「さて、えーりん先生の健康診断が始まりますよー」
誰に言うともなく呟いて首をコキコキ鳴らす。良い音である。
今日は月に一度の永遠亭健康診断の日。この私直々に兎たちの健康状態を見て、異常がないか調べるのだ。とはいえ、兎たちを一か所に集めるようなことはしない。健康診断程度で彼女らの仕事を邪魔するわけにはいかない。
ただ、これは今やほとんど形式のみとなっており、あまり意味をなしていない。なぜなら、私が作った免疫力を上げる薬(ヤゴコロ印超ビンビン薬プロトタイプ)を朝食に出すキャロットジュースに混ぜ込んであるからだ。その事実を知ったうどんげは「実験ですか!? 実験ですね!? あわわ」などと言っていたが失礼極まりない。私なりに考えた結果(とはいっても天才である私に間違いや失敗などあり得ないのだが)、それが一番であるという結論に至ったのである。ごく稀にうっかり媚薬と取り違えてしまい、兎たちの数が爆発的に増える事があるがそんなことは些事である。
ちなみにうっかりは失敗に入らない。お茶目に入る。
「疾ッ!」
床を蹴って走りだす。
力を入れすぎたか、うっかり床が割れてしまったが失敗ではない。しつこいようだがお茶目に入る。
前傾姿勢を取り地を這うように駆け抜ける。右に曲がったり左に曲がったりと方向転換を繰り返し、廊下を疾走しながら標的を探す。と、その時ちょうどよく向こうからてゐの補佐役をしている山田が書類を両手で抱えてやってきた。
「プッ」
まだ彼女はこちらに気づいてはいない。距離を詰める。あと二歩。
「ピッ」
やっとこちらに気付いた彼女の顔は驚愕に彩られていた。どうやら健康診断のことを忘れていたらしい。山田らしくないミスだ。
だがもう遅い。両手がふさがっている状態ではどうしようもないだろう。あと一歩。
「ピ」
さらに距離を詰める。彼女はすでに諦めたような顔をしていた。
「ドゥ!」
だん、と床を足で叩くと同時に下から霊力を噴出させ、疑似的な風を送る。すると、永遠亭妖怪兎部隊の制服ともなっている桜色のワンピースの裾が捲れ、純白の布に包みきれていないむっちりとした尻が露わになる。ワーオ、モーレツー。
山田はロリロリしい見かけとは裏腹に、なかなかいい体をしている。しかも性格は真面目。健康診断の度に思うのだが、ロリ巨乳という言葉が彼女以上に似合う者をこの長い人生の中でも見たことがない。
「山田! 相変わらず健康的な良い尻ね! その状態をキープしなさい! ついでに今度その乳揉ませて」
はぁい、というやる気のない返事を聞いてから再び駆けだす。しめた、これで揉める。ため息が聞こえた気がしたが気にしない。
それにしても慣れとは恐ろしく、悲しいものである。てゐが山田を連れてきたばかりの頃、この診断を実行するたびに顔を真っ赤にして大慌てでスカートを抑えていたころが懐かしい。
少し滲んだ涙を親指で拭って前方に集中する。まだまだ私の健康診断を待っている子がいるのだ。ぐずぐずしてなんかいられない。
その後も次々と現れる兎たちに的確に診断を下して行く。
「井上! アンタはホントにいっつもプリンプリンね! ナイス!」
井上は小尻が素晴らしい。すらりとしなやかな足につながる尻も当然のように適度に筋肉がつき、いつでもプリップリなのだ。ウェストから腰、腰から脚、脚からつま先までの曲線はこれ以上ないほど美しい。空気抵抗が少なそうだ。
それに加え、普段の活発な印象とは裏腹に大人な趣味をしている彼女の下着がミスマッチを生み出し、そのギャップは破壊力抜群。いつかブルマを着せてやりたいと思っている。
「うどんげ! 芸人根性は買うけどアンタはちゃんとパンツ履きなさい! 風邪ひくわよ!」
うどんげも井上と同じく小尻な部類に入り、きゅっと引きしまった美尻には間違いないのだが、永遠亭に染まりきってしまったのが残念である。具体的には、ちゃんと健康診断の実施日を教えてるにもかかわらずパンツを履かない、とか。落とし穴があったらとりあえず落ちてから考える、とか。
極めつけは、先日所用があって外出する際に「この薬は危険だから絶対に飲んじゃ駄目だからね! 絶対によ!」と念には念を入れて言っておいたのに、帰ってきてみたら一瓶全部飲まれていたことだろうか。薬の影響で正気を失い暴れまわる彼女を苦労しつつも取り押さえ、何故例の薬を飲んだのかを問うてみたところ「ネタ振りだと思いました」とはにかんだ笑みが返ってきたのには真剣に教育ミスったかと悩んだものだ(しつこいようだが、天才に失敗はあり得ないのでミスではなくお茶目だという結論に落ち着いた)。
