Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

もしもの時のために心に残しておきたい言葉たち

2013/03/15 22:20:06
最終更新
サイズ
13.08KB
ページ数
1

分類タグ

.


もしもの時のために心に残しておきたい言葉たち



【本作の目次】

  『ちょうど好いかたち』 (村紗水蜜 × 封獣ぬえ)
  『ビハインド』 (十六夜咲夜 × レミリア・スカーレット)
  『木霊はいつも胸の奥から』 (封獣ぬえ × 幽谷響子)
  『ナチュラル・テイスト』 (藤原妹紅 × 上白沢慧音)
  『そうして私達は生きてきた』 (雲居一輪 × 封獣ぬえ × 村紗水蜜)



『ちょうど好いかたち』

 まず寺の柱から始めた。角張った固い感触は指に合わなかった。他にも酒ならぬ般若湯の瓶、洗濯用の竿だけ、白蓮の魔神経巻まで試してみたのだが、どれもこれも肌にしっくりこない。
 冬の天候は崩れやすい。今日も冷たい雨が降っている。屋根瓦を無数の手がノックしているように聞こえて、落ち着かない。水蜜は肌をさすりながら廊下を渡る。反対側からご機嫌な様子のぬえがやってくる。こちらを見つけて笑みを深める。
「急に降ってきてさ、やっぱりお風呂は好いもんだね」
「ぬえ」水蜜は呼んだ。「ちょっと、動かないで」
 彼女は「うん?」と濡れた髪を拭く手を止める。水蜜は黙って近寄り、ぬえの首に自らの両の指を添える。柔らかくて、湿り気を帯びた彼女の感触。これだ、と水蜜は思う。頭のなかで赤い風船が膨らんでゆく。
「ムラサ、ちょっと、苦しいって」
「あ――ごめんごめん」
 水蜜は手を離した。解放されたぬえは首元を押さえながらも、苦笑いを返してくれた。



『ビハインド』

 冬の夜には独特の香りがある。木々が葉を散らし始める時期になると咲夜はいつも思い出す。肌寒くなるにつれて想い出は湿り気を帯び始める。ふとした時に胸に襲い来る感傷。ロマンスのへったくれもないアルバムの一ページ。この地ではない何処か、雪の降る路地で嗅いだ夜の冷たい香りを、咲夜は今でも覚えている。
 その夜、館の主[あるじ]は門柱に腰掛けて、粉雪のちらつく空を見上げていた。山の方から風鳴りが矢のように降ってくる夜だった。咲夜は音を立てないようにして近づき、主の小さな背中に頭を下げて云った。
「お嬢様、身体に障ります。お部屋に戻られては」
 レミリアは鼻を鳴らして、手に持ったワイングラスをくゆらせた。「前にも云ったろう。気遣われるのは好きじゃない」
 主は手を振る。咲夜は礼を繰り返しながらも、心に引っかかった星屑のために、その場を動けないでいる。レミリアが振り向いて笑みを浮かべる。
「懐かしい顔してる」彼女は云った。「いつだかと、同じね……何か厄介事でもあるのか。話くらい聞くけど」
「……いえ、そういうわけでは」
「そう――おやすみ」
 レミリアは再び空を仰ぐ。星の位置から何かしらのメッセージを読み取るかのように。しばらく主の背中と、夢見るように揺れる翼とを眺めてから、咲夜は館に向かって歩き出す。胸の星屑はいつしか消え、心の海には穏やかな凪[なぎ]だけが小さく渦を巻いている。
 話くらい聞くけど――その言葉を心の引き出しにしまいながら、咲夜は微かにうなずく。寒い夜の香りとの、ささやかな付き合い方を感じ取れたという想いが、胸の奥から芽生え始める。
 今夜は、好く眠れそうだ。



