長野。
信州とも呼ばれ、蕎麦とかが有名な自然に恵まれた場所。
特に諏訪は秘境。
諏訪大社という有名な神社こそあるものの、後は人気のない寂れた社ばかり。
東方ファンとしての興味本位だろう。
原作者も長野出身と聞くし。
俺は、今回の旅路をそこへと決めた。
◇ ◇ ◇
ふぅ。
結構回ったなぁ。
レンタカーの店で借りた自転車から降り、汗を拭う。
まさか諏訪がこんなに広いとはなぁ。
坂道も多い。
諏訪湖を一周するだけで、かなりの労力だ。
汗を拭って、自転車から降りて地図を広げる。
今日中にすべてを周りきれるだろうか?
途中で地元のおっさんに話しかけられて一時間以上諏訪の話を聞かされたからなぁ。
面白かったし、良い思い出にはなったけど。
ふぅ、とため息をつき、ぐいっと水を飲む。
ともかく諏訪はコンビニやスーパーが少ない。
見かけたらトイレ休憩と水分補給は必須。
水を飲んで、いくらばかりか気力を取り戻した。
金を渋ってレンタカーではなくレンタサイクルを借りたことをちょっと後悔しつつ。
まだ見ぬ秘境に胸を膨らませペダルをこいだ。
◇ ◇ ◇
にしても。
ホント御柱が多い。
名も分からぬ小さな祠でさえ、御柱は祭られている。
例え違う神社でも。
例えどんなに小さな神社でも同じ御神木が祭られている諏訪という地域に、なんとも言えぬ感慨深さを感じた。
◇ ◇ ◇
諏訪の人は親切だ。
さっき話しかけてくれたおっさんといい、今時珍しく斧で薪割りしているおっさんたちも気軽に話しかけてくれた。
余所者を受け入れる気質というものがあるのだろう。
俺は地元の人の優しさに笑みを浮かべて、再びペダルを漕ぐ。
◇ ◇ ◇
あれ?
ここはどこだろう?
目的は「足長神社」。
先ほど訪れた「手長神社」と対をなす場所。
手の長い神様。
足の長い神様。
この二つの神様が別々に祭られ。
「だいだらぼっち伝説」とも関係する、この地元ならではの神様。
ちなみに、ここらの神話がモデルとなって作られたのが某ジブリの作品だったりする。
汗を拭いながら必死に自転車を漕いで山を登る。
そして辿り着いたのは。
山奥にぽつんとあるお墓。
その奥には、明らかに素人の手で作られた、木でできた鳥居。
そして石だけで積み上げられた祠のようなもの。
異質。
あまりにも異質。
なぜ、こんなひっそりとした人気のない山奥に墓が一つだけ立てられている?
あの鳥居、あの祠はなんだ?
次の瞬間。
ザッと風が吹き抜けた。
まずい。
ヤバい。
ここは人がいちゃいけない場所だ。
本能が警告する。
ここに留まっていては、きっと『帰れなくなる』。
すぐさまこの場を立ち去ろうとする。
が。
足が動かない。
奥にある祠から目が離せない。
身体が動かない。
周りからザッザッと音がする。
周りに人はいない。
けど、その音は足音にも聞こえる。
俺は立ち入ったら行けない場所に踏み込んでしまった。
そう感づいたときにはもう遅い。
恐怖で足が竦んでいる。
背筋が凍って震えが止まらない。
そうしてどこからもなく近寄る気配に身を震わせていた、その時。
『逃げて!!』
声が。
女の子の声が聞こえた。
それで我に返った。
震えは若干止まった。
足に力が戻った。
そうして俺は、一目散にその場から逃げだした。
◇ ◇ ◇
はぁ、はぁ、はぁ…!
動悸が止まらない。
呼吸が乱れている。
アレは一体なんだったのか?
説明のつかない現象。
これが初めてではないが、さすがに死を覚悟した。
山を降りて、ふうっと息を整える。
にしても。
あの女の子の声はなんだったのだろうか?
