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拝啓 封獣ぬえ様
そちらは紅葉も見頃を迎えた時節でございましょうか。佐渡の木々はすっかり化粧を終えて、物好きな登山客が登頂を喜んでは同胞に化かされ、慌てて逃げ帰る毎日が続いております。気温の変化が著しい昨今、風邪など引いて寝込んだりしませんよう、せいぜい養生なさったら宜しいでしょう。
さて、こうしてお手紙を認[したた]めたのは他でもありません。珍報も珍報、差し引きナシ、掛け値ナシの一大事件を、旧友のあなたにいち早く申し上げ奉[たてまつ]るために筆を執った次第なのであります。
今日の定例会にて、ふかふかの毛並みを有した老狸が開口一番にこう云いました。先日、満月の宵のこと、我ら鈴鹿[すずか]の山中にて五貫目の金塊を掘り起こしせり、と。
一同、湧き返って詳しい話をせがみますに、老狸は朗々とした調子でこう続けます。中秋の望月は格別だのう、としごく今更なことに感慨を馳せながら鈴鹿の奥地を歩いていたところ、背の高いススキを掻き分けた先の空地に、まるでタケノコのように突き出している輩がいた。
はてな、と老狸いぶかしみますに、雲間から月が顔を覗かせて、突き出した奴を禿げ頭のごとく照らしたそうな……先ほどは格別などと月を誉め讃えたくせに、今度は雲居に隠れていたなんて御都合な、とお疑いになるのも尤もですが、誰もが先を気にするあまり指摘を加える者は一人もおりませんでした。これが我ら狸の美点なのです。
話を戻しましょう。すわ金塊か、と老狸は若衆を呼びつけて、さながら大きなカブの童話のごとく、えんやーこーらと引っ張りました。とたんにスポーンと抜ける例の禿げ頭、いや金塊が一同の目前に俄然と現出したわけであります。
化石の発掘で背骨が出れば、次は頭蓋骨が出るぞと期待するのは当然の心理でございましょう。鈴鹿の狸達も次は更なる大物を、と喝采のうちに求めまして、一族総出で掘り返してやったのだ、とここで老狸は高笑い。いやさ五貫目の金塊を遂に儲けるの幸運に恵まれた、とこんな案配で話は結ばれました。
佐渡の銀山が廃れて、はや二十年あまり。赤信会を治める立場である私としましては、大変うらやましいお話です。五貫目の金塊があれば、負債の返済に窮する人々に今ひとつの時間を与えてやれますのに。
ちなみに書き添えておきますと、右に記しました金塊の話は全て法螺です。嘘です。虚言にございます。スッポコポンのポン。
お怒り召されますな。これは我ら狸が会合を催す際に、何にも増して大切に暖めている慣習なのでございます。会議の初っ端[しょっぱな]において如何な大法螺を如何に真実味を帯びて語るか、その出来が優れていればいるほど、参加した毛玉達の緊張は解れ、肩の力を抜いて議題に移れるというもの。かつては佐渡連合会の総代にして、稀代の侠客[きょうかく]であらせられた如意ヶ嶽[にょいがだけ]・金光寺玉左衛門[きんこうじのたまざえもん]様が御提案なされ申した、人情味に溢れる壮挙とも云うべき慣行なのでございます。
ところで、秋といえば読書の秋、スポーツの秋、果てはリラクゼーションの秋などと、種々様々[しゅしゅようよう]に云い表されておりますが、私は今年の秋を“恋愛の秋”と定めたく存じます。
と云いますのも、先述の会合を終えてから例のごとく居酒屋へ立ち寄ったのでありますが、そこで勃発せる珍騒動というものが、まことに深い感銘を私の胸中に刻みつけた次第であるからでございます。
しかるに叙述を試みますと、それはこういう具合でありました。私が平生から眷顧[けんこ]を辱[かたじけの]うする古株の狸ら三名と連れだって、行きつけの居酒屋に赴いたのだと想像して下さい。夕刻にも至らぬ開店すぐの時間帯。客は我々四人だけでありました。
その居酒屋を経営する女将は、何を隠そう出身が佐渡の狸なのでございます。人間に化けるのが楽しいものですから、調子に乗って常日頃から美しい女に化けておりましたところ、うっかり元の姿を忘れてしまい、人間社会での生活を余儀なくされてしまったのです。そうとも知らずに婚姻を結んだ居酒屋の主人、これは何とも気の毒だとお思いになるでしょうが、そこがこの話の肝なのでございます。
