あくる日のことだ。早苗が境内の掃除をしていると、一人の妖怪が神社に訪れた。
妖怪は名を小傘。本来は九十九神に分類されるが、和傘という雰囲気のせいかほぼ妖怪として扱われる者である。
嬉しそうに跳ねて鳥居をくぐる小傘に、早苗は少々呆れながらも、ごく僅かに口元を綻ばせる。
「こんにちは早苗。ねえ見て見て、今日はすっごいもの持ってきたんだよ!」
そう言って小傘は、手にしていた冊子を掲げる。
印刷の具合からして、恐らく早苗の元々居た世界から流れてきたものだろう。少々の懐かしさを覚えつつ、なんの変哲もないそれを「すごいもの」と称した小傘の言が気になり、「こんにちは。それがそのすごいもの?」と調子を合わせる。
「うん。気になって拾って、霖之助に見てもらったんだ」
霖之助は、触れたものの使い方が即座に分かるという能力を持った青年の名である。彼に見てもらったのであれば、それの使い方は分かるだろうが……
「そしたらね、そしたらねぇ!」
語るにつれてテンションの上がる小傘に、早苗は頷いて続きを促す。
小傘はそれに応える前に、いつも持ち歩いている和傘を大きく振りかざした。
「これは外の世界の『魔法の呪文』が書かれたものなんだって!」
思わず早苗は噴き出しそうになった。残念ながら外の世界に、印刷して残すほどの魔法は存在していない。霖之助が小傘の持つ冊子について冗句を言うほど知識を持ってはいないだろう。幻想郷にある知識からそれに類するものを探した結果、恐らく『魔法の呪文』が近かったのだ。
そんな早苗の思考を余所に、小傘は不敵な笑みを浮かべる。
「ふふふ、霖之助が言うには、これは誰にでも使える魔法なんだって。これで、私もついに魔法使いになれるんだ」
「あれ、魔法使いなんて目指していましたっけ」
「なんとなく言ってみたかっただけ。でも使えたらこう、なんか、カッコイイでしょ?」
特に否定はしないが、肯定もしたくないというのが早苗の返事であるが、ここはそれらしく「でも、そんな簡単に魔法なんて使えるんですか?」とはっぱをかけておく。
「今からそれを試すのです! 早苗にはその証人になってもらうから、よーく見ててね」
すると小傘は意気込んで冊子をめくり、それらしい一つの文に注目して、傘の先端を宙に向ける。
そして目を閉じ、少し集中してから叫ぶ。
「えいっ、ダツゲンパツ!」
もちろんのことであるが。
早苗は最初からその結果が分かっていたし、しんとした間を受け入れる覚悟もできていた。予想していなかったのは小傘ただ一人で、しばらくしてから何も起きていないことに気がつく。
「あ、あれ? えーっと……じゃあこれなら、セシュウノキンシ!」
当然、何も起こらない。「まだですか、小傘さん?」とわざとらしくつっついてみる。
「ど、どうして? やっぱり魔法使いじゃないと駄目なのかなぁ――これならどうだ、TPPダンコハンタイ!」
さすがに早苗も可笑しさがこらえ切れなくなった。くすくすくすと笑いだしてしまう。小傘は顔を赤くして「なんで、誰でも使えるんじゃないの!?」と慌てる。
その様子を見て早苗は、真実を伝えるべきかどうか少し考えて。
「小傘さん。実はそれ、外の世界のものなんですよ」
「ええっ!?」
「だから、魔法に詳しい白蓮さんに聞くといいんじゃないかな」
とことん遊ぶことにした。白蓮を選んだのは、一番疎そうだったからだ。脈絡は無い。
「おおっ、早苗ナイス。そっか魔法使いに聞けばいいんだね!」
早速、気を取り直した小傘は、「じゃあちょっと行ってくる。成功したらまた来るねー」とまた鳥居をくぐり、走って神社を去って行った。
その後ろ姿を眺めながら、早苗は一つ嘆息をついて、何事も無かったかのように掃除を再開した。
その最中、早苗はこう願った。
どうか、こういうくだらない政策だけが幻想郷にやってきますように、と。
