……何だか、今、私、変だ。
今、私は早苗と一緒にいつものように神社の境内を掃除している。
雪が降り積もって、真っ白なその世界。
彼女の姿を見ていると、何だか、頭がぽーっとなってくる。
……頬が熱い。
これ……そう、覚えてる。
私が初めて……あの子のことが、『好き』ってわかった、あの時と同じ……。
……なんで今更?
だって、そんなの当たり前で……わかりきってることなのに……。
……何かが違う。彼女の何かが違うから、それが、私をひきつけてる。きっと、そう。
じゃあ……何?
……どうしよう。
何だか、わたし、さっきからずっと霊夢さんに見られてる……。
いつもと同じように、笑顔を返しているんだけど……ごまかしきれない感じ。
もしかして……気づいたのかな……? 今のわたし……。
ううん、そんなはずない。いくら霊夢さんが勘の鋭い人だからって、絶対にわかるわけない……。だって、隠してるんだから……。
だけど……そうじゃなかったら? もし、気づいているんだとしたら……?
わたし……どうしたらいいのかな? 言ったほうがいいのかな?
それを言ったら、霊夢さんは……どう、思う……のかな?
……胸が熱い。心臓がうるさい。
これはきっと、恥ずかしさとか、そういうものの裏にある……不安のせい。
……大丈夫。大丈夫よ、早苗。
だって、わたしと霊夢さん、お互い、好きなんだから。
これくらいのことで……。
「……ね、ねぇ、早苗?」
――きた。
「その……ね。
何か変なこと聞くんだけど……今日、いつもと違う?
化粧とかしてるわけじゃないよね? 髪型も……いつもと一緒だし。
あはは……おかしいね。何かさ、その……気になっちゃって」
とくん、とくん、と鼓動が脈を打っている。
わたしは一度、大きく息を吸って、霊夢さんに向き直る。
「……その、霊夢さん。
あの……変な風に思わないでくださいね? その……これ、たまたまで……」
「う、うん……」
そのまま、二人の間で流れる沈黙。
いつの間にか、辺りの風も止まっている。
きんと冷えた空気の中、わたしは、大きく声を上げて、言った。
「わたし、今日、ノーブラなんですぅぅぅぅっ!」
「早苗さんのノーブラげっとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「博麗秘奥義『博麗式夢想封印』んんんんんっ!!」
「守矢秘奥義『東風谷式グレイソーマタージ』っ!!」
その瞬間、どこからともなく湧いて出た一匹の獣(と書いてあややと読む)は、私の『博麗式夢想封印』(鋭角45度で抉るように打ち込むリバーブロー)と早苗の『東風谷式グレイソーマタージ』(首を刈り取るような鋭い右ハイキック)の直撃を受け、ロープに囲まれた四角いジャングルの中に沈んでいった。
「……で、何それどういうこと」
「サイズがないんですっ!」
どんっ、ぶるんっ。
テーブル叩く早苗の腕の動きにあわせて、その巨乳が上下にバウンドする。
「……ずっと、騙し騙しで使ってきたんですけど、今朝になって、もう息苦しくてブラがつけられなくて……」
むにゅっ、とテーブルの上に乗っかる乳枕。
でかい。
でけぇ。
腹立つくらいにおっぱいでかい。
――彼女、東風谷早苗は、私と一つか二つ年上に過ぎないくせに、その胸のサイズは、私が逆立ちどころか零距離喰らいボムしても勝てないくらいにあるのでした。
まず、端的に言って、でかい。
それがどれくらいでかいかと言うと、私の手じゃ、とても収まりきらないくらい。
思いっきり手を広げて包んでみても、肉がはみ出る、あふれる、んで手が埋まる。
それでもってものすごい張りと弾力でもって、私の手を弾き返してくる。ぐっと握っても、数秒で元のまん丸ロケットおっぱいにあっさり元通り。
もちろん、顔なんて埋めようものなら100%窒息する。
……何で知ってるかって? うるさいほっとけ。
「新しいのを買おうと思ったって、幻想郷に、そもそも女性用下着なんてほとんど売ってないじゃないですか」
