明確にいつの頃から、かはもう忘れてしまったが、始まりは今でも覚えている。
確か、私達が吸血鬼としての生を200年ほど生きた頃だったと思う。
不慮の事故なのだが、お姉さまが誤って私の血を口にしてしまった。
その日の終わり、私は突如としてお姉さまに襲われた。
突然の態度の変化に動揺する私などはまるで無視して、吸血衝動に支配されたお姉さまは
有無を言わさず私の首元に噛み付き、強引に血を奪ったのだ。
それ以来、私はお姉さまの食事の一部になった。
昔は日に何度も襲われたりする事も少なくなかったが、今ではそこまで酷くない。
多くても、月に2回程度にまでにその頻度は減っている。
しかし、お姉さまは300年近くたった今でも相変わらず私を食べる事をやめない。
いや、”止められない”が正しいか。
吸血鬼が自らの眷族ではない、同族の血を喰らう事は禁忌とされている。
事故とはいえ、お姉さまはその禁忌を破ってしまった。
禁忌を破った者がどうなるのか、お姉さまを目の当たりして理解した。
美味過ぎるのだ。同族の血は。
吸血鬼にとって血液とは力の塊だ。
頭を潰され、体を引き裂かれても再生できるのは一重に”血が生きている”からに他ならない。
肉体は吸血鬼にとって単なる入れ物でしかないのだ。血液こそが吸血鬼そのものであると言っても良い。
他の吸血鬼から血を吸うという事は、つまりその命、その力をそのまま吸収する事と同義だ。
人間の血液では補えないほどの強化の効果が得られる。
そして大地から豊潤な栄養を吸い上げた林檎が甘い様に、多くの人間の血を喰らった吸血鬼の血は、味も格別なものになる。
もはや人間の血液など、眼中に入らない。それは吸血鬼にとっての麻薬なのだから。
だから、口にしてはならぬとされた。
麻薬と同等のそれを得んが為、同族殺しが過去何度も起こったから。
だから、禁忌とされたのだ。
初めて血をすわれてから、以降お姉さまは突然やってきては、私の首に牙を突きたてて血を喰らう。
私を食む時のお姉さまの目には、普段の聡明さや理知的な輝きは無い。あるのはただ、血に対する飢えと渇望だけだ。
欲望を抑えられなくなった獣の様な目で申し訳なさそうに私を見て、それでも渇きを癒す悦びに震えながら私を喰らっていくのだ。
そして存分に喰らい、飢えが癒えて自我を取り戻したお姉さまはいつも私に頭を下げる。
ごめんなさい、また貴女を傷付けたと泣きながら。
私はそれをただ、受け入れた。
お姉さまが頻度を減らしたのは、私に対する吸血衝動を限界まで押さえ込んでいるからだ。
普段は目に見えぬように身体のあちこちに吸血衝動を抑える為の術式や呪具を纏い、私と直接触れるのもなるべく避けている。
しかし、それは人間が自ら食料を一切取らないのと同じなのだ。
日増しに飢餓感は強くなり、人間の血液 で一時的に喉は潤せても根幹的な欲求は満たせない。
だから、だからお姉さまはしばしば”たが”が外れてしまう。
想像を絶する飢餓感 に耐え切れず理性を失い、正しく血に飢えた怪物となる。
丁度、今のように。
お姉さまは欲望のままに私を押し倒す。
その目はいつも通りの、理性のない深紅色に染まっている。
もう私以外は何も見えていないのだろう。
お姉さまの爪が私の衣服だけを軽い音を立てて切り裂いた。首筋から下腹部まで、衣服が絆されて白い肌が露わになる。
私は小さく息を飲む。
セックスをするわけでもないのに、なぜお姉さまはいつも私の服を切り裂くのか。
