地底にある地霊殿、外はぬるま湯の冷たさに肌につく湿り気をまとっているが、地霊殿の中は核融合炉の熱の床暖効果で暖かく湿っている。
火車のお燐は仕事の報告のためにさとりの元へ向かっていた。お燐は気分が高まっていた。仕事の区切りがついたことだし、何よりご褒美がもらえるかもしれないからだ。
その中で、さとりのあっちやこっちの姿を想像していた。どっちなのか、具体的にはさとりにしか分からない。というか分かったって意味がない。
「あれ、さとり様。なぜここに?」
そんな想像をしていたときにさとりとエンカウントしてしまった。先ほどの想像はバブル崩壊している。
第三の目で全てを見通す覚妖怪の前、と言うよりも愛する主人の前で、その主人の恥ずかしい姿を想像しているのは、従者失格だろうと思ったからである。従者じゃないけど。
「ああ、お燐。ちょうど今、こいしを探していてね。お燐は何か知らない?」
「ええっと、私は知りません。あ、私もこいし様を探すの、手伝いますか?」
「助かるわ。じゃあ一緒に行きましょう」
お燐は安堵した。前にもあっちのことを考えていた時に、さとりとばったり会った時があったのだ。
その時はさとりの顔がほんのちょっとだけ赤くなった気もしたが、特に叱られるということはなかった。今回も前と同じように叱ることはないのだろうと思った。
この後はさとりとお燐は互いに黙りあって一緒に歩いていた。別にツンデレカップとかではない。お燐も、さすがにさっきのことが読まれていることを想像すると話しかけられなかった。
そのことも読まれているんじゃないかと思って思考がループするほど歩いた後、目的の人がいっこうに見つからないことに不満だったのか、さとりが口を開いた。
「お燐、ここからは私だけで探すわ」
「え、いいのですか?」
「仕事、あるのでしょう? 後でよろしく頼むわ」
「は、はい。分かりました」
さとりはお燐の返事を聞いて、すぐに駆け足で廊下を渡っていった。仕事はもう終わっているんだけどなあ、お燐はこんな感想を抱いた。
そしてさとりを見届けてから数秒後、仕事の結果をさとりへ報告に行くはずだったのに、さとりと今まで会っていたのに、さとりを見失ったことに気付き直した。
「さとり様ー! 怨霊の管理での定期ほうこくぅ……」
「あれ、お燐じゃない。なんでこんなところにいるの?」
時すでに遅しとは思いつつも声を発したところに、後ろから声が聞こえ、ばっと振り返ってみるとそこにはこいしが立っていた。お燐の様子を不思議そうに見ている。
すれ違いというのはなんと恐ろしいことか。お燐は自分がさらなる疲労感に包まれていくの感じた。こいしはそのオーラを感じ取ったのかひどく慌て始めた。
「だ、大丈夫? なんだかすっごく疲れているみたいだけど」
「いえいえ、私の心配なんて……あ、そういえばさとり様が探していましたよ。こいし様のこと」
「あれ? おかしいなぁ。あ、そっか。ありがと、お燐。じゃあね」
「あ、こいし様ー」
かくして猫は置いてけぼりを食らった。お燐は仕事が終わったばっかりであんなにも気分が高まっていたのに、仕事を終わらす直前のように疲れていた。お燐は、とりあえず報告を優先してさとりのほうを探すことにした。
そして歩き疲れた頃、ちょうどさとりの自室の前に着いた。廊下中や部屋中を探しても探しても、さとりと再会することはなかったのである。
唯一探していないのはこの部屋のみである。お燐は、ここにも居なかったらどうしようかと思いながら扉を開いた。
「あれ、お燐じゃない。さっきから地霊殿を歩き回っているみたいだけど、どうしたの?」
扉を開いた先に居たのはさとりではなく、こいしだった。さとりの椅子に、あたかも自分がここを治めている者だと言い張るような感じで座っている。
「さとり様がどこにいるのか探しているんですよ。自分の部屋にいるかなと思ったんですが、こいし様でしたね」
「あら、私じゃ悪いのかしら。お燐、私は悲しいわ」
「そういう意味にはなりません」
今日のこいしはどこか様子がおかしいようだ。こんなやり取りはさとり様としかしないものである。たぶん、こいし様は無意識にさとり様のまねをしているのだろう、そう結論づけた。
こいしは明らかにオーバーリアクションで悲しみを表現しており、何となく話しかけづらい。そう言って出て行こうとすると、何かをされるかもしれない。行動をしようともできない状態である。
「あとはここ……あ、居た居た」
そんな時に現れたのは、我らが主人、さとりである。お燐はここぞという場面で来てくれる勇者のような存在だと思った。
それと同時に敬語を使っていないことに違和感を持ったが、さとりは妹を見つけたとき、安心するせいか素の口調になることが多いのでお燐は特に気にしなかった。
「フフフ、この席は私のだー」
「ったく、何をやっているんだか……。とりあえず、もう十分なんだから、かわりなさい」
「はいはーい。見つかっちゃしゃあないね!」
こいしがさとりの机から離れて、さとりがその机へ向かって行った。二人は互いにハイタッチをして、くるんと180度回転して、こいしは外へ、さとりは席についた。
お燐は、さとり様が席に着くのは問題ないし、こいし様も外に行く様子だったのだが、何か変だなと思った。間違い探しの最後の一個が見つかりそうで見つからないような違和感。
「さて、お遊びも終わったことですし、お燐、疲れは大丈夫かしら?」
「え、あ、はい」
「『今日は妙な日だなあ』ですか、まあ一理あると思いますよ。それで、怨霊管理の定期報告をお願いしますね」
「あ、分かりました……」