「いや、そりゃそうだけどさ……」
「ず~っと困ってたんですよ……」
「じゃあ、誰かにお下がりもらえばいいじゃない」
まぁ、直に肌に触れるものを他人からのお下がりで、というのはちょっと抵抗あるけれど。
しかし、ショーツよりはマシだ。ついでに言えば、切羽詰っているのだから、それくらいは、まぁ、何とか。
「わたしと同じくらいのサイズの人、いないじゃないですか」
言われて、考える。
特に、早苗クラスででかい奴。
美鈴。
永琳。
小町。
空……は、あいつ下着つけてないから関係なし。
一輪。
白蓮。
青娥。
ああ、確かに。
こいつらもでけぇことはでけぇけど、確かに早苗とはサイズが合わなさそう。っつーか、早苗をこいつらと並べると『まだまだ小娘ね』って言いたくなるレベル。
……あ、何か今、無性に幻想郷壊滅させたくなった。
「自分で作るしかないのかなぁ……」
「作れるもんなの?」
「まぁ、極論を言ってしまえば、布と形態を保持するための金具とかワイヤーだから……。作ろうと思えば作れるんでしょうけど」
「っつーかさ、アリスとか咲夜とかもそうなんだけど、そういうの使ってる奴ら……あんた含めて、どこから手に入れてるのよ」
「わたしは、ここに来る時に持って来ました。
アリスさんはご家族の方に買って送ってもらってるそうです。『お母さんの目じゃ全く頼りにならないから、姉の審美眼が頼りなの』って言ってましたよ」
……なるほど。そういう裏ルートがあったか。
「咲夜さんは『もらってるの』って言ってました。あの館のメイドさん達で、作れる人がいるそうです」
「じゃあ、そいつに頼めば?」
「……何か他人に頼んで下着を作ってもらうってびみょ~んな感じじゃないですか?」
ちょうどその時、冥界の庭師がくしゃみしてたような気がしたが、それは私の気のせいだろう。
まぁ、確かに、早苗の言い分もわからんことでもなかった。
というか、あんまり関係ない人に、自分のサイズを教えるのって、それだけで恥ずかしい。
「霊夢さんは……」
「……まだ必要なくて悪かったわね」
「いいえ、何を言うのです。
霊夢さんはそのくらいがちょうどいいんです。ちょうど掌サイズ。ふんわり、わたしの掌にジャストフィット!」
ぐっじょぶと親指立ててくれる早苗。
無性に殴りたい笑顔だった。
魔理沙なら、容赦なく『博麗式封魔陣』(零距離ドロップキック)を顔面に叩き込んでるところだけど、相手が早苗だから何も出来ない自分が恨めしい。
「……太ったのかなぁ」
ぷにっと自分のほっぺたつつく早苗。
……彼女で『太ってる』なら、世の中の女性の9割は『太ってる』だろう。
私より10センチくらい、背が高いくせして、体重はほとんど変わらないと言うのだから、どんな魔法を使ってるんだと思う。おまけに、胸部とお尻は私と比較にならないのにウェストはほぼ同じ……ってのも……。
「……あの、霊夢さん?」
何かもう、色々と、女としての性能全てが負けたような気がして、激しくへこんだ。
テーブルに突っ伏す私に、そっと、早苗が声をかけてくれる。
「あ~……まぁ、ははは……。うん、わかった……。
……で、どうすりゃいいの」
「どうしましょう……。
ノーブラって危険なんですよ。そりゃエロさはかなりのものだし、『つけない』『はいてない』は強烈なジャンルの雄ではありますが、気合入れても形が崩れるし……」
「小町は『は? 型崩れ? あんたら修行が足りないよ』とか言ってたけどね……」
「あの時は割りと殺意が湧きました」
誰だよ、機体の性能差が勝敗に結びつくわけじゃないとか言ったの。
ばっちりがっちり結びついてるじゃないかちくしょう。
「なもんで、早急に、新しいブラが欲しいんですが……。
……あ、だけど、霊夢さんが『つけてない』方がいいって言うなら考えますよ?」
「い、いやいやいやいや!」
それはちょっと……いや、かなり心くすぐられる提案だったけど、私は慌てて、首をぶんぶん左右に振った。
もし、早苗がそんなことになれば、あの天狗が息を吹き返す。
