「あ、こら! 待ちなさい橙! 待てというに!」
しかし橙は存外に素早く、私の腕をすり抜けて部屋の外へと逃げ出してしまった。
しなやかかつ素早いその動きに、猫たる彼女の本性を垣間見つつも、私はため息を一つついた。
そんなところ、代わりに入って来たのは我が主、八雲紫であった。ジャージの上下に半纏という出で立ちで、髪の毛はボサボサ、起きたばかりの目はまだとろんと呆けているようだ。
「おはよー藍…なに、橙が物凄い顔して逃げてったけど…オシャンティな洋服でも着せようとした? でもそれって超ゴーマンよね…ペットは玩具じゃないんだから」
「橙はペットでも玩具でもありませんがおはようございます紫様。朝ごはん…や、もう昼過ぎですが、朝ごはんならお櫃に冷や飯があるのでご自分でどうぞ」
「はあい」
本来ならば味噌汁を温め、魚を焼き、お新香の一つでも用意せねばなるまいが、今はそれどころではない。
紫様は例えおかずが無くとも、白米があれば白米を召し上がるし、無ければパンを召し上がるし、それも無ければケーキを食べるので全く問題が無い。実際紫様はご飯を茶碗に盛ると、ごはんですよと仮面ライダーふりかけ(オーズ)でご飯をデコレーションし始めた。
食に対するこだわりはまるで無い主人であり、そこは従者としても大変に有難いところだ。
「とは言え…お茶くらいは欲しいけど」
「は、それはただいま」
私は卓の上にあった茶筒から急須に茶葉を投入して、ポットのお湯を注いだ。
程なくして、緑茶の香りが部屋に漂う。
「で、何で橙は逃げたわけ? ああ判ったわ、判ったわ…あんたクウガの35話を橙と一緒に見たでしょ」
「見てません。ていうか35話でブルってたのは紫様だと記憶しておりますが」
「ハァ!? ビビッてないし! 馬乗りフルボッコからのビートゴウラム運搬キャンセルライジングタイタンのぶっ刺しフェイタリティなんて怖くないし!」
「説明しなくていいです。ですよね、例の『バックシマス バックシマス』で震え上がって、数日の間私に添い寝を強要しただけでしたね」
幻想郷でも屈指の実力者の我が主であるが、妙なところで子供っぽい。まぁ、そこが普段の威厳などと相まって、味わい深い趣をかもし出しているのであるが…
「る、るせーこの20世紀FOX-! クウガの話はいいんじゃい! 今は橙の話でにぎにぎしくなってたところでしょうが!」
「はいはい。いえね、橙に虫下しの薬を飲ませようかと思ったのですが」
「今ご飯食べてるんですけど…」
自分から尋ねておいてこれである。
とは言え確かに、食事の最中にする話でもないか。私個人としては、麺類を食べている最中に目黒寄生虫館の話をする位は余裕なのだが…まあ。
「すいません。あ、梅干はどうです」
「頂くわ…うぅ、酸っぱ…」
とても人様にお見せ出来ぬような面白い顔をしつつ、紫様は梅干を食べる。
私は無言で茶を啜り、開け放たれた襖の向こう、中庭に目をやった。
長い冬は終わり、もう間もなく桜も咲くであろう。あれこれ理由をつけ、幻想郷のあちらこちらで酒宴の毎日となるのは想像に難くない。
「梅の林があるからファイトファイトーネージョーヤブーキー、って言ったの誰だっけ?」
「曹操だったと記憶しておりますが。あとどっかの外人を混ぜないで下さい」
「そうそう、曹操」
「…」
紫様はそう言うと、満面の笑みで空の茶碗を差し出してきた。
私はそれを受け取ると、お櫃に残ったご飯を全てよそって紫様に返す。
「やっぱ春はいいわよねえ…ご飯も通常の三倍は美味しいもの」
「春どころか夏も秋も冬も三倍と仰られてますよね…つまり素の状態で常に三倍なのでは? といつも疑問に思っているのですが」
「シャア専用ごはん、みたく紫専用ごはんと言うと、素敵なマジック及びシナジーを感じるわ。やっぱその場合は紫色にしないといけないわね…紫の食材ってーと…えーと…」
我が主はまだ覚醒しきっていないようだ。
私は茶を飲み干し、梅干を一つつまむ。
