※ あやはたを書けと言われた結果がこれだよ!
暴れん坊天狗とは…
ファミコンで発売された横スクロールSTGである。
天狗の面が某合衆国を巨悪(ビッグワル)の手から救うという、一歩間違えれば映画化キャンセル全米ナンバーワンのポテンシャルを持つ怪作であり、これに憧れる天狗は結構多い(国勢調べ)
対空攻撃の目玉(誇張無し)と対地攻撃の唾液(誇張無し)を駆使し、被害に遭った人々を助ける様(捕食している様にも見えると好評)は、天狗のあるべき姿であるとも言える。
なお開発はこの手のトンチキなゲームを得意とするSEGAや故・データイーストではなく、ライブプランニングという会社であり、発売は1990年…まさかの平成年間である。
「そういう訳で」
「どういう訳よ」
暑さ寒さもギガンテスでありロンダルキアは気を抜くとマズいよネ! という気候のもと、比類無き鴉天狗である射命丸文と、天狗スイーツ~それから~の異名を持つ姫海棠はたての二大巨頭(国勢調べ)は、茶などをしばきつつ、与太話を繰り広げていた。
内容はというと、どうすれば文々。新聞の部数が上がるか、という、天地開闢以来、ありとあらゆる東方二次創作で題材にされてきたテーマであり、例え謙虚なソル使いでなくとも「まただよ(笑)」と言ってブラウザバックしてしまうのは必定であり予定調和ですか?
む、何時の間にやら語り部たる拙者が質問者であり、罰として地霊ルナノーミスノーボムノー念力クリアするまで飯抜きの刑とす。
「だから暴れん坊天狗で異変を解決すれば、見返りに銭と部数と地位と名誉とイケメンが手に入るんだよ! わかれ!」
全盛期はホイホイと呼ばれ青少年達の銭とタンパクを毟り取って来た文であるが、この幻想郷も昨今は随分と賑やかになってきていて、それは言ってみれば新たなる挑戦者がナナナナーゥと乱入してきたと思ったら幻影陣即決だった、というような絶望一歩手前な状況であり、要するにかわいいおんなのこがいっぱいでてきたのでにんきがぶんさんした。
つまり、かつて程の天狗力(てんぐちから)は既に失われ、今やオプションとしてすら呼ばれなくなった文が、本来の業務である新聞作りに活路を見出し、それに付随したプラスアルファによって己の立場を固めたい、と画策するのも、自然の流れである。
新聞屋が洗剤やタオル、巨人・阪神戦のチケットを持ってくる場面を思い出していただければ、判りやすいと思う。
「部数や名誉とかはともかく…私カレシいるしー」
「は…は? はたてさん? ユー何言っちゃってるの? その発言は二次創作と言えど禁句っしょ? わかってんの?」
「モニタの前に、たくさんね!」
「そんなこったろうと思ったよ死ね!」
ガツン、と、文の天狗パンチ(236P)が、ぶりっ子(死語)顔をしたはたての顔面を捉え、それをきっかけにキャットファイトならぬテングファイトがレディーゴーしたので、しばらくお待ち下さい。
~少女格闘中~
「わたしは しょうきに もどった!」
「マクロバーストを やぶらぬかぎり おまえにかちめはない!」
「アウトレイジ」で歯医者ドリルの刑にあった石橋蓮司よろしく、顔面に包帯を巻きつけたはたてが、うつろな目でそう呟くと、文もまた首肯し、手元のタブクリアをぐっと飲み干す。
なお先日放送された「アウトレイジ」では、件の歯医者ドリルシーンと、指ラーメンのシーンはカットされているので、気になる方はレンタルしてみるとよいだろう。
「で、何だっけ、暴れん坊TENGA?」
「脳までイカれたかこのスイーツ、天狗だよ。実際にありそうなキャッチを考えるんじゃないよ」
「はい」
「まぁいいや、食えよ兄弟」
次いで、程よく茹で上がった焼きそばバゴーン(幻想入り)をハムッハフハフハフッと食べつつ、文はケンちゃんラーメン(新発売)をはたての前に置いた。
しかし当然ながら、包帯でぐるぐる巻きになったはたてが、それを為すことは出来ない。
「あ、食えないか」
この配役だと文は國村隼ということになるのだが、性別も次元も違う役者が幻想郷に入るにはまだ早いので、残念ながらかわいいかわいい天狗のままであり残念無念ミカハッキネンといったところか。
文はケンちゃんラーメン(新発売)を手に取りずるずると啜り、タブクリアで流し込んだのち、満足げに息をついた。
「要するに、お前が一騒動起こして、私が暴れつつ解決する。そしてそれを記事にする」
「はい」
「心配すんなよ兄弟、暴れるとか解決するって言っても、形だけだからよ。世間じゃこういうの、何て言うんだっけ?」
「バッフクラン?」
「語感はそんな感じだったな…まぁ、いいや。とりあえず、お前一人じゃ騒動もショボいだろうから、助っ人呼んでおいたから」
「助っ人ねえ」
マッチポンプという単語すら知らない新聞記者というのは、現実ではありえないが、この作品はフィクションであり実在の二次元キャラクター及び団体とは関係ありません。安心。
文は容器をゴミ袋に捨てると、懐からクールマイルドを取り出し、火を点けた後、手をポンポンと叩いた。
「これ近う」
「ニャーン!」
スタン、と襖を開け、猫の声真似をしながら入ってきたのは、白狼天狗・椛であった。
気性が荒く、文にも余裕で歯向かう椛であるが、今日は様子が違う。その華奢な身体を某読売巨人軍のユニホームに身を包み、背には「MOMMY G」という文字が縫い付けられている。
「あなたは…モミレス!」
「アナタハ…テング ノ ハタテサン」
「そんな格好で何をしているの!?」
「ワタシ…モウイラナイッテ…セリフ ガ ナイカラ イラナイッテ…」
「そんな…! 君があやもみSSや同人誌にどれだけ貢献したと思ってるの!?」
「ショウガナイヨ…」
「モミレス、いやモミちゃん。ウチに来ないか」
「エッ」
「飽きてしまったユーザーを見返してやろうじゃないか!」
「ハ、ハラサン…」
話はまとまった。
頼りになる助っ人外国人・モミーGの協力を取り付けた文とはたてはおやつを食べつつ、急ピッチで策を練った。字数の節約とばかりに練った。
何やら某ナイスガッツとかいう男のデビュー作「V作戦」と似通っているな、と思ったがスルーして甘食などを食べもした。歯にもくっついた。
そして払暁の頃…
「出来た…出来まくった! この隙も生じぬ二段構え…フフ…怖い…己の冴え渡る天狗ing(テンギング)頭脳が怖い!」
「イエーイ。んじゃ寝ていい?」
「待て待て、おさらいしてからだ」
既に横になり、モミーの尻に頭を乗っけていたはたての尻を蹴りつつ、文はホワイトボードを叩く。
様々な案が所狭しと書き連ねられ、端の方にはスプーまで描かれているホワイドボードが一回転し、生ぬるい風を起こした。
「まずは目標! これ即ちアメリカナイズな建物! つまり紅魔館!」
「あれアメリカっつーかヨーロッパじゃない?」
そう言うや否や、文の虎口拳(目潰しみたいなもの)が、はたての顔面に炸裂した。
「オアアアアア!?」
「オメー、コーヒーって知ってるよな? 発祥はイスラム圏だって知ってるよな? それが今やアメリカンとか冠してるよな? 要は東京ドイツ村(所在地・千葉県)みたいなもんなんよ。つまりそういう事だよ、わかれ」
「は、ハイ…」
文はすっかりぬるくなったコーヒーをゴズズと啜ると、煙草に火を点けて、説明を再開する。
「この紅魔館をお前とモミーが襲撃し、どうにかして支配下に置くところから始まるんよ」
「ちょ、ちょっと待ってよ…あそこは人気から強さから精鋭揃いじゃないのよ。ネタに困ったら紅魔館、的な! それを「どうにかして」の一言で制圧させるなんて、竹槍一本でローカストの本拠地に攻め込めっていってるようなもんじゃないの!」
「竹槍? ねぇよんなもん! それはそうとんなこたァ、判ってんだよ! だからってナメられっぱなしでいいのかよはたて! 何、人気があるって事は、それだけ手の内がバレてるってことなんさ。いいか、まず門番は睡眠耐性に難がある! 取材を装ってアイスティーを差し入れてやればイチコロコロリさね!」
「なんとかなるかも!」
なるらしい。
「では次にあの隠れ巨乳の喘息魔女…ひとりストロイドウィッチーズのパチュ何とかだが」
「あれはほっといていいんじゃない? どうせ図書館でエロ本でも読んでるんでしょ? もしくは辞書のちょいエロワード探してるか。フェルマータとかサセックス州とかロームフェラ財団とか」
「テムレイ! あ、いや、手ぬるい! 奴はああ見えて意外とやる! だがご安心下さい、奴が『ぱーぷる』名義で出版した厨二全開の痛々しい小説を入手しました」
「瀬戸内寂聴かよ!」
文は新しいコーヒーを淹れ、更にまた煙草に火を点けると、傍らにあった一冊の本をはたてに投げて寄越す。
豪華な装丁の施された、ハードカバーの分厚いそれのタイトルは「†東方銀影譚† 壱」と銘打たれており、もう何というか見ただけでお腹一杯なシロモノであった。
はたてはこれ以上無い微妙な表情で、何ページかをめくって、そっと閉じる。
「…」
「これ、全部読んだ? もう主人公の名前からして無理なんだけど」
「射命丸人生の中でもトップ3に入る程の苦行だった。これならまだ響鬼さんの後半(30話~)を5周くらいした方がマシ」
「そこまで!?」
なおパチュリー・ノーレッジことぱーぷるの出版したそれは、3部程売れたらしい。
「奴の弱点はおそらくそこにある…よって私が河童に開発させたこのミラクルアイテムを授けよう」
「はあ」
ゴトリ、と置かれたそれは、どう見てもガラクタにしか見えない。はたては指先についたハッピーターンの粉を嘗め取りつつ、それを手にする。
賢明な読者諸兄ならばこの一言でお判りになると思うので、過度の説明は避けるが、要はテム・レイのアレである。