殴り倒した後、とりあえず雪の下に埋めてきたけど、奴の生命力は無限なのだ。そして、早苗が常日頃から、奴に狙われるというのも面白くないではないか。
「と、とりあえず、ほら。まずは……そう、紅魔館よ、紅魔館。そのメイドを頼りましょう」
「……そ、そうですね。はい」
頑張ります、とのなぜかのガッツポーズ。
両手の間で寄せられたおっぱいの、服の上からでもわかる巨大さと谷間に、私は早くも気持ちがなえていた。
……そういや、私のお母さんって、紫も羨むくらいの巨乳だったなぁ。
どうして私に遺伝しなかった……。
「お金なんて取らないわよ。
そういう時は、もっと早く頼りなさい」
「すいません、咲夜さん」
「というか、霊夢。あなたが作ってあげればいいじゃない」
「私にそんなノウハウないし」
「じゃ、ついでだから覚えていったら?」
というわけで、やってきました紅魔館では、あっさりと、早苗のブラを作ってもらえることになりました。
出迎えに出てきた咲夜は、私たちの話を聞くなり、『大変だったわね』と共感を示している。やはり同じ女性、そういう悩みは尽きないということだ。
……使ってない人間にゃわかりませんけどね。けっ。
「服飾担当の子達がいるの。こっちよ」
長く伸びる紅魔館の廊下。
横を『今日のわたしは最速よぉぉぉぉぉっ!』とモップがけしながら突っ走っていく奴がいたけれど、それは一応、見なかったことにしておく。
やがて、右手側のドアの前に立ち止まる咲夜。
ドアを『とんとん』とノックして、『失礼します』と中へ。
「あら、咲夜ちゃん……じゃなかった、メイド長」
「……はぁ」
その中には、めちゃめちゃきれいな妖精メイドが一人。
背がすらっと高くて、柔らかい笑みが特徴的。思わず『お母さん』って呼んでしまいたくなる雰囲気だ。
「どうかなさいましたか?」
「……紹介するわ。
紅魔館で、メイド達の服飾を担当するメイドよ」
「あら、お客様ですか?
初めまして。ご紹介に預かりました――」
と、おっとりと微笑み、一礼してくれる。
慌てて、私たちもぺこりと頭を下げた。相手は、たかが妖精といっても、ここまで場の『雰囲気』を作ってる相手だ。
どうにもこうにも、こちらの立場は負けてしまう。
「実はね――」
と、咲夜が彼女に事情を説明してくれる。
彼女は『ふんふん』とうなずいた後、早速、どこからともなくメジャーを取り出した。
「じゃあ、トップとアンダー、それから形状、骨格、体型のデータをもらおうかしら」
服を脱いで、と彼女。
咲夜が『失礼するわね』とドアの向こうに退出。
部屋に残るは、私と早苗と、目の前の彼女だけ。
早苗は『えーっと……』と、ちょっと恥ずかしがりながらも上着を脱いだ。
……やばい、何か変な気持ちになりそう。
真っ白、すべすべの彼女の素肌。その手に隠された、大きくて柔らかいその乳房。
……あ~。関係ないのに顔が赤くなる……。
「そうね。
じゃあ、形状とかはスケッチさせてもらうわ。サイズの測定は、霊夢さま、お願いしますね」
「へっ!?」
「見ず知らずの人に素肌に触れられるのは抵抗があるでしょう?」
くすくす笑う彼女は、私にメジャーを渡して、取り出したスケッチブックにペンを走らせていく。
……さすがは妖精。これをいいいたずらの好機と見たか。
「……あの、霊夢さん。それじゃ、お願いします」
「う、うん……」
私の視界一杯を埋め尽くす、彼女のバスト。
その見事な双丘。
つんと立った桜色の突起。
ごくりと、生唾を飲み込んでしまう。
……いやいや、いかんいかん。
落ち着け、落ち着くのよ、霊夢。これはやましい行為ではない、ただのサイズ測定なんだから……。
「んっ……」
「あっ、ご、ごめん。早苗。痛かった?」
「あ、い、いえ。大丈夫です……」
しゅるっ、とメジャーをまわして、サイズを測っていく。
そのたびに、彼女の口から漏れる小さな吐息が、私の胸を打つ。
というか心臓うるさい。寿命が短くなる。もっと静かにしろ。顔熱い。頭痛い。喉渇く!
