~にとり&はたての場合~
「ふぅー……」
多くの人妖や神までもが入り乱れる夜、楽しげに笑う声が博麗神社に響く。
わいわいがやがやと騒がしい宴会の輪から外れ、胡坐をかいて木に背を預けていた。こうやって大勢で大騒ぎすることは、嫌いでは無いが得意でも無かった。やや人見知りな私には遠目に眺めて、楽しそうな様子を見るだけで充分。私にとっては、それだけでお酒が美味しくなる。
ふと、いつもの連中は何をしているのかと探してしまう。文は……あぁ、霊夢のところか。ここからじゃ会話は聴き取れないけど、何かからかったりでもしたのだろう。全力で回し蹴りを喰らって、その場にぷるぷると震えながら突っ伏してる。文らしいっちゃ、文らしいな。椛は……早苗の方か。眼を輝かせている早苗に尻尾を触られて、怒るのを堪えているのがよく分かる。いちいち怒るのも大人気ないとか思っているんだろうな、椛のことだし。
そこで気付く。はたてが居ない。あれ、珍しくはたても一緒に来ていたと思うんだけど、一体何処に――
「にーとりっ!」
「わひゃぁっ!?」
「おーおー予想以上に驚いてくれたね。あはは」
び、びっくりした。いつの間にやら、はたてが背後に居た。にっこにこと良い笑顔で、お酒の瓶を片手に持ちながら。
探すのに夢中になってて、気が付かなかった。
ぽかんとしていると、はたてはよっこらしょっとと何やら親父臭いことを言いながら、私の真横に腰を下ろした。なんというか、近い。
「どうしたのさ? こんな離れたところに来て」
「その台詞、そっくりそのまま返すわよ」
「……私はちょっと疲れちゃったからね、休憩さ」
「そう、それじゃあ私もそういうことで」
「いや、そんな明らかに嘘な理由を述べられても。何? もしかして、あんまり楽しく無かった?」
「いんや、楽しいわよ? 普段ほっとんど接点無い連中ばっかりだけどさ、みんな馬鹿みたいに賑やかで、それでいて楽しいやつらばっかりだと思うわ」
「そう、それなら良かったよ」
あまり山から出ないはたてにとっては、面白く無かったのかなと思ったけど、それなら本当に良かった。
はたては笑いながら、楽しそうに語る。恐れられているけど鬼も案外気さくで話すと楽しいとか、心を読まれることは思ったよりも嫌なことでは無かったとか、妙な宗教に誘われたとか。山に居るだけじゃ決して分からないこと、知り合えない者たちと交流出来て少し興奮しているように思える。
そもそも本来、山から外へと出る天狗なんてものは、変わり者の証だ。それこそ、文くらいのものだろう。だけど、今でははたても少しずつ変わって来ている。少なくとも、私から見たらそう見える。
なんて言うのかな、生き生きしてるって言葉が当て嵌まる。そんなはたてを見ていると、はたての話を聞いていると、私も楽しくなる。けれど、それと同時に少しだけ、胸がひんやりとする。すーすーする。
ふと、はたてに「呑まないの?」と訊かれ、そこで初めて自分の持っていたコップの中身が空になっていたことに気付く。
「あぁ、気付かなかった。少し、ぼーっとしてたかな」
「酔っちゃったわけ? にとりって、お酒に弱かったっけ?」
「いや、そこそこ強い方かな。酔ったわけじゃないよ、本当、ただぼぅっとしちゃってただけでさ」
心配そうに、私の顔を覗きこんでくる。って、ちょ、ちょ、近いから近いから! ただでさえ近いのに。
はたての両肩を両腕でぐいっと押し、大丈夫だからと告げる。別に体調が悪いわけでは無い。それは本当なんだから。
だけど、はたては納得のいっていない表情だ。
「にとりはさー何か言いたいことがあったりしたら、我慢しないでもっと言った方が良いと思うわよ。前から思ってたんだけど、にとりって変なところで遠慮しがちだし」
「あ、あはは、別に何かあったわけでもないんだけどねぇ」
「……それにさ、さっき私が話してるときだって、にとり変な顔してたし」
「へ、変な顔?」
「なんて言えばいいのかしら……嬉しそうな、けど寂しそうな、そんな複雑な表情」
「っ!?」
あぁ、そっか。さっきの胸が妙な感じだったのは、それが原因だったのか。はたてがいろんな人や妖怪と交流を広げていることに、嬉しいと思った。それと同時に、なんだか私からどんどん離れていっちゃうんじゃないかって、そんなことも思ってしまった。