「…一応訊いておくけど」
「これはその本に登場する、次元反転装置試作型「フィロソマ」TypeΩ・零式改のレプリカよ」
「じげ…何だって? 第一種臨界不測兵器重力子放射線射出装置みたいなもん? 天照家J型駆逐戦闘兵器みたいなもん?」
「馬鹿野郎! 第一種臨界不測兵器重力子放射線射出装置やヤクトたんと、その…プレステの妙なSTGみたいな名前の装置を一緒にすんな! 狼けしかけるぞ!」
「ハラサン…」
「とにかくこれを出せば奴は己の黒歴史に身もだえし、バッドステータス・バインド状態になること請け合い。鈍器として使っても可。もし奴が出てきて調子ぶっこいたら、この袋を開けるんじゃよ? ホホホ」
そう言うと文は装置を小さな袋に入れ、どこぞの軍師よろしく笑ったのち、それをはたてに手渡した。
なお重力ryは弐瓶勉の「BLAME!」という漫画に登場するので、興味のある方はチェックしてみるとよいだろう。
「アヤサン、アノメイドハ トテモ ツヨイヨ」
「しんぱいごむよう 既に対策は打ってござる」
そんなこんなで、そろそろ日も昇ろうかという頃、一行は漸く、紅魔館の誇る殺人マシーン・十六夜咲夜についての打ち合わせに入った。
モミーがシリアルをモリモリと食べながらそう言うと、文はにやりと笑ったのち、先ほどのハードカバーとは違った、単行本サイズの本をテーブルに置いた。
「そんなこったろうと思ったよ!」
「時間停止に対する対策はこの27巻、28巻があれば事足りるんよ…という訳で読んでおくように」
「いや、セリフ全部言えるくらい読んでるんで…んじゃメイドはこれでいいか。あとはあのガキンチョ共だけども?」
そう、部下達をどうにかしてどうにかしたとしても、紅魔館の主である、わんぱく吸血鬼ことレミリア・スカーレットならびにフランドール・スカーレットがいるのである。
奴らは人気は勿論、強大な破壊力とカリスマを兼ね備えた巨悪(ビッグワル)であり、一筋縄ではいかない。
そんなはたての言葉には応えず、文は電気ジャーからご飯を盛り、仮面ライダーふりかけをかけて、わしわしと食べ始める。
「奴らは正直なところ、私達の戦力ではどうにもならない。アレをどうにか出来るとすれば、まあ博麗の巫女か、八雲紫か、ヘルシング機関くらいなものでね…だもんで、そちらの根回しも完璧よ」
「榊原良子さん、くんの!?」
「いや、榊原良子さんは残念ながらアポが取れなかった。そして更に困ったことに、巫女の方にでも計画を打ち明けようものなら、その場で私たちを異変認定しかねないわ。認定されたらもう、死ぬか重傷か謝るかの三択しかない…」
暴力とバイオレンスとフェイタリティの化身であらせられる博麗霊夢の恐ろしさは、それこそ幻想郷に住む者にとっての常識である。
相手が神だろうが鬼だろうが亡霊だろうが、有象無象の区別なく、彼女の拳は「異変」と名のつくもの全てを粉砕せしめる。
なお作者の脳内では、八坂神奈子の声は榊原良子さんです。
「だもんで、消去法で、八雲紫の方に頼んでおいたわ。決行の日に、紅魔館に行って、あの二人を押さえておいて貰うってだけよ。彼女のコラムを半年程載せてやるって条件でね」
「ふーむ…しかしそんな都合よく行くかねえ」
「彼女もあれで暇人だからね、二つ返事で請け負ってくれたよ」
話はまとまった。
一晩中話し込んでいたせいか、皆睡魔に囚われ、朦朧としている中、朝日が顔を出す。
文は大きく伸びをすると、押入れから掛け布団を出し、ごろりと横になると、そのまま寝てしまった。
それから数日後…
説得力のある天狗たちは、紅魔館を遠くに望む、湖の畔に集まっていた。
いくらかの手荷物を持ったはたてとモミーG、そしてぴっちりとしたラバースーツの様な物を身につけた文が、円陣を組んで、最後の打ち合わせを始める。
「アヤサン、ソノカッコウ、ナニ? エロイネー」
「河童から借りてきたオプティカルカモフラージュスーツよ。光学迷彩って奴ね…あんたプレデター見たことないの?」
「プレデターズナラ アルヨ」
「残念な方か…まあいい、ってかモミー、どうしたのその体。筋肉モリモリでしかも肌真っ黒で」
ちょっと残念な方のプレデターしか知らないモミーをよく見ると、数日前、打ち合わせをした時とはもはや別人であった。というか黒人であった。ゾンビ映画では確実に生き残るタイプの黒人であった。
「アア、チョットデモツヨクナロウト オモッテ 宮崎キャンプニイッテタンダヨ オカゲデツヨマッタヨー」
「なるほど、それはいい心がけだわ。別人かと思うくらいに見違えたわよモミー! これで更なる磐石ってワケね」
「エヘヘ…」
「ウィザードにもそんなおもしろ外人出てたわね。で、文、そのスーツの効果のほどは?」
「ああ、うん。これをこの様にして…」
文が胸元にあしらわれたスイッチを入れると、その姿はたちまちの内に辺りの景色と同化し、消失してしまう。
そして、足元に置かれた文のカバンから、天狗の面が浮かび上がる。
「こうやって、つければ…」
「た、確かに暴れん坊天狗だわね…!」
中空に浮いた天狗の面は極めてシュールであったが、それこそが怪作「暴れん坊天狗」の骨子であり、これがなければ始まらない。
文が何か動く度、上下左右に面が揺れ、はっきり言ってキモイのであるが、はたては気を取り直し、荷物を担ぐ。
「んじゃ、行ってくるわ」
「イッテラッシャイ」
「うむ、健闘を祈る」
そう言い残し、文は響鬼さんのようにシュッと手をかざし、翼をはためかせて飛び上がった。
残された二人は、文が猛スピードで飛び去るのを確認すると、お互いに見詰め合って頷くと、ゆっくりと歩き出した。
「ア、ハタテサン」
「うん? どったの」
先を歩いていたはたてが、その声に振り向く。
すると次の瞬間、はたての腹に、鈍い衝撃が走った。
「が…」
前のめりになった所に、追い討ちとばかりに叩き込まれる手刀を受け、はたてはそのまま倒れ伏した。
薄れ行く意識の中、はたてはモミーの目を見る。
それは何か、得体の知れない恐ろしさを秘めて…
「こんにちは、ホンさん!」
「あら、これははたてさん」
門の前で忽雷架(こつらいか。太極拳の套路の一つ)の修練をしていた紅美鈴が、舞い降りてきたはたての声に振り向いて、笑顔を見せる。
しかしその笑顔はすぐに苦笑いに変わり、彼女はモミーGを見て、口を開いた。
「と、えーと…そちらの外人さんは一体…」
「あら、うちの椛を御存知なかった?」
「い、いえ、知ってますけど…そんなマッシヴかつ色黒な方ではなかったような…というか、男性…?」
「コンニチハ、ホンサン ホンサンモ コウマカンノ スケットガイジンナンデスヨネ ナカマデスネー」
「え、ええ、ああ、まあ、はい…それではたてさん、今日は一体何のご用件で?」
常識に囚われすぎれば、目が曇る…美鈴は頭に生じた幾つかの疑問を振り払い、はたての方に向き直ると、再び笑顔になって、そう尋ねた。
文が尋ねてくることはあっても、はたてが来るというのは珍しいことだ。何か、あったのだろうか、と、そう彼女の目は物語る。
「いえ、花果子念報の取材です。お時間あればお願いしたいのですが…」
「あ、なるほど、いいですよ。しかし今日は来客が多いですね、先ほども紫さんがいらっしゃって」
「へぇ。えーとそれでは…」
「立ち話もなんですし、詰め所で伺いましょう」
美鈴はそう言うと、通用門を開け、二人を館の中にある詰め所へと招き入れた。
はたては荷物からポットを取り出し、中身を紙コップに注いで、美鈴の前に置く。
「アイスティーですけど、よかったら」
「わ、ありがとうございます! いや、喉が渇いていたもので…」
疑いもせずそれを飲み干す美鈴に、はたての良心は若干痛んだが、これも文の為だ。
彼女は適当なインタビューをしつつ、その時を待つ。
「そう…ですね…太極拳とは要するに…化剄…が…」
「眠そうですね、大丈夫ですか?」
「テツヤシテタンデスカー?」
「あ、いえ…ごめんなさい…ちょっと、何だろ…」
「休んだ方がいいのでは? 取材はまたにしますから」
その言葉を聞くまでもなく、美鈴は机に突っ伏し、寝息を立て始める。
流石は八意永琳謹製の睡眠薬である。妖怪であってもその効果からは逃げられない。
はたてとモミーGはそっと詰め所を出ると、スニーキングアクションさながらに中庭を抜け、館の中へと侵入した。
「ウマクイッタネー」
「ちょっとかわいそうだけどね…今度お菓子でも持ってってあげなきゃ…」
時折通りがかるメイド妖精達から隠れ、二人は図書館へと侵入する。
だだっ広い空間ではあるが、遠くに書斎の明かりが見えるせいで、迷うことはない。
「こんにちは、パチュリーさん」
「うん…?」
ソファに寝転がり、ポテロングを齧りながら「悟空道」を読んでいたパチュリーが、その声に我にかえる。
普段の貞淑そうな立ち居振る舞いからは考えられぬ行儀の悪さ…それを見られて若干動揺したのか、パチュリーは食べかすを払い、居住まいを正した。
「姫海棠さん…いきなりね、どうしたの? あと横にいる黒人は誰?」
「モミーGですよ。頼りになる助っ人外国人…あなたの小悪魔さんと似たようなもので」
「ヨロシクー」
「よ、よろしく…それで…何の御用かしら…?」
「悟空道」をさっと隠し、わざとらしく魔導書などを取り出したパチュリーに若干イラッとしたのか、はたては無言で文に貰った袋を取り出し、パチュリーに放る。
「悟空道」なんて読む女子がいたら、大抵の男(作者含む)は速攻求婚してしまいそうなものであるが、そんな己を見られたくないというのはこれ即ち「悟空道」<自分のメンツであり許せぬのでまいてまいて!