おかげで、またお気に入りの服が一着布切れと化した。
荒い呼吸のお姉さまは、指先で私の頬を撫ぜる。
この行為の意味はわからない。謝罪なのか、それとも単に私の同意でも求めているのだろうか。
私は押し倒されたまま、顔を右に向ける。必然的に反対の首筋がお姉さまの前に差し出される形になる。
そこにはお姉さまが幾度となく貫いた牙の痕が付いている。
吸血鬼の再生力を持ってしても癒えない痕になる程に、過去何度も襲われたのだ。
首筋を差し出されたお姉さまが深く息を飲む。
唇をわなわなと震わせながら、ゆっくりと首筋に近づいて来るお姉さまのぜぇぜぇとした呼吸音が
興奮を示すように早く、とても大きくなる。それが私の頭の中でこだまする。
唾液で十分に濡れた舌先が私の肌に触れ、噛むのに適した場所を探る。
今まで通りの傷痕に辿り着き、そこに丁寧に唾液を擦り込まれる。
ぴちゃぴちゃと唾液の溢れる音がする。
理由は知らないが、吸血鬼の唾液には痛覚の麻痺効果があるらしい。
理性もないくせに、そう言うところだけはいつもの優しいお姉さまな気がして、私はお姉さまの首に手を回して
受け入れる姿勢を示した。
さぁ、もう血を吸う準備は整った。
視界の外でメキメキとお姉さまの犬歯が伸びる音がする。
あと少し、もう少しでお姉様の牙は私の首の皮膚を突き破り、頸動脈を切り裂き、溢れでる血を口にする。
その時を待ち侘びて、私の興奮も加速する。まがい物の心臓がどくどくと早鐘を打つ。
牙が肌に触れる。その緊張に思わず私は
「おねえさま」
と口にしてしまった。
「……ぁ…ぐ、ふら、ん、どーる…」
お姉さまの動きがピタリと止まり、苦しそうに私の名を呼ぶ。
理性が消えた筈の目に、少しだけ光が戻る。
お姉さまが自我を取り戻すにはそれだけで十分だった。
状況に気づいたお姉さまは、驚いた顔で勢いよく私から飛び退き、目を大きく見開いて、口を両手で抑える。
お姉さまの身を引く勢いで首にかけた手はすぐに解けてしまった。
お姉さまが私の切り裂かれた服をみて、唾液に濡れた傷痕をみて、上気した私の顔をみて、
自分がなにをしたのか、しようとしてたのかを理解する。
「わた、私、は……ごめっ、ごめんなさいフラン!こんなっ、こんなつもりは…!」
「おねえさま…?」
「ごめんなさい…本当に、ごめんなさい…!」
それだけ言うとお姉さまは逃げる様に(実際そうなのだろう)私の部屋から駆けて出て行った。
私はそのまま部屋に一人取り残される。
あぁ、やってしまったなぁ。せっかく、久しぶりのチャンスだったのに。
首筋に残ったお姉さまの唾液を指で掬って口に運ぶ。甘露のような味が口の中に広がる。
久しぶりだからと、調子に乗ってしまったのがいけなかったか。
次は気をつけなければ。
一先ず、破けた服を脱いでゴミ箱に投げ入れた。代わりはお姉さまがメイドに頼んで持ってこさせるだろう。
しかし、今日がお姉さまの限界には変わりないはずだ。向こうから来てくれないなら、私から出向いてあげよう。
今度は失敗しないようにしないと。
お腹が空くのは、辛いものね。うん、分かる。痛いぐらいに、分かるよ。お姉さま。
欲しいものが手に入らないのは凄く凄く辛いって事は、私もよく知っているから。
私の血なら、お姉さまに全部あげる。他ならないお姉さまの為だもの。そんなもの、安い代償だ。
大丈夫、私はお姉さまの味方なんだから。
だからさ、お姉さま。
お姉さまも早く理性なんか、壊しちゃいなよ。
チンケなプライドなんか、要らないでしょう?