はたてはたまに、こうやって鋭いから困る。
ジーッとこちらを見るはたての視線から逃れるように、俯いて深く帽子を被ることにした。このまま目が合っていたら、いろいろと心が見透かされそうだから。
「あ、こらっ! そうやって誤魔化そうとするの、にとりの悪い癖よー? ほら、ちゃんとこっち向いて」
「あーほら、はたてさ、霊夢や魔理沙のところへは行った? 以前取材したんだろう? 改めて、そのお礼とか言っておいた方が良いんじゃないかな」
「博麗の巫女の方には文がひっついてるし、魔法使いの方は別の金髪魔法使いと話し込んでるし。にとりは話逸らすの下手よねぇ。ほーら、観念しなさい!」
「わ、ちょ、ひゅ、やぁっ!?」
いきなり両頬を両手で捕えられ、ぐいっと強制的に顔を上げさせられた。目の前には、はたてのぶすーっとした表情。ジトっとした目で、見つめてくる。あ、はたてお酒臭い……じゃなくて! 近い近い吐息が感じるくらいに! ヤバイ不味い、体が熱い。この熱さは明らかに、お酒のせいじゃないだろう。
恥ずかしい。離して欲しい。けれども、金縛りにあったみたいに、何故か体が動かない。はたての瞳が、私を捕えて逃がしてくれない。
「ぁ、あの、はたて……?」
「にとり、寂しいの?」
「ひゅあっ!? な、何言ってるのさ! こんな賑やかな場所に居て、寂しいなんてそんなことは――」
「んー……さっきの私がしてた話の流れ的に、私が誰かと一緒に居るから寂しかったとか? これで私の勘違いだったら、私すっごく恥ずかしいけど」
「~っ!?」
えぇい、普段鈍い癖に、こういうときだけどこぞの赤い巫女並みの勘を働かせてっ。
「そんなわけ、ないじゃん。子どもじゃあないんだから」
「本当? さとりさん呼んできて確認しても良い?」
「やめて本当やめてくださいお願いします」
何この嘘も言えない正直に言うなんてもっと言えない、けど結果はどっちも同じな状況。それとそろそろ、頬に添えた手を離して欲しい。こっちはこんな至近距離でずっといられるほど、強い精神は持っていないんだから。
そっとはたての両手に触れ、その手を引き剥がそうとする。しかし、引き剥がせない。
「……離してくれると嬉しいかな」
「私も話してくれると嬉しいわ、正直に」
「ぅぐ……はぁ、分かった言うよ。言うけどさ、笑わないでよ?」
心を読まれるよりは、自ら言ってしまった方が良い。恥ずかしさはこちらの方が上だが、心を読まれてばれるのは惨めな気がした。
はたては真っ直ぐな目で、こちらを見つめてくる。真面目に聞こうとしてくれているんだろうけど、逆に話し辛い。
けど、なんて説明したらいいんだか。言葉にしようとすると、中々どうして難しい。
「あーえっと……そのさ」
「うん」
「……はたてが、なんか離れていっちゃう気がしてさ」
「……ばか、にとりのばーか」
「いふぁいっ!?」
頬に添えられていたはたての手が、そのまま頬をぐにゅーっと引っ張った。痛い、地味に痛い。
はたては何故か呆れたようにため息を吐きながら、そしてどこか少しだけ怒っているようにも見える。
「私はさーにとりのこと、好きだよ」
「ふぇあっ!?」
「お世話になってるってのもあるけどさーそれなりに付き合い長いしさーやっぱり気が許せるっていうか安心できる相手っていうか。あぁもう、こういうこと改めて言うの、なんか照れ臭いわねっ」
い、いや、聞いているこっちの方が恥ずかしい。
照れ臭そうに笑うはたての笑顔に、思わず魅入る。なんでこうも、この子は真っ直ぐなんだろうか。
「だからさ、その、そんな私がにとりから離れるわけないじゃん! ま、まぁ、にとりが嫌だーって言うなら、話は別だけどさぁ」
「い、いふぁじゃにゃいっ!」
嫌じゃない、と言ったのだが、相変わらず頬を引っ張ったまま離してくれないので、明らかに変な感じになってしまった。
なんだろう、ちょっぴり真面目っぽい空気だったのが、一瞬にして壊れた。
はたてが体をぷるぷると震わせて、そして耐えきれなくなったのか、お腹を抱えて笑い出した。や、やっと解放された。
「くっ、あはははは! にゃいって、にゃいって何よ! あーおかしい……」