「それを開けてごらんなさい」
「な、何かしら…」
トラップ発動! パチュリーは動けなくなった!
「こ、これは次元反転装置試作型「フィロソマ」TypeΩ・零式改!」
「フフフ…まさかあの「ぱーぷる」先生がパチュリーさんだったなんてね…おっと動かないことね、動けば「ぱあぷる」の正体を白日のもとに晒すわよ!」
「く、くっ…何が望みだと言うの…? まさか乱暴する気!? エロ同人みたいに!」
「いえいえ、私百合とかレズとかそういうの興味ないんで…パチュリーさんはしばらく、このまま図書館に篭ってて下さい。ゴルゴ13でも最初から読んでてくれていいですので」
「わ、わかったわ…」
パチュリーは手をかざし、本棚からゴルゴ13を引き寄せると、ちらちらとはたてを見つつ、ページを開いた。
どうやら「ぱーぷる」に関しては本当に、知られたくない過去の様で、助けを呼んだり、魔法で攻撃してくるような真似はしない。
はたては口の端を歪めて笑うと、モミーを連れて図書館を後にした。
「ヤッタネハタテサン ダリツイイネー」
「フフフ…まぁね。大体何よ、「悟空道」をまるで恥ずかしいもののように…まぁいいわ、んじゃ行くわよモミー、次の相手は十六夜咲夜!」
「オーイエー」
かつて私の敬愛する作家さんは言った…
「幻想郷にはクレイトスさんが二人いる」、と。
その内の一人、十六夜咲夜。瀟洒でSHOSHAなパーフェクトメイド、あるいはボンボン餓狼で言うところの殺人機械(キリングマシーン)…
その咲夜の前に、今二人は立っていた。
「こんにちは、十六夜さん」
「…あら、あなたは確か…海堂直也さんでしたっけ」
「全然違うわ! スネークオルフェノクちゃうわ!」
「ソレダトワタシ、ミスターJニナッチャウヨー チャコ…」
「ああはいはい、はたてさんでしたっけね。で、何の御用ですか。アポイントがあるとは聞いておりませんが」
咲夜は養豚場の豚でも見るかのように冷たく残酷な目で、二人を睨めつけながら、そう問うた。
掟破りの残虐能力・時間停止を操る彼女のことである。返答如何によっては、次の瞬間にでも二人の命を奪うことも可能であり、はたては思わず息を呑んだ。
しかし、対策はある。
「ああ、いえ。花果子念報のアポ無し突撃取材って奴でしてね…幻想郷でも屈指の人気者であらせられる咲夜さんに話を伺おうと」
「…なるほど。しかしそれでも、事前に何かしらの打診をするのが筋をいうものでは?」
「それじゃあ準備をされてしまって、対象の生々しい声を聞けなくなるので…あくまで、突発的にやるのがモットーです」
「なるほど…」
咲夜の目がすっと細くなり、空気までが圧力を増す。
完璧を旨とする彼女にとって、不確定な要素は苛立ちの原因でしかない。
声のトーンを一段下げ、咲夜は二人を促し、ドアを開けた。
休憩室か何かと推測されるそこには、何名かの妖精メイド達がおり、お茶を飲みながらの歓談に興じている。
「貴女達、私の代わりにお嬢様と八雲さんの応対をしなさい。さあ」
冷たい声で促され、メイド妖精達はたちどころに席を立ち、慌てて部屋を出て行く。
それを確認した咲夜はドアを閉め、ヘッドドレスを外して席についた。
「いいでしょう、但し、15分だけです」
「ありがとうございます、ヨサコイさん」
「…」
「ああ失礼、色恋さんでしたっけ…」
ぎしり、と空気が軋み、いつの間にか、咲夜がはたての喉にナイフを突きつけていた。
「どういうつもりかは存じませんが、何か企んでいるというのなら言いなさい。でなければ今夜のおかずになってもらいますよ」
「フフ…先ほどオルフェノク扱いされたお返しですよ。おっと…いいんですか? 私を殺せば、花果子念報は自動的に、あらかじめ用意しておいたこの写真を配信することになっています」
「なに…」
パカリと開いた地獄の蓋…ならぬガラケーに映った画像を見て、咲夜の声が明らかに上擦る。
「完全で瀟洒なパーフェクトメイドたる十六夜咲夜さんに、まさかこんな趣味があったなんてねえ…人は見かけによらないとはこの事…ああいえいえ、いいんですよ、性癖なんて人それぞれだし…ね」
アウトレイジにおける椎名桔平のようなニヤニヤ笑顔(デジャヴ)を浮かべ、上から目線で咲夜を見たはたての時間が、止まる。
許すまい。咲夜はナイフを構えると、はたてに狙いをつけ、大きく振りかぶる。
だがそんな咲夜の目に、はたての胸元から覗く、ある物が目に入った。
グリフォンエンタープライズ謹製、レミリア・スカーレット~神槍ver.~である。
「ッ!?」
時間停止が解け、はたてが先ほどと同じようにニヤつきながら、すっと立ち上がった。
「どうしたのかしらマルフォイさん、私はまだ生きてるわよ…それとも何か、問題が?」
「卑怯な…!」
「卑怯もお経も無いでしょう、あなたの能力こそインチキインチキアンドインチキなくせに! ま、いいんですよ? このフィギュアごと串刺しにして頂いても…ただ結構、お高いものだし…血で汚れるのはどうかと思いますねえ」
「くうっ」
主であるレミリア・スカーレットを世界で一番愛していると言っても過言ではない咲夜が、偶像といえど主を象ったものを傷つけられるはずもなく、言葉に詰まる。
勝負はついた。
「しょうりのあとは いつもむなしい」
「アトハ アヤサンクルノ マツダケダネー」
「そうね、んじゃあ一丁、レミリアさんに挨拶といきますか!」
はたては懐のフィギュアをカバンに仕舞いこむと、鼻息も荒く、主の部屋へと足を進めた。
紅魔館・主の部屋。
「あ、ちょ、何そのカニパンチ!?」
「ドゥフフ…ネタバラシすると初代オルバスの2大Pは下段に見えて中段…つまり立ちガードしないといけないのよ!」
「え、じゃあつまり何、2大Kとお手軽2択ってことォ!?」
「そうなるわね…まあこれに限らずやばいバグとか満載だけどね初代は…」
「あーもーつまらんのよ! もっとマトモな格ゲーは無いの!?」
「えーと…闘姫伝承…タオ体道…チャタンヤラクーシャンク…仁義ストーム…ツインゴッデス…FIST…修羅の門…カプコンファイティングジャム…」
「全然マトモじゃないじゃないか!」
幻想郷でもトップクラスの実力を持つ二人が、まさか初代ヴァンパイアで対戦しているとは、誰も知るまい。
レミリアはコンパネをバンと叩き、灰皿ソニックブームを射出し兼ねない勢いで席を立つと、紫の持ってきた基盤、あるいはディスクを漁り始める。
クソg…いや個性的なラインナップはどれもネタとして愛されてはいるが、まともな対戦が成り立つかというとその限りではない。
「あーもう…何これ、レインボースト2? よく持ってるわねこんなの…こっちは何よ、堕落天使? うわーなつかしー、ドス竜~!」
「そろそろゲームセンターが開業出来そうなのよねー…藍がうるさくて実現してないけど」
「うわダッサ、式に財布のヒモ握られてるって本当だったのね」
「だってあの子、「ゲーセン開業するか前歯全損するか…選ばせてやります」とか普通に言うんだもの…どこで育て方間違えたのかしら…」
紫はメイド妖精が淹れた紅茶のおかわりを優雅に啜り、ほう、とため息をついてそう言う。
「なんよソレ、そんな式神、欠陥品もいいところじゃない。テレビみたく2、3発殴れば直るんじゃないの」
「い、嫌よ…そんなことしたら、御飯もおやつも5段階くらいグレードが下がっちゃうじゃないの…」
「あ、そう。お、サースト発見! ようやくマトモなのが出てきたわね、さぁ対戦よ!」
「OK」
ドリームキャストが起動し、対戦が始まる…
レミリアがQを選び、紫がユンを選んで幻影陣を即決したところで、部屋の扉が開いた。
「そこまでよ!」
ナナナナーゥとばかりに、はたてとモミーが部屋に入ってくる。
一歩間違えれば死につながるような、無礼な態度である。だが反応したのはレミリアだけであり、そのレミリアもすぐ画面に視線を戻し、はたてをモミーについては気にもとめていないようだ。
