「ねぇ咲夜」
「何かしら、アリス」
真っ白な牛乳は、徐々に紅く染まっていった。
茶漉しには、広がった細かい葉が少しづつ積まれていく。
「どうして咲夜は、私にこんなに構うようになったの?」
「ん……そんなに構ってたかしら」
「えぇ、何時の間にか私の家の中でお茶を淹れていたり」
ぽとり、と最後の雫が落ちると、咲夜はティーポットを置いた。
そして自分のカップを手に取り、その香りを愉しんで、満足そうに微笑んだ。
「訊きたい?」
「まぁ、不法侵入の事情聴取ってことで」
「長くなるし――昔の、話よ」
「魔女は昔話程度じゃ老け込んだりしないわ」
「羨ましいこと」
アリスは、咲夜から差し出されたカップを受け取り、咲夜と同じように湯気を軽く吸い込む。
「私ね、お嬢様に仕える前は、別の家……というかお屋敷に勤めていたのよ」
「ふぅん……にわかメイドじゃなかったのね」
「何よ、にわかメイドって」
呆れたように溜息を吐いて、咲夜は自分の淹れたミルクティーを啜る。
「で、そのお屋敷で、どうしたの?」
「ん……そこに小さな娘さんが居てね」
「なんか読めたんだけど」
「冗談よ、アリス」
「ってことは、何?」
アリスは、カップを置いて立ち上がった。
そしてそのまま咲夜の背中まで回りこむと、咲夜も少したじろいだ。
そしてアリスは、ふわりと咲夜の首に腕をまわして、背中から抱き締める。
「咲夜にとっては、子守りのつもりだったってこと?」
涙ぐんでいるかのような、くぐもった声でアリスは言う。
「だ、だから冗談だって……」
「えい」
――かぷりと、咲夜の首筋に歯跡がついた。
「あ、アリス?」
「子供のイタズラよ。許してあげなさい」
さらりとそう言い放って、アリスは自分の椅子に戻った。
「子供でいいなら、そういう扱いするけど」
「……やだ」
「じゃあ首を噛んだこと、怒っていいの?」
「それも、やだ」
「ワガママ」
「咲夜が変なこと言うから」
「……甘えん坊」
「うるさい」
アリスは、そう言ってそっぽを向く。
それを見た咲夜は、肩を竦め、ミルクティーを飲み干した。
「ねぇアリス」
「なによ……むぐっ」
そして一瞬で、アリスの唇を奪う。
「な、にするのよ……!」
「で、どうだった?」
「どう……って」
「子供扱い、されてる?」
咲夜は、屈託のない――ように感じさせる――笑顔で言った。
今になって頬が染まり始めたアリスは、また咲夜から顔を背けた。
そして、唇をぐいと拭って。
「そういうところが、子供扱いしてる、って言うの」
二人の唇は、もう一度だけ、触れ合った。
「何かしら、アリス」
真っ白な牛乳は、徐々に紅く染まっていった。
茶漉しには、広がった細かい葉が少しづつ積まれていく。
「どうして咲夜は、私にこんなに構うようになったの?」
「ん……そんなに構ってたかしら」
「えぇ、何時の間にか私の家の中でお茶を淹れていたり」
ぽとり、と最後の雫が落ちると、咲夜はティーポットを置いた。
そして自分のカップを手に取り、その香りを愉しんで、満足そうに微笑んだ。
「訊きたい?」
「まぁ、不法侵入の事情聴取ってことで」
「長くなるし――昔の、話よ」
「魔女は昔話程度じゃ老け込んだりしないわ」
「羨ましいこと」
アリスは、咲夜から差し出されたカップを受け取り、咲夜と同じように湯気を軽く吸い込む。
「私ね、お嬢様に仕える前は、別の家……というかお屋敷に勤めていたのよ」
「ふぅん……にわかメイドじゃなかったのね」
「何よ、にわかメイドって」
呆れたように溜息を吐いて、咲夜は自分の淹れたミルクティーを啜る。
「で、そのお屋敷で、どうしたの?」
「ん……そこに小さな娘さんが居てね」
「なんか読めたんだけど」
「冗談よ、アリス」
「ってことは、何?」
アリスは、カップを置いて立ち上がった。
そしてそのまま咲夜の背中まで回りこむと、咲夜も少したじろいだ。
そしてアリスは、ふわりと咲夜の首に腕をまわして、背中から抱き締める。
「咲夜にとっては、子守りのつもりだったってこと?」
涙ぐんでいるかのような、くぐもった声でアリスは言う。
「だ、だから冗談だって……」
「えい」
――かぷりと、咲夜の首筋に歯跡がついた。
「あ、アリス?」
「子供のイタズラよ。許してあげなさい」
さらりとそう言い放って、アリスは自分の椅子に戻った。
「子供でいいなら、そういう扱いするけど」
「……やだ」
「じゃあ首を噛んだこと、怒っていいの?」
「それも、やだ」
「ワガママ」
「咲夜が変なこと言うから」
「……甘えん坊」
「うるさい」
アリスは、そう言ってそっぽを向く。
それを見た咲夜は、肩を竦め、ミルクティーを飲み干した。
「ねぇアリス」
「なによ……むぐっ」
そして一瞬で、アリスの唇を奪う。
「な、にするのよ……!」
「で、どうだった?」
「どう……って」
「子供扱い、されてる?」
咲夜は、屈託のない――ように感じさせる――笑顔で言った。
今になって頬が染まり始めたアリスは、また咲夜から顔を背けた。
そして、唇をぐいと拭って。
「そういうところが、子供扱いしてる、って言うの」
二人の唇は、もう一度だけ、触れ合った。