この後は平凡な地霊殿に戻った。ついでに、お燐はちゃんとご褒美をもらえたと追記しておく。
火車のお燐は仕事の報告のためにさとりの元へ向かっていた。お燐は気分が高まっていた。仕事の区切りがついたことだし、何よりご褒美がもらえるかもしれないからだ。
その中で、さとりのあっちやこっちの姿を想像していた。どっちなのか、具体的にはさとりにしか分からない。というか分かったって意味がない。
「あれ、さとり様。なぜここに?」
そんな想像をしていたときにさとりとエンカウントしてしまった。先ほどの想像はバブル崩壊している。
第三の目で全てを見通す覚妖怪の前、と言うよりも愛する主人の前で、その主人の恥ずかしい姿を想像しているのは、従者失格だろうと思ったからである。従者じゃないけど。
「ああ、お燐。ちょうど今、こいしを探していてね。お燐は何か知らない?」
「ええっと、私は知りません。あ、私もこいし様を探すの、手伝いますか?」
「助かるわ。じゃあ一緒に行きましょう」
お燐は安堵した。前にもあっちのことを考えていた時に、さとりとばったり会った時があったのだ。
その時はさとりの顔がほんのちょっとだけ赤くなった気もしたが、特に叱られるということはなかった。今回も前と同じように叱ることはないのだろうと思った。
この後はさとりとお燐は互いに黙りあって一緒に歩いていた。別にツンデレカップとかではない。お燐も、さすがにさっきのことが読まれていることを想像すると話しかけられなかった。
そのことも読まれているんじゃないかと思って思考がループするほど歩いた後、目的の人がいっこうに見つからないことに不満だったのか、さとりが口を開いた。
「お燐、ここからは私だけで探すわ」
「え、いいのですか?」
「仕事、あるのでしょう? 後でよろしく頼むわ」
「は、はい。分かりました」
さとりはお燐の返事を聞いて、すぐに駆け足で廊下を渡っていった。仕事はもう終わっているんだけどなあ、お燐はこんな感想を抱いた。
そしてさとりを見届けてから数秒後、仕事の結果をさとりへ報告に行くはずだったのに、さとりと今まで会っていたのに、さとりを見失ったことに気付き直した。
「さとり様ー! 怨霊の管理での定期ほうこくぅ……」
「あれ、お燐じゃない。なんでこんなところにいるの?」
時すでに遅しとは思いつつも声を発したところに、後ろから声が聞こえ、ばっと振り返ってみるとそこにはこいしが立っていた。お燐の様子を不思議そうに見ている。
すれ違いというのはなんと恐ろしいことか。お燐は自分がさらなる疲労感に包まれていくの感じた。こいしはそのオーラを感じ取ったのかひどく慌て始めた。
「だ、大丈夫? なんだかすっごく疲れているみたいだけど」
「いえいえ、私の心配なんて……あ、そういえばさとり様が探していましたよ。こいし様のこと」
「あれ? おかしいなぁ。あ、そっか。ありがと、お燐。じゃあね」
「あ、こいし様ー」
かくして猫は置いてけぼりを食らった。お燐は仕事が終わったばっかりであんなにも気分が高まっていたのに、仕事を終わらす直前のように疲れていた。お燐は、とりあえず報告を優先してさとりのほうを探すことにした。
そして歩き疲れた頃、ちょうどさとりの自室の前に着いた。廊下中や部屋中を探しても探しても、さとりと再会することはなかったのである。
唯一探していないのはこの部屋のみである。お燐は、ここにも居なかったらどうしようかと思いながら扉を開いた。
「あれ、お燐じゃない。さっきから地霊殿を歩き回っているみたいだけど、どうしたの?」
扉を開いた先に居たのはさとりではなく、こいしだった。さとりの椅子に、あたかも自分がここを治めている者だと言い張るような感じで座っている。
「さとり様がどこにいるのか探しているんですよ。自分の部屋にいるかなと思ったんですが、こいし様でしたね」
「あら、私じゃ悪いのかしら。お燐、私は悲しいわ」
「そういう意味にはなりません」
今日のこいしはどこか様子がおかしいようだ。こんなやり取りはさとり様としかしないものである。たぶん、こいし様は無意識にさとり様のまねをしているのだろう、そう結論づけた。
こいしは明らかにオーバーリアクションで悲しみを表現しており、何となく話しかけづらい。そう言って出て行こうとすると、何かをされるかもしれない。行動をしようともできない状態である。
「あとはここ……あ、居た居た」
そんな時に現れたのは、我らが主人、さとりである。お燐はここぞという場面で来てくれる勇者のような存在だと思った。
それと同時に敬語を使っていないことに違和感を持ったが、さとりは妹を見つけたとき、安心するせいか素の口調になることが多いのでお燐は特に気にしなかった。
「フフフ、この席は私のだー」
「ったく、何をやっているんだか……。とりあえず、もう十分なんだから、かわりなさい」
「はいはーい。見つかっちゃしゃあないね!」
こいしがさとりの机から離れて、さとりがその机へ向かって行った。二人は互いにハイタッチをして、くるんと180度回転して、こいしは外へ、さとりは席についた。
お燐は、さとり様が席に着くのは問題ないし、こいし様も外に行く様子だったのだが、何か変だなと思った。間違い探しの最後の一個が見つかりそうで見つからないような違和感。
「さて、お遊びも終わったことですし、お燐、疲れは大丈夫かしら?」
「え、あ、はい」
「『今日は妙な日だなあ』ですか、まあ一理あると思いますよ。それで、怨霊管理の定期報告をお願いしますね」
「あ、分かりました……」
この後は平凡な地霊殿に戻った。ついでに、お燐はちゃんとご褒美をもらえたと追記しておく。