「ってあー! 目ェ離したらもう半分減ってるし!」
「ドゥフフ…チラ見見てからコンボ余裕でしたってとこかしら。さてレミリア、一旦停止よ」
「ぐぬぬ…」
一瞬の油断が命取りとはよく言ったもので、これはこの場合、レミリアのQなのか、あるいははたて達のことなのか…それはわからないが、ともかくレミリアはコントローラをぽんと投げ捨て、二人の前に立った。
先ほどの咲夜とはまた違うが、圧倒的な力を感じさせる眼差しを向けられ、はたては思わず唾を飲み込む。
打ち合わせ通り、紫が止めてくれるのであればいいが、彼女もまた、そんな約束を守るのかどうか、怪しい。
「天狗如きが何の用事かしら。文々。新聞は取ってやってるんだから、あんたのアレはどうでもいいし」
「まぁまぁ、そう凄んでもしょうがないでしょ。はたてさんだったかしら、取材かなにかよね? 違う?」
「え、えーと、そう、取材! 今度やる映画『カリスマ鷹匠VSカリスマ主婦』の宣伝のため、紅魔館の誇るトップカリスマンことレミリア・スカーレットさんにお話を伺おうと」
「なにそれみたい」
レミリアのアンテナに引っかかったはいいが、そんな映画は最初から存在せず、いわばデマであるが、予想外の反応を示したレミリアに、はたては引き下がれなくなってしまった。
第一何で鷹匠と主婦が戦うんだとかVSっつっても最後は共闘するんだろマジンガーVSゲッターみたくだとかああ一昨日借りたDVD(トレマーズと実写版デビルマン)返してないやとか、要するに色々考えていると、先ほど閉めたドアが勢い良く開いた。
「そこまでよ!」
声はすれど姿そこに無く…ただ天狗の面、中空に漂うばかりなり。
「ゲーッ、天狗!?」
はたてに詰め寄っていたレミリアが、天狗面を見て絶叫する。
何かトラウマでもあるのか、あるいは…
「安心しろレミリア・スカーレット! この暴れん坊天狗がいる限り、アメリカ…じゃない、紅魔館の平和は守られる!」
「ウギャーーーーー!」
軽く上下しつつ接近してくる天狗面に、レミリアは更なる絶叫を上げ、例のしゃがみガードで固まってしまう。
ともかく、こうなってしまえばもう役目は終わったも同然だ。はたてはモミーと共に天狗面の正面へと移動すると、打ち合わせておいた口上を叫ぶ。
「き、貴様はもしやあの、目玉と唾液でのさばる巨悪(ビッグワル)をぶちのめすという、あの…!」
「観念しろ悪党! 貴様らにアメリカを好きにはさせん! 喰らえ目玉!」
面から勢い良く射出された目玉が、はたての足元に炸裂する。ピンポン玉に火薬を仕込んだそれは、派手な音と煙を撒き散らし、はたて達の逃亡を容易にするはずだ。
「ウオオオーッ、やられた…ッ! だが忘れるな、私が倒れても、いずれ第二、第三の巨悪(ビッグワル)が必ず…うごごご…」
「悪は滅び去った…勝ったり…天狗勝ちに勝ったり…」
~という夢を見ていたはたてさんは今、草むらの中で人事不肖に陥っております~
文は大きく息を吸い込み、そして目を閉じて、ドアノブに手をかけた。
消えてるとはいえ妨害もない。きっと二人がうまくやったのだろう。あとはツモるのみ。
「クールに行こう、文!」
そして主の部屋の扉を開くと、そこにはレミリア、紫、モミーがいた。はたての姿が見えないが、なに、きっと誰かと相打ちにでもなったのだろう。尊い犠牲はつきものだ。
文…いや虚空に浮かぶ天狗面は、こちらを見て硬直するレミリアと、にやにや笑う紫と、そして無表情で見つめるモミーを見回し、叫ぶ。
「フハハ待たせたなアメリカ・スカーレットォ! 説得力のある自機こと暴れん坊天狗推参! 紅魔館と登呂遺跡の平和は私が守る! はたて…はおらんが、貴様がいたかおもしろ黒人! 目玉はともかく唾液は無尽蔵! どこぞの業界においては美少女の唾液はご褒美らしいので喰らってくたばれ!」
どこの業界だかは判らないが、ともかく天狗面は気色悪いマニューバでモミーに近づくと、口元をスライドさせて対地爆撃の用意に入る。
あなたはもし、かわいいかわいい文ちゃんが唾を吐いてきたら、怒りますか? 喜びますか?
3.右ストレート
モミーの放った拳が、天狗面を真正面から捉える。
「うご…」
男のアレとよく比喩される高い鼻はへし折れ、勢い良く壁に叩きつけられた天狗面が、苦悶の声を上げた。
打ち合わせにはない動きだ。現場の判断、あるいはアドリブだとしても、父親にもぶたれたことの無い文は、もう泣きそうだ。ワケが判らないよ。
「え、ちょ、モミーさん?」
「アヤサン コンナノロサンゼルスジャニチジョウサハンジダヨ」
「ハ…? は? 何言ってんの? あんたベネズエラ出身っしょ?」
それは椛じゃなくてラミレスだろ、というツッコミも空しく、モミーは消えている文の身体を持ち上げ、ボディスラムの要領で床に叩きつけた。
呼吸が困難になり、咳き込む文を見下ろすモミー。その目には何か、得体の知れないもの…殺意などという表現ではおさまらないものが見て取れる。
「悪いけど、生まれも育ちも幻想郷よ…」
急に、カタコトから、普通の口調に戻ったモミーが、背中に手を回し、何かを引き下げる。
まるで着ぐるみを脱ぐかの如く、筋肉の鎧を脱ぎ捨て、更にマスクを外すモミー。
黒い髪、赤いリボン。周囲に浮く陰陽玉。
「ア、アワワ…」
暴力の化身、人間台風(ヒューマノイドタイフーン)、永遠の主人公…博麗霊夢、降臨。
「さて、覚悟はいいわね天狗…せめてもの情けで、正体は隠しておいてあげるわ」
「い、いやちょっと、待って、だ、誰のタレコミが…!?」
「あんたんトコの白狼天狗…椛って言ったかしら。あいつがね」
「オウシット…!」
霊夢はゴキゴキと拳を鳴らすと、満面の笑みで、文を見下ろした。
餌に出会った獣は決して唸ることなく、笑みを浮かべるという。
「夢想封印(物理)」
「地獄で私に詫び続けろモミステッドォーッ!」
どすん。
射命丸の家に、ボロボロになったはたてが帰ってきたのは、それから数日後のことであった。
「文…アタイ汚れちゃったよ…」
「るせー! アタイなんて全治2週間じゃい! あん時の記憶も曖昧だし! まあ椛は上手く逃げたらしいからまだいいけど」
「アタイも記憶が…肥溜めに落ちる前の記憶が曖昧で…うう…肥溜めに落ちるなんて生まれて初めてだよ…」
「ウワクッサ! くっさー! 近寄んな!」
「ひどい!」
こうして悪は滅び去った。
だが忘れてはいけない…己の身を挺して合衆国を守ろうとした天狗のことを…初代オルバスの2大Pは中段であるということを…
おわる。
暴れん坊天狗とは…
ファミコンで発売された横スクロールSTGである。
天狗の面が某合衆国を巨悪(ビッグワル)の手から救うという、一歩間違えれば映画化キャンセル全米ナンバーワンのポテンシャルを持つ怪作であり、これに憧れる天狗は結構多い(国勢調べ)
対空攻撃の目玉(誇張無し)と対地攻撃の唾液(誇張無し)を駆使し、被害に遭った人々を助ける様(捕食している様にも見えると好評)は、天狗のあるべき姿であるとも言える。
なお開発はこの手のトンチキなゲームを得意とするSEGAや故・データイーストではなく、ライブプランニングという会社であり、発売は1990年…まさかの平成年間である。
「そういう訳で」
「どういう訳よ」
暑さ寒さもギガンテスでありロンダルキアは気を抜くとマズいよネ! という気候のもと、比類無き鴉天狗である射命丸文と、天狗スイーツ~それから~の異名を持つ姫海棠はたての二大巨頭(国勢調べ)は、茶などをしばきつつ、与太話を繰り広げていた。
内容はというと、どうすれば文々。新聞の部数が上がるか、という、天地開闢以来、ありとあらゆる東方二次創作で題材にされてきたテーマであり、例え謙虚なソル使いでなくとも「まただよ(笑)」と言ってブラウザバックしてしまうのは必定であり予定調和ですか?
