魔法の森のすぐ近く。
そんなあまり人の通らない道を二つの小さな影が歩いていた。
「ねぇねぇ」
「…………」
「ねぇってばぁ」
「…………」
「ねぇ聞いてる? ナズーリン」
「……はぁ」
放っておいたが、いつまでも止まぬ呼びかけにやっと呼ばれていたもの、小さな賢将と呼ばれた鼠の妖怪、ナズーリンが振り返った。
その顔は誰が見ても面倒ですと書いてあるようにしか見えない表情である。
「聞いている……が、私はさっき忙しいと言ったと思うんだがね。 小傘」
「あちきの話しをもう少し聞いてよー。 同じ場所に住む仲間でしょ?」
正確にはナズーリンは無縁塚に住んでいながら寺に通うことが多く、彼女、化け傘の妖怪である多々良小傘は寺の墓場に住んでいるのだが、ナズーリンはわざわざそれを指摘する気にはならなかった。
というより、今は住んでいる場所等、些細な問題である。
それよりも、ナズーリンにはダウザーとしての仕事が待っているのだから。
小傘の話しに付き合っている暇はない。
「仲間なのはとりあえず否定しないでおくが、それが私が小傘の話しを聞く理由にはならないね。 それとその酷い自分の呼び方は止めたまえ。 似合わなすぎて笑いが出てくる」
「酷い!?私が必死に考えたのに!」
至極面倒そうに言い放つと、ショックで膝から崩れる小傘を置いてナズーリンは歩き出した。
この程度で退くとは思っていないが、立ち止まって相手するよりもロッドを動かし歩く方が大切なのである。
「ちょ! ちょっと待って!」
そんなナズーリンの予想通り、小傘はすぐにショックから復帰して、ナズーリンの後ろをついてきた。
微妙に涙目だが、落ち込みきっているわけではないらしい。
喜怒哀楽の激しい小傘ではあるが、完全に悲しませるのはナズーリンも本意ではないため、このくらいが丁度良かった。
「ついて来たいなら勝手にしたまえ。 私の邪魔はしないでくれよ?」
「ついて来たいんじゃなくて……うぅ勝手に話すから良い」
まともに相手をしてくれないナズーリンに、小傘は半ば泣きそうにはなっているものの、帰れとは言われないためそのままついて来た。
ナズーリンとしての多分小傘ならそうするだろうと思ってあぁ言ったのだが。
「最近ね、全然誰も驚いてくれないの」
「それは元からだろう」
「最近余計にって話し!」
間髪入れずに飛んできた言葉の一撃にまた少しへこたれそうになった小傘だったが、何とか耐えて話しを続けた。
ただやはりあまり話しに興味はないのか、ナズーリンの目線は自らのダウジングロットの揺れのみを映していたが。
「前までは一応暗がりからいきなり出て弾幕撃てば驚いてはくれたんだけどなぁ……」
「それで驚かない奴はそうそう居ないだろうね。 ただ代償は必ずボロボロにされることだが」
「う……ま、まぁそれは良いの。 それよりも最近は冷静に迎撃されちゃうのよ。 この前なんてあの紅白巫女に隠れてる所にいきなり針撃ち込まれたんだから! さでずむよ! さでずむ!」
「……まぁ原因は大体分かってるがね」
小傘の不思議な言い回しに微妙に何か言いたくなったが、とりあえずナズーリンは捨て置いた。
一応悩みらしい小傘の話しに耳を傾け適当に返していたが、どうやらいつものらしい。
小傘は驚かすことを食事とする妖怪だが、ハッキリ言って向いていない。
彼女よりも驚かすことに向いていない妖怪はそうそう居ないのではないかと感じる程にだ。
それ故に小傘が驚かせられないうんぬんで悩むのは、良くあることであった。
根元の性格が明るくお気楽なせいか、悩み過ぎることはないが。
「えっ? わ、わちきに分からなかったことが、ナズーリンにはすぐに分かったと?」
「だからその酷いのは止めたまえ……少し考えれば簡単に分かることさ」