酸味と塩気が口いっぱいに広がり、香りが鼻に抜けていく。
「で、橙だけど」
「薬を飲まそうとしたのですが、どうも察知されたようで」
「なるほど、あれもまだまだ子供ね…文字通りオブラートに包んで飲ませなさいよ」
紫様はそう言うと、梅干と仮面ライダーふりかけ(オーズ)とごはんですよの迫撃! トリプルおかずを乗せたご飯に茶を注ぎ、さらさらずるずると啜り始めた。
しかしそうは言われても、オブラートなんて物がそう簡単に入手できるほど、この幻想郷は甘くない。そもそもアレ、一体何で出来ているのか? 無害なのか? いやまあ、経口摂取するのだから有害であっては困るのだが。
「その顔は『オブラートとビブラートは似ているなフフ…』って考えてる顔ね、判っちゃうんだから」
「いえ全く…オブラートの入手法を考えておりました」
「ンなもん、病院に行けばダース単位であるんじゃないの」
「病院…あの八意某とかいう胡散臭いハーフ&ハーフのところですか」
そう言われてみると、そうであるかもしれぬ。
胡散臭いことこの上無いが、仮にも医者の真似事をしているのであれば、オブラートの一つや二つ、あってもおかしくないだろう。
いい機会だからついでに、橙の健康診断なども任せてみてもいいかもしれない。
しかし薬如きでTRANS-AMめいて逃げ出す橙のこと、医者に行こうなどと告げればTRANS-AMどころかEXAMやNT-Dが発動してもおかしくはない。
「ハーフ&ハーフっつうかキカイダーっつうかストⅢのラスボスって言うか…まぁそんな風体よね、永琳は」
「永琳…そんな名前でした…はッ!?」
「なによ」
閃いた。狐なりに閃いた。
薬どころか病院にも容易に誘導出来る、至高の上策が…
フフ…私はたまに恐ろしい…この神算鬼謀が…
「『私はたまにこの頭脳が怖い』みたいな顔してるわね…」
◇
それから二時間ほど後…台所。
「橙! チェーン! チャーミングすぎるちぇぇえん! おやつの時間だよ! 出てきなさい!」
蒼月昇ソックリな声の天パ大尉も言ってたが、橙はチャーミングすぎるので一刻も早く虫下しと健康診断をしてやらねばなるまい。
これは主としての義務だ。ペット扱いなど断じてしていないが、保護者としてはベストを尽くさねばなるまい。なるまい多いな。
「今日のおやつは橙の好きな仮面ライダーソーセージとタブクリアのバリューセットだぞ! ソーセージは何とまあアギトのだ! お前の好きなアギトだぞ!」
そんな物があるかどうかは知らないし、あったとしてもアギトの放映から10年以上が経っているのだ。とても食べさせられるものではない。
しかしまあ、ただのギョニソにマジックで『木野の旅』と書いておいたので大丈夫だろう。橙はアギトでもギルスでもG3-Xでもなくアナザーアギトが大好きという将来有望過ぎて怖い程のアギターだからな。
「おっ」
その呼びかけが効いたのか、橙がトランザムしながら私の前に現れた。
相変わらずいいマニューバだ。弾を撒きながら画面を駆け回る頼もしさは伊達ではない。
「ようしいい子だね橙、おっとソーセージはまだだよ…その前に何をするんだっけ?」
すると橙は両足を開いて立ち、右手を前に、左手を腰の辺りに溜め、ついでその両手をヘソの辺りで交差させた。
空手の型を彷彿とさせるその挙動は、木野薫がアナザーアギトに変身する際のポーズである。
「アナザーアギトの変身ポーズだね…だが違う」
あまりの愛らしさに思わず頬がゆるむがそうではない。
橙は首を傾げると、私の後ろに回り込み、尻尾の束に埋もれるようにしてモフモフを始める。
「ア、アアアーッ!? ちぇ、ちぇえええん! 違う、そうじゃない! 違わないけど違ってそうじゃない…そうじゃないんだよ…モフモフは寝るときにいくらでもしていいから…でも今はその時じゃないんだよ…」
橙は再び首を傾げ、遂には降参といった風情で私の目を見た。その上目遣いの破壊力たるや…だがいかん、正気を保て、八雲藍!