「……サイズ、これ」
「はい、お疲れ様。
あとは体のつくりね……」
一瞬が永遠になるって意味が、何かよくわかったような気がする。
たった数分程度の身体測定。
それが、私にとって、ものすごい長い時間に感じられた。その間に、どんだけ自分の寿命は短くなったのだろう。
考えるだに恐ろしい。
「ふ~ん……なるほど……」
「……あの」
「少し、肩回りの筋肉がついてないわね。肩こりとかあるでしょう? あと、ちょっと猫背気味になってるから気をつけてね。
あとは理想的よ」
見て、ちょっと指で触れるだけで、よくそれがわかるものだ。プロってすごい。
彼女は早苗の『データ』を全て集めると、『じゃあ、服を着ていいわよ』と言ってくれる。
「どれがいいかしら?」
次に渡されるのは下着のデザイン。
色、素材、形状、その他諸々。何でも選べるのだという。
「……こんなの、オーダーメイドしたらいくらかかるか……」
「あら、メイド長が『お金は取らない』って言ったのでしょう? それなら無料よ」
「デパートの代金が懐かしい……」
これ、これ、これ、と指定をする早苗。
書いてある文字を見ても、その内容は、あんまりよくわからない。唯一わかるのは素材と色くらいだろうか。
「あら、これとかこれはいらないの?」
そこに書いてあるのは『アンダーカップ』と『オープンカップ』という文字。
「勝負下着として大好評」
「へっ? え、えーっと……どう……しようかな……」
ちらちらと、私を見る早苗。
アンダーカップ。オープンカップ。
それって、その……『カップ』があれだから、あれがこうなって、そうなるわけで……。
えっと……。
「……あ、えっと……。
い、一個くらい……あっても……いいんじゃない、かな……?」
私ももじもじしながら応えてしまう。
早苗は、『じゃあ……』と、一つ、その『勝負下着』を注文した。
彼女は『うふふ』と笑うと、
「若いっていいわねぇ」
……なんてこと言って、私と早苗にウインクをしてきたのだった。
「……なんか、無事に手に入っちゃいましたね」
「そだね……」
紅魔館を後にして。
ふわふわ空を行く私たち。
咲夜からは『またいつでもいらっしゃい』という言葉をもらっている。その時の彼女の視線が、やたらめったら、私に対して優しかったのは追求したくない。
「ま、まぁ、ほら。これで、これから何かあっても、あそこ行けばいいってわかったわけだし」
「そ、そうですね。それが一番ですね」
なんて話をして。
何だか、私たち、そろって笑顔が白々しいというか、硬直しているというか。
……しばしの沈黙。
ちょうどその時、お腹が『きゅ~』と鳴る。
そういえば、お昼ご飯、まだだった。
「……じゃあ、その、霊夢さん。
お昼ごはん食べて……その後、温泉、行きませんか?」
「あ、いいね。寒いし……」
それに、と。
早苗はつぶやいた。
「……新しいの、試してみたいし」
そのさりげない一言は、私の胸にグレイズ不可のクリティカルの一撃を叩き込んできたのでした。
今、私は早苗と一緒にいつものように神社の境内を掃除している。
雪が降り積もって、真っ白なその世界。
彼女の姿を見ていると、何だか、頭がぽーっとなってくる。
……頬が熱い。
これ……そう、覚えてる。
私が初めて……あの子のことが、『好き』ってわかった、あの時と同じ……。
……なんで今更?