小傘に一応意識を向けているせいか、ロッドの反応が芳しくない。
そう考えたナズーリンは、驚く小傘の方に完全に振り向きロッドを降ろした。
さっさと小傘の話しを終わらせてしまおうと言うのだ。
「まぁあの紅白巫女の件は例外……そもそもやる相手は選びたまえ。それ以外は確実に慣れだろうね」
「慣れ……?」
「そう慣れ。 そもそも方法が悪いのは置いといて一応なりとも驚いていて、それがなくなったなら慣れが一番可能性が高いだろうね」
ナズーリンの言葉が殆ど理解出来なかったのか、小傘は目を丸くして止まっていた。
あの話しの長く、回りくどい古道具屋の店主のように話したつもりはなかったが、どうやら小傘にとってはそう変わらないものらしい。
「……まぁつまり同じ方法を同じ相手に使い過ぎてるわけさ」
「……あ!」
特に難しい言葉を使っていないにも関わらず、小傘は更に柔らかく言わないと分からなかったらしい。
やっと合点が言ったと物語る小傘の表情を見たナズーリンはコッソリと溜め息をついた。
むしろナズーリンとしてはどこで覚えたかは知らないが、小傘の使うさでずむと言葉のほうがよっぽど分からなかった。
無論、小傘に問いた所で明確な答えが返っては来ないので聞きすらしないのだが。
「まぁたまには違う相手に仕掛けてみれば良い。 大体はあの紅白巫女と黒白魔法使い、それに山の上の巫女だろう?」
「そうね……じゃあここからがあちきの快進撃よ!」
(良し……さて)
小傘の表情から悩みが消え、代わりにいつもの元気の良さが浮かんで来た。
そう判断したナズーリンは、これでやっと自分の仕事に戻れると小傘に別れを告げようとしたが……。
「うらめし!」
「あぁちなみに言っておくが、私にやらないように。 やったらボロボロになるまで相手してあげよう」
「やー……はい」
嫌な予感がしたために、小傘に鋭くロッドを突き付けた。
どうやら嫌な予感は見事に的中したらしく、小傘は冷や汗を流しながらも首を少しだけ頷かせた。
首もとに突き付けられているため、そうしないと刺さるのだ。
「全く……予想通りの行動に走らないでくれ」
小傘が頷くと、呆れたとばかりに腰に手を当て、溜め息を吐きつつナズーリンはロッドを突き付けるのを止めた。
小傘の相談にも答えは出したし、自分への被害はない。
ならばこれ以上無駄な時間を過ごすつもりはなかった。
「良いか小傘? 絶対に、絶対に私にはするんじゃないぞ? では私はこれで失礼しよう」
最後に入念に念押ししつつ、ナズーリンは小傘から目線を外し一人魔法の森の方へと向かった。
だが、そんなナズーリンの背中を見ながら、口を半開きにして小傘は何かを考えていた。
「……?……あ!」
そして暫くして何かに気付いた小傘は急いで飛ぶとナズーリンの後を追った。
ゆっくり歩いてダウジングをしているため、ナズーリンの背中はまたすぐに見えてきた。
そして小傘は傘を上空に突き出すように構え、いつもより大きくいつもより強く。
「うらめしやー!」
驚かせようと、弾幕を放った。
ちなみにその後、小傘は見事にナズーリンにボロボロにされた(不意打ちを食らったためナズーリンも被弾してそれなりにボロボロであった)。
ちなみにやるなと言われたにも関わらず、ナズーリンに手を出した理由は念を押された時は外の世界では実際にやってくれという意味だと書いてあったらしい。
その本が置いてあるであろう店へと、ナズーリンが苦情を申し出たのだが、店主にその苦情が受け入れられることはなかった。
そんなあまり人の通らない道を二つの小さな影が歩いていた。
「ねぇねぇ」
「…………」
「ねぇってばぁ」
「…………」
「ねぇ聞いてる? ナズーリン」
「……はぁ」
