「ねえ、藍」
「なんですか、紫様」
「今夜、宴会があるじゃない」
「ええ、人妖問わず、たくさんの方が参加なされるとか」
「とっても楽しみよね!」
「そうですね。人間と妖怪が大勢で触れあう機会というのはそうありません。非常に意義のある催しになるでしょう」
「霖之助さんも来るし、他にもたくさんの殿方がこぞって……うぇへっへへっ」
「そっち目当てかよ」
「え、何か言った?」
「いえ、何でもありませんよ、ゆかビッチ様」
「うん、その婉曲的に見えてその実ダイレクトな罵倒はやめてほしいわ」
「しかし、あまりあからさまに男漁りなどいたしますのは、外聞が……」
「大丈夫大丈夫、そういうのをヤリマン扱いするのは大抵童貞だから」
「やるのが峰不二子あたりならまだしも、紫様だからなぁ……」
「ちょっと何聞き捨てならないこと言ってんのよ。さぁ、さっそくおめかしするわよ」
「では、お化粧お手伝いいたします」
「でも、ナチュラルメイクの方が好きな殿方、多いのではないかしら」
「確かに料理でも、もともとの素材が良ければシンプルな味付けであるべきです。しかし、傷みかけの食材においては油で揚げたり、薬味を大量に入れたり、濃い味付けを施したりして誤魔化さなくてはなりません」
「うん、その喩え、どういうことなのか理解しようとすると脳が拒むわ」
「さて、ともかくお化粧ですね。まずはパテで顔面を固めましょう」
「私の顔かたち、全否定?!」
「じゃあ、この能面を」
「おかめ以下なのぉおお?!」
「ああ、ほら、そんなに叫ぶと表情が崩れて、ただでさえ見れたものでないお顔がさらに酷いことに……」
「あなたの発言のが酷いわよ! あのね、私の顔! 私の顔そのままで勝負したいの!」
「それでしたら、ええと」
「何か良いメイクがあるのね」
「一度死んで生まれ変われば」
「全否定リターンズ!?」
「他にどうしろと」
「どうにでもなるでしょ! さっきから何よっ、私の顔、そんなに救いようがないわけ?!」
「いえ、そのようなこと、決して思わないはずがございません」
「そう、それならいいのだけど……って、思ってるじゃないの!」
「ちっ、気づきやがった」
「いいわよ、いいわよ! こうなったら私よりカワイイ女子共には死をくれてやるわ!」
「全世界の女性を殺すつもりですか!」
「どういう意味?!」
「そのようなことをするならば、とりあえず私は八雲の姓を返上します。紫様も以後は改名し、八雲肉便器としてください」
「役所で弾かれるレベル!」
「とりあえず落ち着いてください。顔はともかく、他の分野でアピールできるところを作ればいいでしょう。あるかどうかは知りませんが」
「か、顔はともかく、って……」
「何かありませんか」
「そ、そうね……私、脱ぐと結構ムチムチなのよ」
「はい、無視無視」
「酷っ?!」
「男性は意外性やミステリアスな部分に惹かれると言います。それについてはいかがでしょう」
「秘密を持っている女性は男性の気を引ける……」
「何かありますか、秘密」
「えーと……わ、私の右胸には小さなホクロがある、とか……」
「──かつて群馬はキュウリの生産日本一であったが、2006年度から宮崎にその首位の座を明け渡した」
「え、何、それ」
「どうでもいい知識で上書きしようと思いまして」
「私の秘密は記憶に残しておきたくないと?!」
「それより振る舞いや仕草について意外性を演出してみては?」
「うーん……」
「やってみてくださいよ。まずは喜びの表現」
「じゃ、じゃあ」
「意外性重視ですよ」
「──わーい、ゆかりん、マンモスうれPー♪」
「ラリってんですか」
「やらせといてそれ?!」
「次行きましょう。紫様、怒りの表現、どうぞ」
「激おこプンプン丸ー☆」
「カー、ペッ!」
「あの、藍? 今、何か吐き捨てなかった? 私、少なからず心に傷を負ったんだけど」
「いえ、決して『年考えろよババア』とか思ったわけではなくて。ただ、得体の知れない猛烈な吐き気に襲われただけです」
「そ、そう。なんだかより酷い罵倒を受けたような気がするけど、気がするだけよね」