『木霊はいつも胸の奥から』

 朝を告げる小鳥の声で、ぬえは目を覚ます。欠伸を漏らし、癖っ毛を撫でつけながら、春の早朝がもたらす、何処か居心地の好い陽だまりの幸福に身を浸している。
 寝ぼけ眼[まなこ]で顔を洗う。鏡を見る。セミロングの黒髪は、今日も頭のうえで機雷が爆発したみたいな有様になっている。
 外の空気を吸いに草履を履いた。門前で響子と出会った。あちこちに修繕が施された、ぼろっちい山吹色の鞄[かばん]を肩から下げて、山彦は春風に揺れる木々の若葉を眺めていた。そういえば、今朝はこいつの声を聞いていなかったな、と思い出す。
「もう行くの」ぬえは云う。「わざわざ帰らなくても好いと思うんだけど」
 響子は耳を跳ねさせて振り返る。目が強ばっている。
「……山が、すこし恋しくなって」
「ここも山寺みたいなもんだよ」
 響子は首を振る。「やっぱり、ちょっと違いますね」
「分かるんだ」
「匂いが違いますし、音だって違ってます。葉っぱの色も何処か違う」
 二人は妖怪の山の方角へと視線を移した。
 ぬえも、かつてはあちこちの山や森を転々としていた。人間にも妖怪にも色んな奴がいるように、森にもそれぞれに味わいがあり、その森だけの生きた証[あかし]を咲かせていた。今でも思い出せる――蒸し暑くも新鮮な空気の湿り気、小鳥が奏でていた心休まる唄、隣に寄り添って歩いてくれた人の笑い声――そのひとつひとつが、胸の奥に息づいている。
「うん」ぬえは頷いた。「うん……なるほど」

 その後も、響子は何度か話しかけて来ようとしたけれど、いくつかの致命的な時間が通り過ぎたために、諦めたらしく鞄のストラップを握る。二人はしばしの別れの挨拶を交わす。鳥だけが木々の合間から春を祝い続けている。
「響子」彼女の小さな背中を見送りながら、ぬえは呼びかけた。山彦はすぐに振り返り、首を二十度くらい傾けた。
 ぬえは右手を軽く振る。「……元気出せ」
 響子が少しうつむく――暖かな南風が二人の間を吹き渡る――やがて顔を上げて困ったような笑みを浮かべる。
「先輩こそ、お元気で」

 ……一週間の後に響子は命蓮寺に帰ってきた。ちょいとした帰省のようなものだったので、誰もが特に心配することなく、いつも通り暖かく彼女を迎えた。
 ぬえはその列に加わることが出来なかった。恥ずかしいわけではなかった。笑顔を上手く形づくるための手軽なやり方を忘れていただけだった。たまにあることだ。
 それでも……翌日から再開された朝の挨拶に叩き起こされているうちに、少しずつだが自然な笑顔を取り戻すことができるようになった。元気いっぱいの響子の声は、ぬえの胸にしばらく木霊していた。



『ナチュラル・テイスト』

 寝起きも悪ければ寝癖もひどい。才色兼備の権化と誉れ高い慧音も、朝にはめっぽう弱いらしい。歴史の編纂に里の警備、そして寺子屋の生徒の教育と、降り積もったタスクの量は火を噴いた活火山の灰のごとしだ。そのうち髪の毛も銀色から自分みたいに真っ白になるんじゃないかと、妹紅はひそかに心配していたりする。
 今日も先生は爆睡していた。妹紅は散らかった文机を片づけながら、そういえば昨夜は満月だったと思い出す。歴史編纂の翌日は流石に寺子屋も休みにしているそうなので、わざわざ起こしに来る必要なんてなかったのだけれど、そこが習慣の怖いところだった。