放っておいたが、いつまでも止まぬ呼びかけにやっと呼ばれていたもの、小さな賢将と呼ばれた鼠の妖怪、ナズーリンが振り返った。
その顔は誰が見ても面倒ですと書いてあるようにしか見えない表情である。
「聞いている……が、私はさっき忙しいと言ったと思うんだがね。 小傘」
「あちきの話しをもう少し聞いてよー。 同じ場所に住む仲間でしょ?」
正確にはナズーリンは無縁塚に住んでいながら寺に通うことが多く、彼女、化け傘の妖怪である多々良小傘は寺の墓場に住んでいるのだが、ナズーリンはわざわざそれを指摘する気にはならなかった。
というより、今は住んでいる場所等、些細な問題である。
それよりも、ナズーリンにはダウザーとしての仕事が待っているのだから。
小傘の話しに付き合っている暇はない。
「仲間なのはとりあえず否定しないでおくが、それが私が小傘の話しを聞く理由にはならないね。 それとその酷い自分の呼び方は止めたまえ。 似合わなすぎて笑いが出てくる」
「酷い!?私が必死に考えたのに!」
至極面倒そうに言い放つと、ショックで膝から崩れる小傘を置いてナズーリンは歩き出した。
この程度で退くとは思っていないが、立ち止まって相手するよりもロッドを動かし歩く方が大切なのである。
「ちょ! ちょっと待って!」
そんなナズーリンの予想通り、小傘はすぐにショックから復帰して、ナズーリンの後ろをついてきた。
微妙に涙目だが、落ち込みきっているわけではないらしい。
喜怒哀楽の激しい小傘ではあるが、完全に悲しませるのはナズーリンも本意ではないため、このくらいが丁度良かった。
「ついて来たいなら勝手にしたまえ。 私の邪魔はしないでくれよ?」
「ついて来たいんじゃなくて……うぅ勝手に話すから良い」
まともに相手をしてくれないナズーリンに、小傘は半ば泣きそうにはなっているものの、帰れとは言われないためそのままついて来た。
ナズーリンとしての多分小傘ならそうするだろうと思ってあぁ言ったのだが。
「最近ね、全然誰も驚いてくれないの」
「それは元からだろう」
「最近余計にって話し!」
間髪入れずに飛んできた言葉の一撃にまた少しへこたれそうになった小傘だったが、何とか耐えて話しを続けた。
ただやはりあまり話しに興味はないのか、ナズーリンの目線は自らのダウジングロットの揺れのみを映していたが。
「前までは一応暗がりからいきなり出て弾幕撃てば驚いてはくれたんだけどなぁ……」
「それで驚かない奴はそうそう居ないだろうね。 ただ代償は必ずボロボロにされることだが」
「う……ま、まぁそれは良いの。 それよりも最近は冷静に迎撃されちゃうのよ。 この前なんてあの紅白巫女に隠れてる所にいきなり針撃ち込まれたんだから! さでずむよ! さでずむ!」
「……まぁ原因は大体分かってるがね」
小傘の不思議な言い回しに微妙に何か言いたくなったが、とりあえずナズーリンは捨て置いた。
一応悩みらしい小傘の話しに耳を傾け適当に返していたが、どうやらいつものらしい。
小傘は驚かすことを食事とする妖怪だが、ハッキリ言って向いていない。
彼女よりも驚かすことに向いていない妖怪はそうそう居ないのではないかと感じる程にだ。
それ故に小傘が驚かせられないうんぬんで悩むのは、良くあることであった。
根元の性格が明るくお気楽なせいか、悩み過ぎることはないが。
「えっ? わ、わちきに分からなかったことが、ナズーリンにはすぐに分かったと?」
「だからその酷いのは止めたまえ……少し考えれば簡単に分かることさ」
小傘に一応意識を向けているせいか、ロッドの反応が芳しくない。
そう考えたナズーリンは、驚く小傘の方に完全に振り向きロッドを降ろした。
さっさと小傘の話しを終わらせてしまおうと言うのだ。