「ええ、お年を考えてください、ご高齢のご婦人」
「主旨無変化?!」
「お気になさらず、次の黒歴史、もといパフォーマンスを演じてください」
「始めから馬鹿にする気満々でしょ! ええ、わかってるわよ、私が年甲斐もなくサカってるってことは! どうせそのうち、女性専用車両にも『自分が痴漢されると思ってんのー、その年で?』って思われるのが怖くて乗れなくなるのよ!」
「大丈夫ですよ、そんなことはありません」
「藍……」
「『その年で?』ではなく、『その顔で?』ですから」
「フォロー・プリーズ!」
「とにかく顔も年もどうにもならないんですから、気に病むことないですよ」
「むしろ鬱病になりそうよ、あなたのせいで! もう、さっきから馬鹿にして! 年食ってるからって何よ! こうなったら境界いじって世界の女、みんな閉経にしてやるわっ。『閉経にあらずんば人にあらず』って感じに!」
「いや、冷静に願います。私だって年を食ったが故に、たとえば肌の状態などに問題がないわけではないのですから」
「え、本当? 本当? どんな? 言って、言って! 嫌なことはしゃべった方が気が楽になるわよ!」
「興味本位プラス同病相憐れみたい根性丸出しですね」
「で、どんな問題? どんな問題?」
「ええと、洗い物とかで、指のここ、ささくれが」
「……ふ」
「ふ?」
「フザケルニャー!!」
「?!」
「強者からの自虐発言は弱者の居場所を奪うと知っての狼藉かー!!」
「お、落ち着いてください」
「落ち着けるかー!! 染みにソバカスに小皺にと苦しむババアの苦しみを思い知れー!!」
「気を、気を落ち着けて! とりあえず、駆け込んだ方が……警察か老人ホームへ」
「慰める気、一切ないでしょ?!」
「というかですね」
「何よ」
「男に色目を使う必要はないのです」
「え?」
「私だけを見つめていれば良いじゃないですか」
「藍……」
「紫様……」
「結婚、しましょう」
「喜んで」
HAPPY END !
「なんですか、紫様」
「今夜、宴会があるじゃない」
「ええ、人妖問わず、たくさんの方が参加なされるとか」
「とっても楽しみよね!」
「そうですね。人間と妖怪が大勢で触れあう機会というのはそうありません。非常に意義のある催しになるでしょう」
「霖之助さんも来るし、他にもたくさんの殿方がこぞって……うぇへっへへっ」
「そっち目当てかよ」
「え、何か言った?」
「いえ、何でもありませんよ、ゆかビッチ様」
「うん、その婉曲的に見えてその実ダイレクトな罵倒はやめてほしいわ」
「しかし、あまりあからさまに男漁りなどいたしますのは、外聞が……」
「大丈夫大丈夫、そういうのをヤリマン扱いするのは大抵童貞だから」
「やるのが峰不二子あたりならまだしも、紫様だからなぁ……」
「ちょっと何聞き捨てならないこと言ってんのよ。さぁ、さっそくおめかしするわよ」
「では、お化粧お手伝いいたします」
「でも、ナチュラルメイクの方が好きな殿方、多いのではないかしら」
「確かに料理でも、もともとの素材が良ければシンプルな味付けであるべきです。しかし、傷みかけの食材においては油で揚げたり、薬味を大量に入れたり、濃い味付けを施したりして誤魔化さなくてはなりません」
「うん、その喩え、どういうことなのか理解しようとすると脳が拒むわ」
「さて、ともかくお化粧ですね。まずはパテで顔面を固めましょう」
「私の顔かたち、全否定?!」
「じゃあ、この能面を」
「おかめ以下なのぉおお?!」
「ああ、ほら、そんなに叫ぶと表情が崩れて、ただでさえ見れたものでないお顔がさらに酷いことに……」
「あなたの発言のが酷いわよ! あのね、私の顔! 私の顔そのままで勝負したいの!」
「それでしたら、ええと」
「何か良いメイクがあるのね」
「一度死んで生まれ変われば」
「全否定リターンズ!?」
「他にどうしろと」
「どうにでもなるでしょ! さっきから何よっ、私の顔、そんなに救いようがないわけ?!」
「いえ、そのようなこと、決して思わないはずがございません」