「~っ! は、はたてのせいだろぅ! 全くもう、もうっ!」
「にはは、ごめんごめん。にとりー」
「んー?」
「これからもさ、よろしくねー」
「……ん」
軽く頷く。今は絶対はたての方を、ちゃんと見れる気がしない。
だってきっと、嬉しくて口元の緩みが抑えきれないから。
「さぁさ、にとりも呑みなって」
「そうだね、一緒に呑もうか」
~さとり&映姫の場合~
「まったくもう、さとりは意地っ張りなんですから」
「あなたのお節介には、本当もうこりごりです」
騒がしい輪の中で、小さくぽつりと愚痴を零す二人。本来さとりは、この『~博麗神社大宴会クリスマスパーティー~パターン白! 雪です!』(命名:八意永琳、上白沢慧音)に参加する気はさらさら無かった。ちなみに雪は振っていない。
クリスマスなんて関係ない。宴会なんて人の集まるところは、もっと関係無い。私は炬燵に入って蜜柑を美味しく頂く作業に入ります。といった態度のさとりに、たまには他人と交流しろと無理矢理引っ張って来たのが、映姫だった。
「どうです? たまには良いものでしょう、他者と関わるのも。先ほどの天狗、姫海棠はたてとは中々楽しそうに話せていたじゃないですか」
「えぇまぁ、さっきはそれなりに。ですが、やはり人が多いところは好んで来るべきではありませんね。多くの人の心に、酔ってしまいそうになります」
「あなたがそんなタマですか。神経図太いくせして」
「映姫に言われたくないですけどね。神経の図太さと空気の読め無さと頭の固さでは、映姫に勝てる人なんていないんじゃないですかね――げふぁっ!?」
「あぁすみません、手が滑りました」
にこっと笑顔で、さとりのお尻に回し蹴りを放った。一瞬のことだった為、いくら心が読めるさとりでも回避できるものではない。
その場に倒れかけるが、なんとか堪える。そして映姫の方を睨む。
「手じゃなくて足じゃないですか!」
「あ、そこ突っ込むんですね」
「大体閻魔様が暴力って、よろしくないと思います」
「宴会に参加している今の私は閻魔では無く、四季映姫という個人です」
「四季っていうより死期って言葉が似合いそうですよね」
「その舌引っこ抜いてあげましょうか?」
「相変わらず沸点の低いようで。器が知れますよ、映姫」
ぐぬぬ、と今にも噛みつきそうな映姫に対し、軽く鼻で笑ってやるさとり。
周りでは喧嘩か喧嘩かと煽りたてる酔っ払いたち。さとりも映姫も、人前で荒っぽいところを見せるようなタイプでは無い。だからこそ、周りがより盛り上がる。
「おやおや、何やらいつの間にか注目されちゃってますね」
「さとりのせいでしょうが」
「そうやって人に責任をなすりつけるの、映姫の悪い癖だと思います」
「私がっ! いつもっ! 人に責任をなすりつけてるような言い方っ! しないでくださいっ!」
何度も何度も鋭い正拳突きを放つ映姫だが、さっきと違い完全に集中しているさとりは紙一重でそれらをかわす。
おーいいぞやれやれーと、外野が騒ぐ。主に鬼やどこぞの魔法使いの声な気もする。その声に酔ってかそれともお酒に酔ってか、その場の空気にあてられたのか、さとりも映姫も珍しくヒートアップする。
「大体さとりはもう少し! 素直になるべきです! 誰かと関わるべきです!」
「私は周囲の人を不快にさせないために! 考えた上で、素直に誰とも極力関わらないです!」
「誰かのために、をいいわけにすることは! 愚かなことです! 結局はあなたが! 自分が傷付くのが嫌なだけでしょう!」
「っ!?」
映姫はひたすら、どこまでも真っ直ぐに正拳突き。対するさとりは、それを避けつつ隙を窺う。互いに長い付き合いだ。相手の攻撃の癖から普段の細かい仕草まで、大体把握しているレベルである。油断なんて、もってのほかである。
互いに本音のぶつかり合いだ。
「映姫に何が分かるんですか! いいんですよ、私は嫌われ者で!」
「あなたのどこが! 嫌われ者ですか!」
「事実じゃないですか!」
「あなたが嫌われ者だと言うなら! あなたのことを好きな私は! 一体なんだと言うんですか!」
「――なっ!?」
おお、と周囲がひときわざわついた。
この瞬間、さとりに乱れが生まれた。映姫のストレートな言葉によって、さとりに隙ができてしまったのだ。