だって、そんなの当たり前で……わかりきってることなのに……。
……何かが違う。彼女の何かが違うから、それが、私をひきつけてる。きっと、そう。
じゃあ……何?
……どうしよう。
何だか、わたし、さっきからずっと霊夢さんに見られてる……。
いつもと同じように、笑顔を返しているんだけど……ごまかしきれない感じ。
もしかして……気づいたのかな……? 今のわたし……。
ううん、そんなはずない。いくら霊夢さんが勘の鋭い人だからって、絶対にわかるわけない……。だって、隠してるんだから……。
だけど……そうじゃなかったら? もし、気づいているんだとしたら……?
わたし……どうしたらいいのかな? 言ったほうがいいのかな?
それを言ったら、霊夢さんは……どう、思う……のかな?
……胸が熱い。心臓がうるさい。
これはきっと、恥ずかしさとか、そういうものの裏にある……不安のせい。
……大丈夫。大丈夫よ、早苗。
だって、わたしと霊夢さん、お互い、好きなんだから。
これくらいのことで……。
「……ね、ねぇ、早苗?」
――きた。
「その……ね。
何か変なこと聞くんだけど……今日、いつもと違う?
化粧とかしてるわけじゃないよね? 髪型も……いつもと一緒だし。
あはは……おかしいね。何かさ、その……気になっちゃって」
とくん、とくん、と鼓動が脈を打っている。
わたしは一度、大きく息を吸って、霊夢さんに向き直る。
「……その、霊夢さん。
あの……変な風に思わないでくださいね? その……これ、たまたまで……」
「う、うん……」
そのまま、二人の間で流れる沈黙。
いつの間にか、辺りの風も止まっている。
きんと冷えた空気の中、わたしは、大きく声を上げて、言った。
「わたし、今日、ノーブラなんですぅぅぅぅっ!」
「早苗さんのノーブラげっとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「博麗秘奥義『博麗式夢想封印』んんんんんっ!!」
「守矢秘奥義『東風谷式グレイソーマタージ』っ!!」
その瞬間、どこからともなく湧いて出た一匹の獣(と書いてあややと読む)は、私の『博麗式夢想封印』(鋭角45度で抉るように打ち込むリバーブロー)と早苗の『東風谷式グレイソーマタージ』(首を刈り取るような鋭い右ハイキック)の直撃を受け、ロープに囲まれた四角いジャングルの中に沈んでいった。
「……で、何それどういうこと」
「サイズがないんですっ!」
どんっ、ぶるんっ。
テーブル叩く早苗の腕の動きにあわせて、その巨乳が上下にバウンドする。
「……ずっと、騙し騙しで使ってきたんですけど、今朝になって、もう息苦しくてブラがつけられなくて……」
むにゅっ、とテーブルの上に乗っかる乳枕。
でかい。
でけぇ。
腹立つくらいにおっぱいでかい。
――彼女、東風谷早苗は、私と一つか二つ年上に過ぎないくせに、その胸のサイズは、私が逆立ちどころか零距離喰らいボムしても勝てないくらいにあるのでした。
まず、端的に言って、でかい。
それがどれくらいでかいかと言うと、私の手じゃ、とても収まりきらないくらい。
思いっきり手を広げて包んでみても、肉がはみ出る、あふれる、んで手が埋まる。
それでもってものすごい張りと弾力でもって、私の手を弾き返してくる。ぐっと握っても、数秒で元のまん丸ロケットおっぱいにあっさり元通り。
もちろん、顔なんて埋めようものなら100%窒息する。
……何で知ってるかって? うるさいほっとけ。
「新しいのを買おうと思ったって、幻想郷に、そもそも女性用下着なんてほとんど売ってないじゃないですか」
「いや、そりゃそうだけどさ……」
「ず~っと困ってたんですよ……」
「じゃあ、誰かにお下がりもらえばいいじゃない」
まぁ、直に肌に触れるものを他人からのお下がりで、というのはちょっと抵抗あるけれど。