お姉さまは私の血を求めてそれに満たさればそれで良い。その代わり、私はお姉さまを一生離さない。
お姉さまはずっとずっと私の虜として生きていくのだから。
いずれお姉さまは認めざるを得なくなる。
その衝動には抗えないのだと。もはやこの関係を修繕など出来ないのだと。
そしてお姉さまは私に愛を囁いて懇願するのだ。
愛しているわ、フランドール。永遠に愛してる。
貴女の血を頂戴。喉が渇いて、苦しくて仕方が無いの。だから、フランドール。
もちろん私はそれに応えてあげるのだ。
愛しい愛しい、お姉さま。ずっとずっと愛してる。
私の血ならいくらでもあげるから。お姉さまの愛を、永遠を誓って。
その日を思い浮かべれば自然と私は笑みがこぼれてくる。あぁ、なんて素敵なんでしょう。
クローゼットから換えの着替えを取り出す。
どうせまた破かれるのだし、普通のドレスでいい。
鼻歌を歌いながらドレスに着替える。着替え終わった頃には妖精メイドが換えの服を運んできてくれた。
メイドから服を受け取って、理由を適当に誤魔化す。
でっち上げの理由にいぶかしんでるようだが、余計なことを詮索しないのは彼女たちの数少ない長所の一つだ。
お姉さまの部屋の前まで来ると、館の中で見かけるにしては珍しい、メイリンがドアの前に立っていた。
きっと番人として置いたのだろう。
私の血を求めるお姉さまを止める為の。
そして、お姉さまに会いに行く私を止める為の。
でもこんなの何の障害にもならない。
私は霧に姿を変えて、難なくお姉さまの部屋に忍び込む。
お姉さまは寝室の椅子に持たれ、自分を責めて泣いていた。
まだお姉さまは気づいてないんだろう。この私の想いに。
お姉さまに襲われてその罪を追求しない事や、こうやってお姉さまに身を差し出すことも、私の慈悲深さなんて思っている事だろう。
それが余りにも可愛くて、可哀想で、愛おしい。
私はお姉さまの背後で変化を解き、後ろから抱き着いた。
「泣かないで、お姉さま。私はここにいるよ」
「…フラン?フラン!?どうし、て…」
あぁ、お姉さまの瞳が深紅に変わる。今日はもう、止められないよね?
きっとすべて事を済んだ後、お姉さまはまた正気に戻ってしまう。そして私から離れようとする。
でも、きっといつかは気付くはず。
もう、逃げられない事に。
何百年も逃げ続けているが、今では制御の術式があってもこうして近づいてしまえばすぐに陥落してしまう程、お姉さまは弱ってる。
もう数百年、この泥沼の関係が続けば完全にお姉さまは永遠に私の虜になる。
「…愛してるわ、お姉さま。私なら、平気。お姉さまが辛いのは、よく知ってるよ。
ねぇ、我慢しなくていいんだよ?私はお姉さまを責めないし、お姉さまに自分自身を責めて貰いたくない。
私のことは気にしないで?」
お姉さまはもう言葉に出来ない。言葉を出せない。
そこにいるのは私に飢えた深紅の瞳の愛しい愛しい吸血鬼だ。
お姉さまはゆるゆる立ち上がると私をベッドまで押して、ベッドの上に押し倒す。
さっきのやり直しの様に、服を裂き、頬を撫で、首筋に唾液を塗り込んで来る。
そうして私は、またお姉さまの首に手を預ける。今度は離さない様、しっかりと。
一瞬、視線が交わる。
もう、私以外は何も見ていない、深紅の瞳。
「その瞳、素敵だね」
出来るなら、永遠にその瞳でいて欲しい。
可愛い人。お姉さまを抱き寄せ、傷痕に招き寄せる。
お姉さまは私の肌に牙を突きたてる。牙がゆっくり沈み込み、そのうち皮膚の張力を突破して突き刺さる。
