Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

ひゃっはーの気持ち

2012/11/09 04:22:15
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「ひゃっはー」

 部屋の中に、間の抜けた可愛らしい声が響いた。

 うーん、ちょっとイメージが違うかしら。この、ビビッと書かれた線みたいな迫力が全然出ないわ。

 厄神、鍵山雛は、自宅で一冊の本を読んでいた。
 これは、友人である河童のにとりに借りたものだ。
 彼女が面白いから是非読んでみてくれと、渡してきたものである。
 なんでも、霧の湖畔の御屋敷から、借りたものだそうだ。湖畔の館には、こういった書物が大量にあるらしい。

 又貸ししちゃっていいのかしら?

 そんなことを思いながら、またその本に目を落とす。
 その本は、絵と、吹き出しと呼ばれる空白に、言葉を入れて綴られた、漫画という書物だ。

 内容はと言うと、世紀末という時代、厄を溜めすぎた人々が世界を滅ぼしてしまう。
 そして残った荒涼とした世界に、七つの星の運命を背負いし筋骨隆々の男性が現れ、厄を振りまく者達を冥土へと旅立たせてまわると言う、英雄譚だった。
 その中の、厄を振りまく殿方達が使っていた言葉が、「ヒャッハー!」なのである。

 だがいまいち、このヒャッハー!という言葉が、どんな気持ちを表したものかわからなかった。
 そこで、実際に自分も発してみれば分かるかもしれないと、口にしてみたのだが。

 全然、似ないわね。

 殿方の声真似をしようとすることが、もともと無理だったのではないだろうか。
 だが、せっかく、にとりに借りたのだ。きちんと理解して感想を述べたいところである。
 コホンと小さく咳払いをする。

「ひゃっはー」

 うん、全然ダメだ。
 真似て声を出してみようにも、意味がわからないのだから、その思いを込めて発声できるはずがない。
 もっと高いのだろうか。

「ヒャッハー」

 あ、結構近くなったかもしれない。でも、なんだかとても恥ずかしい。
 ちょっと顔が熱くなっている気がした。
 また軽く咳払いをする。

 この方たちも、恥ずかしがりながら、この言葉を発しているのかしら。

 絵を見た感じだと、なんだか自信満々であるように見える。
 恥ずかしさなど感じているふうには、見えなかった。

 うーん、自信満々に、声に出してみればいいのかな。
 今度は、大きく息を吸い込んで、

「ひゃっはー!」

 うわあ、なんかすごく恥ずかしい……。
 そっと思わず、辺りを伺ってしまう。もちろん、誰もいない。

 でも、さらに近くなったような気がする。
 少なくとも、漫画で書かれている、斜線の迫力は出たのではないだろうか。
 なんとなく、気持ちも分かってきたかもしれない。
 なんていうか、こう……もうどうでもいいや! みたいな感じなんではないだろうか。
 何より、この殿方達の厄の振りまき方は、尋常ではない。
 いるだけで、周りの人々はみるみるうちに不幸になっていくのだ。
 そんな状態まで厄を溜め込んでしまっては、自暴自棄にもなろうというものだ。

 でなければ、こんな見るからに恐ろしい筋骨隆々な主人公に、挑んでいくはずもない。
 この殿方達も、不幸な人たちなのである。
 そう考えると、ひゃっはーな気持ちを理解することは、ますます必要なことのように思えてきた。

 厄を撒く人たちの心理を把握できれば、私のお仕事も捗るのは間違いないことよね。

 うんうんと一人頷いて、漫画を注意深く観察する。

 やっぱり迫力よね。
 相手の人に有無言わせぬような、そういうものを含ませる必要があるのかもしれない。

 有無を言わせない、か。
 ふと思いつく。
 私が仕事をしている最中に、興味で私に触れようとする人が、まれにいる。
 厄まみれの私に触れたら、ただでは済まない。当然、私は注意をするわけだ。
 こう、心の底からの注意をするわね、そういう時は。注意というか、警告。

「だめよ!私に触れないで!!」

 想像していたら、思わず声が漏れてしまった。
 また、周りを思わず見回してしまう。誰もいないのを確認すると、ふぅと息をつく。

 うん。これだわ。この迫力を上乗せして発音すれば、かなり近いイメージになるのではないかしら。

 大きく一つ深呼吸をする。そして、強い拒絶を想起し、言う。

「ダメよ! ヒャッハーよ!!」

 これだ、近い、近いわ。
 きっとこんな感じに違いない。
 このまま、気持ちを高ぶらせて行ってみる。

「ヒャッハー! ヒャッハー! ダメ! ヒャッハー! 私に近づいては、ヒャッハー! ダメダメ! ヒャッハヒャッハ!!」



「雛?」



 戸口から、声がした。
 私は、荒く上下する胸を抑えて、そちらに振り向いた。

 にとりが、大好物のきゅうりを床に落っことしたのにも気づかない様子で、呆然としながらこちらを見ていた。

「ッッッヒャッハ!?」

 恥ずかしさのあまり、私は思わず頓狂な声を上げてしまう。
 にとりは、引きつった笑みを浮かべて、頭を掻いた。

「あ、えと。漫画気に入ってもらえたようでよかったよ。あの、気が済むまで読んでいいから。貸出期間過ぎちゃっても、こっちで延長しておいてあげるから、えっと、またね!」

 そういうと、差し入れしに来てくれたであろうきゅうりを置いて、走り去っていってしまった。



 私は理解した。

 この、ヒャッハーという言葉は、それ自体が厄を呼び寄せる魔の言葉なのだ。
 確か、湖畔の館にこの漫画の他のシリーズがあったと聞いた。
 厄を生み出す、こんな危険なものは、処分するしかないだろう。

 私は、湖畔の館に向かう準備を始めた。
め、メイド長、敵の攻撃、防ぎきれません! 第24漫画書庫の被害が80%を超えています!!

なんでこんな時に限って、パチュリー様が大発作、妹様の癇癪、レミリアお嬢様の不機嫌が重なるの!? 美鈴は、美鈴はどうしたの!?

美鈴さんは今朝患った、666種類もの病気の合併症でお休みになっています、5時間は休ませて欲しいとのことです!!

メイド長!! お嬢様と妹様の喧嘩がエスカレートし、西館大破、東館へ戦場を移しています!! このままでは!

……え、メイド長……? おい、救護班、メイド長が倒れた! 救護班!!







小首をかしげて、「ひゃっはー」と言っている厄神様を幻視したので、お話にしてみました。
楽しんでいただけたら幸いです。
真四角ボトム
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
回転しつつヒャッハーする雛ちゃん…楽しそうで何より。
2.oblivion削除
このヒャッハーはなんともヒャッハーなヒャッハーですね
3.名前が無い程度の能力削除
ひゃっはー(震声)
4.名前が無い程度の能力削除
ひゃっはー(慈顔)
5.奇声を発する程度の能力削除
可愛いなおい
6.名前が無い程度の能力削除
雛「や…厄……それも一つや二つではない、全部だ!」
7.名前が無い程度の能力削除
これは良い一発ネタ!面白かったです!
8.名前が無い程度の能力削除
雛嬢の可愛さと健気さと言ったらもう
9.名前が無い程度の能力削除
あとがきw
10.名前が無い程度の能力削除
健気さあまって、厄さ100倍