む、何時の間にやら語り部たる拙者が質問者であり、罰として地霊ルナノーミスノーボムノー念力クリアするまで飯抜きの刑とす。
「だから暴れん坊天狗で異変を解決すれば、見返りに銭と部数と地位と名誉とイケメンが手に入るんだよ! わかれ!」
全盛期はホイホイと呼ばれ青少年達の銭とタンパクを毟り取って来た文であるが、この幻想郷も昨今は随分と賑やかになってきていて、それは言ってみれば新たなる挑戦者がナナナナーゥと乱入してきたと思ったら幻影陣即決だった、というような絶望一歩手前な状況であり、要するにかわいいおんなのこがいっぱいでてきたのでにんきがぶんさんした。
つまり、かつて程の天狗力(てんぐちから)は既に失われ、今やオプションとしてすら呼ばれなくなった文が、本来の業務である新聞作りに活路を見出し、それに付随したプラスアルファによって己の立場を固めたい、と画策するのも、自然の流れである。
新聞屋が洗剤やタオル、巨人・阪神戦のチケットを持ってくる場面を思い出していただければ、判りやすいと思う。
「部数や名誉とかはともかく…私カレシいるしー」
「は…は? はたてさん? ユー何言っちゃってるの? その発言は二次創作と言えど禁句っしょ? わかってんの?」
「モニタの前に、たくさんね!」
「そんなこったろうと思ったよ死ね!」
ガツン、と、文の天狗パンチ(236P)が、ぶりっ子(死語)顔をしたはたての顔面を捉え、それをきっかけにキャットファイトならぬテングファイトがレディーゴーしたので、しばらくお待ち下さい。
~少女格闘中~
「わたしは しょうきに もどった!」
「マクロバーストを やぶらぬかぎり おまえにかちめはない!」
「アウトレイジ」で歯医者ドリルの刑にあった石橋蓮司よろしく、顔面に包帯を巻きつけたはたてが、うつろな目でそう呟くと、文もまた首肯し、手元のタブクリアをぐっと飲み干す。
なお先日放送された「アウトレイジ」では、件の歯医者ドリルシーンと、指ラーメンのシーンはカットされているので、気になる方はレンタルしてみるとよいだろう。
「で、何だっけ、暴れん坊TENGA?」
「脳までイカれたかこのスイーツ、天狗だよ。実際にありそうなキャッチを考えるんじゃないよ」
「はい」
「まぁいいや、食えよ兄弟」
次いで、程よく茹で上がった焼きそばバゴーン(幻想入り)をハムッハフハフハフッと食べつつ、文はケンちゃんラーメン(新発売)をはたての前に置いた。
しかし当然ながら、包帯でぐるぐる巻きになったはたてが、それを為すことは出来ない。
「あ、食えないか」
この配役だと文は國村隼ということになるのだが、性別も次元も違う役者が幻想郷に入るにはまだ早いので、残念ながらかわいいかわいい天狗のままであり残念無念ミカハッキネンといったところか。
文はケンちゃんラーメン(新発売)を手に取りずるずると啜り、タブクリアで流し込んだのち、満足げに息をついた。
「要するに、お前が一騒動起こして、私が暴れつつ解決する。そしてそれを記事にする」
「はい」
「心配すんなよ兄弟、暴れるとか解決するって言っても、形だけだからよ。世間じゃこういうの、何て言うんだっけ?」
「バッフクラン?」
「語感はそんな感じだったな…まぁ、いいや。とりあえず、お前一人じゃ騒動もショボいだろうから、助っ人呼んでおいたから」
「助っ人ねえ」
マッチポンプという単語すら知らない新聞記者というのは、現実ではありえないが、この作品はフィクションであり実在の二次元キャラクター及び団体とは関係ありません。安心。
文は容器をゴミ袋に捨てると、懐からクールマイルドを取り出し、火を点けた後、手をポンポンと叩いた。
「これ近う」
「ニャーン!」
スタン、と襖を開け、猫の声真似をしながら入ってきたのは、白狼天狗・椛であった。
気性が荒く、文にも余裕で歯向かう椛であるが、今日は様子が違う。その華奢な身体を某読売巨人軍のユニホームに身を包み、背には「MOMMY G」という文字が縫い付けられている。
「あなたは…モミレス!」
「アナタハ…テング ノ ハタテサン」
「そんな格好で何をしているの!?」
「ワタシ…モウイラナイッテ…セリフ ガ ナイカラ イラナイッテ…」
「そんな…! 君があやもみSSや同人誌にどれだけ貢献したと思ってるの!?」
「ショウガナイヨ…」
「モミレス、いやモミちゃん。ウチに来ないか」
「エッ」
「飽きてしまったユーザーを見返してやろうじゃないか!」
「ハ、ハラサン…」
話はまとまった。
頼りになる助っ人外国人・モミーGの協力を取り付けた文とはたてはおやつを食べつつ、急ピッチで策を練った。字数の節約とばかりに練った。
何やら某ナイスガッツとかいう男のデビュー作「V作戦」と似通っているな、と思ったがスルーして甘食などを食べもした。歯にもくっついた。
そして払暁の頃…
「出来た…出来まくった! この隙も生じぬ二段構え…フフ…怖い…己の冴え渡る天狗ing(テンギング)頭脳が怖い!」
「イエーイ。んじゃ寝ていい?」
「待て待て、おさらいしてからだ」
既に横になり、モミーの尻に頭を乗っけていたはたての尻を蹴りつつ、文はホワイトボードを叩く。
様々な案が所狭しと書き連ねられ、端の方にはスプーまで描かれているホワイドボードが一回転し、生ぬるい風を起こした。
「まずは目標! これ即ちアメリカナイズな建物! つまり紅魔館!」
「あれアメリカっつーかヨーロッパじゃない?」
そう言うや否や、文の虎口拳(目潰しみたいなもの)が、はたての顔面に炸裂した。
「オアアアアア!?」
「オメー、コーヒーって知ってるよな? 発祥はイスラム圏だって知ってるよな? それが今やアメリカンとか冠してるよな? 要は東京ドイツ村(所在地・千葉県)みたいなもんなんよ。つまりそういう事だよ、わかれ」
「は、ハイ…」
文はすっかりぬるくなったコーヒーをゴズズと啜ると、煙草に火を点けて、説明を再開する。
「この紅魔館をお前とモミーが襲撃し、どうにかして支配下に置くところから始まるんよ」
「ちょ、ちょっと待ってよ…あそこは人気から強さから精鋭揃いじゃないのよ。ネタに困ったら紅魔館、的な! それを「どうにかして」の一言で制圧させるなんて、竹槍一本でローカストの本拠地に攻め込めっていってるようなもんじゃないの!」
「竹槍? ねぇよんなもん! それはそうとんなこたァ、判ってんだよ! だからってナメられっぱなしでいいのかよはたて! 何、人気があるって事は、それだけ手の内がバレてるってことなんさ。いいか、まず門番は睡眠耐性に難がある! 取材を装ってアイスティーを差し入れてやればイチコロコロリさね!」
「なんとかなるかも!」
なるらしい。
「では次にあの隠れ巨乳の喘息魔女…ひとりストロイドウィッチーズのパチュ何とかだが」
「あれはほっといていいんじゃない? どうせ図書館でエロ本でも読んでるんでしょ? もしくは辞書のちょいエロワード探してるか。フェルマータとかサセックス州とかロームフェラ財団とか」
「テムレイ! あ、いや、手ぬるい! 奴はああ見えて意外とやる! だがご安心下さい、奴が『ぱーぷる』名義で出版した厨二全開の痛々しい小説を入手しました」
「瀬戸内寂聴かよ!」
文は新しいコーヒーを淹れ、更にまた煙草に火を点けると、傍らにあった一冊の本をはたてに投げて寄越す。
豪華な装丁の施された、ハードカバーの分厚いそれのタイトルは「†東方銀影譚† 壱」と銘打たれており、もう何というか見ただけでお腹一杯なシロモノであった。
はたてはこれ以上無い微妙な表情で、何ページかをめくって、そっと閉じる。
「…」
「これ、全部読んだ? もう主人公の名前からして無理なんだけど」
「射命丸人生の中でもトップ3に入る程の苦行だった。これならまだ響鬼さんの後半(30話~)を5周くらいした方がマシ」
「そこまで!?」
なおパチュリー・ノーレッジことぱーぷるの出版したそれは、3部程売れたらしい。
「奴の弱点はおそらくそこにある…よって私が河童に開発させたこのミラクルアイテムを授けよう」
「はあ」
ゴトリ、と置かれたそれは、どう見てもガラクタにしか見えない。はたては指先についたハッピーターンの粉を嘗め取りつつ、それを手にする。
賢明な読者諸兄ならばこの一言でお判りになると思うので、過度の説明は避けるが、要はテム・レイのアレである。
「…一応訊いておくけど」
「これはその本に登場する、次元反転装置試作型「フィロソマ」TypeΩ・零式改のレプリカよ」
「じげ…何だって? 第一種臨界不測兵器重力子放射線射出装置みたいなもん? 天照家J型駆逐戦闘兵器みたいなもん?」
「馬鹿野郎! 第一種臨界不測兵器重力子放射線射出装置やヤクトたんと、その…プレステの妙なSTGみたいな名前の装置を一緒にすんな! 狼けしかけるぞ!」
「ハラサン…」
「とにかくこれを出せば奴は己の黒歴史に身もだえし、バッドステータス・バインド状態になること請け合い。鈍器として使っても可。もし奴が出てきて調子ぶっこいたら、この袋を開けるんじゃよ? ホホホ」