あの子の声が俺に逃げる力をくれた。
幻聴だったのだろうか?
だって、周りには誰もいなかったのだから。
けど、助けられた。
俺は先ほどの山に向けて一礼をして、再び諏訪巡りを再開した。
◇ ◇ ◇
その後は順調に進んだ。
色々廻った後に、諏訪大社に辿り着いた。
見事な御柱。
威厳漂う本宮。
あ、絵馬に神奈子さまと諏訪子さまが描かれている。
これが俗にいう痛絵馬ってやつか。
諏訪子さまは本体(笑)だけだが、神奈子さまは色つきだった。
まさか神奈子さま描くために色ペン持ってきたんかな?
苦笑しながらも、境内をじっくり周りながら古き日本の神々に思いを馳せらせる。
もちろん、朱印も押してもらった。
◇ ◇ ◇
そして。
今回の旅路の最終地点。
『諏訪上社旧大祝邸跡』
かつて大祝(おおはふり)と呼ばれた一族が住んでいた屋敷。
人ながら神と崇められ、そして時代と共にその役割を無くし消えていった一族。
いま残るのは、その人たちが住んでいた屋敷のみ。
ひっそりとした、寂れた場所。
管理はされているだろう。
けど、そこには人の姿はなかった。
ここに住んでいた一族は、何を想い過ごし、そして何を想いながら消えていったのだろうか?
俺には想像もつかない。
人間という身分以上のモノに祭り上げられて。
そして用が無くなったら消されたモノたち。
秋ももう終わりだという季節。
他の場所では紅葉も散ってしまった、冬が訪れる前。
ただ。
この屋敷の紅葉は涙が出るくらい綺麗だった。
黄色い、いや金色に輝くような紅葉が、まるで屋敷を彩るように囲う。
その光景を目に、心に焼き付けて。
屋敷を後にする。
屋敷を背に向け、名残惜しむかのように歩みを進める。
と、その時。
『ありがとう』
声がした。
あの時、山で俺を救ってくれたあの声だ。
バッと後ろを振り向く。
そこには見えた。
確かに見えた。
三人の女性。
その中心に立つ緑の髪をした巫女装束の女性が話しかける。
『ありがとうございます。この時代、もう忘れさられてしまった場所に来てくださって』
深々とお辞儀をする。
『あの山で貴方を救えて良かったです。あまり危ない場所には近づかないようにね』
にっこりと笑う女性。
ただ、そこには現実性はなく。
『どんな理由でもいいです。ここに来てくださって、諏訪の地に来てくださって。それで貴方の心にこの地のことが残ってくださったことが、なによりも嬉しいです』
俺は、その女性に言わなくてはいけないことがある。
けど、それを言う前に。
『またこの地を訪れてくださいね。私たちはもういませんが、それでも貴方のようにこの地を訪れてくれる人がいてくれていることを、心から感謝します』
そう言って。
彼女は再びお辞儀をし。
そして。
一陣の、風が吹いた。
◇ ◇ ◇
・・・。
ん?
あれ?
俺はなんでここに佇んでいるんだろうか?
あぁ、思い出した。
諏訪地方に旅行に来たんだったな。
この屋敷が最後だったな。
さて、ホテルに戻ろう。
これで楽しかった諏訪旅行はお終い。
明日が最後の一日。
長野駅まで行って善光寺参りと行きますか。
自転車にまたがり、ペダルにのせた足に力を込める。
と。
はて、さっき誰かと話していたような?
