ふにふにと音で聞こえそうなほどに頬を弄ぶ。
外勤で日光に晒されている時間は多いというのに、さらさらとした肌はそれでいて吸い付くようになめらかで肌理が整っている。
「なんだい急に」
くすぐったそうに困ったような、どこか少し嬉しいような声。
「あなたはどこもかしこも柔らかいわね」
問には答えず常から思っていたことを口にする。
「髪も、視線も、頬も、肌も、声も、性格も」
みんなみんな泣きたくなるほどに優しい。
まるく、あたたかく、やわらかい。
「えええ、そうかなあ……そんなん初めて言われたよ」
眉尻を下げて独り言のように微かに呟く。
そんな声で囁くのはずるい、と思う。
耳から入り込んで頭が痺れそうになる。
「んー、映姫は何もかも真っ直ぐで、透き通っているね」
長い指で髪を梳いてくる。一房すくって、目を合わせたまま唇を落とされた。
「髪も、瞳も、指も、声も、肌も、性格も」
あたいとは大違い。
言って、豆の出来た手のひらを見つめた。
頬と違って、所々が擦り切れ、ささくれ、豆もあって、節の浮いた手。
「あたいなんかが触れたら傷をつけそうで、手を握るのさえ怖かった」
大丈夫。
「そんなこと、気にせずもっと触れていいのよ」
否、
「触れてほしい、……うん、私が触れたいの」
その柔らかさが欲しくて、手放すことなんて考えることすら恐ろしいほど。
「あなたは触れ方まで柔らかい。慈しんでくれているようで、優しくて温かいからもっと触れて」
「……んじゃあ、声が柔らかい、なんてどっちかといえば掠れててとげとげしてないかい」
「声の質ならそうかもしれない。あなたは船を渡す間、ずっと喋りっぱなしでしょう。でもあなたは言葉が柔らかい。蓮っ葉な物言いをしていながら、言葉尻をまるく切り取って、更にトーンにも気を使っているでしょう。いつまでも聞いていたい、柔らかな声」
間、視線を逸らし顔を逸らし、ついには私の肩口に額を当てた。
髪から覗く耳が髪と同じ色まで染まっているのが愛おしい。
「物は言い様てか。……褒め殺しって言葉、知ってるかい」
「多角的に見れば事実ですからね。私は常に正しいのです」
頬に当てたままだった手が彼女の上がった体温を感じる。
自らの頬をすり寄せると、思いの外温度差は感じなかった。
我ながら浮かれている自覚はあるものの、隠すことでもない。
普段はほんの少し上にある目線が、今は殆ど真横にあって、それなのに上目遣いに見られて自然笑みが浮かんだ。
多少照れくさいものは仕方がない。
やわやわと触れるままにしていた手が唇に触れた。ああ、何度触れても柔らかい。
そのまま唇を撫でていると触れ方がやらしい、と咎められた。
そんな触れ方をさせる唇がいけないのであって、私は悪くない。
悪は正すべきである。正しき唇で塞いでやった。ついでに少しつまんでやると思っていた以上に甘かった。
唇も、漏れた吐息も声も。
「んあ、ふ……」
「……ん、嫌だった?」
「……まさか。でも、今日はいつも以上にやりたい放題だねえ」
いきなり布団に忍び込んだ挙句舌まで激しく絡めとって、肌の至る所に触れて、触れて、触れた。
隙間なく密着させて抱きしめて、甘さに酔いしれる幸せを噛みしめて、それまで「友人ごっこ」としてお互いの家を行き来する程度の関係を一足飛びに埋めてしまった。
敬語も敬称もなく話してくれるのが嬉しくて、手料理は美味しくて、彼女で満たされた部屋にいられるだけで良かったはずだったのに。
「まああたいは、映姫といられるならそれでいいんだけど」
閻魔だろうと欲はあるということか。
当然だ、元を正せば私も単なる石人形の付喪神でしかない。
彼女が私を好いてくれていると知って、変に動転してその場は笑って凌いだものの、本当は涙がでるほど嬉しかったから。
