Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

ある冬の日のこと

2012/09/10 23:00:23
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湿っぽい息が布団にこもっている。
そこでやっと頭から足の先っぽまで布団を被っていることに気づく。

今日はよっぽど寒いらしい。無意識に丸まるぐらい。
もぞもぞと真っ暗の布団の中から顔をだすと、刺すような空気が意識を覚醒させる。
まぶたを通して光が網膜に達し、今が随分早朝とはかけ離れた時間帯だと教えてくれている。



「ふぁぁ…」


ついつい出てしまった欠伸を手で隠すこともなく、掛け布団をかぶる。
膝を曲げて、体を微妙に動かして、寝やすい体勢になるともう一度寝ようと試みる。
どうせ今日はずっと寒いに違いない。境内の掃除をするのだって縁側でお茶を啜るのだってやる気がないと出来やしない。
(だからといって、常日頃やる気に満ち満ちているというわけではいが)


体の良い言い訳を誰ともなく心のなかで呟いて、布団の中にいることを正当化する。
ぬくぬくの布団を抜け出すのは、それはとてつもなく強い意志がいるのだ。それはもう寒空の中境内の掃除をしようと意気込むくらいに。だからいいのだ。こうして天国に居続けて…。








「こら、霊夢」




凛とした声。
鈴の音のような、空気を柔らかく突き抜ける音色。
瞳を閉じて、混濁し始めた意識にすら入り込んでくる。
やめて欲しいのに。私は惰眠を貪りたいのだ。






「んぅ…、あと5年」
「子ど、………スキマ妖怪みたいなこと言わないの」



定番の文句も定番の返事でサラリと躱され、「だって」という言葉を飲み込む。

だって寒いんだもん、なんて。
本当に子どもにみたいな言葉が完全で瀟洒な彼女に通用するとは思えないから。
寒さなんて物ともしないような彼女のことだ。今日だってきっと陽が出る随分と前から起きて、掃除・洗濯・炊事にあんなコトやこんなコトだってしてたに違いない。

だからといってそれを私に押し付けられても困るのだ。
楽園の素敵な巫女はぐうたらするのが仕事みたいなものなんだから。あと時々異変解決。

しかし、世話焼きメイドには私のどんな理由だって通じないのだろうけど。
そう、紅魔館のメイド長、十六夜咲夜には。





「ほら、起きる」
「あぁっ、…やぁ」
「布団にしがみつかないのっ」
「だって…」
「寒いって言うのはなしよ?」
「…じゃあ一緒に咲夜も寝よ?」



なんでそうなるのよ。
言葉にはしなかったが、露骨に雰囲気が変わる咲夜。
いやね、特に理由はないけれど、一緒に寝たらきっと暖かいだろうなぁ、なんて思ってしまったのだ。
だからそんな顔をしてほしくはなかったが、まあ自分の発言のせいだから仕方ないといえば仕方ないのだけれど。


身を捩るように布団から顔をだす。
空気は相変わらず鋭さを見せつけるし、まぶたをも貫通する強い光は雪に反射したものだったらしい。
なんとも冬のいい陽気だ。



「…寒い」
「もう、本当に素敵な巫女さんだこと」
「むぅ、…うっさいわね、いいじゃない」
「顔でも洗えばすっきりするんじゃない?」
「…えー」
「まったく、しょうがない子ね」



諦めてくれたのだろうか。
そう私が諦めた時。そっと上に重なる影。
ああ、やっぱり私の理由なんて彼女には通用しないのだ。





「んむっ…」


優しく重なる唇。すぐ目の前には長い睫毛に縁取られたまぶた。
触れ合うそれはひどく柔らかくて。そして不思議と私のものとフィットして。
いつだってそのことに安心して咲夜にすべてを許してしまうのだ。
角度も変えない。舌を挿入したりもしない。稚拙なキスはただただ安心感を私に与えてくれる。
そのことがすごく幸せで、安直にこの時が止まればいいのになんて思ってしまう。
そしてそれが実行可能なのが笑える話だ。





秒針が半分も回らない、短い時間。
たったそれだけで私の心は彼女に鷲掴みにされた。
今、きっと私の顔は真っ赤でゆるゆるに緩んでるのだろう。





「一緒に寝てあげられないけど、これで許して?」
「……もいっかい」
「はいはい」



困った子ね、なんて言いながら咲夜は私に愛を落としてくれた。
子どもっぽいのはしかたがない。だって咲夜の前では私なんて、本当に子どもだろうから。






「…起きる」
「顔、洗ってきなさいね」
「はぁーい、…うわ寒っ!」



肩までだらけ落ちた襦袢の襟を元に戻して、裾を引きずりながら洗面所へと移動を開始する。
敷きっぱなしの布団は……。きっと咲夜が畳んでくれるだろう。





「わっ、ちべたっ」



本当に今日は一段と冷え込んでるようだ。
水が刀のように肌をジクジクを突き刺してたまらない。
確かに意識は浮上してきた。ぼんやりだった視界が一気に色を取り戻し、まぶたが5割増しで開いている気がする。




