──開幕──
厳めしい楽音。
紅い絨毯の広がる大広間に、レミリア=スカーレットが歩いてくる。
「おい、シュールストレミング、シュールストレミングはどこだ」
十六夜咲夜が瞬間的に現れる。
「はい、お嬢様」
「パーティーがしたいわ」
「パーティー、でございますか。──ちなみに私の名前は『十六夜咲夜』でございます」
「あなたは口を挟まないで『臭いくさや』」
「申し訳ございません」
咲夜、さりげなく右腕を曲げて鼻を近づけ、自身の体臭を確認する。
「パーティーよ」
「どのようなパーティーでしょうか」
「何でもいいわ」
「オーソドックスなもので参りますと、」
「うん」
「戦士、勇者、僧侶、魔法使いが無難かと」
「パーティー違いね」
「さようでございますか」
「もっと大勢で集まって、盛大に行う催し物よ」
「では、『RANKOUパーティー』などいかがでしょう」
「『らんこうぱーてぃー』? 何なのそれは」
「小耳に挟んだだけですので、私もよくはわかりません」
「謎の祭事……ミステリアスね、気に入ったわ」
「お気に召したようでなによりです」
「しかし、どんなパーティーか皆目見当がつかないのではな」
「名前から推測するに、八雲紫の式と関係があるかもしれません」
「八雲藍……『藍公パーティー』……確かに関連性を感じるわね」
「八雲一家で夜な夜な楽しんでいる可能性もあります」
「是非混ぜてもらいたいわね」
「御相伴に預かりたいものです」
「でも、本当に八雲藍はやってるのかしら」
「先日、パーティーを催しておりましたわ」
「そうなの」
「大勢ではありませんでしたが」
「少人数。何人くらい?」
「一人です」
「それ、パーティーなの?! で、どんなパーティー?」
「テンコーパーティー」
「私が名付けました」
「あなたが命名者?! ──いいセンスね」
「ありがとうございます」
「で、どんなパーティーなわけ?」
「『テンコォー、テンコォー』としこたま発声しながら一糸まとわぬ裸体になる催しです」
「何その奇祭?! ──興味深いわ」
「幻想郷ならではでございます」
「してみると、テンコーパーティーとランコーパーティー、何かしらの類似点がありそうね」
「言葉の響きも大変似通っております」
「じゃあ、そっちの方、さっそく始めましょ」
「かしこまりました。では、すぐさま準備いたします。クリスマスパーティーの」
「……うん?」
「クリスマスパーティーです」
「私の大脳皮質が発酵していなければ、やるべきことが違うのではないかしら」
「お嬢様の脳細胞は隅々まで新鮮でございますわ」
「安心したわ」
「お嬢様は謎の祭事がお好きでいらっしゃいます。ですから、クリスマスパーティーです。(空中に文字を書いて、)『X-masパーティー』、とすると、いかがでしょう。謎に満ちてるっぽく思えませんか」
「Xの辺りにミステリアスなアレが醸し出されているわね。そこはかとなく」
「外の世界ではランコーパーティーと似て非なるものとのことです」
「そうなの。まあ、ランコーパーティーが何かもよくわからないしね」
「はい、真相が解明次第、紅魔館総出で行いたいとは思います」
「では、とりあえず今回はクリスマスパーティーの準備を」
「かしこまりました。盛大に執り行えるよう、入念に整えておきます」
「頼むわね」
レミリアが言い終わるや否や、服が赤と白のサンタ服に替わる。
咲夜も赤と白の服に替わっており、たっぷりとした白い口ひげまで付けている。
周囲は派手な飾り付けが埋め尽くし、中央には巨大なクリスマスツリーがそびえ立っている。
「整いました」
「便利ね」
「お嬢様の思いを受け止めまして、このように仕立てました」
「見事よ。私の気持ちを代行してくれたのね」
「聖人の生誕した聖なる夜を祝うという崇高な志、素晴らしいですわ」
「え?」
「え?」
「私の願望はただ一つ! 霊夢を呼んで親交を深めるのよ! 個人的な!」
「煩悩まみれでございましたか」
「それにしてもこのモニュメントの飾り付けはなかなかね」
「私の持てる技巧の全てを凝らしました」
「精魂込めたわね」
「たとえばこの円盤」
「ふむ」
