地霊殿。幻想郷より遥かに広大な地底世界に存在する旧都、その中心部に位置する巨大な建物。
旧地獄、つまり以前地獄だった場所の中心に建っており、偉そうにしている奴ら、が住んでいる。その名前とは裏腹に西洋風の外観であり、黒と赤のタイルで出来た床や、ステンドグラスの天窓が特徴。床暖房完備。
館の主である古明地さとりは読書や本の著述が趣味なので図書館もあるかもしれない。
しかし今や地霊殿はペットたちが溢れかえる動物屋敷となっているらしい。何故それを知り得ないのか、それは主、古明地さとりの能力故にだろう。それはさとり、自らの性[サガ]であり必然。他人の心を見通す力により誰もしもに嫌われ、誰もが近寄らない。だか代わり、と言っては何だが言語能力を持たない、動物には慕われる力でもある。それが、今の現状に大きく作用しているだろう。
そんな、地霊殿の今日。これまでが嘘のように吹き飛ぶ。
~~
「さとり様、私の話を聞いてください」
とある昼下がりの寝室兼、館の主さとりの部屋にて。いきなり話しかけて来たのはペットの内の一匹、お燐と、読書中だったさとり。少し怪訝な表情でそれを見返す。
「世の中の摂理って可笑しいですよね」
「突然どうしましたか」
先程の第一声から予想していたのだがやはり異常が日常に舞い込んでしまっていた。まさか怨霊の影響で可笑しくなってしまったのか。どちらにせよ一大事な気がする。
「いやだってですよ? 人間は猫を膝元に乗せますよね、なぜ逆が無いんですか、人間が妖怪を退治する事があると言うのに」
心と、この先の台詞が読めないので慣れない感傷で聞き返す。「えぇっと……つまり?」
「つまりも何も、乗せられるまま何て不公平じゃありませんか!? 偶には逆も良い筈ですよ!」
「……まぁ、まぁ」
力を持ちすぎた動物は必ずしも狂うらしい。こんどはお前が異変を起こすのか、と内心毒吐きながらも宥めておく。それで静まる怒りでもないようで、反発が強まる。
「結局何が言いたいのか、あたいはさとり様を愛でたい訳ですよ!」
「ペットにもしつけは必要ですよね」
まさかこんなことで重い腰を上げる羽目になるとは思っても見なかったが、ここで見逃すと、次第に広がって行きそうだったので椅子から降りた。では、次の台詞。
「『あたいは至って正常です! 可笑しいのはっ』……あっ」
「落ち着きなさいお燐。はい、深呼吸です。吸って、吐いて」
「すぅ~……はぁ~……落ち着きました!」
「よろしい、答えは?」
「『より一層さとり様を愛でたくなりまっ』……した。嘘ですすいません『また嘘ですか』あっ、心は正直か……『もう一回どうぞ?』何でもないです……」
ようやく反省の色が伺えたお燐に少し溜め息を吐き、逆に頭をぽんぽんと優しく叩いてあげる。とっさのことでお燐から「うにゃぁ!?」っと猫らしい声があがる。そして語りが聴こえる「一体何の風の吹き回しだっ!」と。
「その摂理がどうだか分かりませんが、やられたらやり返すの定理は知っています。それで良いですか?」
「って、てことは……良いんですか!? 愛でて!」
「……声が大きいです。良いですよ但し、これっきりです」
「やったー! ありがとうさとり様!」
大いに喜んだあと、許可も取らずに人のベットに座ってさとりを手招きする。動作で今一度猫だと言うことを実感させられながらも招かれ、とりあえず隣りに座る。
「ぬふふふふ……」
心が穢れ過ぎだ。
「いやいやぁ~さとりさまぁ~ん先ずは頭を撫でさせて頂きまぁ~す」
純粋無垢な動物は一体どこへやら、なすがままに撫でられる。少々恥ずかしいが心地いい。普段私はこんなことをしているんのですね、と思う。
そのままぐぃとお燐の方に引っ張られて膝枕状態になる。これは違う、と突っ込んでも遅い。そして読み取る「耳掻きして良いですか!?」目的を見失い過ぎだ。
「まぁ、良いですよ、耳掻き」
耳を預ける、そんなことをする日が来ようとは。恋人愛人がいたとしてもあまりやらない絆表現の一種ではないだろうか。それ以上の一線、家族でなければ起こり得ないコミュニケーション。自分にそんな日が来るとは少し夢が叶った気がした。
とは言え、少し怖いと言う本心もある。経験がないからだ。
「えぇ!? と言いつつちゃーんと用意してました!」
「え、え~……と。優しくお願いします」
「うわぁ、さとり様の穴小さいですね……入るかな」