結局我慢ができなくて、眠る彼女に手を出してしまったけれど。
最後に愛は勝つ。勝ったものが正義である。ならば私は正義を行ったに過ぎない。
酒は確かに口にしたが、酔っているのはアルコールにではないだろう。
「そうやって甘やかすからつけあがるのよ」
今、まさに。
「うん、もっともっとつけあがれ。甘やかされてるうちはわがまま言い放題し放題の出血大サービスさ」
うちは、なんて言っておいて、結局無期限なのも鏡を見るまでもなく知っている。
嫌なら拒んでいい、と言った私に、好きにして、と返したのも彼女だ。
もっと欲しい、と呟いたのすら。
閻魔は地獄耳だ。一言一句聞き漏らさず、余すことなく心に留めた。
反芻すると頬が緩む。どうせなら直接聞きたい。ああもういっそこのままもう一度。
「うん、でもどうせなら今度はあなたから求めてくれないかしら」
「……うおっといきなり難易度高そうな発言。後で思い出して身悶える記憶を更に増やさせたいのかい」
「そんなあなたもかわいいわね」
「だからガラじゃないって……なんだい普段は映姫だって、……いや、普段から可愛いのは顔と声くらいか?」
公私は白黒つけなさい。
「私」に於ける私が黒すぎるって?閻魔は正しい。「公」の私が白ならば正義なのです。
可愛げが必要なのは閻魔の私ではなくプライベートな今の私でもないが、それでも彼女が求めてくれるなら「可愛さ」を追求してみるのも悪くはない。
でも今は可愛い彼女を思い切り愛でること。
それが私にできる善行ですね。
外勤で日光に晒されている時間は多いというのに、さらさらとした肌はそれでいて吸い付くようになめらかで肌理が整っている。
「なんだい急に」
くすぐったそうに困ったような、どこか少し嬉しいような声。
「あなたはどこもかしこも柔らかいわね」
問には答えず常から思っていたことを口にする。
「髪も、視線も、頬も、肌も、声も、性格も」
みんなみんな泣きたくなるほどに優しい。
まるく、あたたかく、やわらかい。
「えええ、そうかなあ……そんなん初めて言われたよ」
眉尻を下げて独り言のように微かに呟く。
そんな声で囁くのはずるい、と思う。
耳から入り込んで頭が痺れそうになる。
「んー、映姫は何もかも真っ直ぐで、透き通っているね」
長い指で髪を梳いてくる。一房すくって、目を合わせたまま唇を落とされた。
「髪も、瞳も、指も、声も、肌も、性格も」
あたいとは大違い。
言って、豆の出来た手のひらを見つめた。
頬と違って、所々が擦り切れ、ささくれ、豆もあって、節の浮いた手。
「あたいなんかが触れたら傷をつけそうで、手を握るのさえ怖かった」
大丈夫。
「そんなこと、気にせずもっと触れていいのよ」
否、
「触れてほしい、……うん、私が触れたいの」
その柔らかさが欲しくて、手放すことなんて考えることすら恐ろしいほど。
「あなたは触れ方まで柔らかい。慈しんでくれているようで、優しくて温かいからもっと触れて」
「……んじゃあ、声が柔らかい、なんてどっちかといえば掠れててとげとげしてないかい」
「声の質ならそうかもしれない。あなたは船を渡す間、ずっと喋りっぱなしでしょう。でもあなたは言葉が柔らかい。蓮っ葉な物言いをしていながら、言葉尻をまるく切り取って、更にトーンにも気を使っているでしょう。いつまでも聞いていたい、柔らかな声」
間、視線を逸らし顔を逸らし、ついには私の肩口に額を当てた。
髪から覗く耳が髪と同じ色まで染まっているのが愛おしい。
「物は言い様てか。……褒め殺しって言葉、知ってるかい」
「多角的に見れば事実ですからね。私は常に正しいのです」
頬に当てたままだった手が彼女の上がった体温を感じる。