「(どこからともなく懐中電灯を取り出して、)魔鏡になっており、光を当てると、この通り。聖夜にふさわしく十字架が浮かび上がります」
十字架の光がレミリアを直射する。
「ぎゃあああああ?! 体が焼ける!!」
「大丈夫ですか、お嬢様」
「主を危険にさらすなんて何考えてんの! クビよ、クビ!」
「今までお世話になりました」(深々と頭を下げる)
「荷物はまとめといてね」
「ところでこちらの品をお渡ししたいのですが」(液体の入った瓶を差し出す)
「何よこれ」
「残り湯です。博麗神社の」
「(ビシッと指を指し、)再雇用」
「ありがとうございます」
「(瓶を受け取る)それじゃあ、さっそく一気するわね。腰に手を当てて」
「女だてらに男らしいですわ」
レミリア、喉を鳴らしながら液体を飲む。突然、真上に噴き出す。
「(咳き込みながら)グワホッ、グェエゴホッ! ガホッ! な、何なの、この焼けるような!」
「あ、失礼しました。それはニンニクエキスの栄養ドリンクでしたわ。自家製の」
「咲夜作?! 主を危険にさらすなんて何考えてんの! クビよ、クビ!」
「(深々と頭を下げて)お世話になりました。ところでこちらの品を(白い小片を差し出す)」
「何よこれ」
「巫女のサラシでございます」
「(ビシッと指を指し、)再雇用」
「ありがとうございます」
「(ハンカチを取り出し、小片を大事に包みながら)で、このモニュメント、他にも仕掛けとかあるのかしら」
咲夜、「ええ」とツリーの根本にしゃがみ、スイッチを押す。
ウウウウウと震えるような稼働音。
「このように、幻想的な聖夜を演出しますわ」
ツリーの頂から霧状の噴水が周囲に撒布される。
レミリア、感心するように眺めていたが、途端に苦しみ出す。
半死半生ながらも転がり、ツリーの木陰に避難する。
「さ、咲夜、これは吸血鬼が流水に弱いと知っての狼藉?」
「失念しておりましたわ」
「主を危険にさらすなんて何考えてんの! クビよ、クビ!」
「ちなみにこれは巫女の残り湯でございます」
「(ビシッと指を指し、)再雇用」
厳めしい楽音。
──閉幕──
厳めしい楽音。
紅い絨毯の広がる大広間に、レミリア=スカーレットが歩いてくる。
「おい、シュールストレミング、シュールストレミングはどこだ」
十六夜咲夜が瞬間的に現れる。
「はい、お嬢様」
「パーティーがしたいわ」
「パーティー、でございますか。──ちなみに私の名前は『十六夜咲夜』でございます」
「あなたは口を挟まないで『臭いくさや』」
「申し訳ございません」
咲夜、さりげなく右腕を曲げて鼻を近づけ、自身の体臭を確認する。
「パーティーよ」
「どのようなパーティーでしょうか」
「何でもいいわ」
「オーソドックスなもので参りますと、」
「うん」
「戦士、勇者、僧侶、魔法使いが無難かと」
「パーティー違いね」
「さようでございますか」
「もっと大勢で集まって、盛大に行う催し物よ」
「では、『RANKOUパーティー』などいかがでしょう」
「『らんこうぱーてぃー』? 何なのそれは」
「小耳に挟んだだけですので、私もよくはわかりません」
「謎の祭事……ミステリアスね、気に入ったわ」
「お気に召したようでなによりです」
「しかし、どんなパーティーか皆目見当がつかないのではな」
「名前から推測するに、八雲紫の式と関係があるかもしれません」
「八雲藍……『藍公パーティー』……確かに関連性を感じるわね」
「八雲一家で夜な夜な楽しんでいる可能性もあります」
「是非混ぜてもらいたいわね」
「御相伴に預かりたいものです」
「でも、本当に八雲藍はやってるのかしら」
「先日、パーティーを催しておりましたわ」
「そうなの」
「大勢ではありませんでしたが」
「少人数。何人くらい?」
「一人です」
「それ、パーティーなの?! で、どんなパーティー?」
「テンコーパーティー」
「私が名付けました」
「あなたが命名者?! ──いいセンスね」
「ありがとうございます」
「で、どんなパーティーなわけ?」
「『テンコォー、テンコォー』としこたま発声しながら一糸まとわぬ裸体になる催しです」
「何その奇祭?! ──興味深いわ」
「幻想郷ならではでございます」