そしてその隙を見逃すほど、映姫は甘くない。映姫の正拳突きがさとりの顔面に当たる――直前で、ぴたりと止まった。
「……少なくとも、私はさとりが友人であることに、誇りを持っています。胸を張って、この子は私の大切な存在であると言えます。だから、そんなに自分を卑下しないでください……」
「映姫……」
ジッと見つめ合う二人。
絡み合う視線。
伝わる思い。
そんな二人をにやつきながら眺めている周囲の者たち。
「って、何をじっくりと見てるんですかあなたたち!」
「見世物じゃあありませんよ!」
しっしと周囲を散らすさとりと映姫。ギャラリーだった者たちは、ぶーぶー言いながらも別のところへと散り、またそれぞれ騒ぎ始めた。
こうして、なんやかんやで二人きりに。
「はぁ……映姫のせいで恥をかきました」
「なっ、元はといえばさとりが!」
「やりますか?」
「ええ勿論、と言いたいところですが、もうやめておきましょう。さすがに頭が冷えました」
「ふふっ、そうですね」
互いに小さく、笑い合った。
~文と霊夢の場合~
「聖なる夜って言っても、いつもの宴会と変わりは無いわよねぇ」
「どうせこいつらは、何か適当な理由つけて騒ぎたいだけでしょう。誰が後片付けすると思ってんのよ……ったく」
ため息を吐きつつ、霊夢は宴会料理を口に運ぶ。
あははと笑いながらお酒を呑んでは注ぎ、呑んでは注ぎを繰り返しているのは文だ。鬼ほどじゃないにしろ、文も充分お酒に強い。既に酒瓶を何十本とあけているが、いつもと変わった様子さえ何一つ無い。
「あんたさぁ、そんなに呑んで本当に大丈夫なわけ?」
「私にとっちゃ、この程度は水を飲んでいるようなものよ」
「その割には、いつも宴会後は酔い潰れてるじゃない」
「あぁ、あれは後片付け手伝うの面倒臭いから、寝たふりしてるだけ」
「よし、ぶん殴ってやるから歯を食いしばれ」
「おぉ怖い。巫女はもう少し、心にゆとりを持つべきね。そんなんだからあなた、陰でみんなにあんな風に呼ばれてるのよ」
「おいこらちょっと、私なんて呼ばれてるのよ!」
「霊夢」
「普通じゃない! 何、霊夢って名前が悪いみたいな言い方!」
ふざけんな、と霊夢が針を二本ほど飛ばす。しかし、文はお酒を呑みながらも簡単にそれを避けた。そして避けたせいで、文の後ろの方に居た椛の背中にぷすぷすっと刺さった。きゃうっという小さな悲鳴が上がったが、霊夢も文も気にしない。椛の傍に居た早苗だけが、少し慌てて針を抜きながら大丈夫かと声をかけつつ尻尾をもふもふしていた。
避けられたことに、悔しそうな表情を浮かべる霊夢。
「ふふ、相変わらず巫女には速さが足りない。そんなんだから、霊夢って呼ばれるのよ」
「だから私の名前を、侮辱するための言葉みたいに使うな! 別に速さなんていらないわよ! ホーミングがあれば、当たるんだから!」
「そのホーミングの速度も遅いのであれば、私くらいになると余裕で振り切れちゃうわ。そう、霊夢に足りないのは速さ。気品や胸や知性その他もろもろ足りてないけど、一番不足している重要な要素は、速さだと思うのよ。私は常々、そう思ってる」
「身長はあんたより高いけどね。高下駄で水増ししてるあんたよりは、身長あるけどね」
「……たった数センチの差でしょうに。そういう細かいところが、あなたの性格の悪さに繋がって、なんやかんやあって貧乳に繋がってるのよ」
「あー焼き鳥美味しいわぁ。この焼き鳥本当美味しいわー」
明らかに貼り付けただけの笑顔で威圧してくる文に対し、霊夢は串ごと食べるんじゃないかという勢いで宴会料理にあった焼き鳥を食べる。文の笑顔に、ぴきっとひびが入った音がした。
霊夢は食べ終えた焼き鳥の串を、針と同じ要領で投げつける。先ほどよりは速く、さらに不意打ちのような形となった。しかし、それでも文の速度の前では足元にも及ばない。無駄無く最小限の動きで、残像を残す速度で避ける。そして避けたことにより、後ろに居た椛にまた刺さったが、これまた早苗以外誰も気にしない。
ふふん、と勝ち誇った顔をする文。
「まだ分からない? あなたの速度じゃ、私には追いつけない」
「くっ……」
「まあ逆に言えば、あなたに私の速度が加われば、それはもう完璧と言えちゃうレベルになるわけだけど」