体を張って笑いを取ろうとするその姿勢は買うし、芸人に育て上げたのは私たちなのかもしれないが、そこまで頑張らなくていいのに、と思う。
というか引く。永遠亭での教育が原因なのかもしれないが、ドン引きする。後ろから「あー! パンツ履くの忘れてたー!」などと聞こえてきたが、そんなものはドジっ子という体面を保つための嘘に違いない。本当に履き忘れていたと言うなら、先月もその前も履いていなかったのをどう説明するつもりか。それ以前にすーすーするだろ常識的に考えて。
「赤座! アンタは……普通ね! 特に言うことはないわ!」
赤座は本当に特筆すべきところのない子だ。痩せてもおらず、太ってもいない。巨乳でもなければ、貧乳でもない。プリンちゃんでもなければ、デロンちゃんでもない。本当に普通としか言いようがない。健康なのはいいが、何か特徴を作らねばキャラの濃い永遠亭では埋もれてしまうかもしれない。
でも、普通、という特徴があるからそれはそれでいいかのかも知れない、などと考えていると、後ろから「普通って言わないでー!」と悲痛な声が聞こえてきた。普通は普通で悩みがあるのかもしれない。
そして残すところは後一匹、というところまできた。
残るは健康診断の隠れボスとして名を馳せる因幡てゐ。
迷路のように入り組んだ永遠亭の廊下、その端に位置する曲がり角を曲がったところで、遥か遠方、突き当たりの曲がり角で不敵な笑みを浮かべて立っている彼女を発見した。
幾度となく邪魔をされた。ある時は尻のライン(いつもそこで診断を下している)が見えないように毛糸のパンツを履いていたり、ある時はジャージを履いていたり、またある時は兎たちを全員永遠亭の外に仕事に行かせたりしていた(その次の健康診断からは当日永遠亭外に出ないよう通達するようにした)。
長い廊下を疾走しながら考える。あの笑みを見るに、無策ということはあり得ない。何をしかけてくるのか訝しんでいると、てゐはおもむろにスカートの裾に手を伸ばし、満面の笑顔と共にゆっくりとたくし上げた。このロリコンめ、とでも言いそうだ。
桜色のスカートの中から現れたのは、純白のドロワーズ。
ふんわりと膨らむそれは確かに腰、尻のラインを覆い、そのままでは診断は不可能となっている。
ただ、それだけではあの笑みの説明が付けられない。ジャージを履いてきたときに、ずりおろす、という手段をとったことがあるからだ。その疑問も彼女に近づき、細かい部分まで見えるようになると氷解する。
永遠亭仕様のドロワーズは腰ひもではなく、ゴムで上部を止める。ドロワーズを好む幼い子たちはひもを結ぶということは難しいため、そのような処置をとっている。
てゐが履いているのは、永遠亭仕様ではない、普通のドロワーズ。上端をひもで止め、ちょうちょ結びにしている。
なるほど、その笑みの根拠はそれか。確かにひもで止めてあれば、ずり下ろすことはできない。
だが、と笑みが浮かぶ。その程度でこの八意永琳を止めることが出来ると思うなど、笑止千万である。
「疾ッ!」
廊下の半ばで足に力を込め、一足飛びにてゐの眼前に迫る。その笑みをいつまで浮かべていられるか見ものだ。
両足を大きく前後に開き、右手はてゐの腰に添え、左手を素早く、ジャブのように繰り出してちょうちょ結びとなっている腰ひもの一端を掴んだ。そして思い切り左手を引いて腰ひもを抜き取り、それとほぼ同時に右手を下にずらしてドロワーズを乱暴に掴む。
「グラビガッ!」
重力の助けをかりて、足首まで一気に引きずり下ろす。
……ああ、なんということだろう。今まで毛糸のパンツやジャージを履いていたことはあったが、当然その下にはパンツを履いていた。
しかし今回はドロワーズ。下にパンツを履くような代物ではない。
そして、現在の私の状況。右手を床近くまで下げているおかげで頭部がてゐの腰の高さにある。
つまりはそう、その、アレだ。目の前に、つるつるで、茂みに覆われてもいない(規制規制規制)
「オゥ……」
感嘆のため息を漏らした私を誰が責められようか。
