「お姉ちゃんって秋葉系だよね!」
紅葉も過ぎ去りそろそろ雪が積もり始めるだろうという季節の中、穣子は私を指さし高らかに宣言した。
「うん、お姉ちゃんって秋葉系!」
私の妹は唐突に何を言い出すのだろう、冬を嫌うあまり頭に春がやってきたのだろうか。
思わず痛む頭に顔をしかめてしまう。
穣子の口にする「あきばけい」とやらには覚えがあった。
あきばけい。アキバ系。
外界のアキハバラというところに出没する、とある特定の事物を好むあまりその好みが外見にまでにじみ出ている者のこと。
最近ではいたいけな少女の画集や絵巻物を好む者のことをさす事が多い。
類義語としてマニア、オタクなど。
この話を聞いたとき私自身は聞き流していたのだが、よもやこのような展開になるとは。
まあ容疑者など一人しかいないが。
「穣子、その言葉をどこで知ったの?」
「守矢神社!風祝が変な本見て使ってた!」
そして寸分外すことなくクリーンヒット。
人のいたいけな妹に変な知識を教えてくれおって、今度会った時には復讐を果たす事を心に誓う。
だが、とりあえず目の前の誤解を解かなければ話にならない。
私は視線の高さを私よりもちょっぴり背の低い穣子のそれに合わせる。
「ねえ穣子、あなたはどうして私のことをアキバ系だと思ったの?それとも早苗に言われたのかしら?」
もっともそれ以外に原因は考えられない。
私だって早苗の説明するアキバ系とやらはよく理解できなかった。
ただ、そんなものもあるのか程度に薄ぼんやりと覚えていただけなのだ。
それなのだから穣子もアキバ系のことを正しく理解しているとはとても思えない、大方早苗にないことないことを吹きこまれただけなのだろう。
それならば修正はたやすい、あとであの下手な神よりも強い主犯格をどう懲らしめるかに難儀するだけだ。
と、思っていたのだが。
「何言ってんの?お姉ちゃんてばどう見ても秋葉系じゃん!」
「おい」
まさかこの妹は本気で私のことを、事あるごとに人里へ赴いてそういったたぐいのものを買い集めているとでも思うのか。
だとしたら甚だ不愉快な誤解だ。
そもそも私は女だ、別に少女の柔肌に興味を持つような性癖などあるはずもない健全ないち紅葉の神様だ。
「ここに来る途中でにとりと雛にもあったんだけどね、二人もお姉ちゃんは秋葉系っぽいって」
だがそんな心中とは裏腹に同意見の人物が二人追加されていた。
人口の少ない幻想郷において、二人の存在は妖怪の山での評判にかかわる。
しかも山にはうわさ好きの天狗が住んでいる。
彼らの耳に入ったら最後、明日の朝刊にはそれらしく捏造された私の写真が一面トップを飾り、娯楽の少ないこの世界をかけめぐるだろう。
そうなると流石に手遅れだ、早く手を打たなければ。
「それで。穣子はどうして私のことをアキバ系みたいだって思うのかしら」
問題を解決するために問う。
経緯はどうあれ私のことをアキバ系と判断するものが複数いたのだ、いくらかは私にそれっぽいところがあるのだろう。
自らで思い当たらない以上、不本意ではあるが他人に聞くしか改善の道は無い。
「うんとね、とりあえず全体的に」
とりあえず全否定。
心が折れそうだが未来の為折れるわけにはいかない。
「も、もう少し詳しく」
「うーん、一番はその服かな、赤と黄色だし、裾もなんだかそれっぽいし。お姉ちゃんそれしか着てないし」
そう指摘された私の服。
全体を赤で、首筋をほんの少しだけ黄色で染め上げた秋の紅葉をイメージしたワンピース。
裾の部分はキザギザに形取って積み重なる椛を表現している。
いうなれば私を象徴する服であり、当然一番のお気に入りだ。
同じ服を何枚も持っているし、できる限り毎日着るようにしている。
しかし言われてみれば同じ服しか来ていなかったのは問題だろう。
お気に入りの服を否定されたのは腹が立つが、穣子の言う事も一理ある。
もう少し違うデザインの服を揃えてみようか。
「あとね、その髪飾りも」