「……何が言いたいわけ?」
「ふっ、私の言いたいことは最初から一つよ。勘の良いあなたなら、分かっていると思っていたけど、その様子だと分かっていないようね」
「言いたいことがあるなら、ハッキリと言いなさいよ。まどろこっしいのは、嫌いだわ」
「そう、ならハッキリと言わせて貰うわ。……あなたに私が必要なのは明らか! なのに、なのに……何故! 何故地底の異変以来、私を異変解決に連れていかないのよぉ!」
「……は?」
霊夢の両肩をガシッと掴み、ぐわんぐわんと大きく揺さぶる。文の言っている意味がイマイチ分からず、霊夢はぽかんとする。
そんな霊夢の様子に気付いていないのか、文は大声かつ割と必死な様子で言葉を続ける。
「地底探索の際に初めてコンビを組み、これ以上の名コンビは存在しないっていうくらい最高のコンビネーションを見せたのに! てっきり次からの異変は、霊夢の方から誘いがあると思っていたのに! まさかのピンに逆戻りってどういうこと!?」
「え、あ、はい、なんかすみません?」
「ごめんで済んだら鴉天狗はいらないんですよ! 私がまるで恋する少女かのように、お誘いまだかなー私を頼って来ないかなーってわくわくどきどき胸をときめかせていたのに、あなたはひゃっほう宝船だ奪えーとか神霊が集まって星空見たいだわーとか! 期待を裏切りまくり!」
ぎゃあぎゃあと文句を続ける文に、頭が追いついてきた霊夢は次第に「いや、私怒られてるの理不尽じゃね」と思い始めた。
そして両肩に置かれた文の手を弾き、やかましいと一喝する。
「えぇい鬱陶しい! 何よそれ、私悪く無いじゃない! 大体ねぇ言わせて貰うけど、あんたと組んだときのやり辛さは尋常じゃなかったわよ!」
「なっ!?」
「鬼のときはであえであえーって喧しいし、普段ゆっくりなスピードの私にはあんたの速度は扱い辛いし、それにあんたあのとき私を利用したいだけーって魂胆が丸見えだったじゃない!」
「うぐっ……け、けど! 霊撃は強力だったでしょう?」
「う、まぁそれは認めるけど……だからってそれだけで、もう一度あんたと組みたいって思えるわけじゃあないわよ」
「そ、そんな……せめて、せめてあと一回! あと一回で良いから私を使ってみて!」
「使うとか言うな、なんか気持ち悪い」
「お願いだからあと一回、私を使ってみてよ! 好きに使ってくれて構わないから! たった一回使ったくらいで、捨てないで……っ!」
「わざとでしょ、あんた!? ねぇわざとでしょ!?」
周囲から誤解を招くだろうが、と霊夢が止めようとする。だが、文は自分を使ってくれと言うのをやめない。
あまりにも必死すぎて、それが霊夢からすれば不思議でならない。文ならば、勝手に一人で異変調査くらいしても良いものだ。それこそ好きにすれば良いだろう。わざわざ組む必要性が、霊夢には感じられなかった。
「文、あんたさぁ、異変なら一人で行けば良いじゃない。もしくは魔理沙とか、他にも異変解決に乗り出しているやつなんて毎回誰かしら居るんだから、そいつらにすれば良いじゃない。なんで私なわけ?」
「そりゃあ霊夢と一緒が一番だからに決まってるじゃないのよ」
「……いや、意味がよく分からないんだけど」
「いいわよ、別に分からなくて。とにかく、私には霊夢が必要なの」
「私にあんたが必要とかいう話じゃなかったっけ? なんか逆になってない? いやもう、なんかどうでもいいわ。分かった分かった、とりあえず次の異変か何かがあったときは、あんたを連れてけば良いってことね」
「連れて行ってくれると!?」
「……確実な約束はできないけどね。例えば次異変起こすのが、あんたたち天狗たちの場合とかは無理だし」
「ん、約束よ? 嘘吐いたら、針千本飲ませはしないけど、代わりにあることないこと記事にするからね?」
「タチ悪いなこいつ!?」
「あはは、ありがと霊夢。楽しみにしているわ」
「……面倒な約束、しちゃったかしらねぇ」
文はまるで玩具を与えられた子どものように上機嫌に、霊夢はややため息混じりに、互いにお酒をくいっと呑み干した。
~レミリアとフランドール、ときどきパチュリー稀に咲夜の場合~
「さあフラン! 今頃神社で宴会しているやつらなんかに負けないくらい、こっちだって騒いでやるわよ! 今夜はスカーレット式のパーティーってやつを見せてやるわ!」