私の知己に慈楼坊[じろうぼう]という者がおります。狸のくせに油揚げが大好物で、毎度のごとく揚げ豆腐やらきつねうどんやらを貪り喰っては、胃腸の急変を訴える古今無双の阿呆でありました。
こやつがまた騒動の種でありまして、一同が席に着きますに、例のごとく「きつねうどんを頼む」と一番槍を上げるの次第。序列もへったくれもない気炎に、思わず私達は苦笑いの体で相好を崩しました。
ご存じの通り、きつねうどんの汁は大変にお熱うございます。熱々の粥をぶっかけられて白濁の汁まみれになるよりかはマシですが(ここで卑猥な想像を浮かべましたら、あなたはもう立派な大人です)、なんせ汁物は汁物、その熱いことは火中に投じられた石炭のごとしでありましょうや。
さて、いよいようどんが運ばれてきます。慈楼坊は喜色満面でこれを受け取ります。何をどう間違えたのか、見事に受け取り損ねます。途端にバシャーンとこぼれる熱い汁、私の隣に座しておりました長老の禿げ頭に俄然と降り注ぐ。茶を沸かすヤカンのごとく熱せられた金柑頭、当然の帰結として吶喊[とっかん]する絶叫というか悲鳴。そして剥がれる化けの皮。一匹の毛玉と化した長老が、きいきいと泣き叫びながら店中を飛び跳ね回りました。
その時に持ち上がった騒動は、幕末の池田屋事件に引けを取らぬ程の一大奇観であったと私はしみじみと省みます。人間の前で正体を晒すは狸の恥、いわんや長老とあれば一族の恥でございます。さァ、どう隠蔽したものか、と私は他人事のように、長老を追いかけ回す人々の姿を見ながら考えました。
いよいよ本論に入るのでありますが、ここまで読み飛ばさずに黙読して下さったとすれば、私としましても慣れぬ手紙を綴った甲斐があるというものです。いま一度の感謝を捧げまして、話を進めたく存じます。
物事には始まりと終わりがあります。しからば事件や騒動にも入口と出口があるのは自明でございましょう。今回の騒動に火を点けたのが慈楼坊であるならば、燃え上がった騒動を鎮火した功労者にも一筆しなければならんのは物の道理でございます。
しこうして騒ぎを鎮めた人物とは、あろうことか、その時分に店で唯一の人間であります、居酒屋の主人でございました。主人はいかにも慣れた手つきで長老を捕まえますと、奥から氷嚢と軟膏を引っ張り出して適切に応急処置をします。化かされるは我々、狸ばかりでありました。
一同、感謝しつつ、主人の腰を抜かさぬ理由を訊ねますに、狸への戻り方を忘れ申した女将が照れながら答えを返します。
なんと女将、自身が化け狸であることを夫に打ち明けていたのでありました。婚姻を結んで籍を共にしてから数年が経ち、夫への愛と、素性を偽ることへの良心の呵責に苛まれた彼女は、ある望月の夜にとうとう全てを話してしまいました。離縁も覚悟のうえで告白したのであります。
夫は答えました。驚きはしたし、今も動揺しているが、それでも君への愛は変わらない。どうか今まで通り、この屋根の下で四季を共にしてはくれまいか、と。
我々はいたく感動いたしました。種族や立場を越えた愛というものがあるのだと、確かに目撃したからであります。目撃などという不穏な単語は止めにいたしましょう。純粋なる親愛の具現というものを、我々はこの目で確かに拝ませて頂いたのでございます。
その後は打ち解けて、一同、大いに盛り上がりました。そこに人間と妖怪の境界などありはしません。主人の苦労話も諸々[もろもろ]に承りました。狸達は佐渡抗争の武勇伝を語ります。嬉しいことも、悲しいことも、すべては酒の力を借りて口から滑り出ました。
“愛に国境はない”という言葉があります。手垢の付いた洗濯物のような字句であることは重々承知しておりますが、此度の思いもかけぬ話を鑑みますに、あながち馬鹿に出来た言葉ではないと私は思うのです。
もちろん、そこには痛みを伴います。挫折もございましょう。乗り越えるべき壁は幾多も積み重なります。しかれども、苦難を耐え抜き歩み続けるうちに、いつしか痛みは甘酸っぱい思い出へと変化することもあるのです。見る者によって姿や形を変える――そう、あなたの正体不明のタネのように。