しかし、ショーツよりはマシだ。ついでに言えば、切羽詰っているのだから、それくらいは、まぁ、何とか。
「わたしと同じくらいのサイズの人、いないじゃないですか」
言われて、考える。
特に、早苗クラスででかい奴。
美鈴。
永琳。
小町。
空……は、あいつ下着つけてないから関係なし。
一輪。
白蓮。
青娥。
ああ、確かに。
こいつらもでけぇことはでけぇけど、確かに早苗とはサイズが合わなさそう。っつーか、早苗をこいつらと並べると『まだまだ小娘ね』って言いたくなるレベル。
……あ、何か今、無性に幻想郷壊滅させたくなった。
「自分で作るしかないのかなぁ……」
「作れるもんなの?」
「まぁ、極論を言ってしまえば、布と形態を保持するための金具とかワイヤーだから……。作ろうと思えば作れるんでしょうけど」
「っつーかさ、アリスとか咲夜とかもそうなんだけど、そういうの使ってる奴ら……あんた含めて、どこから手に入れてるのよ」
「わたしは、ここに来る時に持って来ました。
アリスさんはご家族の方に買って送ってもらってるそうです。『お母さんの目じゃ全く頼りにならないから、姉の審美眼が頼りなの』って言ってましたよ」
……なるほど。そういう裏ルートがあったか。
「咲夜さんは『もらってるの』って言ってました。あの館のメイドさん達で、作れる人がいるそうです」
「じゃあ、そいつに頼めば?」
「……何か他人に頼んで下着を作ってもらうってびみょ~んな感じじゃないですか?」
ちょうどその時、冥界の庭師がくしゃみしてたような気がしたが、それは私の気のせいだろう。
まぁ、確かに、早苗の言い分もわからんことでもなかった。
というか、あんまり関係ない人に、自分のサイズを教えるのって、それだけで恥ずかしい。
「霊夢さんは……」
「……まだ必要なくて悪かったわね」
「いいえ、何を言うのです。
霊夢さんはそのくらいがちょうどいいんです。ちょうど掌サイズ。ふんわり、わたしの掌にジャストフィット!」
ぐっじょぶと親指立ててくれる早苗。
無性に殴りたい笑顔だった。
魔理沙なら、容赦なく『博麗式封魔陣』(零距離ドロップキック)を顔面に叩き込んでるところだけど、相手が早苗だから何も出来ない自分が恨めしい。
「……太ったのかなぁ」
ぷにっと自分のほっぺたつつく早苗。
……彼女で『太ってる』なら、世の中の女性の9割は『太ってる』だろう。
私より10センチくらい、背が高いくせして、体重はほとんど変わらないと言うのだから、どんな魔法を使ってるんだと思う。おまけに、胸部とお尻は私と比較にならないのにウェストはほぼ同じ……ってのも……。
「……あの、霊夢さん?」
何かもう、色々と、女としての性能全てが負けたような気がして、激しくへこんだ。
テーブルに突っ伏す私に、そっと、早苗が声をかけてくれる。
「あ~……まぁ、ははは……。うん、わかった……。
……で、どうすりゃいいの」
「どうしましょう……。
ノーブラって危険なんですよ。そりゃエロさはかなりのものだし、『つけない』『はいてない』は強烈なジャンルの雄ではありますが、気合入れても形が崩れるし……」
「小町は『は? 型崩れ? あんたら修行が足りないよ』とか言ってたけどね……」
「あの時は割りと殺意が湧きました」
誰だよ、機体の性能差が勝敗に結びつくわけじゃないとか言ったの。
ばっちりがっちり結びついてるじゃないかちくしょう。
「なもんで、早急に、新しいブラが欲しいんですが……。
……あ、だけど、霊夢さんが『つけてない』方がいいって言うなら考えますよ?」
「い、いやいやいやいや!」
それはちょっと……いや、かなり心くすぐられる提案だったけど、私は慌てて、首をぶんぶん左右に振った。
もし、早苗がそんなことになれば、あの天狗が息を吹き返す。
殴り倒した後、とりあえず雪の下に埋めてきたけど、奴の生命力は無限なのだ。そして、早苗が常日頃から、奴に狙われるというのも面白くないではないか。