 筆や墨、硯[すずり]などを茶色の箪笥[たんす]に片づけているとき、出来損ないのひよこみたいな声が背中にかかる。
「……もこう、来ていたのですか」慧音が半身を起こして髪を撫でていた。今は消えている角の位置を確かめるかのように。「ごめんなさい、迎えもせずに寝入ってしまっていて」
「それは好いんだけどね、慧音」妹紅は麻の布団を引っつかむ。初々しい春の匂いがする。「まーたまた寝癖がひどいことになってる。頭にかみなり様が落っこちたみたい」
 むむ、とうなる半人半獣の守護者様、頭をぐしぐしと掻きむしる。おかげで髪は爆撃された後の廃墟みたいな有様になる。逆に感心してしまうくらいの寝癖だ。
「昔から髪には苦労します」
「短くしないんだ」
「教え子に好きと云われましたからね、『長い髪の先生』って……うん、いつのことだったかな、ちょっと思い出せませんが」
 慧音は笑みを浮かべる。目のしたの隈のおかげで笑顔は痛々しいものになる。散ってしまい、そして土に汚れてしまった桜の花びらを妹紅は連想する。体調を崩した人を見るとどうも落ち着かない。欠伸を漏らす慧音の姿に、思い出してしまう――重なってしまう遠い影を見つけてしまうのだ。
 妹紅は立ち上がって台所に向かう。朝の珈琲[コーヒー]を淹れる準備をする。慧音が好んでたしなむ青いパッケージの珈琲は、すでに半分近くが減っている。飲み過ぎているな、と妹紅は思う。

「仕事の量、ちょっとくらい減らしたらどうなの」珈琲を注いだカップを手渡しながら、妹紅は云った。「こんな忙しい生活を続けていたら、今にぶっ倒れるよ。なんなら私も出来る範囲で手伝うし……」
「好いんです、そのままで」慧音が即答した。「そのままの妹紅で、もう十分に助かってます。おかげで毎朝の珈琲を楽しむ余裕さえあるくらいですから。これ以上に何かを望んだら、龍神様の罰[ばち]が当たります」
 目を閉じて半人の少女は珈琲をすする。外から小鳥の歌が舞い込んでくる。妹紅は言葉が見つからなくて口を閉じている。慧音は微笑みながら珈琲を飲み続ける。春色の沈黙が、二人の距離を染め上げる。
「あぁ、美味しい」カップから口を離して、慧音は云った。「妹紅の淹れた珈琲は素朴で――真っ直ぐで――優しいですね。豆のそのままの味が好く出ていると思います。なんだか、懐かしい」
 そりゃ褒めすぎだよ、と妹紅は思った。不器用ながらも美味しいものを飲んでもらおうと、ただ丁寧に丁寧に淹れているだけだった。でも何も云い返さなかった。「そのままの味」という言葉が、妹紅の心に染み込み、そして響いていた。「あるがままの自分」を受け容れてくれた人間は、目の前の少女が初めてだったから。
 沸き立ってくる気持ちを紛らわせたくて、妹紅は余っていた珈琲を別のカップに注ぐ。春の朝に珈琲の香りは好く映える。いつもは好きになれない自分の淹れた珈琲が、今は、その香ばしさを素直に認めてやりたいと思えてくる。悪くない兆候だ。
「うん……悪くない」
「でしょう?」
 慧音は微笑んだ。差し込んだ春の陽射しに照らされた笑顔は、慧音の、ありのままの気持ちを伝えてくれていた。



『そうして私達は生きてきた』

 心のすきまを埋めるように笑い合い、心のすきまをそっとしておきたくて気づかないふりをした涙がある。陽の当たらない場所でも、太陽の暖かさを感じる瞬間は確かにある。そっと手のひらにすくい上げた日だまりは、どうやら今も胸の奥に息づいてくれているようだ。
 独りぼっちじゃ青い空や海を夢見るばかりで――二人だと喧嘩ばかりしていて――三人そろって、ようやく胸のクレーターを埋め立てることが出来たらしい、おぼろげな手応えを感じる……そうして、私達は生きてきた。