妖怪は名を小傘。本来は九十九神に分類されるが、和傘という雰囲気のせいかほぼ妖怪として扱われる者である。
嬉しそうに跳ねて鳥居をくぐる小傘に、早苗は少々呆れながらも、ごく僅かに口元を綻ばせる。
「こんにちは早苗。ねえ見て見て、今日はすっごいもの持ってきたんだよ!」
そう言って小傘は、手にしていた冊子を掲げる。
印刷の具合からして、恐らく早苗の元々居た世界から流れてきたものだろう。少々の懐かしさを覚えつつ、なんの変哲もないそれを「すごいもの」と称した小傘の言が気になり、「こんにちは。それがそのすごいもの?」と調子を合わせる。
「うん。気になって拾って、霖之助に見てもらったんだ」
霖之助は、触れたものの使い方が即座に分かるという能力を持った青年の名である。彼に見てもらったのであれば、それの使い方は分かるだろうが……
「そしたらね、そしたらねぇ!」
語るにつれてテンションの上がる小傘に、早苗は頷いて続きを促す。
小傘はそれに応える前に、いつも持ち歩いている和傘を大きく振りかざした。
「これは外の世界の『魔法の呪文』が書かれたものなんだって!」
思わず早苗は噴き出しそうになった。残念ながら外の世界に、印刷して残すほどの魔法は存在していない。霖之助が小傘の持つ冊子について冗句を言うほど知識を持ってはいないだろう。幻想郷にある知識からそれに類するものを探した結果、恐らく『魔法の呪文』が近かったのだ。
そんな早苗の思考を余所に、小傘は不敵な笑みを浮かべる。
「ふふふ、霖之助が言うには、これは誰にでも使える魔法なんだって。これで、私もついに魔法使いになれるんだ」
「あれ、魔法使いなんて目指していましたっけ」
「なんとなく言ってみたかっただけ。でも使えたらこう、なんか、カッコイイでしょ?」
特に否定はしないが、肯定もしたくないというのが早苗の返事であるが、ここはそれらしく「でも、そんな簡単に魔法なんて使えるんですか?」とはっぱをかけておく。
「今からそれを試すのです! 早苗にはその証人になってもらうから、よーく見ててね」
すると小傘は意気込んで冊子をめくり、それらしい一つの文に注目して、傘の先端を宙に向ける。
そして目を閉じ、少し集中してから叫ぶ。
「えいっ、ダツゲンパツ!」
もちろんのことであるが。
早苗は最初からその結果が分かっていたし、しんとした間を受け入れる覚悟もできていた。予想していなかったのは小傘ただ一人で、しばらくしてから何も起きていないことに気がつく。
「あ、あれ? えーっと……じゃあこれなら、セシュウノキンシ!」
当然、何も起こらない。「まだですか、小傘さん?」とわざとらしくつっついてみる。
「ど、どうして? やっぱり魔法使いじゃないと駄目なのかなぁ――これならどうだ、TPPダンコハンタイ!」
さすがに早苗も可笑しさがこらえ切れなくなった。くすくすくすと笑いだしてしまう。小傘は顔を赤くして「なんで、誰でも使えるんじゃないの!?」と慌てる。
その様子を見て早苗は、真実を伝えるべきかどうか少し考えて。
「小傘さん。実はそれ、外の世界のものなんですよ」
「ええっ!?」
「だから、魔法に詳しい白蓮さんに聞くといいんじゃないかな」
とことん遊ぶことにした。白蓮を選んだのは、一番疎そうだったからだ。脈絡は無い。
「おおっ、早苗ナイス。そっか魔法使いに聞けばいいんだね!」
早速、気を取り直した小傘は、「じゃあちょっと行ってくる。成功したらまた来るねー」とまた鳥居をくぐり、走って神社を去って行った。
その後ろ姿を眺めながら、早苗は一つ嘆息をついて、何事も無かったかのように掃除を再開した。
その最中、早苗はこう願った。
どうか、こういうくだらない政策だけが幻想郷にやってきますように、と。
なんて皮肉めいたオチだろう。
クォーターツーオーツーカッター!
絵空事ゆえに魔法、好きな発想です