「まぁあの紅白巫女の件は例外……そもそもやる相手は選びたまえ。それ以外は確実に慣れだろうね」
「慣れ……?」
「そう慣れ。 そもそも方法が悪いのは置いといて一応なりとも驚いていて、それがなくなったなら慣れが一番可能性が高いだろうね」
ナズーリンの言葉が殆ど理解出来なかったのか、小傘は目を丸くして止まっていた。
あの話しの長く、回りくどい古道具屋の店主のように話したつもりはなかったが、どうやら小傘にとってはそう変わらないものらしい。
「……まぁつまり同じ方法を同じ相手に使い過ぎてるわけさ」
「……あ!」
特に難しい言葉を使っていないにも関わらず、小傘は更に柔らかく言わないと分からなかったらしい。
やっと合点が言ったと物語る小傘の表情を見たナズーリンはコッソリと溜め息をついた。
むしろナズーリンとしてはどこで覚えたかは知らないが、小傘の使うさでずむと言葉のほうがよっぽど分からなかった。
無論、小傘に問いた所で明確な答えが返っては来ないので聞きすらしないのだが。
「まぁたまには違う相手に仕掛けてみれば良い。 大体はあの紅白巫女と黒白魔法使い、それに山の上の巫女だろう?」
「そうね……じゃあここからがあちきの快進撃よ!」
(良し……さて)
小傘の表情から悩みが消え、代わりにいつもの元気の良さが浮かんで来た。
そう判断したナズーリンは、これでやっと自分の仕事に戻れると小傘に別れを告げようとしたが……。
「うらめし!」
「あぁちなみに言っておくが、私にやらないように。 やったらボロボロになるまで相手してあげよう」
「やー……はい」
嫌な予感がしたために、小傘に鋭くロッドを突き付けた。
どうやら嫌な予感は見事に的中したらしく、小傘は冷や汗を流しながらも首を少しだけ頷かせた。
首もとに突き付けられているため、そうしないと刺さるのだ。
「全く……予想通りの行動に走らないでくれ」
小傘が頷くと、呆れたとばかりに腰に手を当て、溜め息を吐きつつナズーリンはロッドを突き付けるのを止めた。
小傘の相談にも答えは出したし、自分への被害はない。
ならばこれ以上無駄な時間を過ごすつもりはなかった。
「良いか小傘? 絶対に、絶対に私にはするんじゃないぞ? では私はこれで失礼しよう」
最後に入念に念押ししつつ、ナズーリンは小傘から目線を外し一人魔法の森の方へと向かった。
だが、そんなナズーリンの背中を見ながら、口を半開きにして小傘は何かを考えていた。
「……?……あ!」
そして暫くして何かに気付いた小傘は急いで飛ぶとナズーリンの後を追った。
ゆっくり歩いてダウジングをしているため、ナズーリンの背中はまたすぐに見えてきた。
そして小傘は傘を上空に突き出すように構え、いつもより大きくいつもより強く。
「うらめしやー!」
驚かせようと、弾幕を放った。
ちなみにその後、小傘は見事にナズーリンにボロボロにされた(不意打ちを食らったためナズーリンも被弾してそれなりにボロボロであった)。
ちなみにやるなと言われたにも関わらず、ナズーリンに手を出した理由は念を押された時は外の世界では実際にやってくれという意味だと書いてあったらしい。
その本が置いてあるであろう店へと、ナズーリンが苦情を申し出たのだが、店主にその苦情が受け入れられることはなかった。
上達への一番の近道は反省を持つことだと確信をもって言えます。物作りにおいて真に満足を得ると言うのはなかなか難しく、どれだけやっても課題が残り続けるものです。作者さんにおいては、正に山積みの筈です。
初めの内はどこから手を付けて良いのかも判らないかもしれませんが、その中から自身の悪点を抽出し一歩一歩前に進んでいくしかない。
遅いか早いかの違いはあっても矢張り一歩です。頑張ってください。