「相変わらず嘘が下手くそだよぬぇ、ムラサは」
「あんたこそ、正体不明が売りのくせにあたふたしやがってさ、何の役にも立たなかったじゃないの」
「んだコラ、やんのか」
「上等だ」
「表出ろや」
「――はいはい、あんた達そこまでそこまで。村紗、そっち持ってちょうだい」
 持ち上げた和箪笥[わだんす]を顎[あご]で指し示すと、水蜜は口の端にくわえたパイプを上下させる。イライラすると嗜好品に頼りがちになってしまうのは、この子の昔からの悪癖だった。
「さっさと終わらせちゃいましょ、あんたもサボってんじゃないわよ」一輪は予備の灯籠に腰掛けたぬえを見やる。「村紗よろしく首を絞め上げてやっても好いんだけど?」
「そりゃ勘弁」
「――そんなしょっちゅう悪戯してないわよ、ぬえじゃあるまいし」村紗がすねた調子で云う。「ちょっと我慢できない時があるだけ」
 ぬえがケラケラと笑った。二色三対の羽も調子を合わせるように揺れた。「ムラサってばジャンキーみたいなこと云ってさ。そのパイプ、煙草の代わりに麻薬でも詰めたらどうなの? 雨の日でも少しは落ち着けるかもよ」
「この野郎」
 水蜜が唸り声を上げる。あんた急に手を放さないでっ、と一輪は叫ぼうとしたが――遅かった。箪笥は迫撃砲弾よろしく、ものすげえ轟音を走らせながら石造りの床に落っこちた。衝撃で引き出しが投げ出され、中にあった小物類がおもちゃのように散らばる。
 胸ぐらをつかみ合う二人に拳骨をぶちかましてやってから、一輪はかがんで小物を整理し始めた。ぬえも水蜜も、フグのような刺々しい膨れっ面で手伝い始める。
 ……最初に気がついたのは水蜜だった。
「一輪、ぬえ――これ、もしかして」

 地底で俗世間の慣わしをすっかり仕込まれたおかげで、一輪も水蜜も、そしてぬえも酒の誘惑からは未だに逃れることが出来ない。最初に声をかけたのは正体不明で、キャプテンがわざとらしい逡巡の末に同調し、そして入道使いは姐さんに合掌してからご相伴に預かった。
 人里の飲み屋(妖怪お断りでない)で、馬鹿騒ぎとは云えないまでも、真っ赤になった互いのほっぺを見て笑い合うくらいには呑んでしまった。雲山は酒気にあてられて呑まないままにトマトになった。一輪の胸元を飾る宝玉と、どちらが赤いのか好い勝負だった。
 で――ふと掛けられた声に振り向いた時、視界に満面の笑みを浮かべた白蓮が映っていた。その時の姐さんの背中には間違いなく後光が差していた。ナイル川のごとく永いながい説教の末、蔵の整理を云いつけられた後、ようやく三人は解放された。

「うっわ……懐かし。落成式の時に無くしたとばかり思ってた」一輪は手を打ち合わせて天井を見上げる。雲山がモクモクと頷く。「なんで箪笥に入っていたのかしら」
「捨てるには忍びない、かと云って聖に見つかるのは勘弁、そんなところじゃないかな」
 水蜜はパイプを手に持って、口を開けっぱなしにしていた。唇の端の妙な曲がり具合が、嬉しいような恐ろしいような、そんな絡み合った気持ちを代弁しているように見えた。
 それは三つのお猪口[ちょこ]だった。朱色のはずの表面はすっかり黒く汚れてしまっていたけれど、流石に鬼の腕力でも耐えられるように作られただけあって、今も割れ目ひとつ入ることもなく、三人の目におぼろげな光を放っていた。
 ぬえがひとつを持ち上げて云う。「初めて……呑んだ時のやつだよね、三人で」
 三人で、という言葉に一輪は考え込む。いつの時代のことかは曖昧だし、酒の味も思い出せないが、事実は事実として記憶の畑に根を張り続けている。いくつかの二人の表情が、いくつかの物語を引き連れて、心の水面に映える。それは辛くも尊い時間であるはずだった。
 地底を脱出して――姐さんと再会して――命蓮寺を再建して――戒律を守る僧としてやっていくのだから、と一切の酒を断った。そうして思い出の品も無用の長物になってしまったのだろう。これからは胸を張って歩いていきましょうと……。