「いやいや……そんな大きいの入りま……って何言わしてるんですか!?」
つい反射的に行っていた筈の会話が卑猥過ぎた。よっぽど自分が恐れているのだろう。
「い、いやぁ……さとり様が強張ってたので少しでも緊張を解いてあげようかと……大丈夫ですよ、あたいこういうの上手いですから!」
「……がとぅ、お燐」
動物、と言うものは人の心。妖怪であっても心を感じることに長けているようだ。人の緊張が伝わるように、やはり何でも知られてしまうのだろう。
こんなお燐にお礼一つ面を向かって言えない私が恥ずかしい。
「……んー……至って綺麗ですね……流石さとり様」
「反対側はどうでしょう」
位置を移動しようと思っていたら、次は頭を抱き寄せられ、そのまま軸が回転。お燐のお腹辺りが目先に現れる。「これは可笑しくないですか……?」
「わざわざさとり様に気を使われても申し訳ないので……特に無いですけど綿棒ぐらいは入れさせて下さいよ……」
伝わってくる。何だ無いのかよ、と言う残念感とせっかくさとり様が意を決して下さったのに……と言う期待に添えなかった罪悪感が。そんな気持ちを見る、罪な私。
「じゃあ最後に膝の上に乗って下さいよよ。あたいが一番やりたかったことです」
今日は、少し。
「思いっきり撫でてあげますから安心して下さいね!」
「それの一体どこが安心なんですか」
「うぅ、言葉が痛いです……逆も然りと言いますから大丈夫ですから!」
「何で宥められないときけんっ……むぐぅ……」
「さとり様、実は撫でられたかったのでは!」
「そう言う事にしますが、お燐よりは節度が、ふぁ……ぅぅう」
ほんの少しの勇気と愛でいいから。
「いい匂いですぅ……撫でない何て勿体ない!」
「これっきりですからね…………恐らく」
遠慮なんて、いらないから。
「これからもさとり様。ちゃーんとさとり様で居て下さいね!」
「ふふ、何ですか突然」
家族に、甘えてみようかな。
旧地獄、つまり以前地獄だった場所の中心に建っており、偉そうにしている奴ら、が住んでいる。その名前とは裏腹に西洋風の外観であり、黒と赤のタイルで出来た床や、ステンドグラスの天窓が特徴。床暖房完備。
館の主である古明地さとりは読書や本の著述が趣味なので図書館もあるかもしれない。
しかし今や地霊殿はペットたちが溢れかえる動物屋敷となっているらしい。何故それを知り得ないのか、それは主、古明地さとりの能力故にだろう。それはさとり、自らの性[サガ]であり必然。他人の心を見通す力により誰もしもに嫌われ、誰もが近寄らない。だか代わり、と言っては何だが言語能力を持たない、動物には慕われる力でもある。それが、今の現状に大きく作用しているだろう。
そんな、地霊殿の今日。これまでが嘘のように吹き飛ぶ。
~~
「さとり様、私の話を聞いてください」
とある昼下がりの寝室兼、館の主さとりの部屋にて。いきなり話しかけて来たのはペットの内の一匹、お燐と、読書中だったさとり。少し怪訝な表情でそれを見返す。
「世の中の摂理って可笑しいですよね」
「突然どうしましたか」
先程の第一声から予想していたのだがやはり異常が日常に舞い込んでしまっていた。まさか怨霊の影響で可笑しくなってしまったのか。どちらにせよ一大事な気がする。
「いやだってですよ? 人間は猫を膝元に乗せますよね、なぜ逆が無いんですか、人間が妖怪を退治する事があると言うのに」
心と、この先の台詞が読めないので慣れない感傷で聞き返す。「えぇっと……つまり?」
「つまりも何も、乗せられるまま何て不公平じゃありませんか!? 偶には逆も良い筈ですよ!」
「……まぁ、まぁ」
力を持ちすぎた動物は必ずしも狂うらしい。こんどはお前が異変を起こすのか、と内心毒吐きながらも宥めておく。それで静まる怒りでもないようで、反発が強まる。
「結局何が言いたいのか、あたいはさとり様を愛でたい訳ですよ!」
「ペットにもしつけは必要ですよね」
まさかこんなことで重い腰を上げる羽目になるとは思っても見なかったが、ここで見逃すと、次第に広がって行きそうだったので椅子から降りた。では、次の台詞。
「『あたいは至って正常です! 可笑しいのはっ』……あっ」
「落ち着きなさいお燐。はい、深呼吸です。吸って、吐いて」
「すぅ~……はぁ~……落ち着きました!」
「よろしい、答えは?」