そう言うと文は装置を小さな袋に入れ、どこぞの軍師よろしく笑ったのち、それをはたてに手渡した。
なお重力ryは弐瓶勉の「BLAME!」という漫画に登場するので、興味のある方はチェックしてみるとよいだろう。
「アヤサン、アノメイドハ トテモ ツヨイヨ」
「しんぱいごむよう 既に対策は打ってござる」
そんなこんなで、そろそろ日も昇ろうかという頃、一行は漸く、紅魔館の誇る殺人マシーン・十六夜咲夜についての打ち合わせに入った。
モミーがシリアルをモリモリと食べながらそう言うと、文はにやりと笑ったのち、先ほどのハードカバーとは違った、単行本サイズの本をテーブルに置いた。
「そんなこったろうと思ったよ!」
「時間停止に対する対策はこの27巻、28巻があれば事足りるんよ…という訳で読んでおくように」
「いや、セリフ全部言えるくらい読んでるんで…んじゃメイドはこれでいいか。あとはあのガキンチョ共だけども?」
そう、部下達をどうにかしてどうにかしたとしても、紅魔館の主である、わんぱく吸血鬼ことレミリア・スカーレットならびにフランドール・スカーレットがいるのである。
奴らは人気は勿論、強大な破壊力とカリスマを兼ね備えた巨悪(ビッグワル)であり、一筋縄ではいかない。
そんなはたての言葉には応えず、文は電気ジャーからご飯を盛り、仮面ライダーふりかけをかけて、わしわしと食べ始める。
「奴らは正直なところ、私達の戦力ではどうにもならない。アレをどうにか出来るとすれば、まあ博麗の巫女か、八雲紫か、ヘルシング機関くらいなものでね…だもんで、そちらの根回しも完璧よ」
「榊原良子さん、くんの!?」
「いや、榊原良子さんは残念ながらアポが取れなかった。そして更に困ったことに、巫女の方にでも計画を打ち明けようものなら、その場で私たちを異変認定しかねないわ。認定されたらもう、死ぬか重傷か謝るかの三択しかない…」
暴力とバイオレンスとフェイタリティの化身であらせられる博麗霊夢の恐ろしさは、それこそ幻想郷に住む者にとっての常識である。
相手が神だろうが鬼だろうが亡霊だろうが、有象無象の区別なく、彼女の拳は「異変」と名のつくもの全てを粉砕せしめる。
なお作者の脳内では、八坂神奈子の声は榊原良子さんです。
「だもんで、消去法で、八雲紫の方に頼んでおいたわ。決行の日に、紅魔館に行って、あの二人を押さえておいて貰うってだけよ。彼女のコラムを半年程載せてやるって条件でね」
「ふーむ…しかしそんな都合よく行くかねえ」
「彼女もあれで暇人だからね、二つ返事で請け負ってくれたよ」
話はまとまった。
一晩中話し込んでいたせいか、皆睡魔に囚われ、朦朧としている中、朝日が顔を出す。
文は大きく伸びをすると、押入れから掛け布団を出し、ごろりと横になると、そのまま寝てしまった。
それから数日後…
説得力のある天狗たちは、紅魔館を遠くに望む、湖の畔に集まっていた。
いくらかの手荷物を持ったはたてとモミーG、そしてぴっちりとしたラバースーツの様な物を身につけた文が、円陣を組んで、最後の打ち合わせを始める。
「アヤサン、ソノカッコウ、ナニ? エロイネー」
「河童から借りてきたオプティカルカモフラージュスーツよ。光学迷彩って奴ね…あんたプレデター見たことないの?」
「プレデターズナラ アルヨ」
「残念な方か…まあいい、ってかモミー、どうしたのその体。筋肉モリモリでしかも肌真っ黒で」
ちょっと残念な方のプレデターしか知らないモミーをよく見ると、数日前、打ち合わせをした時とはもはや別人であった。というか黒人であった。ゾンビ映画では確実に生き残るタイプの黒人であった。
「アア、チョットデモツヨクナロウト オモッテ 宮崎キャンプニイッテタンダヨ オカゲデツヨマッタヨー」
「なるほど、それはいい心がけだわ。別人かと思うくらいに見違えたわよモミー! これで更なる磐石ってワケね」
「エヘヘ…」
「ウィザードにもそんなおもしろ外人出てたわね。で、文、そのスーツの効果のほどは?」
「ああ、うん。これをこの様にして…」
文が胸元にあしらわれたスイッチを入れると、その姿はたちまちの内に辺りの景色と同化し、消失してしまう。
そして、足元に置かれた文のカバンから、天狗の面が浮かび上がる。
「こうやって、つければ…」
「た、確かに暴れん坊天狗だわね…!」
中空に浮いた天狗の面は極めてシュールであったが、それこそが怪作「暴れん坊天狗」の骨子であり、これがなければ始まらない。
文が何か動く度、上下左右に面が揺れ、はっきり言ってキモイのであるが、はたては気を取り直し、荷物を担ぐ。
「んじゃ、行ってくるわ」
「イッテラッシャイ」
「うむ、健闘を祈る」
そう言い残し、文は響鬼さんのようにシュッと手をかざし、翼をはためかせて飛び上がった。
残された二人は、文が猛スピードで飛び去るのを確認すると、お互いに見詰め合って頷くと、ゆっくりと歩き出した。
「ア、ハタテサン」
「うん? どったの」
先を歩いていたはたてが、その声に振り向く。
すると次の瞬間、はたての腹に、鈍い衝撃が走った。
「が…」
前のめりになった所に、追い討ちとばかりに叩き込まれる手刀を受け、はたてはそのまま倒れ伏した。
薄れ行く意識の中、はたてはモミーの目を見る。
それは何か、得体の知れない恐ろしさを秘めて…
「こんにちは、ホンさん!」
「あら、これははたてさん」
門の前で忽雷架(こつらいか。太極拳の套路の一つ)の修練をしていた紅美鈴が、舞い降りてきたはたての声に振り向いて、笑顔を見せる。
しかしその笑顔はすぐに苦笑いに変わり、彼女はモミーGを見て、口を開いた。
「と、えーと…そちらの外人さんは一体…」
「あら、うちの椛を御存知なかった?」
「い、いえ、知ってますけど…そんなマッシヴかつ色黒な方ではなかったような…というか、男性…?」
「コンニチハ、ホンサン ホンサンモ コウマカンノ スケットガイジンナンデスヨネ ナカマデスネー」
「え、ええ、ああ、まあ、はい…それではたてさん、今日は一体何のご用件で?」
常識に囚われすぎれば、目が曇る…美鈴は頭に生じた幾つかの疑問を振り払い、はたての方に向き直ると、再び笑顔になって、そう尋ねた。
文が尋ねてくることはあっても、はたてが来るというのは珍しいことだ。何か、あったのだろうか、と、そう彼女の目は物語る。
「いえ、花果子念報の取材です。お時間あればお願いしたいのですが…」
「あ、なるほど、いいですよ。しかし今日は来客が多いですね、先ほども紫さんがいらっしゃって」
「へぇ。えーとそれでは…」
「立ち話もなんですし、詰め所で伺いましょう」
美鈴はそう言うと、通用門を開け、二人を館の中にある詰め所へと招き入れた。
はたては荷物からポットを取り出し、中身を紙コップに注いで、美鈴の前に置く。
「アイスティーですけど、よかったら」
「わ、ありがとうございます! いや、喉が渇いていたもので…」
疑いもせずそれを飲み干す美鈴に、はたての良心は若干痛んだが、これも文の為だ。
彼女は適当なインタビューをしつつ、その時を待つ。
「そう…ですね…太極拳とは要するに…化剄…が…」
「眠そうですね、大丈夫ですか?」
「テツヤシテタンデスカー?」
「あ、いえ…ごめんなさい…ちょっと、何だろ…」
「休んだ方がいいのでは? 取材はまたにしますから」
その言葉を聞くまでもなく、美鈴は机に突っ伏し、寝息を立て始める。
流石は八意永琳謹製の睡眠薬である。妖怪であってもその効果からは逃げられない。
はたてとモミーGはそっと詰め所を出ると、スニーキングアクションさながらに中庭を抜け、館の中へと侵入した。
「ウマクイッタネー」
「ちょっとかわいそうだけどね…今度お菓子でも持ってってあげなきゃ…」
時折通りがかるメイド妖精達から隠れ、二人は図書館へと侵入する。
だだっ広い空間ではあるが、遠くに書斎の明かりが見えるせいで、迷うことはない。
「こんにちは、パチュリーさん」
「うん…?」
ソファに寝転がり、ポテロングを齧りながら「悟空道」を読んでいたパチュリーが、その声に我にかえる。
普段の貞淑そうな立ち居振る舞いからは考えられぬ行儀の悪さ…それを見られて若干動揺したのか、パチュリーは食べかすを払い、居住まいを正した。
「姫海棠さん…いきなりね、どうしたの? あと横にいる黒人は誰?」
「モミーGですよ。頼りになる助っ人外国人…あなたの小悪魔さんと似たようなもので」
「ヨロシクー」
「よ、よろしく…それで…何の御用かしら…?」
「悟空道」をさっと隠し、わざとらしく魔導書などを取り出したパチュリーに若干イラッとしたのか、はたては無言で文に貰った袋を取り出し、パチュリーに放る。
「悟空道」なんて読む女子がいたら、大抵の男(作者含む)は速攻求婚してしまいそうなものであるが、そんな己を見られたくないというのはこれ即ち「悟空道」<自分のメンツであり許せぬのでまいてまいて!