・・・。
そんなわけないか。
だって、ここにはもう誰もいないんだから。
自転車を漕ぎ、その場を離れる。
と、その前に。
「綺麗な紅葉。きっとこの屋敷に住んでいた人たちは毎年素敵な光景を見れたんだろうな」
俺はそう呟いて、屋敷を背に自転車を漕いでいった。
信州とも呼ばれ、蕎麦とかが有名な自然に恵まれた場所。
特に諏訪は秘境。
諏訪大社という有名な神社こそあるものの、後は人気のない寂れた社ばかり。
東方ファンとしての興味本位だろう。
原作者も長野出身と聞くし。
俺は、今回の旅路をそこへと決めた。
◇ ◇ ◇
ふぅ。
結構回ったなぁ。
レンタカーの店で借りた自転車から降り、汗を拭う。
まさか諏訪がこんなに広いとはなぁ。
坂道も多い。
諏訪湖を一周するだけで、かなりの労力だ。
汗を拭って、自転車から降りて地図を広げる。
今日中にすべてを周りきれるだろうか?
途中で地元のおっさんに話しかけられて一時間以上諏訪の話を聞かされたからなぁ。
面白かったし、良い思い出にはなったけど。
ふぅ、とため息をつき、ぐいっと水を飲む。
ともかく諏訪はコンビニやスーパーが少ない。
見かけたらトイレ休憩と水分補給は必須。
水を飲んで、いくらばかりか気力を取り戻した。
金を渋ってレンタカーではなくレンタサイクルを借りたことをちょっと後悔しつつ。
まだ見ぬ秘境に胸を膨らませペダルをこいだ。
◇ ◇ ◇
にしても。
ホント御柱が多い。
名も分からぬ小さな祠でさえ、御柱は祭られている。
例え違う神社でも。
例えどんなに小さな神社でも同じ御神木が祭られている諏訪という地域に、なんとも言えぬ感慨深さを感じた。
◇ ◇ ◇
諏訪の人は親切だ。
さっき話しかけてくれたおっさんといい、今時珍しく斧で薪割りしているおっさんたちも気軽に話しかけてくれた。
余所者を受け入れる気質というものがあるのだろう。
俺は地元の人の優しさに笑みを浮かべて、再びペダルを漕ぐ。
◇ ◇ ◇
あれ?
ここはどこだろう?
目的は「足長神社」。
先ほど訪れた「手長神社」と対をなす場所。
手の長い神様。
足の長い神様。
この二つの神様が別々に祭られ。
「だいだらぼっち伝説」とも関係する、この地元ならではの神様。
ちなみに、ここらの神話がモデルとなって作られたのが某ジブリの作品だったりする。
汗を拭いながら必死に自転車を漕いで山を登る。
そして辿り着いたのは。
山奥にぽつんとあるお墓。
その奥には、明らかに素人の手で作られた、木でできた鳥居。
そして石だけで積み上げられた祠のようなもの。
異質。
あまりにも異質。
なぜ、こんなひっそりとした人気のない山奥に墓が一つだけ立てられている?
あの鳥居、あの祠はなんだ?
次の瞬間。
ザッと風が吹き抜けた。
まずい。
ヤバい。
ここは人がいちゃいけない場所だ。
本能が警告する。
ここに留まっていては、きっと『帰れなくなる』。
すぐさまこの場を立ち去ろうとする。
が。
足が動かない。
奥にある祠から目が離せない。
身体が動かない。
周りからザッザッと音がする。
周りに人はいない。
けど、その音は足音にも聞こえる。
俺は立ち入ったら行けない場所に踏み込んでしまった。
そう感づいたときにはもう遅い。
恐怖で足が竦んでいる。
背筋が凍って震えが止まらない。
そうしてどこからもなく近寄る気配に身を震わせていた、その時。
『逃げて!!』
声が。
女の子の声が聞こえた。
それで我に返った。
震えは若干止まった。
足に力が戻った。
そうして俺は、一目散にその場から逃げだした。
◇ ◇ ◇
はぁ、はぁ、はぁ…!
動悸が止まらない。
呼吸が乱れている。
アレは一体なんだったのか?
説明のつかない現象。
これが初めてではないが、さすがに死を覚悟した。
山を降りて、ふうっと息を整える。
にしても。
あの女の子の声はなんだったのだろうか?
あの子の声が俺に逃げる力をくれた。
幻聴だったのだろうか?