「『より一層さとり様を愛でたくなりまっ』……した。嘘ですすいません『また嘘ですか』あっ、心は正直か……『もう一回どうぞ?』何でもないです……」
ようやく反省の色が伺えたお燐に少し溜め息を吐き、逆に頭をぽんぽんと優しく叩いてあげる。とっさのことでお燐から「うにゃぁ!?」っと猫らしい声があがる。そして語りが聴こえる「一体何の風の吹き回しだっ!」と。
「その摂理がどうだか分かりませんが、やられたらやり返すの定理は知っています。それで良いですか?」
「って、てことは……良いんですか!? 愛でて!」
「……声が大きいです。良いですよ但し、これっきりです」
「やったー! ありがとうさとり様!」
大いに喜んだあと、許可も取らずに人のベットに座ってさとりを手招きする。動作で今一度猫だと言うことを実感させられながらも招かれ、とりあえず隣りに座る。
「ぬふふふふ……」
心が穢れ過ぎだ。
「いやいやぁ~さとりさまぁ~ん先ずは頭を撫でさせて頂きまぁ~す」
純粋無垢な動物は一体どこへやら、なすがままに撫でられる。少々恥ずかしいが心地いい。普段私はこんなことをしているんのですね、と思う。
そのままぐぃとお燐の方に引っ張られて膝枕状態になる。これは違う、と突っ込んでも遅い。そして読み取る「耳掻きして良いですか!?」目的を見失い過ぎだ。
「まぁ、良いですよ、耳掻き」
耳を預ける、そんなことをする日が来ようとは。恋人愛人がいたとしてもあまりやらない絆表現の一種ではないだろうか。それ以上の一線、家族でなければ起こり得ないコミュニケーション。自分にそんな日が来るとは少し夢が叶った気がした。
とは言え、少し怖いと言う本心もある。経験がないからだ。
「えぇ!? と言いつつちゃーんと用意してました!」
「え、え~……と。優しくお願いします」
「うわぁ、さとり様の穴小さいですね……入るかな」
「いやいや……そんな大きいの入りま……って何言わしてるんですか!?」
つい反射的に行っていた筈の会話が卑猥過ぎた。よっぽど自分が恐れているのだろう。
「い、いやぁ……さとり様が強張ってたので少しでも緊張を解いてあげようかと……大丈夫ですよ、あたいこういうの上手いですから!」
「……がとぅ、お燐」
動物、と言うものは人の心。妖怪であっても心を感じることに長けているようだ。人の緊張が伝わるように、やはり何でも知られてしまうのだろう。
こんなお燐にお礼一つ面を向かって言えない私が恥ずかしい。
「……んー……至って綺麗ですね……流石さとり様」
「反対側はどうでしょう」
位置を移動しようと思っていたら、次は頭を抱き寄せられ、そのまま軸が回転。お燐のお腹辺りが目先に現れる。「これは可笑しくないですか……?」
「わざわざさとり様に気を使われても申し訳ないので……特に無いですけど綿棒ぐらいは入れさせて下さいよ……」
伝わってくる。何だ無いのかよ、と言う残念感とせっかくさとり様が意を決して下さったのに……と言う期待に添えなかった罪悪感が。そんな気持ちを見る、罪な私。
「じゃあ最後に膝の上に乗って下さいよよ。あたいが一番やりたかったことです」
今日は、少し。
「思いっきり撫でてあげますから安心して下さいね!」
「それの一体どこが安心なんですか」
「うぅ、言葉が痛いです……逆も然りと言いますから大丈夫ですから!」
「何で宥められないときけんっ……むぐぅ……」
「さとり様、実は撫でられたかったのでは!」
「そう言う事にしますが、お燐よりは節度が、ふぁ……ぅぅう」
ほんの少しの勇気と愛でいいから。
「いい匂いですぅ……撫でない何て勿体ない!」
「これっきりですからね…………恐らく」
遠慮なんて、いらないから。
「これからもさとり様。ちゃーんとさとり様で居て下さいね!」
「ふふ、何ですか突然」
家族に、甘えてみようかな。
お燐とさとりさんの立場が逆でも凄く良い・・・
ありがとう御座います。
逆でも普通に納得できてしまうと言う結果。要は猫が撫でられるだけに←
コメントありがとう御座いましたー!
展開としていろいろやりたいことはあるでしょうが、もうすこしゆっくりさとり様を愛でたかったなあ、という読後感。
せっかく可愛いシチュですしね。
ですね、綺麗に纏まっちゃったので終わらした、って感じですね、こっちとしては。次回書くものは長くするよう努力します。
お褒めの言葉、ありがとうございます!