あぁ、今ここに二人の愛は永遠だ。
さぁ、お姉さま。どうぞ私を。
「召し上がれ」
確か、私達が吸血鬼としての生を200年ほど生きた頃だったと思う。
不慮の事故なのだが、お姉さまが誤って私の血を口にしてしまった。
その日の終わり、私は突如としてお姉さまに襲われた。
突然の態度の変化に動揺する私などはまるで無視して、吸血衝動に支配されたお姉さまは
有無を言わさず私の首元に噛み付き、強引に血を奪ったのだ。
それ以来、私はお姉さまの食事の一部になった。
昔は日に何度も襲われたりする事も少なくなかったが、今ではそこまで酷くない。
多くても、月に2回程度にまでにその頻度は減っている。
しかし、お姉さまは300年近くたった今でも相変わらず私を食べる事をやめない。
いや、”止められない”が正しいか。
吸血鬼が自らの眷族ではない、同族の血を喰らう事は禁忌とされている。
事故とはいえ、お姉さまはその禁忌を破ってしまった。
禁忌を破った者がどうなるのか、お姉さまを目の当たりして理解した。
美味過ぎるのだ。同族の血は。
吸血鬼にとって血液とは力の塊だ。
頭を潰され、体を引き裂かれても再生できるのは一重に”血が生きている”からに他ならない。
肉体は吸血鬼にとって単なる入れ物でしかないのだ。血液こそが吸血鬼そのものであると言っても良い。
他の吸血鬼から血を吸うという事は、つまりその命、その力をそのまま吸収する事と同義だ。
人間の血液では補えないほどの強化の効果が得られる。
そして大地から豊潤な栄養を吸い上げた林檎が甘い様に、多くの人間の血を喰らった吸血鬼の血は、味も格別なものになる。
もはや人間の血液など、眼中に入らない。それは吸血鬼にとっての麻薬なのだから。
だから、口にしてはならぬとされた。
麻薬と同等のそれを得んが為、同族殺しが過去何度も起こったから。
だから、禁忌とされたのだ。
初めて血をすわれてから、以降お姉さまは突然やってきては、私の首に牙を突きたてて血を喰らう。
私を食む時のお姉さまの目には、普段の聡明さや理知的な輝きは無い。あるのはただ、血に対する飢えと渇望だけだ。
欲望を抑えられなくなった獣の様な目で申し訳なさそうに私を見て、それでも渇きを癒す悦びに震えながら私を喰らっていくのだ。
そして存分に喰らい、飢えが癒えて自我を取り戻したお姉さまはいつも私に頭を下げる。
ごめんなさい、また貴女を傷付けたと泣きながら。
私はそれをただ、受け入れた。
お姉さまが頻度を減らしたのは、私に対する吸血衝動を限界まで押さえ込んでいるからだ。
普段は目に見えぬように身体のあちこちに吸血衝動を抑える為の術式や呪具を纏い、私と直接触れるのもなるべく避けている。
しかし、それは人間が自ら食料を一切取らないのと同じなのだ。
日増しに飢餓感は強くなり、
だから、だからお姉さまはしばしば”たが”が外れてしまう。
想像を絶する
丁度、今のように。
お姉さまは欲望のままに私を押し倒す。
その目はいつも通りの、理性のない深紅色に染まっている。
もう私以外は何も見えていないのだろう。
お姉さまの爪が私の衣服だけを軽い音を立てて切り裂いた。首筋から下腹部まで、衣服が絆されて白い肌が露わになる。
私は小さく息を飲む。
セックスをするわけでもないのに、なぜお姉さまはいつも私の服を切り裂くのか。
おかげで、またお気に入りの服が一着布切れと化した。
