その郷には――
百人の雲山がいます。
男性が百人で、女性はゼロ人です。
頑固親父が百人で、美少女はゼロ人です。
極太眉毛のナイスミドル達が愉快に暮らしています。
ですけれど、その世界――雲山郷――を作った賢者様は、「これはひどい」と呟いて、
「無かったことにしなければいけない」
と、頭を抱えました。そうしている間にも、賢者様の体は雲山になろうとしていきます。彼女の髪髪モフモフでクンカクンカスーハスーハーしたくなるような金色の髪も、あとどれだけ持つのでしょう。
その世界にはスキンヘッドが似合うホットガイしかいないのですから。
だから大慌てで結界を張り直して、皆さんがよく知る幻想郷を作ったのです。
「ねえ、魔理沙」
「どうしたんだ?」
「……ううん。なんでもない」
幻想郷では、アリスと魔理沙がきゃっきゃうふふとしていました。アリスはじっと魔理沙を見つめていて、「ねえ、魔理沙(どうして貴方の横顔ってこんなに胸を締め付けるの?)」なんて思っています。
それはそれでとてもとても良い世界なのですが、頑固親父の引き締まった体や逞しい上腕二頭筋もまたいいものです。賢者様も心のどこかでそう思っていたのでしょう。
賢者様は外の世界に出て、乙女ロードをテクテクと歩いていました。ホモが嫌いな女子なんていないのです。式神が荷物持ちでいたのですが、
「紫様……妖忌は責めに決まってるでしょう?」
「呆れた。ああいう剣豪が力尽くで受けに回されるのがいいんでしょう……」
そんな風に喧嘩をしてしまいました。で、ムシャクシャしたのでカッとしながらスキマを開けて、幻想郷へと戻ろうとします。
「アッー!」
叫んでしまいました。なんということでしょう。雲山は死滅していなかったのです。雲山郷も健在だったのです。次元の狭間で、結界のスキマで、雲山たちはすくすくと育っていきました。
なんだこれは、たまげたなあ。と思いながら見つめています。
そこは実に平和な楽園でした。妖忌×霖之助か霖之助×妖忌で、式神と大げんかするようなことはありません。
だって、そこには雲山しかいないのですから。その世界のカップリングは雲山×雲山だけです。
そう、その郷には百人の雲山しかいなくて、百人の頑固親父しかいなくて、五十組の恋人達が愛を囁く、漢の楽園なのです。
「無かったことにはしてはいけない」
賢者様は思い直しました。孤独な観測者になることを決めて、ちょくちょく眺めていました。
その世界には百人の雲山がいますが、もちろん、みんな別々の雲山です。ぱっと見では皆同じ頑固親父に見えますが、ずっと見ていると、賢者様にも別々の雲だって言うことがわかってきました。
「ねえ、魔理沙」
「どうしたんだ?」
「ううん……なんでもない」
森の奥の、小さくて漢らしい無骨なお家。
アリス・雲山・マーガトロイドと、霧雨・雲山・魔理沙が、藤子・F・不二雄の漫画を読みながら語り合っていました。蓄音機からはイングヴェイ・J・マルムスティーンのギターが鳴り響いています。
でも、アリスの目には魔理沙しか映りません。藤子先生のSukoshi Fushigiなお話も、先祖が貴族……正確に言えば伯爵である王者のギターも耳に入りません。
立派な白髭を見ると、もう心がどうかしてしまいそうで、それしか見えません。
\アリだー!/
どこかで叫び声がしました。蟻が発生したようです。アリスは割合に蟻が苦手なので、退治する気がおきません。思わずマリ雲山以外を考えてしまいました。
「蟻が出たら面倒だな。ちょっくら退治してくるぜ」
と、魔理沙が出ていきました。アリスもおっかなびっくり付いていくと、大きな大きな蟻がいました。
「連打……マスタースパーク殴り!」
と叫ぶと、引き締まった肢体が蒸気を噴き出し、力こぶは勇ましく湧き出します。
それを見て、アリスは顔も真っ赤にうっとりした調子でした。
今日も雲山郷は平和です。
◇
――夢か。
とマエリベリー・ハーンは思った。あのプレートを……伊弉諾物質を拾って以来。様々な世界を見るようになっていた。
例えば地底の景色――神々の時代の景色。あるいは、500歳の幼女が治める館。本当の、月の裏側もだ。
先ほどまで見ていた光景もその一つだ。これは夢か現か……危険な領域を垣間見、恐怖に震える。
それを救ったのは、背後から聞こえた蓮子の声だった。
「メリー。もう授業は終わりよ」
「あ、ううん。ぐっすり寝ちゃったわ」
「あの教授の授業、退屈だもんね。二人一緒に取れる授業もあまりないとはいえ……って、顔色が悪いわね」
「酷い夢、見ちゃった」
「どんな夢を?」
メリーは思い出して、震えそうになった。
「私たちが雲山じゃないのよ!」
マエリベリー・雲山・ハーンは振り向いて言った。もちろん、蓮子も雲山だった。教室の中の皆も、窓から見える学生も雲山だ。
「ふへ? いやいや、そいつはまあ、とんでもない世界を見たものね」
「あれは夢よ、夢。貧弱な女の子しかいないの……そんな世界が有っていいわけがない」
「疲れてるのよ。カフェテラスで昆布茶でも飲みましょ? そうしたら気が晴れるわよ」
蓮子はそう言いながら、薄紅色の太い手を回し、メリーを抱擁するような仕草をした。顔を近づける、長い眉毛が、メリーを頬をさすった。
やっとの事で、落ち着くメリー。
ほっと、胸をなで下ろした。大丈夫。地球は雲山の楽園だ。
百人の雲山がいます。