「と、とりあえず、ほら。まずは……そう、紅魔館よ、紅魔館。そのメイドを頼りましょう」
「……そ、そうですね。はい」
頑張ります、とのなぜかのガッツポーズ。
両手の間で寄せられたおっぱいの、服の上からでもわかる巨大さと谷間に、私は早くも気持ちがなえていた。
……そういや、私のお母さんって、紫も羨むくらいの巨乳だったなぁ。
どうして私に遺伝しなかった……。
「お金なんて取らないわよ。
そういう時は、もっと早く頼りなさい」
「すいません、咲夜さん」
「というか、霊夢。あなたが作ってあげればいいじゃない」
「私にそんなノウハウないし」
「じゃ、ついでだから覚えていったら?」
というわけで、やってきました紅魔館では、あっさりと、早苗のブラを作ってもらえることになりました。
出迎えに出てきた咲夜は、私たちの話を聞くなり、『大変だったわね』と共感を示している。やはり同じ女性、そういう悩みは尽きないということだ。
……使ってない人間にゃわかりませんけどね。けっ。
「服飾担当の子達がいるの。こっちよ」
長く伸びる紅魔館の廊下。
横を『今日のわたしは最速よぉぉぉぉぉっ!』とモップがけしながら突っ走っていく奴がいたけれど、それは一応、見なかったことにしておく。
やがて、右手側のドアの前に立ち止まる咲夜。
ドアを『とんとん』とノックして、『失礼します』と中へ。
「あら、咲夜ちゃん……じゃなかった、メイド長」
「……はぁ」
その中には、めちゃめちゃきれいな妖精メイドが一人。
背がすらっと高くて、柔らかい笑みが特徴的。思わず『お母さん』って呼んでしまいたくなる雰囲気だ。
「どうかなさいましたか?」
「……紹介するわ。
紅魔館で、メイド達の服飾を担当するメイドよ」
「あら、お客様ですか?
初めまして。ご紹介に預かりました――」
と、おっとりと微笑み、一礼してくれる。
慌てて、私たちもぺこりと頭を下げた。相手は、たかが妖精といっても、ここまで場の『雰囲気』を作ってる相手だ。
どうにもこうにも、こちらの立場は負けてしまう。
「実はね――」
と、咲夜が彼女に事情を説明してくれる。
彼女は『ふんふん』とうなずいた後、早速、どこからともなくメジャーを取り出した。
「じゃあ、トップとアンダー、それから形状、骨格、体型のデータをもらおうかしら」
服を脱いで、と彼女。
咲夜が『失礼するわね』とドアの向こうに退出。
部屋に残るは、私と早苗と、目の前の彼女だけ。
早苗は『えーっと……』と、ちょっと恥ずかしがりながらも上着を脱いだ。
……やばい、何か変な気持ちになりそう。
真っ白、すべすべの彼女の素肌。その手に隠された、大きくて柔らかいその乳房。
……あ~。関係ないのに顔が赤くなる……。
「そうね。
じゃあ、形状とかはスケッチさせてもらうわ。サイズの測定は、霊夢さま、お願いしますね」
「へっ!?」
「見ず知らずの人に素肌に触れられるのは抵抗があるでしょう?」
くすくす笑う彼女は、私にメジャーを渡して、取り出したスケッチブックにペンを走らせていく。
……さすがは妖精。これをいいいたずらの好機と見たか。
「……あの、霊夢さん。それじゃ、お願いします」
「う、うん……」
私の視界一杯を埋め尽くす、彼女のバスト。
その見事な双丘。
つんと立った桜色の突起。
ごくりと、生唾を飲み込んでしまう。
……いやいや、いかんいかん。
落ち着け、落ち着くのよ、霊夢。これはやましい行為ではない、ただのサイズ測定なんだから……。
「んっ……」
「あっ、ご、ごめん。早苗。痛かった?」
「あ、い、いえ。大丈夫です……」
しゅるっ、とメジャーをまわして、サイズを測っていく。
そのたびに、彼女の口から漏れる小さな吐息が、私の胸を打つ。
というか心臓うるさい。寿命が短くなる。もっと静かにしろ。顔熱い。頭痛い。喉渇く!