荒い呼吸のお姉さまは、指先で私の頬を撫ぜる。
この行為の意味はわからない。謝罪なのか、それとも単に私の同意でも求めているのだろうか。
私は押し倒されたまま、顔を右に向ける。必然的に反対の首筋がお姉さまの前に差し出される形になる。
そこにはお姉さまが幾度となく貫いた牙の痕が付いている。
吸血鬼の再生力を持ってしても癒えない痕になる程に、過去何度も襲われたのだ。
首筋を差し出されたお姉さまが深く息を飲む。
唇をわなわなと震わせながら、ゆっくりと首筋に近づいて来るお姉さまのぜぇぜぇとした呼吸音が
興奮を示すように早く、とても大きくなる。それが私の頭の中でこだまする。
唾液で十分に濡れた舌先が私の肌に触れ、噛むのに適した場所を探る。
今まで通りの傷痕に辿り着き、そこに丁寧に唾液を擦り込まれる。
ぴちゃぴちゃと唾液の溢れる音がする。
理由は知らないが、吸血鬼の唾液には痛覚の麻痺効果があるらしい。
理性もないくせに、そう言うところだけはいつもの優しいお姉さまな気がして、私はお姉さまの首に手を回して
受け入れる姿勢を示した。
さぁ、もう血を吸う準備は整った。
視界の外でメキメキとお姉さまの犬歯が伸びる音がする。
あと少し、もう少しでお姉様の牙は私の首の皮膚を突き破り、頸動脈を切り裂き、溢れでる血を口にする。
その時を待ち侘びて、私の興奮も加速する。まがい物の心臓がどくどくと早鐘を打つ。
牙が肌に触れる。その緊張に思わず私は
「おねえさま」
と口にしてしまった。
「……ぁ…ぐ、ふら、ん、どーる…」
お姉さまの動きがピタリと止まり、苦しそうに私の名を呼ぶ。
理性が消えた筈の目に、少しだけ光が戻る。
お姉さまが自我を取り戻すにはそれだけで十分だった。
状況に気づいたお姉さまは、驚いた顔で勢いよく私から飛び退き、目を大きく見開いて、口を両手で抑える。
お姉さまの身を引く勢いで首にかけた手はすぐに解けてしまった。
お姉さまが私の切り裂かれた服をみて、唾液に濡れた傷痕をみて、上気した私の顔をみて、
自分がなにをしたのか、しようとしてたのかを理解する。
「わた、私、は……ごめっ、ごめんなさいフラン!こんなっ、こんなつもりは…!」
「おねえさま…?」
「ごめんなさい…本当に、ごめんなさい…!」
それだけ言うとお姉さまは逃げる様に(実際そうなのだろう)私の部屋から駆けて出て行った。
私はそのまま部屋に一人取り残される。
あぁ、やってしまったなぁ。せっかく、久しぶりのチャンスだったのに。
首筋に残ったお姉さまの唾液を指で掬って口に運ぶ。甘露のような味が口の中に広がる。
久しぶりだからと、調子に乗ってしまったのがいけなかったか。
次は気をつけなければ。
一先ず、破けた服を脱いでゴミ箱に投げ入れた。代わりはお姉さまがメイドに頼んで持ってこさせるだろう。
しかし、今日がお姉さまの限界には変わりないはずだ。向こうから来てくれないなら、私から出向いてあげよう。
今度は失敗しないようにしないと。
お腹が空くのは、辛いものね。うん、分かる。痛いぐらいに、分かるよ。お姉さま。
欲しいものが手に入らないのは凄く凄く辛いって事は、私もよく知っているから。
私の血なら、お姉さまに全部あげる。他ならないお姉さまの為だもの。そんなもの、安い代償だ。
大丈夫、私はお姉さまの味方なんだから。
だからさ、お姉さま。
お姉さまも早く理性なんか、壊しちゃいなよ。
チンケなプライドなんか、要らないでしょう?