そのあまりに神々しい光景についうっかり手を合せて拝んでしまった私を誰が責められようか。
いや、だれも責められまい。あれは一種の小宇宙だ。
「……ふぅ」
しばらく後。やめてやめてとぐりぐり私の頭を押したり叩いたりして抵抗するてゐを無視して色々ふがふが堪能した後。
てゐの顔を見ないように立ち上がり、彼女の脇を通り抜ける。背を向けて歩いていると視線をこちらに向けてきているのを感じたので、後ろに向かって親指を立てた。
再戦を、と。
しかしてゐは鼻を啜る音と共にとたとた駆けて行ってしまった。ここで盛大に泣きだせばポイント高いんだが、一番の古株としてのプライドが邪魔するのだろう。
難儀なことである。
そんなこんなで月例永遠亭式健康診断は終わりを迎えた。
正午辺りから始めて現在は日も暮れるかという頃。心身ともに包まれる充足感に満たされながらぼんやりと今日あったことを思い出していた。
山田の尻。井上の尻。うどんげの尻。鈴木の尻。てゐの……オウ、鼻血が。
ああ、顔のにやけが止まらない。おそらく私の顔は崩れに崩れ、なかなかお見せできないことになっているのではなかろうか。
「あ、永琳。夕ご飯は―――」
「バギクロスっ!」
しまった。
本当にしまった。
今日の出来事の整理をしていたら注意がおろそかになっていた。そのせいで背後まで近づいていた輝夜に気付かず、声をかけられると同時に厄介な癖が出た。
永琳は興奮するとついスカートめくっちゃうんだっ。
などと可愛く言って見せてもどうしようもない。天まで届けとばかりに全力で霊力まで使ってめくりあげたスカートが重力に負けて落ちてくるに従い、素晴らしい笑顔の輝夜の顔が露わになる。
ちなみに今日の輝夜はくまさんパンツであった。珍しい。面倒くさいと言って履いてないことも多いのだが。
くまさんパンツを脳内輝夜フォルダに保存しつつ、輝夜の言葉を待つ。脳内で展開されている様相とは全く別に、眼前に厳然と広がる状況はまさしく修羅場であった。
「永琳」
「はい」
「いっぺん死んでみる?」
「はい」
そしてリザレクションであった。
End.
誰に言うともなく呟いて首をコキコキ鳴らす。良い音である。
今日は月に一度の永遠亭健康診断の日。この私直々に兎たちの健康状態を見て、異常がないか調べるのだ。とはいえ、兎たちを一か所に集めるようなことはしない。健康診断程度で彼女らの仕事を邪魔するわけにはいかない。
ただ、これは今やほとんど形式のみとなっており、あまり意味をなしていない。なぜなら、私が作った免疫力を上げる薬(ヤゴコロ印超ビンビン薬プロトタイプ)を朝食に出すキャロットジュースに混ぜ込んであるからだ。その事実を知ったうどんげは「実験ですか!? 実験ですね!? あわわ」などと言っていたが失礼極まりない。私なりに考えた結果(とはいっても天才である私に間違いや失敗などあり得ないのだが)、それが一番であるという結論に至ったのである。ごく稀にうっかり媚薬と取り違えてしまい、兎たちの数が爆発的に増える事があるがそんなことは些事である。
ちなみにうっかりは失敗に入らない。お茶目に入る。
「疾ッ!」
床を蹴って走りだす。
力を入れすぎたか、うっかり床が割れてしまったが失敗ではない。しつこいようだがお茶目に入る。
前傾姿勢を取り地を這うように駆け抜ける。右に曲がったり左に曲がったりと方向転換を繰り返し、廊下を疾走しながら標的を探す。と、その時ちょうどよく向こうからてゐの補佐役をしている山田が書類を両手で抱えてやってきた。
「プッ」
まだ彼女はこちらに気づいてはいない。距離を詰める。あと二歩。
「ピッ」
やっとこちらに気付いた彼女の顔は驚愕に彩られていた。どうやら健康診断のことを忘れていたらしい。山田らしくないミスだ。
だがもう遅い。両手がふさがっている状態ではどうしようもないだろう。あと一歩。
「ピ」
さらに距離を詰める。彼女はすでに諦めたような顔をしていた。
「ドゥ!」
だん、と床を足で叩くと同時に下から霊力を噴出させ、疑似的な風を送る。すると、永遠亭妖怪兎部隊の制服ともなっている桜色のワンピースの裾が捲れ、純白の布に包みきれていないむっちりとした尻が露わになる。ワーオ、モーレツー。
山田はロリロリしい見かけとは裏腹に、なかなかいい体をしている。しかも性格は真面目。健康診断の度に思うのだが、ロリ巨乳という言葉が彼女以上に似合う者をこの長い人生の中でも見たことがない。