「それを開けてごらんなさい」
「な、何かしら…」
トラップ発動! パチュリーは動けなくなった!
「こ、これは次元反転装置試作型「フィロソマ」TypeΩ・零式改!」
「フフフ…まさかあの「ぱーぷる」先生がパチュリーさんだったなんてね…おっと動かないことね、動けば「ぱあぷる」の正体を白日のもとに晒すわよ!」
「く、くっ…何が望みだと言うの…? まさか乱暴する気!? エロ同人みたいに!」
「いえいえ、私百合とかレズとかそういうの興味ないんで…パチュリーさんはしばらく、このまま図書館に篭ってて下さい。ゴルゴ13でも最初から読んでてくれていいですので」
「わ、わかったわ…」
パチュリーは手をかざし、本棚からゴルゴ13を引き寄せると、ちらちらとはたてを見つつ、ページを開いた。
どうやら「ぱーぷる」に関しては本当に、知られたくない過去の様で、助けを呼んだり、魔法で攻撃してくるような真似はしない。
はたては口の端を歪めて笑うと、モミーを連れて図書館を後にした。
「ヤッタネハタテサン ダリツイイネー」
「フフフ…まぁね。大体何よ、「悟空道」をまるで恥ずかしいもののように…まぁいいわ、んじゃ行くわよモミー、次の相手は十六夜咲夜!」
「オーイエー」
かつて私の敬愛する作家さんは言った…
「幻想郷にはクレイトスさんが二人いる」、と。
その内の一人、十六夜咲夜。瀟洒でSHOSHAなパーフェクトメイド、あるいはボンボン餓狼で言うところの殺人機械(キリングマシーン)…
その咲夜の前に、今二人は立っていた。
「こんにちは、十六夜さん」
「…あら、あなたは確か…海堂直也さんでしたっけ」
「全然違うわ! スネークオルフェノクちゃうわ!」
「ソレダトワタシ、ミスターJニナッチャウヨー チャコ…」
「ああはいはい、はたてさんでしたっけね。で、何の御用ですか。アポイントがあるとは聞いておりませんが」
咲夜は養豚場の豚でも見るかのように冷たく残酷な目で、二人を睨めつけながら、そう問うた。
掟破りの残虐能力・時間停止を操る彼女のことである。返答如何によっては、次の瞬間にでも二人の命を奪うことも可能であり、はたては思わず息を呑んだ。
しかし、対策はある。
「ああ、いえ。花果子念報のアポ無し突撃取材って奴でしてね…幻想郷でも屈指の人気者であらせられる咲夜さんに話を伺おうと」
「…なるほど。しかしそれでも、事前に何かしらの打診をするのが筋をいうものでは?」
「それじゃあ準備をされてしまって、対象の生々しい声を聞けなくなるので…あくまで、突発的にやるのがモットーです」
「なるほど…」
咲夜の目がすっと細くなり、空気までが圧力を増す。
完璧を旨とする彼女にとって、不確定な要素は苛立ちの原因でしかない。
声のトーンを一段下げ、咲夜は二人を促し、ドアを開けた。
休憩室か何かと推測されるそこには、何名かの妖精メイド達がおり、お茶を飲みながらの歓談に興じている。
「貴女達、私の代わりにお嬢様と八雲さんの応対をしなさい。さあ」
冷たい声で促され、メイド妖精達はたちどころに席を立ち、慌てて部屋を出て行く。
それを確認した咲夜はドアを閉め、ヘッドドレスを外して席についた。
「いいでしょう、但し、15分だけです」
「ありがとうございます、ヨサコイさん」
「…」
「ああ失礼、色恋さんでしたっけ…」
ぎしり、と空気が軋み、いつの間にか、咲夜がはたての喉にナイフを突きつけていた。
「どういうつもりかは存じませんが、何か企んでいるというのなら言いなさい。でなければ今夜のおかずになってもらいますよ」
「フフ…先ほどオルフェノク扱いされたお返しですよ。おっと…いいんですか? 私を殺せば、花果子念報は自動的に、あらかじめ用意しておいたこの写真を配信することになっています」
「なに…」
パカリと開いた地獄の蓋…ならぬガラケーに映った画像を見て、咲夜の声が明らかに上擦る。
「完全で瀟洒なパーフェクトメイドたる十六夜咲夜さんに、まさかこんな趣味があったなんてねえ…人は見かけによらないとはこの事…ああいえいえ、いいんですよ、性癖なんて人それぞれだし…ね」
アウトレイジにおける椎名桔平のようなニヤニヤ笑顔(デジャヴ)を浮かべ、上から目線で咲夜を見たはたての時間が、止まる。
許すまい。咲夜はナイフを構えると、はたてに狙いをつけ、大きく振りかぶる。
だがそんな咲夜の目に、はたての胸元から覗く、ある物が目に入った。
グリフォンエンタープライズ謹製、レミリア・スカーレット~神槍ver.~である。
「ッ!?」
時間停止が解け、はたてが先ほどと同じようにニヤつきながら、すっと立ち上がった。
「どうしたのかしらマルフォイさん、私はまだ生きてるわよ…それとも何か、問題が?」
「卑怯な…!」
「卑怯もお経も無いでしょう、あなたの能力こそインチキインチキアンドインチキなくせに! ま、いいんですよ? このフィギュアごと串刺しにして頂いても…ただ結構、お高いものだし…血で汚れるのはどうかと思いますねえ」
「くうっ」
主であるレミリア・スカーレットを世界で一番愛していると言っても過言ではない咲夜が、偶像といえど主を象ったものを傷つけられるはずもなく、言葉に詰まる。
勝負はついた。
「しょうりのあとは いつもむなしい」
「アトハ アヤサンクルノ マツダケダネー」
「そうね、んじゃあ一丁、レミリアさんに挨拶といきますか!」
はたては懐のフィギュアをカバンに仕舞いこむと、鼻息も荒く、主の部屋へと足を進めた。
紅魔館・主の部屋。
「あ、ちょ、何そのカニパンチ!?」
「ドゥフフ…ネタバラシすると初代オルバスの2大Pは下段に見えて中段…つまり立ちガードしないといけないのよ!」
「え、じゃあつまり何、2大Kとお手軽2択ってことォ!?」
「そうなるわね…まあこれに限らずやばいバグとか満載だけどね初代は…」
「あーもーつまらんのよ! もっとマトモな格ゲーは無いの!?」
「えーと…闘姫伝承…タオ体道…チャタンヤラクーシャンク…仁義ストーム…ツインゴッデス…FIST…修羅の門…カプコンファイティングジャム…」
「全然マトモじゃないじゃないか!」
幻想郷でもトップクラスの実力を持つ二人が、まさか初代ヴァンパイアで対戦しているとは、誰も知るまい。
レミリアはコンパネをバンと叩き、灰皿ソニックブームを射出し兼ねない勢いで席を立つと、紫の持ってきた基盤、あるいはディスクを漁り始める。
クソg…いや個性的なラインナップはどれもネタとして愛されてはいるが、まともな対戦が成り立つかというとその限りではない。
「あーもう…何これ、レインボースト2? よく持ってるわねこんなの…こっちは何よ、堕落天使? うわーなつかしー、ドス竜~!」
「そろそろゲームセンターが開業出来そうなのよねー…藍がうるさくて実現してないけど」
「うわダッサ、式に財布のヒモ握られてるって本当だったのね」
「だってあの子、「ゲーセン開業するか前歯全損するか…選ばせてやります」とか普通に言うんだもの…どこで育て方間違えたのかしら…」
紫はメイド妖精が淹れた紅茶のおかわりを優雅に啜り、ほう、とため息をついてそう言う。
「なんよソレ、そんな式神、欠陥品もいいところじゃない。テレビみたく2、3発殴れば直るんじゃないの」
「い、嫌よ…そんなことしたら、御飯もおやつも5段階くらいグレードが下がっちゃうじゃないの…」