自分が何のために生まれてきたのか、我々は考えます。以前のあなたなら、人間を怖がらせるためだ、と答えるでしょう。いえ、理由すら必要としなかったのかもしれません。今のあなたは、どう思いますでしょうか。命蓮寺で居候の身分を甘んじて幾年、現在のあなたが愛について如何ように考えているのか、是非とも知りたいものです。
愛は必ずしも全てを救済するわけではないでしょう。けれども、自分が存在する理由を確かめたい時に、恋でありますとか、愛でありますとか、そういったものは大いなる手がかりになり得るのだということを、私は確信して止みません。
あなたの心は、愛を確信した時、痛みをもまた受け入れるのです。
長たらしい手紙となってしまいました。それだけ残してきたあなたのことが心配だったのです。お察し頂ければ幸いでございます。
定例会は出立の折に申し上げた通り、十一月の下旬には終わる予定です。一刻も早く幻想郷へと舞い戻り、あなたをこの両腕に抱きすくめたく存じますが、なかなかそう易々とは参りません。
お土産もきっと持って帰ります。直にお届けしたい言葉もあります。いま暫くの辛抱を、伏してお願い申し上げる次第でございます。
……それにしても、佐渡の地酒は相変わらず美味なものですね。これはひょっとすると、少しばかり滞在を延期するやもしれません。もしもの時は堪忍して下さいませ。スッポコポンのポン。
お返事を、心よりお待ちしております。
敬具 二ッ岩マミゾウ
追伸
恋で思い出しました。あれから村紗船長との間に、何か進展はありましたか。あなたは昔から寄せる想いには不器用でありましたから、安易な言葉で傷つけているのではないかと心配です――
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佐渡からの便り
拝啓 封獣ぬえ様
そちらは紅葉も見頃を迎えた時節でございましょうか。佐渡の木々はすっかり化粧を終えて、物好きな登山客が登頂を喜んでは同胞に化かされ、慌てて逃げ帰る毎日が続いております。気温の変化が著しい昨今、風邪など引いて寝込んだりしませんよう、せいぜい養生なさったら宜しいでしょう。
さて、こうしてお手紙を認[したた]めたのは他でもありません。珍報も珍報、差し引きナシ、掛け値ナシの一大事件を、旧友のあなたにいち早く申し上げ奉[たてまつ]るために筆を執った次第なのであります。
今日の定例会にて、ふかふかの毛並みを有した老狸が開口一番にこう云いました。先日、満月の宵のこと、我ら鈴鹿[すずか]の山中にて五貫目の金塊を掘り起こしせり、と。
一同、湧き返って詳しい話をせがみますに、老狸は朗々とした調子でこう続けます。中秋の望月は格別だのう、としごく今更なことに感慨を馳せながら鈴鹿の奥地を歩いていたところ、背の高いススキを掻き分けた先の空地に、まるでタケノコのように突き出している輩がいた。
はてな、と老狸いぶかしみますに、雲間から月が顔を覗かせて、突き出した奴を禿げ頭のごとく照らしたそうな……先ほどは格別などと月を誉め讃えたくせに、今度は雲居に隠れていたなんて御都合な、とお疑いになるのも尤もですが、誰もが先を気にするあまり指摘を加える者は一人もおりませんでした。これが我ら狸の美点なのです。
話を戻しましょう。すわ金塊か、と老狸は若衆を呼びつけて、さながら大きなカブの童話のごとく、えんやーこーらと引っ張りました。とたんにスポーンと抜ける例の禿げ頭、いや金塊が一同の目前に俄然と現出したわけであります。
化石の発掘で背骨が出れば、次は頭蓋骨が出るぞと期待するのは当然の心理でございましょう。鈴鹿の狸達も次は更なる大物を、と喝采のうちに求めまして、一族総出で掘り返してやったのだ、とここで老狸は高笑い。いやさ五貫目の金塊を遂に儲けるの幸運に恵まれた、とこんな案配で話は結ばれました。
佐渡の銀山が廃れて、はや二十年あまり。赤信会を治める立場である私としましては、大変うらやましいお話です。五貫目の金塊があれば、負債の返済に窮する人々に今ひとつの時間を与えてやれますのに。
ちなみに書き添えておきますと、右に記しました金塊の話は全て法螺です。嘘です。虚言にございます。スッポコポンのポン。