男性が百人で、女性はゼロ人です。
頑固親父が百人で、美少女はゼロ人です。
極太眉毛のナイスミドル達が愉快に暮らしています。
ですけれど、その世界――雲山郷――を作った賢者様は、「これはひどい」と呟いて、
「無かったことにしなければいけない」
と、頭を抱えました。そうしている間にも、賢者様の体は雲山になろうとしていきます。彼女の髪髪モフモフでクンカクンカスーハスーハーしたくなるような金色の髪も、あとどれだけ持つのでしょう。
その世界にはスキンヘッドが似合うホットガイしかいないのですから。
だから大慌てで結界を張り直して、皆さんがよく知る幻想郷を作ったのです。
「ねえ、魔理沙」
「どうしたんだ?」
「……ううん。なんでもない」
幻想郷では、アリスと魔理沙がきゃっきゃうふふとしていました。アリスはじっと魔理沙を見つめていて、「ねえ、魔理沙(どうして貴方の横顔ってこんなに胸を締め付けるの?)」なんて思っています。
それはそれでとてもとても良い世界なのですが、頑固親父の引き締まった体や逞しい上腕二頭筋もまたいいものです。賢者様も心のどこかでそう思っていたのでしょう。
賢者様は外の世界に出て、乙女ロードをテクテクと歩いていました。ホモが嫌いな女子なんていないのです。式神が荷物持ちでいたのですが、
「紫様……妖忌は責めに決まってるでしょう?」
「呆れた。ああいう剣豪が力尽くで受けに回されるのがいいんでしょう……」
そんな風に喧嘩をしてしまいました。で、ムシャクシャしたのでカッとしながらスキマを開けて、幻想郷へと戻ろうとします。
「アッー!」
叫んでしまいました。なんということでしょう。雲山は死滅していなかったのです。雲山郷も健在だったのです。次元の狭間で、結界のスキマで、雲山たちはすくすくと育っていきました。
なんだこれは、たまげたなあ。と思いながら見つめています。
そこは実に平和な楽園でした。妖忌×霖之助か霖之助×妖忌で、式神と大げんかするようなことはありません。
だって、そこには雲山しかいないのですから。その世界のカップリングは雲山×雲山だけです。
そう、その郷には百人の雲山しかいなくて、百人の頑固親父しかいなくて、五十組の恋人達が愛を囁く、漢の楽園なのです。
「無かったことにはしてはいけない」
賢者様は思い直しました。孤独な観測者になることを決めて、ちょくちょく眺めていました。
その世界には百人の雲山がいますが、もちろん、みんな別々の雲山です。ぱっと見では皆同じ頑固親父に見えますが、ずっと見ていると、賢者様にも別々の雲だって言うことがわかってきました。
「ねえ、魔理沙」
「どうしたんだ?」
「ううん……なんでもない」
森の奥の、小さくて漢らしい無骨なお家。
アリス・雲山・マーガトロイドと、霧雨・雲山・魔理沙が、藤子・F・不二雄の漫画を読みながら語り合っていました。蓄音機からはイングヴェイ・J・マルムスティーンのギターが鳴り響いています。
でも、アリスの目には魔理沙しか映りません。藤子先生のSukoshi Fushigiなお話も、先祖が貴族……正確に言えば伯爵である王者のギターも耳に入りません。
立派な白髭を見ると、もう心がどうかしてしまいそうで、それしか見えません。
\アリだー!/
どこかで叫び声がしました。蟻が発生したようです。アリスは割合に蟻が苦手なので、退治する気がおきません。思わずマリ雲山以外を考えてしまいました。
「蟻が出たら面倒だな。ちょっくら退治してくるぜ」
と、魔理沙が出ていきました。アリスもおっかなびっくり付いていくと、大きな大きな蟻がいました。
「連打……マスタースパーク殴り!」
と叫ぶと、引き締まった肢体が蒸気を噴き出し、力こぶは勇ましく湧き出します。
それを見て、アリスは顔も真っ赤にうっとりした調子でした。
今日も雲山郷は平和です。
◇
――夢か。
とマエリベリー・ハーンは思った。あのプレートを……伊弉諾物質を拾って以来。様々な世界を見るようになっていた。
例えば地底の景色――神々の時代の景色。あるいは、500歳の幼女が治める館。本当の、月の裏側もだ。
先ほどまで見ていた光景もその一つだ。これは夢か現か……危険な領域を垣間見、恐怖に震える。
それを救ったのは、背後から聞こえた蓮子の声だった。
「メリー。もう授業は終わりよ」
「あ、ううん。ぐっすり寝ちゃったわ」
「あの教授の授業、退屈だもんね。二人一緒に取れる授業もあまりないとはいえ……って、顔色が悪いわね」
「酷い夢、見ちゃった」
「どんな夢を?」
メリーは思い出して、震えそうになった。
「私たちが雲山じゃないのよ!」
マエリベリー・雲山・ハーンは振り向いて言った。もちろん、蓮子も雲山だった。教室の中の皆も、窓から見える学生も雲山だ。
「ふへ? いやいや、そいつはまあ、とんでもない世界を見たものね」
「あれは夢よ、夢。貧弱な女の子しかいないの……そんな世界が有っていいわけがない」
「疲れてるのよ。カフェテラスで昆布茶でも飲みましょ? そうしたら気が晴れるわよ」
蓮子はそう言いながら、薄紅色の太い手を回し、メリーを抱擁するような仕草をした。顔を近づける、長い眉毛が、メリーを頬をさすった。
やっとの事で、落ち着くメリー。
ほっと、胸をなで下ろした。大丈夫。地球は雲山の楽園だ。
しかしそろそろ雲山がゲシュタルト崩壊しそうなので…というか俺が…俺達が…UNZANだ!