現実と言うものは時として人の想像の斜めを行くものである。
「お嬢様、私決めましたわ」
現状、十六夜咲夜の言葉がそれに最もあてはまるだろう。
「私、吸血鬼になりますわ」
レミリアは喜んだ。喜んで館の天井をぶち破り、灰になり、蘇生した。
美鈴に至ってはレミリアの壊した天井を嫌な顔一つして修復し、通常の三倍で仕事をして、通常の三倍の速度で白黒の魔法使いに突破された。
「よし、宴会だ」
そんなこんなで紅魔館で盛大な宴が催された。大凡思いつく幻想郷中の著名人を集めた。フランに至っては地底へ行きこいしを連れてきて、こいしはお燐を連れてきて、お燐は空を連れてきた。仲間外れにされたパルスィは偶然こいしに忘れられていたさとりを引っ張り勇儀とキスメに道案内をさせた。
「めでたい、こんなにめでたいことはない」
そう言ったのは香霖堂の店主森近霖之助。彼にとって咲夜は数少ないお得意様だから、当然ともいえる。
「これでようやくあんたを思いっきりぶん殴れるわ」
こう言うのは博麗霊夢。彼女はなんだかんだ言って生身の人間の咲夜に対して本気になったことが無い。人外になれば話が変わると言うわけでもないのに。
「死なないと言うのであれば、春雪異変での再戦を申し込みたい」
酒に酔った勢いで喧嘩を売ったのは魂魄妖夢。彼女は咲夜が大好きだから、永く生きてもらうことに大賛成だった。
その後も咲夜にボコボコにされた妖怪、優しくされた妖精、特に接点もない人間たちが入れ替わり立ち替わり来た。失礼なことを尋ねて来た天狗二人組はレミリアによって地下帝国行きの切符を貰った。
「そう、貴方、決めたのね」
大多数が酔いつぶれる中、八雲紫だけは酒を一滴も飲まず、咲夜の手を握りながら話を続けていた。
皆、少し怪しんだがそれでも何時も怪しい紫のことだから、それを気にしすぎることはなかった。咲夜はその後紫と長く話をした。
「今日は少し飲みすぎた。咲夜、お前を吸血鬼にするのは明日よ。身の回りの整理をしておきなさい、私は寝るわ」
レミリアはそう言って宴会場を出て行った。主役の一人が抜けたことで宴会は落ち着きを見せた。しかし誰かが少し体を動かそうと言って弾幕ごっこを始めたことで収拾がつかなくなったが、結局ほとんどは酔いつぶれて最後にはスペルカードを唱えることができなかった。
「咲夜は起きているかしら?」
レミリアは宴会の翌日の夜、眠い目を擦りながらパチュリーに聞いた。
「部屋に籠ったきりよ」
パチュリーの言葉にうなずくと、レミリアは咲夜の部屋とは反対の方へ歩き出していた。
「今日でしょ?」
レミリアはうなずいた。うなずいて、近くにいた妖精に紅茶を一杯入れてくれと頼んだ。
「美味しいわね、咲夜の淹れた奴と同じ味がするわ」
そう言うと、レミリアは咲夜の部屋へ体の向きを変え、ドアを押しあけた。
「咲夜」
呼んでも返事は無かった。ただ、部屋は綺麗に掃除されていた。何時もどおりの咲夜の部屋だった。何時もと違うのは咲夜がまだ起きていないことだった。
「咲夜………」
質素なベッドには咲夜が寝ていた。
「ご苦労だったわね。私のわがままに、本当にご苦労だったわ」
レミリアが撫でた咲夜の頬はとても冷たかった。パチュリーの小さな悲鳴と、妖精メイドの間の抜けた顔が同じ空間にあるとは思えないほど不釣り合いだった。
昨日宴会が催された館の広間は、その事実が虚構に思えるほど重く沈んでいた。誰もが悲しんだわけではないが、悲しまないものがいたわけではない。
「この子は、私が気付いた時にはもう寿命が迫っていることを知っていたのね」
八雲紫は悲しんだ者の一人だった。綺麗な、まるで演技をしているのではないかとさえ思える咲夜の死に顔は、とても安らかなものだった。
「貴方は知っていたのでしょう」
パチュリーの一言にレミリアは頷いた。知っていたからこそ、最初は本当に咲夜を吸血鬼にしようとした。
「咲夜は私を尊敬していると言ったわ。人間が、簡単に死ぬ生き物が恐れるべき私を、尊敬していると。だから私は咲夜を吸血鬼にしてやることができなかった」
宴会は咲夜との最後の一日を忘れられないものにした。最高の従者のために、最高の友人たちを呼び寄せ、最高の宴を催した。
「あれは殆ど私のためにやったのよ。何か大きなことをしないと、私は咲夜を簡単に忘れてしまうだろうから」
最後にレミリアは咲夜の頬をもう一度撫でて、呟いた。
「咲夜、貴女は私のために良い思い出を作ってくれたわ。だけど私は、貴女のために何をしてやれたかしら」
その答えが返ってくることは無かった。
現実と言うものは時として非常に複雑で簡潔な場合が多い。
現状では、十六夜咲夜と言う一人の人間の死に様がこれにあてはまるだろう。
「お嬢様、私決めましたわ」