「うん、私の部屋で騒がないでくれると嬉しいかな」
フランドールの部屋でベッドの上に立ち、何故かテンション高めのレミリア。逆にフランドールは、割と冷めた感じで椅子に座っている。
クリスマス宴会があることは、もちろん紅魔館にも連絡がいっていた。しかし、紅魔館は誰一人としてその宴には参加しなかった。
「フラン、まずは何をしましょうか。たまには一緒に一晩中、酒を呑み合ってみる? それともダーツやビリヤードでもする? なんだったら、ババ抜きとか? いっそ、かくれんぼや鬼ごっこでも?」
「なんで徐々に子ども向けになっていってるのかは、ちょっとよく分からないけど。いや別に、特別何もしなくて良いんじゃないかなぁ」
フランドール的には、おとなしく読書でもしたい。そんな気分だった。
「冷めてるわねぇ、フラン。そんなんじゃ、立派なガガにはなれないわよ」
「何さ、ガガって」
「あぁごめんなさい、レディの間違いだったわ」
「どんな間違え方さ!?」
「そんなことはどうでもいいのよ! フランに今できることは、私と遊ぶか私に遊ばれるかのどっちかなわけ!」
「うわーい鬱陶しいー。というかさ、騒ぎたいなら宴会に行けば良かったじゃん。何をわざわざ、私の部屋で騒ごうとするのかなぁ」
「妹様も案外と鈍感ね。あなたが宴会に参加できないのだから、レミィが行くわけ無いでしょう? この前言っていたわ。妹が行けないのに、姉の私が行くわけ無いだろうって」
「わわっ!? パチュリーどっから現れたのさ!?」
「ちょっとパチェ!」
突然、机の上に正座しながら本を読んでいるパチュリーが出現した。フランドールは驚き、レミリアは怒っている。
そう、レミリアが宴会に参加しない理由はフランドールが参加しないからだった。別にフランドールが拒絶されているわけでは無い。むしろ誰でも来い大騒ぎするから、が宴会の目的のようなものである。それでもフランドールは、そんな気分が高揚するような場所に行けば、万が一があるかもしれないということで自ら参加を辞退した。そして妹が行かないのに、姉が行くわけ無いとレミリアも不参加を決めた。
別にレミリアは、紅魔館の者たちに不参加を強制したわけでは無い。行きたい者がいれば行っても構わないと言ったが、誰も参加をする者は居なかった。こうして、紅魔館自体が宴会に参加しない現在に至る。
「別に私にことはどうでもいいのよ、妹様。私が言いたいのは、せっかく妹様のことを思って行動した馬鹿で優しい不器用な姉が居るのだから、妹様もたまには甘えてみればってこと」
「べ、別にフランのことを思ってのことじゃあない! ただあんな有象無象が集まる宴会よりも、この紅魔館の方がよっぽど面白く楽しい時間を過ごせると信じているからだ!」
「……お姉様、別にそんなことしなくても良いのに。行きたかったら、今からでも行って来て良いんだよ?」
「ちがっ、あーもうっ! フラン!」
「ひゃっ!?」
とうっと声を上げ、ベッドの上から椅子に座っているフランドールへとダイブする。その勢いのまま、椅子は真後ろへと倒れ、必然的にフランドールもそれに抱き付いたままのレミリアも倒れることとなった。
パチュリーは本から視線を外しそれを見て、まったく本当に不器用なんだからと呆れたように小さく零す。
「あのね、フラン。私はフランが可哀想だからとか、そういう思いで行かなかったわけじゃあないのよ。本当は私がフランと居たいから。他の誰よりも、あなたと一緒に過ごしたいと思ったから。あなたのためとかそんなんじゃなくて、私がただフランと過ごしたいが為に、行かなかっただけ。己の欲に従っただけよ」
「お姉様……」
「フランはどう? 一人で過ごしたかった?」
「……その聞き方、ずるい。そりゃあ、お姉様と一緒に過ごせるのは……嬉しいよ」
「ん、それなら良かったわ。さあ、遊びましょう? 素敵で楽しい夜を、みんなで」
「私邪魔? 邪魔なら図書館帰るけど」
「いやいや、むしろみんなで遊ぼうよ」
「そうね。咲夜に団体で遊べる遊び道具でも用意させて――」
「呼ばれた気がして!」
「うおぉっ!?」
「ちょっ!?」
「どっから現れてるのさ!?」