「山田! 相変わらず健康的な良い尻ね! その状態をキープしなさい! ついでに今度その乳揉ませて」
はぁい、というやる気のない返事を聞いてから再び駆けだす。しめた、これで揉める。ため息が聞こえた気がしたが気にしない。
それにしても慣れとは恐ろしく、悲しいものである。てゐが山田を連れてきたばかりの頃、この診断を実行するたびに顔を真っ赤にして大慌てでスカートを抑えていたころが懐かしい。
少し滲んだ涙を親指で拭って前方に集中する。まだまだ私の健康診断を待っている子がいるのだ。ぐずぐずしてなんかいられない。
その後も次々と現れる兎たちに的確に診断を下して行く。
「井上! アンタはホントにいっつもプリンプリンね! ナイス!」
井上は小尻が素晴らしい。すらりとしなやかな足につながる尻も当然のように適度に筋肉がつき、いつでもプリップリなのだ。ウェストから腰、腰から脚、脚からつま先までの曲線はこれ以上ないほど美しい。空気抵抗が少なそうだ。
それに加え、普段の活発な印象とは裏腹に大人な趣味をしている彼女の下着がミスマッチを生み出し、そのギャップは破壊力抜群。いつかブルマを着せてやりたいと思っている。
「うどんげ! 芸人根性は買うけどアンタはちゃんとパンツ履きなさい! 風邪ひくわよ!」
うどんげも井上と同じく小尻な部類に入り、きゅっと引きしまった美尻には間違いないのだが、永遠亭に染まりきってしまったのが残念である。具体的には、ちゃんと健康診断の実施日を教えてるにもかかわらずパンツを履かない、とか。落とし穴があったらとりあえず落ちてから考える、とか。
極めつけは、先日所用があって外出する際に「この薬は危険だから絶対に飲んじゃ駄目だからね! 絶対によ!」と念には念を入れて言っておいたのに、帰ってきてみたら一瓶全部飲まれていたことだろうか。薬の影響で正気を失い暴れまわる彼女を苦労しつつも取り押さえ、何故例の薬を飲んだのかを問うてみたところ「ネタ振りだと思いました」とはにかんだ笑みが返ってきたのには真剣に教育ミスったかと悩んだものだ(しつこいようだが、天才に失敗はあり得ないのでミスではなくお茶目だという結論に落ち着いた)。
体を張って笑いを取ろうとするその姿勢は買うし、芸人に育て上げたのは私たちなのかもしれないが、そこまで頑張らなくていいのに、と思う。
というか引く。永遠亭での教育が原因なのかもしれないが、ドン引きする。後ろから「あー! パンツ履くの忘れてたー!」などと聞こえてきたが、そんなものはドジっ子という体面を保つための嘘に違いない。本当に履き忘れていたと言うなら、先月もその前も履いていなかったのをどう説明するつもりか。それ以前にすーすーするだろ常識的に考えて。
「赤座! アンタは……普通ね! 特に言うことはないわ!」
赤座は本当に特筆すべきところのない子だ。痩せてもおらず、太ってもいない。巨乳でもなければ、貧乳でもない。プリンちゃんでもなければ、デロンちゃんでもない。本当に普通としか言いようがない。健康なのはいいが、何か特徴を作らねばキャラの濃い永遠亭では埋もれてしまうかもしれない。
でも、普通、という特徴があるからそれはそれでいいかのかも知れない、などと考えていると、後ろから「普通って言わないでー!」と悲痛な声が聞こえてきた。普通は普通で悩みがあるのかもしれない。
そして残すところは後一匹、というところまできた。
残るは健康診断の隠れボスとして名を馳せる因幡てゐ。
迷路のように入り組んだ永遠亭の廊下、その端に位置する曲がり角を曲がったところで、遥か遠方、突き当たりの曲がり角で不敵な笑みを浮かべて立っている彼女を発見した。
幾度となく邪魔をされた。ある時は尻のライン(いつもそこで診断を下している)が見えないように毛糸のパンツを履いていたり、ある時はジャージを履いていたり、またある時は兎たちを全員永遠亭の外に仕事に行かせたりしていた(その次の健康診断からは当日永遠亭外に出ないよう通達するようにした)。
長い廊下を疾走しながら考える。あの笑みを見るに、無策ということはあり得ない。何をしかけてくるのか訝しんでいると、てゐはおもむろにスカートの裾に手を伸ばし、満面の笑顔と共にゆっくりとたくし上げた。このロリコンめ、とでも言いそうだ。