「お薬を飲むんだよ、橙」
袖の中に隠したギョニソをちらつかせ、私は懐から粉薬の包みを取り出し、橙に示して見せた。
あからさまに嫌そうな顔をする橙であるが、さりとてギョニソの方も見過ごせないらしく、その二つに視線を行き来させている。
「これはね橙、とても大事なことなんだ。お前の健康維持の為の薬なのだよ」
式神、その元を辿れば黒猫の怪異、さらに大元を辿れば猫である。
体内に良くない虫が居つくこともあるだろうし、そのせいで健康を害されでもしたら、私は勿論のこと紫様も悲しむ。
今までは食事やおやつにさり気なく仕込んで飲ませていたが、橙も長く私の式をするにつれ、主に似て利発で聡明で明晰な頭脳を持ち始めているようだった。
要するに薬だけを上手く回避する様になったのだ。危機察知Lv.3くらいはあるだろう。
「それにね橙、お前の健康状態を一度、お医者様に見てもらおうと思っているんだよ」
その言葉を聞いた橙は顔を強張らせ、圧縮したGN(五大陸に響き渡る可愛らしさを誇る猫の妖怪)粒子を解放せんと構える。
紫様と一緒にダブルオーを見せたのが不味かった。
いやしかし、思えば紫様は「ダブルオーとレイズナー、それと仮面ライダーカブト、どれが見たい?」と尋ねていたから…どれを見たにせよ橙は超高速移動する術を身につけていただろう…
おのれ八雲紫。
「待ちなさい橙、逃げるな橙。話は最後まで聞くものだ…その病院はね、とても素敵なものなんだ」
純真無垢な橙を騙すのは気が引けるが、ここは心を鬼にせねばならぬ。許せ橙、あとでキャラメル買ってやるから。
「どう素敵だって? フフ…そうだな、まずは名前だが…永遠亭というらしい…エターナルだぞ。何がどう永遠なのかは知らぬし興味も無いが、ミーティアを社用車として使っているかもしれんな…それに生老病死に深く関わるであろう病院に冠して良い単語ではあるまいよ…そう思うだろう?」
放出される赤い粒子は徐々に弱くなっていき、橙の興味はそれに反比例して強まっていくようであった。私は大げさにカッコイイポーズを取り、ゆっくりと続ける。
「お前がいつか習得したいと言っていたスペルカード、『永遠符・エターナルフォースブリザード』の手がかりもそこにあったりしてね…まさかとは思うが」
ガタッ、とテーブルにぶつかりながらも、橙は目を輝かせて私に迫る。
エターナルフォースブリザード…よくわからん原理だがとにかく『相手は死ぬ』らしい。弾幕ごっこでどの程度それが発揮されるかは判らないものの、エターナルでフォースでブリザードなどという甘美な響きの単語の組み合わせは若年層にもウケがよいのだろう。
「さ、ら、に…だ。そこで医者をやっている先生の名前を教えてあげよう」
ギョニソにはもはや興味を無くしたのか、橙は私に抱きつき、次の言葉を待つ。ああん…かわいい…っと、いかん。
これはあくまで橙の健康のためであり私自身の欲望願望希望を満たすプレイではないのだ。
「確か、んん、ゴホン、エ…リン…と言ったかな」
ガタガタッ! と大きな音を立て、橙が椅子を倒しながら後ずさる。
フフ…効いてる効いてる。紫様の間違った英才教育によってすっかり某シリーズのファンとなってしまった橙だ…「エリン」という単語で察しないはずもあるまい。
「そうそう、おっほん、ヤゴ…コ…ロ…マフティー・ナビーユ・エリン。何、Ξ(クスィー)ガンダムはいるかって? さぁ、どうだろうね…」
橙はすっかり私の術中に嵌ったようで、先ほどまでの態度とは打って変わって私を急かす。
マフティー・ナビーユ・エリン…本名をハサウェイ・ノアというあの男が、幻想郷入りしていると…そう信じて疑わないのであろう。
若干胸が痛むが…耐えろ私! 痛みを伴う改革だ!