ベッドの下から、ぬるっと咲夜が現れた。たくさんの遊び道具を抱えて。
その登場に、レミリアもフランドールもさすがのパチュリーまでもが、声を上げて驚いた。しかし咲夜はそれに対し、特に表情を崩すことなく淡々とその場に遊び道具を並べていく。子どもが見たら、軽くトラウマものだろう。突然ベッドの下から現れたかと思えば、無表情で道具を並べるのだから。
「トランプ、人生ゲーム、麻雀一式、チェス、オセロ、新聞紙ブレード、その他もろもろ準備は済んでおりますわ」
「……咲夜、いつから居たの?」
「お嬢様が、さあフランと叫んだところ辺りからですね」
「最初からだよねそれ!?」
「まぁそれは良いじゃないですか、過ぎ去った過去のことですし気にしてはいけません。それよりもせっかくみんなで遊ぶのなら、美鈴や小悪魔、妖精メイドたちも呼んで来ましょうか?」
「私の部屋に集めるとすると、ちょっと窮屈じゃない?」
「なら私の図書館に移動する? 広さには申し分ないと思うけど」
「お、良いなパチェ! よし、そっちで遊ぼう! いいか、罰ゲームありだからな? どのゲームでも負けた者から、一枚ずつ脱いでいく!」
「仕方ないわね……」
「いやいやパチュリー、まだゲームしてすらないからね!? 何無駄に脱ごうとしてるの!?」
「私はみんなを集めて来ますわ。お嬢様たちは先に図書館へ向かっていて下さい」
「あぁ、頼むよ。ふふ、騒がしい夜になりそうね!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ声が、紅魔館中に響き渡った。
~ヤマメとパルスィの場合~
「うぅ、寒い寒い! こりゃ寒い!」
体を震わせて自宅へと向かうのは、ヤマメだ。地底の冬は、中々厳しいものがある。ヤマメは寒さには弱く、冬はなるべく布団にくるまっていたいと思うタイプだ。特に今日は、一段と体が冷えていた。
それもそのはずで、格好が膝にかかるか際どいくらいの長さの赤いスカート、上も同様に赤を基調とし所々に白が混じった服、そして頭にはこれまた赤い帽子。つまりは俗に言う、サンタクロースの衣装だった。
地底のアイドルと名高いヤマメに、旧都でサンタの格好をしてプレゼントを配ってくれないかと依頼があった。少し悩んだが、報酬も出るとのことでヤマメはそれを了承した。お祭ごとが好きな旧都、それはもう大いに盛り上がった。しかし、長時間その寒い格好は中々に堪えた。お礼にとお酒を瓶で数本、さらにおまけに衣装はそのままプレゼントと渡され、それらを受け取って早々と帰る。
「そりゃあそんな格好してたら、寒いに決まってるでしょうに。ばっかじゃないの?」
「ふぇ? お、おぉっ? パルスィ!」
ヤマメの自宅の前に、パルスィが立っていた。ヤマメと違って、マフラーや手袋やら、充分に温かそうな格好をしている。
ヤマメは一瞬、何故ここにと思った。が、そういえば夜に会う約束してたんだった、と思い出す。忙しさや寒さからか、すっかり頭から抜けていた。ヤマメのそんな様子に気付いたのだろう、パルスィは呆れたようにため息を零した。寒さのせいで、その吐く息は雪のように白い。
「はぁ、約束をした私が馬鹿だったわ」
「ちょ、ちょーっと抜けてただけだよぉ。え、えへへ――へぶちっ!?」
引き攣った笑みを浮かべるヤマメの顔面に、紙袋が飛んできた。パルスィが投げたものだ。全く予想もしていなかった衝撃に、ヤマメは倒れそうになるのをなんとか堪える。そして、その紙袋を落とさないよう、しっかりと抱えた。
何これ、と首を傾げるヤマメに、パルスィは何も言わない。黙って開けろ、ということだろう。それを察したヤマメが袋の中を覗くと、そこには茶色のマフラーが入っていた。ヤマメは思わず、わぁっと声が漏れる。
「え、な、何これっ?」
「マフラー」
「それは見れば分かるよっ! そうじゃなくて、えっ? もしかして、その、クリスマスプレゼントー的な?」
「……まぁね、あんた寒がりだし。せっかくだもの」
「うわーうわー! うっわ、全然予想してなかった! 何このサプライズ! くぅ~……パルスィありがとー!」
「さて、寒いから中に入りましょうか」
「愛が足りないっ!?」
