「恋符『マスタースパーク』!」
里のど真ん中で聞こえた宣言に正気を疑いながら物陰に隠れるが、予想していた光も衝撃もない。かわりに子供の高い声が聞こえた。
「じゃあ、『むそーふーいん』!」
「うお、あぶなっ」
きゃっきゃとはしゃぐ声が聞こえて家の影から出ると、見慣れた黒白と里の子供が遊んでいた。
神社に行くところだったのか、手には箒が握られている。
「『はくれーげんえー』!」
「『むそーてんせー』!」
「挟み撃ち?!」
小さな二人の巫女に両側から撃たれて黒白は両手を挙げた。
「参った! 降参だ」
「えー、『マスタースパーク』は?」
「もう撃っただろ?」
「本物が見たいー」
「こんなところで撃ったらケガするからダメ」
子供たちをあしらって神社のほうへ飛び去っていった。
黒白がいなくなっても、弾幕ごっこごっこは続く。
「くらえー、『マスタースパーク』!」
「なにをー、『マスタースパーク』!」
子供たちが口にするのは「マスタースパーク」ばかり。
どうして「マスタースパーク」なのか。有名どころなら、さっきも出た「夢想封印」やだってそうだろう。
里の子供に人気ということは、記事にすれば読者が増えるかもしれない。
思い立ったが吉日。残っていた新聞を手早く配り、理由を探るべく魔理沙の後を追った。
「で、調べに来たのか」
「だって気になるじゃないですか」
記事にできるかもしれないし、とは言わないでおく。
「なんで『マスタースパーク』なのか、ねぇ……」
「単純にパワーとかインパクトじゃないの?」
猫じゃらしで猫と戯れながらおざなりに霊夢が言い、魔理沙がそうかもなと同意した。
これが平時なら納得したかもしれないが、そういうわけにもいかない。
「魔理沙さん、勝負です!」
「えー? 霊夢とやれよ」
「なんであんたの話してるのに私がやるの、よっ」
すっと高く上げられた猫じゃらしを追って猫が跳び上がり、その穂先に触れた。
戯れる一人と一匹を見て諦めがついたのか、魔理沙は指を一本立てた。
「要は『マスタースパーク』が見られればそれでいいんだろ?」
「ええ。では私も一枚で」
魔理沙のことだ。今どれだけ面倒そうでも、いざ始まれば全力で向かってくるだろう。
適当な高さまで上がり、対峙する。魔理沙が帽子の中から八卦炉を取り出して構えた。
「じゃ、こっちから」
ゆるめの弾が放たれ、撃ち返したり避けたりしながら様子を見る。この程度なら余裕だ。
互いに撃ち合い、弾幕が濃くなるにつれて、魔理沙の表情が変わってきた。浮かんだ笑みが深まり、動きがより俊敏になる。
ふと目が合った瞬間、不敵に笑った。手にはカードが握られている。
「恋符――」
宣言する魔理沙の顔を見て、すとんと腑に落ちた。
なるほど、子供たちが真似するわけだ。
「『マスタースパーク』!」