「ほら落ち着きなさい、何、Ξガンダムは凄く早いから不安だって? 大丈夫、この幻想郷はあれが飛ぶには狭過ぎるさ…大丈夫だよ。ん? あの紅白の巫女が倒しに行っているかもしれない? 何故?」
何故そこで博麗霊夢の名が出てくるのだろうか…は!?
「だ、大丈夫! あれはレイムだから! レーン・エイムの略じゃないから! あいつペーネロペー無くても飛べるから! よ、よし行くぞ橙!」
私は大慌てで支度を済ませ、橙と共に飛び上がった。
目的地はさほど遠くないが、そこに着くまでに何とかして、嘘と悟られぬように策を練らねばなるまい。
私はわざとゆっくり飛びながら、ひたすらに考えた。狐なりに考えまくった。
しかし時間というものは残酷である。
ものの10分もしない内に、竹林の中にある建物が視界に飛び込んでくる。
何やら迷いの竹林だとかそういった仰々しい場所であるようだが、上空から見つけるのは然程苦労しない。橙は喜び勇んで急降下してゆき、私もそれに続く。
「落ち着きなさい橙…何、幻想郷はよく考えればアデレードに似ている? ば、バカな事を言うもんじゃない、まるで似ていないよ!」
遠くなっていく橙を追いかけつつ、私は大声でそう叫ぶ。
どれだけ没入しているんだ橙は…ああいかん、不安になってきた。これならば先に一人で訪ねて、八意永琳に口裏を合わせて貰うように頼んでおけばよかった…
「ふぅ、着いたな橙…うん? どうした」
私は家屋の前に着地し、既に下りて玄関の前に立っていた橙に声をかけた。
彼女はてっきり、私を待たずに突入するものだと思っていたが、扉を見つめて立ち尽くしている。
「掛札? ああ、本当だ…何々」
『大変申し訳ありませんが、湯治のため一週間程留守にしております 永遠亭一同』
「留守か…」
ほっとしたような、残念なような。
しかし橙はそんな私の胸中など知る筈も無く、虚ろな目をして私を見た。
「…医者が湯治とかナメてるのかって? …まあ、一理あるが…ん? 北斗の拳とブラックジャックを足すとスーパードクターKになる? お、おい大丈夫か橙、気をしっかり持て!」
意味の判らないことを呟き始めた橙を抱き寄せ、頭を撫でてやるが、マフティーと遭えなかったショックは相当なものであったらしい。
橙はドクターキリコに頼んでやるだの、ブラックジャックが料理をしたらザ・シェフになるだの言い出して、収まりがつかなくなっている。
「また来ればいいさ、また連れてきてあげるから。な? 今日は帰って、ソーセージを食べよう…取っておいた私のプリンも食べていいから、な?」
しょんぼりしていた橙も、流石にソーセージとプリンの素敵コンボと聞けば、幾分元気になったようで、尻尾を振りながら私の手を握ってくる。
虫下しや健康診断はまあ、改めて考えれば良いだろう。
◇
「おかえりー。どうだった?」
「ああ、いえ…それが不在でして」
「そっか、残念だったねえ橙…うん? もう処刑されちゃったんじゃないかって? まさかあ、処刑されたからこっち来たんでしょ、ハサウェイは」
そういうもんでもあるまいが、紫様は橙の頭を撫でつつそう言い、笑ってみせる。
そしてスキマから何か大きな…壷の様なものを取り出して、ゴトリとちゃぶ台の上に置いた。
「それは?」
「帰ってきたら皆で食べようかと思ってねえ、バケツプリンならぬ壷プリン」
「紫様…」
「んじゃ藍、お茶でも…いや、橙もいるしカルピスがいいかな。ツーフィンガーで許可します」