お怒り召されますな。これは我ら狸が会合を催す際に、何にも増して大切に暖めている慣習なのでございます。会議の初っ端[しょっぱな]において如何な大法螺を如何に真実味を帯びて語るか、その出来が優れていればいるほど、参加した毛玉達の緊張は解れ、肩の力を抜いて議題に移れるというもの。かつては佐渡連合会の総代にして、稀代の侠客[きょうかく]であらせられた如意ヶ嶽[にょいがだけ]・金光寺玉左衛門[きんこうじのたまざえもん]様が御提案なされ申した、人情味に溢れる壮挙とも云うべき慣行なのでございます。
ところで、秋といえば読書の秋、スポーツの秋、果てはリラクゼーションの秋などと、種々様々[しゅしゅようよう]に云い表されておりますが、私は今年の秋を“恋愛の秋”と定めたく存じます。
と云いますのも、先述の会合を終えてから例のごとく居酒屋へ立ち寄ったのでありますが、そこで勃発せる珍騒動というものが、まことに深い感銘を私の胸中に刻みつけた次第であるからでございます。
しかるに叙述を試みますと、それはこういう具合でありました。私が平生から眷顧[けんこ]を辱[かたじけの]うする古株の狸ら三名と連れだって、行きつけの居酒屋に赴いたのだと想像して下さい。夕刻にも至らぬ開店すぐの時間帯。客は我々四人だけでありました。
その居酒屋を経営する女将は、何を隠そう出身が佐渡の狸なのでございます。人間に化けるのが楽しいものですから、調子に乗って常日頃から美しい女に化けておりましたところ、うっかり元の姿を忘れてしまい、人間社会での生活を余儀なくされてしまったのです。そうとも知らずに婚姻を結んだ居酒屋の主人、これは何とも気の毒だとお思いになるでしょうが、そこがこの話の肝なのでございます。
私の知己に慈楼坊[じろうぼう]という者がおります。狸のくせに油揚げが大好物で、毎度のごとく揚げ豆腐やらきつねうどんやらを貪り喰っては、胃腸の急変を訴える古今無双の阿呆でありました。
こやつがまた騒動の種でありまして、一同が席に着きますに、例のごとく「きつねうどんを頼む」と一番槍を上げるの次第。序列もへったくれもない気炎に、思わず私達は苦笑いの体で相好を崩しました。
ご存じの通り、きつねうどんの汁は大変にお熱うございます。熱々の粥をぶっかけられて白濁の汁まみれになるよりかはマシですが(ここで卑猥な想像を浮かべましたら、あなたはもう立派な大人です)、なんせ汁物は汁物、その熱いことは火中に投じられた石炭のごとしでありましょうや。
さて、いよいようどんが運ばれてきます。慈楼坊は喜色満面でこれを受け取ります。何をどう間違えたのか、見事に受け取り損ねます。途端にバシャーンとこぼれる熱い汁、私の隣に座しておりました長老の禿げ頭に俄然と降り注ぐ。茶を沸かすヤカンのごとく熱せられた金柑頭、当然の帰結として吶喊[とっかん]する絶叫というか悲鳴。そして剥がれる化けの皮。一匹の毛玉と化した長老が、きいきいと泣き叫びながら店中を飛び跳ね回りました。
その時に持ち上がった騒動は、幕末の池田屋事件に引けを取らぬ程の一大奇観であったと私はしみじみと省みます。人間の前で正体を晒すは狸の恥、いわんや長老とあれば一族の恥でございます。さァ、どう隠蔽したものか、と私は他人事のように、長老を追いかけ回す人々の姿を見ながら考えました。
いよいよ本論に入るのでありますが、ここまで読み飛ばさずに黙読して下さったとすれば、私としましても慣れぬ手紙を綴った甲斐があるというものです。いま一度の感謝を捧げまして、話を進めたく存じます。
物事には始まりと終わりがあります。しからば事件や騒動にも入口と出口があるのは自明でございましょう。今回の騒動に火を点けたのが慈楼坊であるならば、燃え上がった騒動を鎮火した功労者にも一筆しなければならんのは物の道理でございます。
しこうして騒ぎを鎮めた人物とは、あろうことか、その時分に店で唯一の人間であります、居酒屋の主人でございました。主人はいかにも慣れた手つきで長老を捕まえますと、奥から氷嚢と軟膏を引っ張り出して適切に応急処置をします。化かされるは我々、狸ばかりでありました。
一同、感謝しつつ、主人の腰を抜かさぬ理由を訊ねますに、狸への戻り方を忘れ申した女将が照れながら答えを返します。