 ――それがこのざまである。

「あのさ」ぬえが物盗りのように横目を使ってきた。「懐かしいついでと云ったらなんだけど、これ終わったら……」
 一輪は水蜜と顔を見合わせる。船長の瞳には星が踊っている。「好いよね、一輪?」と両手を合わせて訴えかけてくる。来[きた]る愉快への予感に、その星は今にも流れ星へと正体を変えてしまいそうになっている。一輪は再び天井を見上げた。雲山は器用にも酒瓶の形に姿を変えていた。
 おのれ、お前もか。

 ――私もでした。

 一輪は二人とがっちりスクラムを組んだ。今度はバレないようにと、三人して作戦会議をしながら蔵の片づけを続けた。その後も思い出の品は発掘され続けた。大晦日の大掃除よろしく、三人は酒を呑む前から酔っぱらったように陽気な笑い声を立てた。
 心のすきまを埋めるように笑い合い、心のすきまをそっとしておきたくて気づかないふりをした涙がある。そうして私達は生きてきた。変わってしまったものはたくさんあるけれど、変わらないものはいつまでも、春の晴れ空よりも青いままだ。
 二人と一緒になって「懐かしい懐かしい」と声を転がしながら、一輪は添えるように胸の奥へと、そっと呟いた。
 光よ、あれかし。


~ おしまい ~

.
 陽気が気持ちの好い季節になってきました。過去作にご感想を下さった皆さん、改めてお礼を申し上げます。
 今回は久々の掌編集となりました。ずっと長いものを書いていると、ついつい短いのも書いてみたくなります。
 幻想郷にも澄んだ青空が広がっていることを願います。読んで下さった皆さん、どうもありがとうございます。

―――――――――――――――――――――――――
 以下、コメント返信になります。長文を失礼します。

>>1
 幾つもの言葉を織り重ねてのコメントを、どうもありがとうございます。感激です。

 「心に好いものを埋め込んで生きてゆく」という氏の表現は、何故だか不思議と私の胸に迫ります。
 この二年近く「好い埋め物を」と願いながら書き続けているうちに、いくらか作風も変わってしまいました。
 それでも根っこのところは同じで――東方という世界観をお借りして、何か……胸につかえている想いを
 共有したいという気持ちがあります。その「つっかえたもの」を上手いこと形に出来れば、氏の仰ったところの
 「埋め物」になるんじゃないか、そういう期待が常にあります。それが合うか合わないかは祈るしかないのですが。

 思い出すのは虫歯の治療です。悪いところを削って樹脂や、悪化している場合は金属を埋め込むあれですね。
 甘いものを食べていて歯磨きを怠っていると虫歯になりやすいと云いますが、これは心にも似通ったところが
 あると思うんです。今の食生活は甘いものがどんどん増えているのに、反対に歯磨きを疎かにする人が少し多い。
 私は歯磨きがとにかく下手くそで、たぶん穴だらけになっています。歯医者さんがいないので自分で治療する
 しかないのですが、その治療するための主な方法が「物を書くこと」なんだと思います……恐らくは。

 なので氏の「自分はかべるねさんの話から埋物の一つを貰えます」という言葉は、嬉しい以上に救われた気持ちになれます。
 また――そのようにしてコメントを残して頂いたことで、氏から「好い埋め物」を賜ったという確かな感触があります。
 暖かく時に笑える物語、というコンセプトは、最初の頃とほとんど変わってないですね。また、変わらないでいて欲しいです。
 私自身、穏やかでありたいと思っています。優しくありたいと思います。助けられずとも誰かのトマトになりたいと思います。

 一方で、そればかりもいけないんじゃないかなぁ、という想いも漠然とですが抱いています。例えば長編になりますと登場人物達が
 対立する構図がどうしても必要となってきますし、そうなると人物の「負の側面」というものを書かなければならないと思います。
 その「毒」の処理みたいなものに関しては、今のところの苦手と云いますか大きな課題になっています。向き合えてないんですね。

 こちらこそ長々と申し訳ないです。いわゆる自分語りのような内容の返信は避けるべきなのだと思いますが、氏が仰って下さった
 言葉に、どんなお返しが出来るのだろう、と考えると……上記のような形しか思いつけませんでした。重ねて失礼をお詫びします。