「ツーフィンガーで!? わ、わかりました! すぐにご用意いたします!」
壷に頭を突っ込みかねない橙をたしなめつつ、私はツーフィンガーで作ったカルピスをちゃぶ台に置き、ふう、とため息をついた。
何だかんだで振り出しに戻ってしまったが…まあ仕方あるまい。改めて策を練ろう…今はプリンだ。
そんな悩みなどどこ吹く風で、紫様は二つのスプーンを器用に使い、プリンをシェアしていく。
「はーい、橙はメガ盛りにしてあげたからねえ」
目を爛々と輝かせ、橙はプリンとの格闘を始める。
その合間にギョニソを齧り、カルピスで流し込む…その様は大変愛くるしく、頬が緩むが…
女三人寄れば大量のプリンと言えど瞬間の命…空になった壷を片付けつつ、私は紫様の膝でおねむな橙を見やる。
そして改めて茶を淹れ、私は紫様の対面に座った。
「何よ、微妙な顔しちゃって」
「いえ、結局虫下しを飲ませられなかったもので」
「まだ言ってんの…それならもう、とっくに解決してるでしょ」
「は?」
紫様はそう言うと、懐から小さな包みを取り出し、私の前に置いた。
それは私が橙に飲ませるつもりで入手しておいた、虫下しの薬の包みであった。
「…は?」
「プリンに入れておいたのよ。藍、貴女が永琳の名前で何を思いついたかなんて、私にはとっくにお見通しだったってワーケー。そしてそれがきっと上手く行かないだろうってことも」
「う、ぐ…そ、それはまあともかく、橙は食べ物に混ぜても上手く回避するように…」
「それは貴女がどっか白々しい態度を取るからでしょ…橙は薬そのものの存在を気取ってるんじゃなくて、貴女の動向が普段と違うってことを察知してるだけじゃないの」
そうなのだろうか。
私が橙を思ってしている事に、仕方なく含まれてしまう嘘偽りを、私自身が心の何処かで気に病んで…それを橙は察知していると…紫様はそう仰る。
「ま、実際のところは判らないけどねえ…ただ藍、貴女もそうだったからね…式に血縁関係は無いにせよ、何だかんだで似るモンなんじゃあ、ないのかしら」
茶を啜り、紫様が優しげな笑顔でそう言った。
まるで実感の湧かぬことであるが…紫様がそう仰るのであれば、そうなのだろう。私と橙の間にも、いずれそう語り合える日が来るとすれば…
今この腹を襲う猛烈な痛みと悪寒にも耐えることが出来る…出来るのだ。
「ゆ、紫さまッッ…何かいい話なところアレですが…! プリンに混ぜたというのなら、それは私たちも食べてしまっているということなでは…ッ!?」
「そりゃあそうでしょ。私は口の中にスキマ作ってゲラウェイしちゃったから大丈夫だけど…後で貴女の取っておいたプリン食べればいいワケだし」
「なッ…く、うう、し、失礼しま…!」
限界だ。私は立ち上がり、トイレへと急ぐ。猫に効くものが狐に効かぬ道理は無い…決壊すれば色々とまずいことになろう…急げ、急げ八雲藍!
と、その時。
私の後方から、橙がトランザム…通常の三倍は速いであろうトランザムをしつつ飛んできて、トイレに飛び込んだ。
ガチャリと施錠される音が、無常にも響く。
ドアの隙間から漏れ出るGN粒子が眩しい。
「ア、アーッ!? ちぇ、橙!? いやちょっと、いやマジで! は、お…ア、アアアアーッ!?」
その後私がどうなったかは、名誉の為に伏せておく。
春を目前にした、ある日の出来事であった。
紫様に見せられたのが目で追うことすら不可能なカブトやジェノサイド待ったなしなレイズナーでなかったことだけは幸運であった…。
突撃ラブハァアアアアア!!
と叫んでほしいですね。