桜色のスカートの中から現れたのは、純白のドロワーズ。
ふんわりと膨らむそれは確かに腰、尻のラインを覆い、そのままでは診断は不可能となっている。
ただ、それだけではあの笑みの説明が付けられない。ジャージを履いてきたときに、ずりおろす、という手段をとったことがあるからだ。その疑問も彼女に近づき、細かい部分まで見えるようになると氷解する。
永遠亭仕様のドロワーズは腰ひもではなく、ゴムで上部を止める。ドロワーズを好む幼い子たちはひもを結ぶということは難しいため、そのような処置をとっている。
てゐが履いているのは、永遠亭仕様ではない、普通のドロワーズ。上端をひもで止め、ちょうちょ結びにしている。
なるほど、その笑みの根拠はそれか。確かにひもで止めてあれば、ずり下ろすことはできない。
だが、と笑みが浮かぶ。その程度でこの八意永琳を止めることが出来ると思うなど、笑止千万である。
「疾ッ!」
廊下の半ばで足に力を込め、一足飛びにてゐの眼前に迫る。その笑みをいつまで浮かべていられるか見ものだ。
両足を大きく前後に開き、右手はてゐの腰に添え、左手を素早く、ジャブのように繰り出してちょうちょ結びとなっている腰ひもの一端を掴んだ。そして思い切り左手を引いて腰ひもを抜き取り、それとほぼ同時に右手を下にずらしてドロワーズを乱暴に掴む。
「グラビガッ!」
重力の助けをかりて、足首まで一気に引きずり下ろす。
……ああ、なんということだろう。今まで毛糸のパンツやジャージを履いていたことはあったが、当然その下にはパンツを履いていた。
しかし今回はドロワーズ。下にパンツを履くような代物ではない。
そして、現在の私の状況。右手を床近くまで下げているおかげで頭部がてゐの腰の高さにある。
つまりはそう、その、アレだ。目の前に、つるつるで、茂みに覆われてもいない(規制規制規制)
「オゥ……」
感嘆のため息を漏らした私を誰が責められようか。
そのあまりに神々しい光景についうっかり手を合せて拝んでしまった私を誰が責められようか。
いや、だれも責められまい。あれは一種の小宇宙だ。
「……ふぅ」
しばらく後。やめてやめてとぐりぐり私の頭を押したり叩いたりして抵抗するてゐを無視して色々ふがふが堪能した後。
てゐの顔を見ないように立ち上がり、彼女の脇を通り抜ける。背を向けて歩いていると視線をこちらに向けてきているのを感じたので、後ろに向かって親指を立てた。
再戦を、と。
しかしてゐは鼻を啜る音と共にとたとた駆けて行ってしまった。ここで盛大に泣きだせばポイント高いんだが、一番の古株としてのプライドが邪魔するのだろう。
難儀なことである。
そんなこんなで月例永遠亭式健康診断は終わりを迎えた。
正午辺りから始めて現在は日も暮れるかという頃。心身ともに包まれる充足感に満たされながらぼんやりと今日あったことを思い出していた。
山田の尻。井上の尻。うどんげの尻。鈴木の尻。てゐの……オウ、鼻血が。
ああ、顔のにやけが止まらない。おそらく私の顔は崩れに崩れ、なかなかお見せできないことになっているのではなかろうか。
「あ、永琳。夕ご飯は―――」
「バギクロスっ!」
しまった。
本当にしまった。
今日の出来事の整理をしていたら注意がおろそかになっていた。そのせいで背後まで近づいていた輝夜に気付かず、声をかけられると同時に厄介な癖が出た。
永琳は興奮するとついスカートめくっちゃうんだっ。
などと可愛く言って見せてもどうしようもない。天まで届けとばかりに全力で霊力まで使ってめくりあげたスカートが重力に負けて落ちてくるに従い、素晴らしい笑顔の輝夜の顔が露わになる。
ちなみに今日の輝夜はくまさんパンツであった。珍しい。面倒くさいと言って履いてないことも多いのだが。
くまさんパンツを脳内輝夜フォルダに保存しつつ、輝夜の言葉を待つ。脳内で展開されている様相とは全く別に、眼前に厳然と広がる状況はまさしく修羅場であった。
「永琳」
「はい」
「いっぺん死んでみる?」
「はい」
そしてリザレクションであった。
End.
テンションたかいw
うどんげェ・・
い い ぞ も っ と や れ
そして芸人として教育されてしまったうどんげには謝ってほしいwww
やはり天才とバカは紙一重なのか
悲劇やなw