 長編へのご期待の言葉をありがとうございます。少しずつですが進んでいます。
 それと、ぬえちゃんは仰る通りのフル出場です。彼女がいなければお話が始まらないってくらいに好きですぬぇ。

>>2
 連作に引き続いてご感想を下さり、どうもありがとうございます。しかも一作ごとだなんて頭が上がりません。

 ぬえと水蜜の話では、水蜜の――今でも引きずっている黒い部分を短いながら表現してみたかったんです。
 長編ではそうした水蜜を続けて書くことになると思うので。妖怪としての性をどう解決するかは永遠の課題ですね。

 レミリアと咲夜は初めて書きました。主従関係について一筆したいという想いがありましたね。主人の頷きひとつで
 紅茶を用意できるように、従者の視線の泳ぎ方ひとつで気持ちを察せられるような、そんな繋がりって素敵ですよね。

 響子が帰省しているという描写は、私自身もどこから来たのか判然としない感じです。響子の設定を読んでいるうちに 
 そうしたイメージが形成されていったのかもしれません。ぬえは先輩風を吹かす時と労わる時とのギャップが激しそう。
 でも、ぬえちゃんは義理堅い一面も持っていそうですから、わりかし良好な関係なのだと期待したいです、本当に。

 妹紅と慧音……この二人も初めて書きますね。口調も含めて慧音の描写が難しいです。少し危険さを感じられたとのこと、
 新鮮です。正直に申し上げますと、私自身はそうした背景を想像して描くことは出来なかったです。でも、原作の設定が
 不明確ながら――いくつもの責務を背負う彼女からは、確かに底の知れない事情を感じさせます。ミステリーですね。

 命蓮寺の三人については、掌編集の締めということで楽しい作品にしたいな、という想いもあって、ぬえと水蜜に一輪さん
 を加えて、さらにお酒を組み合わせて書いてみました。精神が本位だとするとアルコールは好い巡り方をしそうですよね。
 東方の妖怪に酒好きが多いのもこれが理由のひとつなのかもしれません。特に幻想郷は設定的にも昔を懐かしむのに適した、
 あるいは……昔を懐かしみざるを得ない場所だということも一役買っているんじゃないかな、と思ったりもしていますね。

 次回作については未定ですが、長編の合間に綴った短いお話を、また今回のように投稿するかもしれません。
 ご期待を頂いて嬉しい限りです。重ねてお礼を申し上げます。ありがとうございます。

>>3
 今作もコメントを残して頂き、どうもありがとうございます。短い字数でどれだけのものを詰め込めるか、挑戦してみました。
 前作も「ほっこり」というご感想をいくつか頂いたので、これからは「ほっこり」も重要なキーワードにしていきたいですね。

>>4
 いつも本当にありがとうございます。氏のおかげで次の作品、そして長編のための歩みを続けられています。

 「色彩の豊かさ」に関しては、特に短い作品では心がけたいことのひとつですね。直接的な表現だったり、説明的な文句を
 使えないぶんだけ、色や自然に頼る面が多いです。静けさ――もしくは「間」を表現する際もこうした描写は役立ちますね。

 「切なさを伴った優しさ」は表現したいことのなかでも大きなウェイトを占めていると思います。優しさだけならとにかくも、
 切ないところの雰囲気を描くためには――何を書くべきで――何を書くべきでないのか――この選択でいつも頭を悩ませます。

 特に響子とぬえの二人の、氏が仰ったエピローグ的な掌編の末尾に関しても、最初は直前の響子の台詞で終えたつもりだった
 のですが、読み返して「足りない」と思ったんです。それだけではぬえちゃんの「元気出せ」という言葉の裏にあった想いが
 伝わらないんじゃないかな、と考えた記憶があります。優しいだけで終わっちゃったら……とも思ったりしましたね。