なんと女将、自身が化け狸であることを夫に打ち明けていたのでありました。婚姻を結んで籍を共にしてから数年が経ち、夫への愛と、素性を偽ることへの良心の呵責に苛まれた彼女は、ある望月の夜にとうとう全てを話してしまいました。離縁も覚悟のうえで告白したのであります。
夫は答えました。驚きはしたし、今も動揺しているが、それでも君への愛は変わらない。どうか今まで通り、この屋根の下で四季を共にしてはくれまいか、と。
我々はいたく感動いたしました。種族や立場を越えた愛というものがあるのだと、確かに目撃したからであります。目撃などという不穏な単語は止めにいたしましょう。純粋なる親愛の具現というものを、我々はこの目で確かに拝ませて頂いたのでございます。
その後は打ち解けて、一同、大いに盛り上がりました。そこに人間と妖怪の境界などありはしません。主人の苦労話も諸々[もろもろ]に承りました。狸達は佐渡抗争の武勇伝を語ります。嬉しいことも、悲しいことも、すべては酒の力を借りて口から滑り出ました。
“愛に国境はない”という言葉があります。手垢の付いた洗濯物のような字句であることは重々承知しておりますが、此度の思いもかけぬ話を鑑みますに、あながち馬鹿に出来た言葉ではないと私は思うのです。
もちろん、そこには痛みを伴います。挫折もございましょう。乗り越えるべき壁は幾多も積み重なります。しかれども、苦難を耐え抜き歩み続けるうちに、いつしか痛みは甘酸っぱい思い出へと変化することもあるのです。見る者によって姿や形を変える――そう、あなたの正体不明のタネのように。
自分が何のために生まれてきたのか、我々は考えます。以前のあなたなら、人間を怖がらせるためだ、と答えるでしょう。いえ、理由すら必要としなかったのかもしれません。今のあなたは、どう思いますでしょうか。命蓮寺で居候の身分を甘んじて幾年、現在のあなたが愛について如何ように考えているのか、是非とも知りたいものです。
愛は必ずしも全てを救済するわけではないでしょう。けれども、自分が存在する理由を確かめたい時に、恋でありますとか、愛でありますとか、そういったものは大いなる手がかりになり得るのだということを、私は確信して止みません。
あなたの心は、愛を確信した時、痛みをもまた受け入れるのです。
長たらしい手紙となってしまいました。それだけ残してきたあなたのことが心配だったのです。お察し頂ければ幸いでございます。
定例会は出立の折に申し上げた通り、十一月の下旬には終わる予定です。一刻も早く幻想郷へと舞い戻り、あなたをこの両腕に抱きすくめたく存じますが、なかなかそう易々とは参りません。
お土産もきっと持って帰ります。直にお届けしたい言葉もあります。いま暫くの辛抱を、伏してお願い申し上げる次第でございます。
……それにしても、佐渡の地酒は相変わらず美味なものですね。これはひょっとすると、少しばかり滞在を延期するやもしれません。もしもの時は堪忍して下さいませ。スッポコポンのポン。
お返事を、心よりお待ちしております。
敬具 二ッ岩マミゾウ
追伸
恋で思い出しました。あれから村紗船長との間に、何か進展はありましたか。あなたは昔から寄せる想いには不器用でありましたから、安易な言葉で傷つけているのではないかと心配です――
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そして相変わらずぬえちゃんは愛されてますねぇ。
スッポコポンのポンと(ここで卑猥な想像を浮かべましたら、あなたはもう立派な大人です)
がツボでしたw ムラぬえって素敵! でも私はもこぬえが一番ですがね!
あ あと前作の削除した長文コメにわざわざ返信していただいてありがとうございます
もう嬉しいやら恥ずかしいやらでした これからも応援してます!
軽さとおかしみのあふれた手紙堪能しました。
それにしても、ムラぬえはよいものであると思います。
後半からは、ぬえのことが心配でたまらないんだろうなあ、という感じが伝わってきてよかった。
感想書くのは苦手なので、うまく表現できなくて申し訳ないですが、とにかく面白かったです。