「あ、そう。お、サースト発見! ようやくマトモなのが出てきたわね、さぁ対戦よ!」
「OK」
ドリームキャストが起動し、対戦が始まる…
レミリアがQを選び、紫がユンを選んで幻影陣を即決したところで、部屋の扉が開いた。
「そこまでよ!」
ナナナナーゥとばかりに、はたてとモミーが部屋に入ってくる。
一歩間違えれば死につながるような、無礼な態度である。だが反応したのはレミリアだけであり、そのレミリアもすぐ画面に視線を戻し、はたてをモミーについては気にもとめていないようだ。
「ってあー! 目ェ離したらもう半分減ってるし!」
「ドゥフフ…チラ見見てからコンボ余裕でしたってとこかしら。さてレミリア、一旦停止よ」
「ぐぬぬ…」
一瞬の油断が命取りとはよく言ったもので、これはこの場合、レミリアのQなのか、あるいははたて達のことなのか…それはわからないが、ともかくレミリアはコントローラをぽんと投げ捨て、二人の前に立った。
先ほどの咲夜とはまた違うが、圧倒的な力を感じさせる眼差しを向けられ、はたては思わず唾を飲み込む。
打ち合わせ通り、紫が止めてくれるのであればいいが、彼女もまた、そんな約束を守るのかどうか、怪しい。
「天狗如きが何の用事かしら。文々。新聞は取ってやってるんだから、あんたのアレはどうでもいいし」
「まぁまぁ、そう凄んでもしょうがないでしょ。はたてさんだったかしら、取材かなにかよね? 違う?」
「え、えーと、そう、取材! 今度やる映画『カリスマ鷹匠VSカリスマ主婦』の宣伝のため、紅魔館の誇るトップカリスマンことレミリア・スカーレットさんにお話を伺おうと」
「なにそれみたい」
レミリアのアンテナに引っかかったはいいが、そんな映画は最初から存在せず、いわばデマであるが、予想外の反応を示したレミリアに、はたては引き下がれなくなってしまった。
第一何で鷹匠と主婦が戦うんだとかVSっつっても最後は共闘するんだろマジンガーVSゲッターみたくだとかああ一昨日借りたDVD(トレマーズと実写版デビルマン)返してないやとか、要するに色々考えていると、先ほど閉めたドアが勢い良く開いた。
「そこまでよ!」
声はすれど姿そこに無く…ただ天狗の面、中空に漂うばかりなり。
「ゲーッ、天狗!?」
はたてに詰め寄っていたレミリアが、天狗面を見て絶叫する。
何かトラウマでもあるのか、あるいは…
「安心しろレミリア・スカーレット! この暴れん坊天狗がいる限り、アメリカ…じゃない、紅魔館の平和は守られる!」
「ウギャーーーーー!」
軽く上下しつつ接近してくる天狗面に、レミリアは更なる絶叫を上げ、例のしゃがみガードで固まってしまう。
ともかく、こうなってしまえばもう役目は終わったも同然だ。はたてはモミーと共に天狗面の正面へと移動すると、打ち合わせておいた口上を叫ぶ。
「き、貴様はもしやあの、目玉と唾液でのさばる巨悪(ビッグワル)をぶちのめすという、あの…!」
「観念しろ悪党! 貴様らにアメリカを好きにはさせん! 喰らえ目玉!」
面から勢い良く射出された目玉が、はたての足元に炸裂する。ピンポン玉に火薬を仕込んだそれは、派手な音と煙を撒き散らし、はたて達の逃亡を容易にするはずだ。
「ウオオオーッ、やられた…ッ! だが忘れるな、私が倒れても、いずれ第二、第三の巨悪(ビッグワル)が必ず…うごごご…」
「悪は滅び去った…勝ったり…天狗勝ちに勝ったり…」
~という夢を見ていたはたてさんは今、草むらの中で人事不肖に陥っております~
文は大きく息を吸い込み、そして目を閉じて、ドアノブに手をかけた。
消えてるとはいえ妨害もない。きっと二人がうまくやったのだろう。あとはツモるのみ。
「クールに行こう、文!」
そして主の部屋の扉を開くと、そこにはレミリア、紫、モミーがいた。はたての姿が見えないが、なに、きっと誰かと相打ちにでもなったのだろう。尊い犠牲はつきものだ。
文…いや虚空に浮かぶ天狗面は、こちらを見て硬直するレミリアと、にやにや笑う紫と、そして無表情で見つめるモミーを見回し、叫ぶ。
「フハハ待たせたなアメリカ・スカーレットォ! 説得力のある自機こと暴れん坊天狗推参! 紅魔館と登呂遺跡の平和は私が守る! はたて…はおらんが、貴様がいたかおもしろ黒人! 目玉はともかく唾液は無尽蔵! どこぞの業界においては美少女の唾液はご褒美らしいので喰らってくたばれ!」
どこの業界だかは判らないが、ともかく天狗面は気色悪いマニューバでモミーに近づくと、口元をスライドさせて対地爆撃の用意に入る。
あなたはもし、かわいいかわいい文ちゃんが唾を吐いてきたら、怒りますか? 喜びますか?
3.右ストレート
モミーの放った拳が、天狗面を真正面から捉える。
「うご…」
男のアレとよく比喩される高い鼻はへし折れ、勢い良く壁に叩きつけられた天狗面が、苦悶の声を上げた。
打ち合わせにはない動きだ。現場の判断、あるいはアドリブだとしても、父親にもぶたれたことの無い文は、もう泣きそうだ。ワケが判らないよ。
「え、ちょ、モミーさん?」
「アヤサン コンナノロサンゼルスジャニチジョウサハンジダヨ」
「ハ…? は? 何言ってんの? あんたベネズエラ出身っしょ?」
それは椛じゃなくてラミレスだろ、というツッコミも空しく、モミーは消えている文の身体を持ち上げ、ボディスラムの要領で床に叩きつけた。
呼吸が困難になり、咳き込む文を見下ろすモミー。その目には何か、得体の知れないもの…殺意などという表現ではおさまらないものが見て取れる。
「悪いけど、生まれも育ちも幻想郷よ…」
急に、カタコトから、普通の口調に戻ったモミーが、背中に手を回し、何かを引き下げる。
まるで着ぐるみを脱ぐかの如く、筋肉の鎧を脱ぎ捨て、更にマスクを外すモミー。
黒い髪、赤いリボン。周囲に浮く陰陽玉。
「ア、アワワ…」
暴力の化身、人間台風(ヒューマノイドタイフーン)、永遠の主人公…博麗霊夢、降臨。
「さて、覚悟はいいわね天狗…せめてもの情けで、正体は隠しておいてあげるわ」
「い、いやちょっと、待って、だ、誰のタレコミが…!?」
「あんたんトコの白狼天狗…椛って言ったかしら。あいつがね」
「オウシット…!」
霊夢はゴキゴキと拳を鳴らすと、満面の笑みで、文を見下ろした。
餌に出会った獣は決して唸ることなく、笑みを浮かべるという。
「夢想封印(物理)」
「地獄で私に詫び続けろモミステッドォーッ!」
どすん。
射命丸の家に、ボロボロになったはたてが帰ってきたのは、それから数日後のことであった。
「文…アタイ汚れちゃったよ…」
「るせー! アタイなんて全治2週間じゃい! あん時の記憶も曖昧だし! まあ椛は上手く逃げたらしいからまだいいけど」
「アタイも記憶が…肥溜めに落ちる前の記憶が曖昧で…うう…肥溜めに落ちるなんて生まれて初めてだよ…」
「ウワクッサ! くっさー! 近寄んな!」
「ひどい!」
こうして悪は滅び去った。
だが忘れてはいけない…己の身を挺して合衆国を守ろうとした天狗のことを…初代オルバスの2大Pは中段であるということを…
おわる。
よもやチャコ・・・がやりたかったから椛(?)をモミーにしたのではあるまいな・・・
百合れよ天狗サン!
このノリは本当にツボに入ったので、またこういった作品を読みたく思いました
巨人(だいだらぼっち)の助っ人天狗なのかにゃ
小ネタの連打すげい