「してみると、テンコーパーティーとランコーパーティー、何かしらの類似点がありそうね」
「言葉の響きも大変似通っております」
「じゃあ、そっちの方、さっそく始めましょ」
「かしこまりました。では、すぐさま準備いたします。クリスマスパーティーの」
「……うん?」
「クリスマスパーティーです」
「私の大脳皮質が発酵していなければ、やるべきことが違うのではないかしら」
「お嬢様の脳細胞は隅々まで新鮮でございますわ」
「安心したわ」
「お嬢様は謎の祭事がお好きでいらっしゃいます。ですから、クリスマスパーティーです。(空中に文字を書いて、)『X-masパーティー』、とすると、いかがでしょう。謎に満ちてるっぽく思えませんか」
「Xの辺りにミステリアスなアレが醸し出されているわね。そこはかとなく」
「外の世界ではランコーパーティーと似て非なるものとのことです」
「そうなの。まあ、ランコーパーティーが何かもよくわからないしね」
「はい、真相が解明次第、紅魔館総出で行いたいとは思います」
「では、とりあえず今回はクリスマスパーティーの準備を」
「かしこまりました。盛大に執り行えるよう、入念に整えておきます」
「頼むわね」
レミリアが言い終わるや否や、服が赤と白のサンタ服に替わる。
咲夜も赤と白の服に替わっており、たっぷりとした白い口ひげまで付けている。
周囲は派手な飾り付けが埋め尽くし、中央には巨大なクリスマスツリーがそびえ立っている。
「整いました」
「便利ね」
「お嬢様の思いを受け止めまして、このように仕立てました」
「見事よ。私の気持ちを代行してくれたのね」
「聖人の生誕した聖なる夜を祝うという崇高な志、素晴らしいですわ」
「え?」
「え?」
「私の願望はただ一つ! 霊夢を呼んで親交を深めるのよ! 個人的な!」
「煩悩まみれでございましたか」
「それにしてもこのモニュメントの飾り付けはなかなかね」
「私の持てる技巧の全てを凝らしました」
「精魂込めたわね」
「たとえばこの円盤」
「ふむ」
「(どこからともなく懐中電灯を取り出して、)魔鏡になっており、光を当てると、この通り。聖夜にふさわしく十字架が浮かび上がります」
十字架の光がレミリアを直射する。
「ぎゃあああああ?! 体が焼ける!!」
「大丈夫ですか、お嬢様」
「主を危険にさらすなんて何考えてんの! クビよ、クビ!」
「今までお世話になりました」(深々と頭を下げる)
「荷物はまとめといてね」
「ところでこちらの品をお渡ししたいのですが」(液体の入った瓶を差し出す)
「何よこれ」
「残り湯です。博麗神社の」
「(ビシッと指を指し、)再雇用」
「ありがとうございます」
「(瓶を受け取る)それじゃあ、さっそく一気するわね。腰に手を当てて」
「女だてらに男らしいですわ」
レミリア、喉を鳴らしながら液体を飲む。突然、真上に噴き出す。
「(咳き込みながら)グワホッ、グェエゴホッ! ガホッ! な、何なの、この焼けるような!」
「あ、失礼しました。それはニンニクエキスの栄養ドリンクでしたわ。自家製の」
「咲夜作?! 主を危険にさらすなんて何考えてんの! クビよ、クビ!」
「(深々と頭を下げて)お世話になりました。ところでこちらの品を(白い小片を差し出す)」
「何よこれ」
「巫女のサラシでございます」
「(ビシッと指を指し、)再雇用」
「ありがとうございます」
「(ハンカチを取り出し、小片を大事に包みながら)で、このモニュメント、他にも仕掛けとかあるのかしら」
咲夜、「ええ」とツリーの根本にしゃがみ、スイッチを押す。
ウウウウウと震えるような稼働音。
「このように、幻想的な聖夜を演出しますわ」
ツリーの頂から霧状の噴水が周囲に撒布される。
レミリア、感心するように眺めていたが、途端に苦しみ出す。
半死半生ながらも転がり、ツリーの木陰に避難する。
「さ、咲夜、これは吸血鬼が流水に弱いと知っての狼藉?」
「失念しておりましたわ」
「主を危険にさらすなんて何考えてんの! クビよ、クビ!」
「ちなみにこれは巫女の残り湯でございます」
「(ビシッと指を指し、)再雇用」
厳めしい楽音。
──閉幕──