「……サイズ、これ」
「はい、お疲れ様。
あとは体のつくりね……」
一瞬が永遠になるって意味が、何かよくわかったような気がする。
たった数分程度の身体測定。
それが、私にとって、ものすごい長い時間に感じられた。その間に、どんだけ自分の寿命は短くなったのだろう。
考えるだに恐ろしい。
「ふ~ん……なるほど……」
「……あの」
「少し、肩回りの筋肉がついてないわね。肩こりとかあるでしょう? あと、ちょっと猫背気味になってるから気をつけてね。
あとは理想的よ」
見て、ちょっと指で触れるだけで、よくそれがわかるものだ。プロってすごい。
彼女は早苗の『データ』を全て集めると、『じゃあ、服を着ていいわよ』と言ってくれる。
「どれがいいかしら?」
次に渡されるのは下着のデザイン。
色、素材、形状、その他諸々。何でも選べるのだという。
「……こんなの、オーダーメイドしたらいくらかかるか……」
「あら、メイド長が『お金は取らない』って言ったのでしょう? それなら無料よ」
「デパートの代金が懐かしい……」
これ、これ、これ、と指定をする早苗。
書いてある文字を見ても、その内容は、あんまりよくわからない。唯一わかるのは素材と色くらいだろうか。
「あら、これとかこれはいらないの?」
そこに書いてあるのは『アンダーカップ』と『オープンカップ』という文字。
「勝負下着として大好評」
「へっ? え、えーっと……どう……しようかな……」
ちらちらと、私を見る早苗。
アンダーカップ。オープンカップ。
それって、その……『カップ』があれだから、あれがこうなって、そうなるわけで……。
えっと……。
「……あ、えっと……。
い、一個くらい……あっても……いいんじゃない、かな……?」
私ももじもじしながら応えてしまう。
早苗は、『じゃあ……』と、一つ、その『勝負下着』を注文した。
彼女は『うふふ』と笑うと、
「若いっていいわねぇ」
……なんてこと言って、私と早苗にウインクをしてきたのだった。
「……なんか、無事に手に入っちゃいましたね」
「そだね……」
紅魔館を後にして。
ふわふわ空を行く私たち。
咲夜からは『またいつでもいらっしゃい』という言葉をもらっている。その時の彼女の視線が、やたらめったら、私に対して優しかったのは追求したくない。
「ま、まぁ、ほら。これで、これから何かあっても、あそこ行けばいいってわかったわけだし」
「そ、そうですね。それが一番ですね」
なんて話をして。
何だか、私たち、そろって笑顔が白々しいというか、硬直しているというか。
……しばしの沈黙。
ちょうどその時、お腹が『きゅ~』と鳴る。
そういえば、お昼ご飯、まだだった。
「……じゃあ、その、霊夢さん。
お昼ごはん食べて……その後、温泉、行きませんか?」
「あ、いいね。寒いし……」
それに、と。
早苗はつぶやいた。
「……新しいの、試してみたいし」
そのさりげない一言は、私の胸にグレイズ不可のクリティカルの一撃を叩き込んできたのでした。
どうすればこの力を得られるのだろうか…
謝罪も反省も賠償もいらないから来年も糖分の供給をよろしくお願いします