
お嬢様かわええ
2.名前が無い程度の能力削除
早苗さんそのびでおとフィギュア一つずつ下さいな
3.名前が無い程度の能力削除
お嬢様のためならば私は袋をかぶり服を捨てよう!!
4.名前が無い程度の能力削除
姉妹微笑ましい
5.奇声を発する程度の能力削除
お嬢様可愛い
6.名前が無い程度の能力削除
両方でおいくらですか?Σ(・□・;)
7.名前が無い程度の能力削除
>「おっさんが『うー』とか言ってたら殺したくなるでしょ」
>「なるほど」

唐突な殺意でワロタ