だって、周りには誰もいなかったのだから。
けど、助けられた。
俺は先ほどの山に向けて一礼をして、再び諏訪巡りを再開した。
◇ ◇ ◇
その後は順調に進んだ。
色々廻った後に、諏訪大社に辿り着いた。
見事な御柱。
威厳漂う本宮。
あ、絵馬に神奈子さまと諏訪子さまが描かれている。
これが俗にいう痛絵馬ってやつか。
諏訪子さまは本体(笑)だけだが、神奈子さまは色つきだった。
まさか神奈子さま描くために色ペン持ってきたんかな?
苦笑しながらも、境内をじっくり周りながら古き日本の神々に思いを馳せらせる。
もちろん、朱印も押してもらった。
◇ ◇ ◇
そして。
今回の旅路の最終地点。
『諏訪上社旧大祝邸跡』
かつて大祝(おおはふり)と呼ばれた一族が住んでいた屋敷。
人ながら神と崇められ、そして時代と共にその役割を無くし消えていった一族。
いま残るのは、その人たちが住んでいた屋敷のみ。
ひっそりとした、寂れた場所。
管理はされているだろう。
けど、そこには人の姿はなかった。
ここに住んでいた一族は、何を想い過ごし、そして何を想いながら消えていったのだろうか?
俺には想像もつかない。
人間という身分以上のモノに祭り上げられて。
そして用が無くなったら消されたモノたち。
秋ももう終わりだという季節。
他の場所では紅葉も散ってしまった、冬が訪れる前。
ただ。
この屋敷の紅葉は涙が出るくらい綺麗だった。
黄色い、いや金色に輝くような紅葉が、まるで屋敷を彩るように囲う。
その光景を目に、心に焼き付けて。
屋敷を後にする。
屋敷を背に向け、名残惜しむかのように歩みを進める。
と、その時。
『ありがとう』
声がした。
あの時、山で俺を救ってくれたあの声だ。
バッと後ろを振り向く。
そこには見えた。
確かに見えた。
三人の女性。
その中心に立つ緑の髪をした巫女装束の女性が話しかける。
『ありがとうございます。この時代、もう忘れさられてしまった場所に来てくださって』
深々とお辞儀をする。
『あの山で貴方を救えて良かったです。あまり危ない場所には近づかないようにね』
にっこりと笑う女性。
ただ、そこには現実性はなく。
『どんな理由でもいいです。ここに来てくださって、諏訪の地に来てくださって。それで貴方の心にこの地のことが残ってくださったことが、なによりも嬉しいです』
俺は、その女性に言わなくてはいけないことがある。
けど、それを言う前に。
『またこの地を訪れてくださいね。私たちはもういませんが、それでも貴方のようにこの地を訪れてくれる人がいてくれていることを、心から感謝します』
そう言って。
彼女は再びお辞儀をし。
そして。
一陣の、風が吹いた。
◇ ◇ ◇
・・・。
ん?
あれ?
俺はなんでここに佇んでいるんだろうか?
あぁ、思い出した。
諏訪地方に旅行に来たんだったな。
この屋敷が最後だったな。
さて、ホテルに戻ろう。
これで楽しかった諏訪旅行はお終い。
明日が最後の一日。
長野駅まで行って善光寺参りと行きますか。
自転車にまたがり、ペダルにのせた足に力を込める。
と。
はて、さっき誰かと話していたような?
・・・。
そんなわけないか。
だって、ここにはもう誰もいないんだから。
自転車を漕ぎ、その場を離れる。
と、その前に。
「綺麗な紅葉。きっとこの屋敷に住んでいた人たちは毎年素敵な光景を見れたんだろうな」
俺はそう呟いて、屋敷を背に自転車を漕いでいった。
お墓のくだりが本当の話というあたり、ぞくぞく来ますね。
描写は淡々としているのに、どこか神秘なところを感じる辺りが好きでした。
風景描写を充実させると、もっとのめりこめたかも!
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