現状、十六夜咲夜の言葉がそれに最もあてはまるだろう。
「私、吸血鬼になりますわ」
レミリアは喜んだ。喜んで館の天井をぶち破り、灰になり、蘇生した。
美鈴に至ってはレミリアの壊した天井を嫌な顔一つして修復し、通常の三倍で仕事をして、通常の三倍の速度で白黒の魔法使いに突破された。
「よし、宴会だ」
そんなこんなで紅魔館で盛大な宴が催された。大凡思いつく幻想郷中の著名人を集めた。フランに至っては地底へ行きこいしを連れてきて、こいしはお燐を連れてきて、お燐は空を連れてきた。仲間外れにされたパルスィは偶然こいしに忘れられていたさとりを引っ張り勇儀とキスメに道案内をさせた。
「めでたい、こんなにめでたいことはない」
そう言ったのは香霖堂の店主森近霖之助。彼にとって咲夜は数少ないお得意様だから、当然ともいえる。
「これでようやくあんたを思いっきりぶん殴れるわ」
こう言うのは博麗霊夢。彼女はなんだかんだ言って生身の人間の咲夜に対して本気になったことが無い。人外になれば話が変わると言うわけでもないのに。
「死なないと言うのであれば、春雪異変での再戦を申し込みたい」
酒に酔った勢いで喧嘩を売ったのは魂魄妖夢。彼女は咲夜が大好きだから、永く生きてもらうことに大賛成だった。
その後も咲夜にボコボコにされた妖怪、優しくされた妖精、特に接点もない人間たちが入れ替わり立ち替わり来た。失礼なことを尋ねて来た天狗二人組はレミリアによって地下帝国行きの切符を貰った。
「そう、貴方、決めたのね」
大多数が酔いつぶれる中、八雲紫だけは酒を一滴も飲まず、咲夜の手を握りながら話を続けていた。
皆、少し怪しんだがそれでも何時も怪しい紫のことだから、それを気にしすぎることはなかった。咲夜はその後紫と長く話をした。
「今日は少し飲みすぎた。咲夜、お前を吸血鬼にするのは明日よ。身の回りの整理をしておきなさい、私は寝るわ」
レミリアはそう言って宴会場を出て行った。主役の一人が抜けたことで宴会は落ち着きを見せた。しかし誰かが少し体を動かそうと言って弾幕ごっこを始めたことで収拾がつかなくなったが、結局ほとんどは酔いつぶれて最後にはスペルカードを唱えることができなかった。
「咲夜は起きているかしら?」
レミリアは宴会の翌日の夜、眠い目を擦りながらパチュリーに聞いた。
「部屋に籠ったきりよ」
パチュリーの言葉にうなずくと、レミリアは咲夜の部屋とは反対の方へ歩き出していた。
「今日でしょ?」
レミリアはうなずいた。うなずいて、近くにいた妖精に紅茶を一杯入れてくれと頼んだ。
「美味しいわね、咲夜の淹れた奴と同じ味がするわ」
そう言うと、レミリアは咲夜の部屋へ体の向きを変え、ドアを押しあけた。
「咲夜」
呼んでも返事は無かった。ただ、部屋は綺麗に掃除されていた。何時もどおりの咲夜の部屋だった。何時もと違うのは咲夜がまだ起きていないことだった。
「咲夜………」
質素なベッドには咲夜が寝ていた。
「ご苦労だったわね。私のわがままに、本当にご苦労だったわ」
レミリアが撫でた咲夜の頬はとても冷たかった。パチュリーの小さな悲鳴と、妖精メイドの間の抜けた顔が同じ空間にあるとは思えないほど不釣り合いだった。
昨日宴会が催された館の広間は、その事実が虚構に思えるほど重く沈んでいた。誰もが悲しんだわけではないが、悲しまないものがいたわけではない。
「この子は、私が気付いた時にはもう寿命が迫っていることを知っていたのね」
八雲紫は悲しんだ者の一人だった。綺麗な、まるで演技をしているのではないかとさえ思える咲夜の死に顔は、とても安らかなものだった。
「貴方は知っていたのでしょう」
パチュリーの一言にレミリアは頷いた。知っていたからこそ、最初は本当に咲夜を吸血鬼にしようとした。
「咲夜は私を尊敬していると言ったわ。人間が、簡単に死ぬ生き物が恐れるべき私を、尊敬していると。だから私は咲夜を吸血鬼にしてやることができなかった」
宴会は咲夜との最後の一日を忘れられないものにした。最高の従者のために、最高の友人たちを呼び寄せ、最高の宴を催した。
「あれは殆ど私のためにやったのよ。何か大きなことをしないと、私は咲夜を簡単に忘れてしまうだろうから」
最後にレミリアは咲夜の頬をもう一度撫でて、呟いた。
「咲夜、貴女は私のために良い思い出を作ってくれたわ。だけど私は、貴女のために何をしてやれたかしら」
その答えが返ってくることは無かった。
現実と言うものは時として非常に複雑で簡潔な場合が多い。
現状では、十六夜咲夜と言う一人の人間の死に様がこれにあてはまるだろう。
これはいい掌編小説ですね!
複雑な感情をこの作品に対して抱いたことは否定できないですけど。
斜め89度上の作品をありがとうございます。