わぁいと抱き付こうと飛んできたヤマメを、完全に見切った動きでするりとかわす。ちぇーと残念そうにしながらも、寒いことを思い出し、ヤマメもささっと家の中へと入ることにした。
部屋に行き、とりあえず適当に座ることに。ヤマメはパルスィの座った場所から、人一人分くらいのスペースをあけて横に座った。寒い寒いと言いつつ、部屋に何か暖房器具があるわけでもない。いつもはすぐ布団にゴーなのだが、今はパルスィという客がいるため、それはできなかった。
「いやぁごめんね、パルスィ。私はパルスィに何も用意してなくて……」
「別に良いわよ、見返りなんて求めて無いし。私がしたいと思ったから、しただけだから。それにあえて言うなら、ヤマメのそんな姿が見れたってことで充分な見返りかしらね」
「えっ?」
ヤマメは改めて、自分の今の格好を見直す。いつものジャンパースカートと違い、やや短めのスカートだったり派手な色だったり。明らかに、いつもの自分と違いすぎた。
そのことを自覚した瞬間、ヤマメは妙な汗が出てくるのを感じた。この格好変じゃないか似合って無かったんじゃないか、パルスィにそんなことを思われたらどうしよう。そんな思いが頭の中を、ぐるぐると駆け巡る。
少しずつ、背を丸め顔も俯き気味になっていくヤマメ。そんなヤマメを見て、パルスィは察した。
「あぁ、別に変とかそういうのじゃないわよ? むしろ似合ってるし、可愛い。いや、まぁ可愛いのは元からだけど。いつもより魅力的? うん、その言葉がしっくりくるわ。今のヤマメ、とっても魅力的よ? あぁ妬ましい」
「~っ!? ぅあー……」
「何よ、情けない声上げて」
「パルスィが悪い」
「はぁ?」
変と言われるのも嫌だったけど、褒められるのはそれはそれで恥ずかしさがあった。羞恥やら嬉しさやらで、ヤマメはきゅぅ~っと体が熱くなった。
なんとかして話題を逸らしたいヤマメは、わざとらしく声を上げる。
「そ、そういえばさ! パルスィは地上の宴会、行かなくて良かったの?」
「私がそういうの、苦手だって知ってるでしょうに。勇儀に強制参加させられそうになったけど、キスメを生贄にしつつ私はヤマメと用事があるからって断ったわ」
「おぉキスメ可哀想に……。そういえばさとりんも、なんか誰かに強制参加させられてたよね」
「なんやかんやでキスメも宴会は好きだし、大丈夫よ。あぁ後、さとりを連れて行ったアレ、閻魔でしょ。さとりがあんなに慌ててるの、滅多に見れないから面白かったわ」
「さとりんもパルスィと一緒で、あぁいうの苦手だもんねー」
そういうあんたはさ、とパルスィが言う。
「行かなくて良かったわけ? あんた、勇儀と同じくらいこういうの大好きじゃない?」
「せっかくパルスィからお誘いがあったんだ。それならパルスィの方を優先するに、決まってるじゃん」
「あーそっか、私だもんね、この日に約束取り付けたの。なんていうか、ごめん」
「いやいやいや、私はパルスィに誘われてすっごく嬉しかったし! 確かに宴会で騒ぎながらお酒を飲むのも好きだけどさ、こうしてパルスィと二人っきりでなんてことない会話をするだけの時間の方が、私は大好きだよ?」
にへらっと笑いながら言うヤマメに、パルスィは一瞬面食らう。しかし、すぐに噴き出し、くすくすと笑いだす。
「くくっ……あんた、よくそんな恥ずかしい台詞、さらっと言えるわねぇ」
「あ、ひっどーい! 本心からの純粋な言葉なのにー!」
「じゃあ純粋にあんたという存在そのものが恥ずかしい存在なわけね」
「どういう理屈でそうなるの!?」
「冗談よ。うん、私ヤマメのそういうところ、好きよ」
「なっ!? ぱ、パルスィの方がさらっとそうやって、恥ずかしいこと言うよねっ!」
「あら酷い、本心からの言葉なのにねぇ」
「うぐー! あぁもう、そうだ呑もう! お礼にって、お酒貰ってきたんだ!」
「へぇ、良いわねぇ」
「酔い潰れたら面倒見てね!」
「はいはい」
それじゃあ、とヤマメが言った後、二人の「かんぱーい!」の声が響いた。
そして続けて「メリークリスマス」と。
それはそうと、早苗さんと椛の話がないようですが…(チラッ
しかし貴方のあやれいむは甘くて素晴らしいですな。
出来ればお正月にこいさとと言う名のお年玉が欲しいです!
その中でもにとはた、ヤマパルが好きだな。