お姉さまは私の血を求めてそれに満たさればそれで良い。その代わり、私はお姉さまを一生離さない。
お姉さまはずっとずっと私の虜として生きていくのだから。
いずれお姉さまは認めざるを得なくなる。
その衝動には抗えないのだと。もはやこの関係を修繕など出来ないのだと。
そしてお姉さまは私に愛を囁いて懇願するのだ。
愛しているわ、フランドール。永遠に愛してる。
貴女の血を頂戴。喉が渇いて、苦しくて仕方が無いの。だから、フランドール。
もちろん私はそれに応えてあげるのだ。
愛しい愛しい、お姉さま。ずっとずっと愛してる。
私の血ならいくらでもあげるから。お姉さまの愛を、永遠を誓って。
その日を思い浮かべれば自然と私は笑みがこぼれてくる。あぁ、なんて素敵なんでしょう。
クローゼットから換えの着替えを取り出す。
どうせまた破かれるのだし、普通のドレスでいい。
鼻歌を歌いながらドレスに着替える。着替え終わった頃には妖精メイドが換えの服を運んできてくれた。
メイドから服を受け取って、理由を適当に誤魔化す。
でっち上げの理由にいぶかしんでるようだが、余計なことを詮索しないのは彼女たちの数少ない長所の一つだ。
お姉さまの部屋の前まで来ると、館の中で見かけるにしては珍しい、メイリンがドアの前に立っていた。
きっと番人として置いたのだろう。
私の血を求めるお姉さまを止める為の。
そして、お姉さまに会いに行く私を止める為の。
でもこんなの何の障害にもならない。
私は霧に姿を変えて、難なくお姉さまの部屋に忍び込む。
お姉さまは寝室の椅子に持たれ、自分を責めて泣いていた。
まだお姉さまは気づいてないんだろう。この私の想いに。
お姉さまに襲われてその罪を追求しない事や、こうやってお姉さまに身を差し出すことも、私の慈悲深さなんて思っている事だろう。
それが余りにも可愛くて、可哀想で、愛おしい。
私はお姉さまの背後で変化を解き、後ろから抱き着いた。
「泣かないで、お姉さま。私はここにいるよ」
「…フラン?フラン!?どうし、て…」
あぁ、お姉さまの瞳が深紅に変わる。今日はもう、止められないよね?
きっとすべて事を済んだ後、お姉さまはまた正気に戻ってしまう。そして私から離れようとする。
でも、きっといつかは気付くはず。
もう、逃げられない事に。
何百年も逃げ続けているが、今では制御の術式があってもこうして近づいてしまえばすぐに陥落してしまう程、お姉さまは弱ってる。
もう数百年、この泥沼の関係が続けば完全にお姉さまは永遠に私の虜になる。
「…愛してるわ、お姉さま。私なら、平気。お姉さまが辛いのは、よく知ってるよ。
ねぇ、我慢しなくていいんだよ?私はお姉さまを責めないし、お姉さまに自分自身を責めて貰いたくない。
私のことは気にしないで?」
お姉さまはもう言葉に出来ない。言葉を出せない。
そこにいるのは私に飢えた深紅の瞳の愛しい愛しい吸血鬼だ。
お姉さまはゆるゆる立ち上がると私をベッドまで押して、ベッドの上に押し倒す。
さっきのやり直しの様に、服を裂き、頬を撫で、首筋に唾液を塗り込んで来る。
そうして私は、またお姉さまの首に手を預ける。今度は離さない様、しっかりと。
一瞬、視線が交わる。
もう、私以外は何も見ていない、深紅の瞳。
「その瞳、素敵だね」
出来るなら、永遠にその瞳でいて欲しい。
可愛い人。お姉さまを抱き寄せ、傷痕に招き寄せる。
お姉さまは私の肌に牙を突きたてる。牙がゆっくり沈み込み、そのうち皮膚の張力を突破して突き刺さる。
あぁ、今ここに二人の愛は永遠だ。
さぁ、お姉さま。どうぞ私を。
「召し上がれ」
ヤンデレフランちゃん最高です
ぐへへ。
吸われすぎて死んだほうがお姉さまを罪悪感で縛れるという理屈で死にかねない勢いだ。
フラレミが足りないなら自分で作るといいと思います!!
ソクゾクするいいお話でした。
それはともかく、これは良いヤンデレ。この後フランちゃんがお嬢様に吸い付いて永久機k(グングニル