あの子はいつも平等だ。
いつも、いつでも、平等に。みんなに笑顔をむける。不機嫌な顔のほうが多い気もするけれど。それも皆平等に。
その彼女が私にだけ距離を取るのはいったいなぜなのだろう。
「なにしに来たの?」
「ちょっとお茶でもしようかと」
「うちはお茶屋じゃないのよ」
「知ってるわ」
嘘です。本当は霊夢に会いに来ました。などと言えるわけもなく軽口を叩き合う。他の人たちと同じような対応で、嫌われていないと安心すると共に何かが心にチクりと刺さる。その「何か」がなんなのかなんてわかってるけど、わからないフリをして。
「お菓子、持ってきてるんだけど」
「いらっしゃい。大歓迎するわ。ちょっと待ってて、お茶いれてくるから」
こんな風に単純なところも、いつもと一緒。
縁側に座って、お菓子を覗き込む。かわいらしい一口サイズのクッキー。緑茶にも合うようにと少し工夫を凝らした自信作。
私が作ったのだ。美味しくないはずがないが、それでも霊夢の口に合うかは少し不安で落ち着きがなくなってしまう。
「おまたせ」
お盆を持ってこっちへと向かってきた。覗いて確認していたことがバレないように元に戻す。
湯呑みをひとつ受け取る。じわじわと伝わる暖かさ。
「で、お菓子ってなぁに?」
「クッキーよ」
クッキーの入ったかごを二人の座る間に置く。置けてしまう。
ここが他の人とは違うところで、私から霊夢の間には手を伸ばしてぎりぎり届くかどうかというほどの距離があいている。他の、例えば魔理沙なんかは拳一個の距離ほどしかないというのに。
ふたを開けて見せる。と、すっと手が伸びパクリと一口。説明なんて間に合わない。
「おいしい!これ、緑茶にも合うし」
へにゃりと笑うその顔は凄くかわいくて。
「そう、」
息が止まって言葉がでなくなった。
時間を操れるはずの私なのに、何分、何時間経ったかもわからなくなっていた。空が茜に染まりつつある。そろそろ、仕事の時間だ。
「もう、帰るわ」
ほとんど手をつけなかったのに空になったかごを持って立ち上がる。
「ん、じゃあね」
霊夢はちらりと目をやって手を振る。あまりにもあっさりとしていて胸がまたチクりと痛む。これが報われないものだとは知っている。でも、少しくらい期待してもいいじゃないか。と心のなかで憤慨する。もちろん見た目はそのままで。
ふわりと浮かび上がって一度振り返る。こっちをむいてくれているなんてこともなくて、湯呑みと、最後の一枚のクッキーを見つめていた。
他のひとだったらちょっと見送るくらいはするのかしらなんて考えて、泣きたくなる。ああ、やっぱり私は好かれていないのか。事実は泣いたところで変わることもない。
悲しさを振り払えたらとちょっと急ぎぎみに、でも行きよりはゆっくりと飛ぶ。
好かれてはいなくても。せめて、嫌われてないといいな。
茜に染まりきった神社。紅白な少女が一枚のクッキーを眺めていた。
「嫌われなかったかな」
きっと私は咲夜に好かれてはいない。近付くと大袈裟にのけぞったりするのだ。だから、気持ちは封印してちょっと距離を取って仲良くしたい思ったのに。
「クッキー、がっつきすぎたかしら」
咲夜が作ってくれたと思う嬉しくてついつい食べ過ぎた。自分はあまり飲まないはずの緑茶に合うようにしてあって、とりあえず嫌われてはいないらしい。
「まあいっか」
お話は楽しくて、クッキーは美味しくて、咲夜には多分嫌われてなくて、優しくて、綺麗で、何も問題はない。
(だいすき)
伝えられる日が来るといいななんて思いながら。
最後のクッキーをしっかりと味わうと手をはらって立ち上がった。
