「早苗さん、事件です」
「どうしたんですか」
境内に溜まった葉を掃除していた早苗のもとに、突然神妙な顔をした椛がやって来た。
尋ねる早苗に、彼女がスッと差し出した掌には、異様に大きなネジが乗っている。
「何ですかこれ」
「にとりのネジ」
「それは困りましたね、コメントに。四月馬鹿は終わりましたよ」
「真実です。私の目を見て下さい」
早苗はジッと椛の瞳を覗きこんだ。良い目だ。これなら千里先でも見通せるだろう。だからどうだっていう。
「やはり信じられません。それに事の重大さもわかりません」
「むぅ、ならば百聞は一見にしかず。ついて来て下さい」
椛は強引に早苗の手を引いて飛び立った。手放した箒を見やる。まず頭の中で神奈子と諏訪子に謝りながら「箒を放棄しました」と言い、続いて二柱が爆笑するイメージが浮かび、早苗はイケる、と思った。要は彼女もサボりたかったのだ。
「あそこをご覧下さい」
上空から椛が指した先には、川の横で仰向けになりながら緑を囓るにとりがいた。一目見て、早苗もようやく深刻な事態なのだと理解する。
「ピーマン食べてるっ」
「それだけではありません。あのアホ面……発明馬鹿のあいつがただの馬鹿になってしまったのです」
そうなのだ。にとりは胡瓜ではなくピーマンを貪り、その表情はふやけたティッシュのように緩みきっている。
二人は彼女に駆け寄った。
「にとり、早苗さんを連れて来たぞ。もう大丈夫だ」
「え、これ私が解決するんですか」
「アーナーエー? アレソレー」
「『早苗? 誰それ』と言っています」
「口調までゆるゆるじゃないですか」
どうやら信じるしか無いようだ。完全にネジがとんでいる。しかも物理的に。
早苗は頭を抱えた。椛は自分なら何とか出来ると思って頼ってきたらしいが、はっきり言って無理だ。実は外の世界ではビデオのダビングさえ神奈子にやってもらっていた程だ。携帯だって電話以外で使ったことは無い。それなのに河童を直すなんて不可能だろう。しかも早苗はピーマンが嫌いだった。
「私はピーマンが嫌いです!」
「誰も聞いてません」
「ニゲー。ウメー。キューカンバー」
「にとりぃ!」
にとり、それ胡瓜ちゃう、おピーマンや。
椛は泣きながらにとりを抱き締めた。早苗は割とどうでも良かった。ただピーマンを胡瓜だと思い込んでいるのが哀れだと思い、仕方なく解決を試みる。
「まず、何でネジが取れたんですか」
「話せば長くなりますが」
「はい」
「花粉症でくしゃみをしたらその拍子にポロッと」
「なるほど、三秒でしたね」
早苗は推理した。探偵ごっこは得意だ。小学生の時に図書室でホームズを全巻借りたこともある。借りただけで読まずに返したが。
「ワトソンくん。被害者は口からネジを吐き出したのかね?」
「そうです。そしてワトソンって誰ですか早苗さん」
「モリヤーキー教授と呼び給え」
にわか知識のせいでごっちゃになっている。しかし彼女の間違いを正すことは出来ない。椛はホームズを知らないし、多分これから知る機会も無いのだから。
「わかりました。それではネジをにとりさんに飲み込ませましょう」
「それで治るんですか」
「直ります」
椛は彼女の言葉を信じ、にとりの口にネジを押し込んだ。その様子を見ながら、早苗は奇跡を信じた。助けて神奈子様。無責任にも程がある。
「ハッ、ハッ、ゥア」
すると異変が起こった。これは案外いけるかもしれない。二人がそう思った瞬間、
「ぶぁっくしょい!」
にとりは盛大にくしゃみをした。二本のネジとピーマンの欠片が口から飛び出し、ついに彼女はぱったりと倒れて動かなくなった。
「…………」
「…………早苗、さん?」
「神は、死にました」
「早苗さあああああああん!?」
「アディオス!」
飛び立った早苗を、椛は慌てて追いかけて行き、にとりは置き去りとなった。
その後、境内で騒ぐ二人の様子に気付いた神奈子と諏訪子が、代わりにゴッドパワーで見事元通りにしてくれました。神すげぇ。
