冬といえば炬燵。炬燵といえば蜜柑。鉄板だが、それが常に満たされているところは珍しい。
「だからって別にうちでなくてもいいでしょうに」
「ここが一番足を運びやすいのよ」
居心地いいし、という言葉はお茶で流し込み、文は炬燵の天板に腕をおいてその上に頭をのせた。
霊夢は小ぶりな蜜柑を食べるのに集中していたが、すぐに食べ終えて暇になった。境内の掃除は終わったし、夕飯の支度をするには早すぎる。
そういえば、こいつは夕飯どうするんだろう、と文に目をやると、空になった湯呑みの縁を人差し指でなぞっていた。
指は長く、爪はよく手入れされている。外を飛び回っている割に肌は白く、シミ一つない。睫毛が意外と長く、外からの陽光を受けて影を落としている。鼻は小さめで、唇は紅を引いたように赤い。
「何か?」
視線に気付いた文が頭を上げた。紅玉に似た赤い目がまっすぐに霊夢の目を見つめる。
「いや、改めて見ると美人なんだな、と」
ぽかん、と小さな口が開いた。白い肌が見る間に赤く染まっていき、ばさりと黒い翼が動いた。
「急に何を言い出すんです?!」
「思ったことを言っただけよ」
悲鳴のような声をあげ、文は両翼で顔を隠した。すかさず霊夢が身を乗り出してそれをこじ開けようとする。
「み、見ないでください!」
「やだ」
にべもない返答に呆れたか、文の力が弱まった。その一瞬で霊夢が黒いバリケードを破った。
かたく目を閉じた文は耳まで真っ赤で、初な少女のようだった。
「ほら、やっぱりかわいい」
「……もう勘弁してください」
へにゃりと翼を伏せる文に、霊夢は上機嫌に笑った。