やってしまった。
咳が止まるのを待って体の向きを変え、ぼうっとした頭で自分を責める。
昨日の夜から咳が出始めて、なんとなく体がだるかった。なのにどうしても終わらせたくて実験を続行して、4時間ほど寝て……咳で起きたら、このザマだ。
「ううううぅ」
布団を頭までかぶっても寒気が止まらない。おなかがすいた。誰か、誰か……。
ふと、見慣れた金髪が脳裡に浮かんだ。ここに一番近くて、一番信用できるのはあいつだ。
この間の異変からずっと持っていた人形を掴んで、あの時みたいに魔力を流す。
ベッドの近くに置いていたのは正解だった。
*
『あー……アリス、起きてるか?』
くぐもった声に起こされた。ソファで寝ていたからか体が痛い。
時刻は午前5時過ぎ。1時間仮眠するつもりが3時間も眠っていたらしい。
『アリス?』
不安げで弱々しい声を訝しみながら、先の異変で使ったきりだった人形を手元に寄せ、魔力を通す。
「何、どうかした?」
『ちょっと来てほしいんだ。食べ物もあると嬉しい』
「底を尽きたの?」
『それもあるんだけど……』
言いにくそうに言葉を切った。2、3度促すと、ようやく観念したように口を開いた。
『風邪ひいたみたいなんだ』
*
アリスは10分ほどでうちに来た。
リビングの方で物音がしていたが、やがて足音が寝室に向かってきた。
「バカじゃないの?」
「第一声がそれか……」
苦笑いが癇に障ったようで、アリスは不機嫌そうな表情のままベッド脇の椅子に腰掛けた。
「どうせ風邪だってわかってて無理したんでしょ」
「うっ」
棘のある言葉はまったくその通りで耳に痛い。ついでに頭も痛い。
小言が続きそうだと背を向けたら、ぽんと頭に何かが触れた。
「体をこわしちゃ、意味ないでしょうに」
髪を撫でてくれる手は優しい。
「ほんと、バカね」
背にかけられる声も、また。
鼻の奥がつんと痛んで、情けない顔を見られないように布団を引っ張り上げた。
「ご飯できたら起こすから、それまで寝てなさい」
「……ん」
髪を梳く指が心地よくて、目蓋が重くなる。
おやすみを言う前に、すうっと眠りに落ちた。
アリスの優しさが心に染みた。
完治するまでずっと泊まるといいよ!