 とても澄んだ気持ちになって頂けたとのこと、私としてもとっても嬉しいです。こちらこそ、重ねて深い感謝を申し上げます。

>>5
 お話にコメントを残して下さり、どうもありがとうございます。

 咲いた時の桜と、散る時の桜の味わい方の違いが、春という季節の代表的な二つの切り口だと思うのですが、
 今作もそうした二つの要素を意識して書いた覚えがあります。出来れば、こうした持ち味を三つ、四つと
 増やしていって、まさにチョコレートのアラカルトのように、色とりどりに揃えていきたいなぁ、と思います。

 粒のひとつひとつが寄り集まってパッケージになるような、そんなお話のスタイルが私は大好きなので、
 今回のお話も全体として、何かしらの得るものを感じ取って頂けたらなぁ――という期待があります。
 ワンシーンワンシーンの連なりは氏が仰ったところの「写真の切り取り」のようなもので、もしかしたら
 今作で描いた掌編のどれかが長編の一部になるかもしれないと思うと、なんだかわくわくしてきますね。
かべるね
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
生きる為の礎としてヒトは心に良き物を埋込んで、埋込んで生き続けるのだと思うのですよ。
その手段がお金を稼ぐことだったり、お金を使って何かを得ることだったりもしますが、
東方然り、想創話もそういった在り様のひとつだと思うのです。
それは書き手であれ読み手であれ同じで、自分はかべるねさんの話から埋物の一つを貰えますし、コメントを残すことでささやかながら伝えることも出来ます。
今回の話も相変わる事無く、とても暖かいものでした。感謝を。
作者氏においては、その心根の穏やかさをこそ他者には真似出来ない優れた好点だと考えます。
それを盾とし物書くのならば、自然その物語は優しさを帯びるでしょうし、誰かを助けることもあるでしょう。

長々と書きました。作品の内容に言及すべきなのかも知れませんが、作り手無くして物は生まれず、必然自分にとって作者と作品は同義と成ります。
長編楽しみにしています。作者さんぬえ好きですね、フル出場な気がする。
(コメント一番が長いと、後続が書き難いというジンクスがあるらしいけど。どうなるかしら?)
2.名前が無い程度の能力削除
少し見覚えがある文が見えたと思いましたがなるほど、最近twitterでつぶやいていた文もまとめられているのですね。
前のコメントの方が作者さんへのお便りのような形でしたので、私も便乗しようかそれとも普通に感想を書こうか、と迷いましたが、後者をとって一つ一つ短く感想を言わせていただきます。

村紗が鵺の首を触って(絞めて?)感じたものがなんだったのかはわかりませんでしたが、彼女もやはり妖怪、狂気に囚われている部分もあるのでしょうか。
レミリアと咲夜、こういった必要最低限の言葉だけでもつながりあえる関係いいですよね。
響子が山を去っているのはなぜでしょうか、里帰り?なんだかんだで響子は鵺の後輩のような関係なのでしょうね。鵺もまんざらではないというか、そんな風に感じます。
妹紅と慧音、この慧音からはみんなの為に、村の為に頑張る!という以上になにか罪滅ぼしのようにみんなに尽くしている、そんな危険さを少し感じました。妹紅がいいストッパーになっていれればよいのですが。
私自身はまだ未成年なのでお酒のおいしさというものはわからないのですが、妖怪でもそのおいしさには逆らえないようなものなんでしょう、多分。 時折振り返って懐かしみ、心を休ませるのは、精神が本体に近い妖怪には本当に大切なことなのかもしれませんね。 

全体的にほっこりとして暖かい話でした。次回作がどんなものになるか、期待させていただきます。

3.奇声を発する程度の能力削除
良いですねほっこりしました
4.米太郎削除
静かで 色彩豊かだなあ と感じました
優しいのにどこか切ない雰囲気が魅力的です
特にぬえちゃんと響子のやり取り その後のぬえちゃんのためらいが

とても澄んだ気持ちにさせられました ありがとうございます
5.名前が無い程度の能力削除
春と一口に言ってもいろいろな味わいがあるものですね、まるでチョコレートのアラカルト。
一粒一粒堪能させていただきました。
こういう写真の切り取りのような話集もよいものです。