次に指摘されたのは私がいつも使っているこれまたお気に入りの髪飾りだ。
お気に入りの理由は髪飾りにつけられた大きな椛であるのだが、これもダメだという。
おそらく全体を椛で統一しすぎたのだろう、そのせいで私のことを椛好きなアキバ系という妙な誤解を招いているのかもしれない。
紅葉の神様なのだからこれくらい当たり前ではないかと思わないでもないが、後の為に考える必要がある。
マジョリティはいつでも絶対なのである。
「というかそもそもその髪の毛も秋葉系っぽいよね!」
ついに非難は身体的特徴にまで及び始めた。
確かに外界では金髪は少々不真面目なイメージを与えると聞いているが、それは外界での話だ。
幻想郷を見てみろ、金髪どころか赤に青、緑に紫と実に個性的な髪の色を持つものがそろっている。
金髪などまだまだましな部類だろう。
それに金髪がだめだからといってどうすればいいのか。
毛染めという方法もあるが、あれは髪の毛を痛めてしまうと聞くし、そもそもやり方をしらない。
騒動の発端たる早苗は外界に居たころ髪を黒く染めていたらしく方法を知っているようだったが、過去に聞いた話では道具がないのでこちらではできないとのことだった。
だがとりあえず方向性は分かった。
結局全部否定された気がしないでもないが、おかげで覚悟も決まったと言える。
「じゃあ穣子。もし私が服を変えて髪飾りをはずして、髪を黒く染めたとしたら、私はアキバ系ではなくなるのね?」
「え?うん、そうだけども。お姉ちゃん、服とか変えちゃうの?」
「ええ、そのつもりよ。穣子もこんなお姉ちゃん、いやでしょ?」
何より自分が嫌だ。そんないわれのない偏見など好き好んで受けたくもない。
だというのに、何故か穣子は悲しそうな顔をして俯く。
そして数瞬の後、
「嫌だ!」
今まで聞いた事のないような声で穣子は叫んでいた。
あまりの気迫に思わず体が震える。
ざざざ、とあたりを一陣の風が通り抜ける。
穣子は私に飛びつき胸にしがみつきながらなおも叫び続ける。
「その服を着ていないお姉ちゃんなんて、私の知ってる静葉お姉ちゃんじゃない!お姉ちゃんは綺麗な椛の服を着てる、秋葉系のお姉ちゃんなのが一番いい!」
端々が酷い言われようだが、ここにきて少々引っかかる点が見つかった。
私の知っているアキバ系とはあくまで絵物語の類のものを好む人のことを指す言葉であったはず。
しかし穣子は私の「椛」が「アキバ系」であると言った。
そもそも穣子は私が理解できなかったアキバ系という言葉の意味を本当に正しく理解しているのだろうか。
まて、アキバ系を漢字で書くと確か、
「ねえ、穣子が椛をアキバ系と思う理由って、」
「え、だって秋葉系って、「秋」の「葉」っぱで「秋葉系」って書くんでしょ。椛の服を着てるお姉ちゃんはまさしく秋葉系じゃない」
ビンゴだった、やはり穣子は正しい意味を理解しているわけではなかった。
大方早苗が読んでいる本を盗み見て、その字面だけで意味を判断したのだろう。
とするとだ。
「じゃあ、雛やにとりはどうして私を秋葉系だと言ったのかしら」
「それがね、二人とも言葉を聞いただけじゃキョトンとしてたから、私が文字を書いて見せてあげたの。そしたら二人とも、ああ成程って」
やはりその二人も本当の意味は知らなかったらしい、なんら心配することはなかったのだ。
安心したと同時になんとくだらないことで悩んでいたのだろうと少し前の自分が恥ずかしく思えてきた。
「それよりもお姉ちゃん」
だがまあ、考えることはいくつかあった。
少なくとも、
「着替えたりなんかしちゃダメだからね!私は椛の似合う綺麗な秋葉系のお姉ちゃんが自慢なんだから!」
「…はいはい」
このことが分かっただけでも上々だろう。
その後穣子には秋葉系という表現を使わないよう言いくるめた上で、早苗には大量の枯れ葉をプレゼントしてあげた。
結末がどうあれ、かわいい妹に変な知識を与えた恨みは変わらない。
紅葉も過ぎ去りそろそろ雪が積もり始めるだろうという季節の中、穣子は私を指さし高らかに宣言した。