いつも、いつでも、平等に。みんなに笑顔をむける。不機嫌な顔のほうが多い気もするけれど。それも皆平等に。
その彼女が私にだけ距離を取るのはいったいなぜなのだろう。
「なにしに来たの?」
「ちょっとお茶でもしようかと」
「うちはお茶屋じゃないのよ」
「知ってるわ」
嘘です。本当は霊夢に会いに来ました。などと言えるわけもなく軽口を叩き合う。他の人たちと同じような対応で、嫌われていないと安心すると共に何かが心にチクりと刺さる。その「何か」がなんなのかなんてわかってるけど、わからないフリをして。
「お菓子、持ってきてるんだけど」
「いらっしゃい。大歓迎するわ。ちょっと待ってて、お茶いれてくるから」
こんな風に単純なところも、いつもと一緒。
縁側に座って、お菓子を覗き込む。かわいらしい一口サイズのクッキー。緑茶にも合うようにと少し工夫を凝らした自信作。
私が作ったのだ。美味しくないはずがないが、それでも霊夢の口に合うかは少し不安で落ち着きがなくなってしまう。
「おまたせ」
お盆を持ってこっちへと向かってきた。覗いて確認していたことがバレないように元に戻す。
湯呑みをひとつ受け取る。じわじわと伝わる暖かさ。
「で、お菓子ってなぁに?」
「クッキーよ」
クッキーの入ったかごを二人の座る間に置く。置けてしまう。
ここが他の人とは違うところで、私から霊夢の間には手を伸ばしてぎりぎり届くかどうかというほどの距離があいている。他の、例えば魔理沙なんかは拳一個の距離ほどしかないというのに。
ふたを開けて見せる。と、すっと手が伸びパクリと一口。説明なんて間に合わない。
「おいしい!これ、緑茶にも合うし」
へにゃりと笑うその顔は凄くかわいくて。
「そう、」
息が止まって言葉がでなくなった。
時間を操れるはずの私なのに、何分、何時間経ったかもわからなくなっていた。空が茜に染まりつつある。そろそろ、仕事の時間だ。
「もう、帰るわ」
ほとんど手をつけなかったのに空になったかごを持って立ち上がる。
「ん、じゃあね」
霊夢はちらりと目をやって手を振る。あまりにもあっさりとしていて胸がまたチクりと痛む。これが報われないものだとは知っている。でも、少しくらい期待してもいいじゃないか。と心のなかで憤慨する。もちろん見た目はそのままで。
ふわりと浮かび上がって一度振り返る。こっちをむいてくれているなんてこともなくて、湯呑みと、最後の一枚のクッキーを見つめていた。
他のひとだったらちょっと見送るくらいはするのかしらなんて考えて、泣きたくなる。ああ、やっぱり私は好かれていないのか。事実は泣いたところで変わることもない。
悲しさを振り払えたらとちょっと急ぎぎみに、でも行きよりはゆっくりと飛ぶ。
好かれてはいなくても。せめて、嫌われてないといいな。
茜に染まりきった神社。紅白な少女が一枚のクッキーを眺めていた。
「嫌われなかったかな」
きっと私は咲夜に好かれてはいない。近付くと大袈裟にのけぞったりするのだ。だから、気持ちは封印してちょっと距離を取って仲良くしたい思ったのに。
「クッキー、がっつきすぎたかしら」
咲夜が作ってくれたと思う嬉しくてついつい食べ過ぎた。自分はあまり飲まないはずの緑茶に合うようにしてあって、とりあえず嫌われてはいないらしい。
「まあいっか」
お話は楽しくて、クッキーは美味しくて、咲夜には多分嫌われてなくて、優しくて、綺麗で、何も問題はない。
(だいすき)
伝えられる日が来るといいななんて思いながら。
最後のクッキーをしっかりと味わうと手をはらって立ち上がった。
次作、楽しみにしてます。