「そう、それならいいのだけど……って、思ってるじゃないの!」
「ちっ、気づきやがった」
「いいわよ、いいわよ! こうなったら私よりカワイイ女子共には死をくれてやるわ!」
「全世界の女性を殺すつもりですか!」
「どういう意味?!」
「そのようなことをするならば、とりあえず私は八雲の姓を返上します。紫様も以後は改名し、八雲肉便器としてください」
「役所で弾かれるレベル!」
「とりあえず落ち着いてください。顔はともかく、他の分野でアピールできるところを作ればいいでしょう。あるかどうかは知りませんが」
「か、顔はともかく、って……」
「何かありませんか」
「そ、そうね……私、脱ぐと結構ムチムチなのよ」
「はい、無視無視」
「酷っ?!」
「男性は意外性やミステリアスな部分に惹かれると言います。それについてはいかがでしょう」
「秘密を持っている女性は男性の気を引ける……」
「何かありますか、秘密」
「えーと……わ、私の右胸には小さなホクロがある、とか……」
「──かつて群馬はキュウリの生産日本一であったが、2006年度から宮崎にその首位の座を明け渡した」
「え、何、それ」
「どうでもいい知識で上書きしようと思いまして」
「私の秘密は記憶に残しておきたくないと?!」
「それより振る舞いや仕草について意外性を演出してみては?」
「うーん……」
「やってみてくださいよ。まずは喜びの表現」
「じゃ、じゃあ」
「意外性重視ですよ」
「──わーい、ゆかりん、マンモスうれPー♪」
「ラリってんですか」
「やらせといてそれ?!」
「次行きましょう。紫様、怒りの表現、どうぞ」
「激おこプンプン丸ー☆」
「カー、ペッ!」
「あの、藍? 今、何か吐き捨てなかった? 私、少なからず心に傷を負ったんだけど」
「いえ、決して『年考えろよババア』とか思ったわけではなくて。ただ、得体の知れない猛烈な吐き気に襲われただけです」
「そ、そう。なんだかより酷い罵倒を受けたような気がするけど、気がするだけよね」
「ええ、お年を考えてください、ご高齢のご婦人」
「主旨無変化?!」
「お気になさらず、次の黒歴史、もといパフォーマンスを演じてください」
「始めから馬鹿にする気満々でしょ! ええ、わかってるわよ、私が年甲斐もなくサカってるってことは! どうせそのうち、女性専用車両にも『自分が痴漢されると思ってんのー、その年で?』って思われるのが怖くて乗れなくなるのよ!」
「大丈夫ですよ、そんなことはありません」
「藍……」
「『その年で?』ではなく、『その顔で?』ですから」
「フォロー・プリーズ!」
「とにかく顔も年もどうにもならないんですから、気に病むことないですよ」
「むしろ鬱病になりそうよ、あなたのせいで! もう、さっきから馬鹿にして! 年食ってるからって何よ! こうなったら境界いじって世界の女、みんな閉経にしてやるわっ。『閉経にあらずんば人にあらず』って感じに!」
「いや、冷静に願います。私だって年を食ったが故に、たとえば肌の状態などに問題がないわけではないのですから」
「え、本当? 本当? どんな? 言って、言って! 嫌なことはしゃべった方が気が楽になるわよ!」
「興味本位プラス同病相憐れみたい根性丸出しですね」
「で、どんな問題? どんな問題?」
「ええと、洗い物とかで、指のここ、ささくれが」
「……ふ」
「ふ?」
「フザケルニャー!!」
「?!」
「強者からの自虐発言は弱者の居場所を奪うと知っての狼藉かー!!」
「お、落ち着いてください」
「落ち着けるかー!! 染みにソバカスに小皺にと苦しむババアの苦しみを思い知れー!!」
「気を、気を落ち着けて! とりあえず、駆け込んだ方が……警察か老人ホームへ」
「慰める気、一切ないでしょ?!」
「というかですね」
「何よ」
「男に色目を使う必要はないのです」
「え?」
「私だけを見つめていれば良いじゃないですか」
「藍……」
「紫様……」
「結婚、しましょう」
「喜んで」
HAPPY END !
ゆかりん頑張れ!