「うん、お姉ちゃんって秋葉系!」
私の妹は唐突に何を言い出すのだろう、冬を嫌うあまり頭に春がやってきたのだろうか。
思わず痛む頭に顔をしかめてしまう。
穣子の口にする「あきばけい」とやらには覚えがあった。
あきばけい。アキバ系。
外界のアキハバラというところに出没する、とある特定の事物を好むあまりその好みが外見にまでにじみ出ている者のこと。
最近ではいたいけな少女の画集や絵巻物を好む者のことをさす事が多い。
類義語としてマニア、オタクなど。
この話を聞いたとき私自身は聞き流していたのだが、よもやこのような展開になるとは。
まあ容疑者など一人しかいないが。
「穣子、その言葉をどこで知ったの?」
「守矢神社!風祝が変な本見て使ってた!」
そして寸分外すことなくクリーンヒット。
人のいたいけな妹に変な知識を教えてくれおって、今度会った時には復讐を果たす事を心に誓う。
だが、とりあえず目の前の誤解を解かなければ話にならない。
私は視線の高さを私よりもちょっぴり背の低い穣子のそれに合わせる。
「ねえ穣子、あなたはどうして私のことをアキバ系だと思ったの?それとも早苗に言われたのかしら?」
もっともそれ以外に原因は考えられない。
私だって早苗の説明するアキバ系とやらはよく理解できなかった。
ただ、そんなものもあるのか程度に薄ぼんやりと覚えていただけなのだ。
それなのだから穣子もアキバ系のことを正しく理解しているとはとても思えない、大方早苗にないことないことを吹きこまれただけなのだろう。
それならば修正はたやすい、あとであの下手な神よりも強い主犯格をどう懲らしめるかに難儀するだけだ。
と、思っていたのだが。
「何言ってんの?お姉ちゃんてばどう見ても秋葉系じゃん!」
「おい」
まさかこの妹は本気で私のことを、事あるごとに人里へ赴いてそういったたぐいのものを買い集めているとでも思うのか。
だとしたら甚だ不愉快な誤解だ。
そもそも私は女だ、別に少女の柔肌に興味を持つような性癖などあるはずもない健全ないち紅葉の神様だ。
「ここに来る途中でにとりと雛にもあったんだけどね、二人もお姉ちゃんは秋葉系っぽいって」
だがそんな心中とは裏腹に同意見の人物が二人追加されていた。
人口の少ない幻想郷において、二人の存在は妖怪の山での評判にかかわる。
しかも山にはうわさ好きの天狗が住んでいる。
彼らの耳に入ったら最後、明日の朝刊にはそれらしく捏造された私の写真が一面トップを飾り、娯楽の少ないこの世界をかけめぐるだろう。
そうなると流石に手遅れだ、早く手を打たなければ。
「それで。穣子はどうして私のことをアキバ系みたいだって思うのかしら」
問題を解決するために問う。
経緯はどうあれ私のことをアキバ系と判断するものが複数いたのだ、いくらかは私にそれっぽいところがあるのだろう。
自らで思い当たらない以上、不本意ではあるが他人に聞くしか改善の道は無い。
「うんとね、とりあえず全体的に」
とりあえず全否定。
心が折れそうだが未来の為折れるわけにはいかない。
「も、もう少し詳しく」
「うーん、一番はその服かな、赤と黄色だし、裾もなんだかそれっぽいし。お姉ちゃんそれしか着てないし」
そう指摘された私の服。
全体を赤で、首筋をほんの少しだけ黄色で染め上げた秋の紅葉をイメージしたワンピース。
裾の部分はキザギザに形取って積み重なる椛を表現している。
いうなれば私を象徴する服であり、当然一番のお気に入りだ。
同じ服を何枚も持っているし、できる限り毎日着るようにしている。
しかし言われてみれば同じ服しか来ていなかったのは問題だろう。
お気に入りの服を否定されたのは腹が立つが、穣子の言う事も一理ある。
もう少し違うデザインの服を揃えてみようか。
「あとね、その髪飾りも」
次に指摘されたのは私がいつも使っているこれまたお気に入りの髪飾りだ。
