12月24日、午後10時。
魔理沙は向かい側の壁に掛かる時計を睨みながら黙々と蜜柑を剥いていた。剥いた端から霊夢に食べられていることには気づいていないようだ。
あまりに反応がないので霊夢が口を開いた。
「さっきから何なのよ」
「今年こそは“奴”の姿を見てやるんだ」
「は?」
「毎年くる“あいつ”だよ! サンタだよ!」
魔理沙の表情は真剣そのもので、霊夢は吹き出しそうになるのを堪えながら蜜柑を飲み込んだ。
「そうなの。がんばって」
「言われなくても」
次の蜜柑に手を伸ばしながら、魔理沙は長針が動くのを見つめていた。
午後11時。
重い瞼に勝ったり負けたりしながら、魔理沙はまだ粘っていた。霊夢はお茶を啜りながらぼうっとしているが、別段眠くはないようだ。
魔理沙の眠気はピークに達していた。先程から何度も炬燵の天板に頭をぶつけそうになっている。
「横になったら?」
「んー……」
一時間前のやる気はどこへいったのか。もぞもぞと炬燵布団に潜り込み、帽子の側に頭をおいて、穏やかな寝息をたて始めた。
頬杖をついて寝顔を眺めながら、霊夢はちらと時計を見遣った。
もうじきイヴが終わる。
12月25日、午前0時。
音もなく障子が開けられて、アリスが部屋に入ってきた。
「あら、ダメだったのね」
「今年は結構粘ってたんだけどね」
障子の方を向いて眠る魔理沙の頭を撫でて、アリスは霊夢の隣に腰を下ろした。
「マフラーでよかった?」
「あったかいなら何でもいいわ」
「そう言うと思った」
手に持っていたきちんと包装した小箱を、霊夢の分は炬燵の上に、魔理沙の分は帽子の側に置いた。その間に霊夢は伏せていた湯呑みに淹れたてのお茶を注いでアリスの前に出した。
「来年はどうしようかなぁ」
「来年もやるの?」
「もちろん」
「優しいサンタね」
「知らないの? サンタは優しいものなのよ」
笑って、アリスは湯呑みを傾け、ほうと溜息を吐いた。それにふっと笑って、霊夢は自分の湯呑みにもお茶を注いだ。
魔理沙が毎年律儀にやって来る“サンタ”の正体を知るのは、当分先になりそうだ。
この三人は年越しも一緒に過ごしそうw
魔理沙はそのうちクッキーの味で、ピーンと来そうな気もしますね。