「どうしたんですか」
境内に溜まった葉を掃除していた早苗のもとに、突然神妙な顔をした椛がやって来た。
尋ねる早苗に、彼女がスッと差し出した掌には、異様に大きなネジが乗っている。
「何ですかこれ」
「にとりのネジ」
「それは困りましたね、コメントに。四月馬鹿は終わりましたよ」
「真実です。私の目を見て下さい」
早苗はジッと椛の瞳を覗きこんだ。良い目だ。これなら千里先でも見通せるだろう。だからどうだっていう。
「やはり信じられません。それに事の重大さもわかりません」
「むぅ、ならば百聞は一見にしかず。ついて来て下さい」
椛は強引に早苗の手を引いて飛び立った。手放した箒を見やる。まず頭の中で神奈子と諏訪子に謝りながら「箒を放棄しました」と言い、続いて二柱が爆笑するイメージが浮かび、早苗はイケる、と思った。要は彼女もサボりたかったのだ。
「あそこをご覧下さい」
上空から椛が指した先には、川の横で仰向けになりながら緑を囓るにとりがいた。一目見て、早苗もようやく深刻な事態なのだと理解する。
「ピーマン食べてるっ」
「それだけではありません。あのアホ面……発明馬鹿のあいつがただの馬鹿になってしまったのです」
そうなのだ。にとりは胡瓜ではなくピーマンを貪り、その表情はふやけたティッシュのように緩みきっている。
二人は彼女に駆け寄った。
「にとり、早苗さんを連れて来たぞ。もう大丈夫だ」
「え、これ私が解決するんですか」
「アーナーエー? アレソレー」
「『早苗? 誰それ』と言っています」
「口調までゆるゆるじゃないですか」
どうやら信じるしか無いようだ。完全にネジがとんでいる。しかも物理的に。
早苗は頭を抱えた。椛は自分なら何とか出来ると思って頼ってきたらしいが、はっきり言って無理だ。実は外の世界ではビデオのダビングさえ神奈子にやってもらっていた程だ。携帯だって電話以外で使ったことは無い。それなのに河童を直すなんて不可能だろう。しかも早苗はピーマンが嫌いだった。
「私はピーマンが嫌いです!」
「誰も聞いてません」
「ニゲー。ウメー。キューカンバー」
「にとりぃ!」
にとり、それ胡瓜ちゃう、おピーマンや。
椛は泣きながらにとりを抱き締めた。早苗は割とどうでも良かった。ただピーマンを胡瓜だと思い込んでいるのが哀れだと思い、仕方なく解決を試みる。
「まず、何でネジが取れたんですか」
「話せば長くなりますが」
「はい」
「花粉症でくしゃみをしたらその拍子にポロッと」
「なるほど、三秒でしたね」
早苗は推理した。探偵ごっこは得意だ。小学生の時に図書室でホームズを全巻借りたこともある。借りただけで読まずに返したが。
「ワトソンくん。被害者は口からネジを吐き出したのかね?」
「そうです。そしてワトソンって誰ですか早苗さん」
「モリヤーキー教授と呼び給え」
にわか知識のせいでごっちゃになっている。しかし彼女の間違いを正すことは出来ない。椛はホームズを知らないし、多分これから知る機会も無いのだから。
「わかりました。それではネジをにとりさんに飲み込ませましょう」
「それで治るんですか」
「直ります」
椛は彼女の言葉を信じ、にとりの口にネジを押し込んだ。その様子を見ながら、早苗は奇跡を信じた。助けて神奈子様。無責任にも程がある。
「ハッ、ハッ、ゥア」
すると異変が起こった。これは案外いけるかもしれない。二人がそう思った瞬間、
「ぶぁっくしょい!」
にとりは盛大にくしゃみをした。二本のネジとピーマンの欠片が口から飛び出し、ついに彼女はぱったりと倒れて動かなくなった。
「…………」
「…………早苗、さん?」
「神は、死にました」
「早苗さあああああああん!?」
「アディオス!」
飛び立った早苗を、椛は慌てて追いかけて行き、にとりは置き去りとなった。
その後、境内で騒ぐ二人の様子に気付いた神奈子と諏訪子が、代わりにゴッドパワーで見事元通りにしてくれました。神すげぇ。
結局ネジとはなんだったのか