自らの頬をすり寄せると、思いの外温度差は感じなかった。
我ながら浮かれている自覚はあるものの、隠すことでもない。
普段はほんの少し上にある目線が、今は殆ど真横にあって、それなのに上目遣いに見られて自然笑みが浮かんだ。
多少照れくさいものは仕方がない。
やわやわと触れるままにしていた手が唇に触れた。ああ、何度触れても柔らかい。
そのまま唇を撫でていると触れ方がやらしい、と咎められた。
そんな触れ方をさせる唇がいけないのであって、私は悪くない。
悪は正すべきである。正しき唇で塞いでやった。ついでに少しつまんでやると思っていた以上に甘かった。
唇も、漏れた吐息も声も。
「んあ、ふ……」
「……ん、嫌だった?」
「……まさか。でも、今日はいつも以上にやりたい放題だねえ」
いきなり布団に忍び込んだ挙句舌まで激しく絡めとって、肌の至る所に触れて、触れて、触れた。
隙間なく密着させて抱きしめて、甘さに酔いしれる幸せを噛みしめて、それまで「友人ごっこ」としてお互いの家を行き来する程度の関係を一足飛びに埋めてしまった。
敬語も敬称もなく話してくれるのが嬉しくて、手料理は美味しくて、彼女で満たされた部屋にいられるだけで良かったはずだったのに。
「まああたいは、映姫といられるならそれでいいんだけど」
閻魔だろうと欲はあるということか。
当然だ、元を正せば私も単なる石人形の付喪神でしかない。
彼女が私を好いてくれていると知って、変に動転してその場は笑って凌いだものの、本当は涙がでるほど嬉しかったから。
結局我慢ができなくて、眠る彼女に手を出してしまったけれど。
最後に愛は勝つ。勝ったものが正義である。ならば私は正義を行ったに過ぎない。
酒は確かに口にしたが、酔っているのはアルコールにではないだろう。
「そうやって甘やかすからつけあがるのよ」
今、まさに。
「うん、もっともっとつけあがれ。甘やかされてるうちはわがまま言い放題し放題の出血大サービスさ」
うちは、なんて言っておいて、結局無期限なのも鏡を見るまでもなく知っている。
嫌なら拒んでいい、と言った私に、好きにして、と返したのも彼女だ。
もっと欲しい、と呟いたのすら。
閻魔は地獄耳だ。一言一句聞き漏らさず、余すことなく心に留めた。
反芻すると頬が緩む。どうせなら直接聞きたい。ああもういっそこのままもう一度。
「うん、でもどうせなら今度はあなたから求めてくれないかしら」
「……うおっといきなり難易度高そうな発言。後で思い出して身悶える記憶を更に増やさせたいのかい」
「そんなあなたもかわいいわね」
「だからガラじゃないって……なんだい普段は映姫だって、……いや、普段から可愛いのは顔と声くらいか?」
公私は白黒つけなさい。
「私」に於ける私が黒すぎるって?閻魔は正しい。「公」の私が白ならば正義なのです。
可愛げが必要なのは閻魔の私ではなくプライベートな今の私でもないが、それでも彼女が求めてくれるなら「可愛さ」を追求してみるのも悪くはない。
でも今は可愛い彼女を思い切り愛でること。
それが私にできる善行ですね。
あとがきに同意したいところが多すぎて逆に言葉がまとまらん
朝から良いもの見させてもらいました
映姫さまはすらっとしたデキるお姉さん風がいいです、こまっちゃんも乙女らしく愛でられて「ファッ!?」ってなっていればいい
プライベートは呼び捨てってシチュがたまらんとですよ!
シリアス書いていたんですが蛇足っぽい所ざっくり切り抜いたらただのイチャコラに…
小町が右側でもいいですよね?映姫さんが左側でも問題ないですよね?
こまえーもえーこまも大好きです。もっと増えろ。
ありがとうございました。
まぁそれはともかく乙女で良かったです