お気に入りの理由は髪飾りにつけられた大きな椛であるのだが、これもダメだという。
おそらく全体を椛で統一しすぎたのだろう、そのせいで私のことを椛好きなアキバ系という妙な誤解を招いているのかもしれない。
紅葉の神様なのだからこれくらい当たり前ではないかと思わないでもないが、後の為に考える必要がある。
マジョリティはいつでも絶対なのである。
「というかそもそもその髪の毛も秋葉系っぽいよね!」
ついに非難は身体的特徴にまで及び始めた。
確かに外界では金髪は少々不真面目なイメージを与えると聞いているが、それは外界での話だ。
幻想郷を見てみろ、金髪どころか赤に青、緑に紫と実に個性的な髪の色を持つものがそろっている。
金髪などまだまだましな部類だろう。
それに金髪がだめだからといってどうすればいいのか。
毛染めという方法もあるが、あれは髪の毛を痛めてしまうと聞くし、そもそもやり方をしらない。
騒動の発端たる早苗は外界に居たころ髪を黒く染めていたらしく方法を知っているようだったが、過去に聞いた話では道具がないのでこちらではできないとのことだった。
だがとりあえず方向性は分かった。
結局全部否定された気がしないでもないが、おかげで覚悟も決まったと言える。
「じゃあ穣子。もし私が服を変えて髪飾りをはずして、髪を黒く染めたとしたら、私はアキバ系ではなくなるのね?」
「え?うん、そうだけども。お姉ちゃん、服とか変えちゃうの?」
「ええ、そのつもりよ。穣子もこんなお姉ちゃん、いやでしょ?」
何より自分が嫌だ。そんないわれのない偏見など好き好んで受けたくもない。
だというのに、何故か穣子は悲しそうな顔をして俯く。
そして数瞬の後、
「嫌だ!」
今まで聞いた事のないような声で穣子は叫んでいた。
あまりの気迫に思わず体が震える。
ざざざ、とあたりを一陣の風が通り抜ける。
穣子は私に飛びつき胸にしがみつきながらなおも叫び続ける。
「その服を着ていないお姉ちゃんなんて、私の知ってる静葉お姉ちゃんじゃない!お姉ちゃんは綺麗な椛の服を着てる、秋葉系のお姉ちゃんなのが一番いい!」
端々が酷い言われようだが、ここにきて少々引っかかる点が見つかった。
私の知っているアキバ系とはあくまで絵物語の類のものを好む人のことを指す言葉であったはず。
しかし穣子は私の「椛」が「アキバ系」であると言った。
そもそも穣子は私が理解できなかったアキバ系という言葉の意味を本当に正しく理解しているのだろうか。
まて、アキバ系を漢字で書くと確か、
「ねえ、穣子が椛をアキバ系と思う理由って、」
「え、だって秋葉系って、「秋」の「葉」っぱで「秋葉系」って書くんでしょ。椛の服を着てるお姉ちゃんはまさしく秋葉系じゃない」
ビンゴだった、やはり穣子は正しい意味を理解しているわけではなかった。
大方早苗が読んでいる本を盗み見て、その字面だけで意味を判断したのだろう。
とするとだ。
「じゃあ、雛やにとりはどうして私を秋葉系だと言ったのかしら」
「それがね、二人とも言葉を聞いただけじゃキョトンとしてたから、私が文字を書いて見せてあげたの。そしたら二人とも、ああ成程って」
やはりその二人も本当の意味は知らなかったらしい、なんら心配することはなかったのだ。
安心したと同時になんとくだらないことで悩んでいたのだろうと少し前の自分が恥ずかしく思えてきた。
「それよりもお姉ちゃん」
だがまあ、考えることはいくつかあった。
少なくとも、
「着替えたりなんかしちゃダメだからね!私は椛の似合う綺麗な秋葉系のお姉ちゃんが自慢なんだから!」
「…はいはい」
このことが分かっただけでも上々だろう。
その後穣子には秋葉系という表現を使わないよう言いくるめた上で、早苗には大量の枯れ葉をプレゼントしてあげた。
結末がどうあれ、かわいい妹に変な知識を与えた恨みは変わらない。
この発想はありそうで無かった
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