「ほんっと寒いわね」



縁側に出れば、雪、雪、雪。
白銀の世界は咲夜の髪の色にそっくりで、キラキラ輝いている。
吐く息は世界に紛れて、ゆっくりと空へ登っていく。
見蕩れていた。寒さに肩を抱くのを忘れるくらいに。




「霊夢?」
「…あぁ、咲夜」



現実とともに寒気が戻ってくる。
それはそうだ。外は極寒の雪景色、それに比べて私は薄手の衣一枚なのだから。
無意識的に両肩を抱いて、寒さを紛らわせようとするが、ほとんど意味などないだろう。



「…ほらどうぞ」
「わっ」
「どう、この手品」
「手品師が手品って言ったら世話ないわね」
「ふふっ、そうね」






咲夜特製のいつもの手品だ。手品というには、少しネタがお粗末だろうが。
そっとかけられた着物は決して厚手のものではない。
しかし。



「これはどう?」


そっと前に回された腕。
首筋にかかる吐息。
背中に当たる柔らかな膨らみ。
そっと視界をかすめる銀髪。






「……咲夜ってホントずるいわよね」
「お褒めに預かり光栄です」
「褒めてないっての」
「じゃあ、やめちゃう?」
「……ヤダ。もう少しだけ」
「はいはい、ほんとに…」



可愛い子ね。
咲夜はそういって、私の髪の毛を掻き分けうなじに唇を落とした。
単純な私には絶大な効果だ。ほんのりと暖かかった体温は急上昇し、顔が赤くなる。
周りの景色なんてどこかに飛んでしまった。今わかることは、私を包む咲夜のことだけ。





「……好き」
「あら、告白?」
「…バカ、何回も言ったことあるじゃない」
「霊夢から言われたのは、一週間ぶりね」
「ほんとに、……おめでたい頭ね、まったく」
「あら、そうでもないわよ。…ね、霊夢」
「ちょっ、こっち見んなっ!」
「ふふっ、真っ赤な顔ね。…すごぉーく、そそられるわ」



ぐっと寄る顔は意地悪な笑みを貼り付けていた。
しかし獲物を狙う猫の目とでも言うんだろうか。瞳に笑みとは違う色を伺わせてこちらを見ている。
あからさまに狙われている。こんな真昼間から私の貞操が。





「ちょっと、咲夜!?」
「…いやなの?」
「いやというか、なんというか…」
「ほら、いいじゃない。…すこぉしくらい味見したって」
「わっ、バカ」



発情した犬。まあ彼女はロリ吸血鬼の文字通り犬なんだけども。
しっぽがあるなら、嬉々としてぶんぶん振り回しているだろう。
まあ、求めてきてくれるのは嬉しいんだけれど。



「ほい」
「なっ、霊夢!?」
「しばらくじっとしてなさいよ、もう」
「えっ、ちょっ、何この御札っ……霊夢待って!」
「待たない、このエロ犬」




博麗霊夢特製束縛術つき御札。
額に貼られた御札はキョンシーに貼られたもののように術者の思惑通りに働いているようだ。
咲夜は体を動かそうと試みているようだが、その結果として指がかすかに動く程度だ。
当たり前といえば当たり前。スキマ妖怪の紫だって、解除には多少の時間は要するくらい強力なものだから。
そこでじっと反省するのをおすすめするわ。




「今日の朝ごはんは何かしらね」
「えっと、パンと味噌汁とハムエッグ、漬物、あとデザートにプリンよ」
「なんとも素晴らしい献立で」
「でしょ?」



皮肉を皮肉と受け取らないのはこいつのデフォルトなのだろうか。
咲夜の作る料理は非常に美味だから、許すけど。
動けない咲夜をおいて、いつもの巫女装束に着替えるべく、箪笥のある座敷へと向かった。













「……やっぱりうまいわね、腹立つ」
「ありがとう」
「おかわり」
「はい、お嬢様」



朝ごはんというか、もはや昼ごはんといっても差し支えない時間帯。
高く登った太陽が雪を溶かし、あたりは白銀の世界から色彩を取り戻す。
ずずずと味噌汁をすすれば、だしが効いた優しい味わいが舌の上で小躍りしている。
洋風を体現したようなメイドのくせに和食も得意とは、完全で瀟酒とはよく言ったものだ。



しかし、咲夜の本職は私の目覚まし時計でも博麗神社付きの家政婦でも何でもない。


紅魔館のメイド長。
仕える主人は私の他にいるのだ。
永遠に赤い幼き月、レミリア・スカーレット。大層な二つ名をお持ちだが、ぶっちゃけ私にとってはただのロリ幼女なんだけれどね。



頬杖をついて、ふわふわと笑いながらこちらを見つめる彼女。(額の御札は先刻彼女が一緒にご飯が食べたいとぐずり出したので剥がした)。それはそれは優秀なメイド長だ。
忙しくて暇などないだろうに。




「あなたも大変ね、こんな私の世話を焼きにくるなんて」
「自覚してるなら、もっと私を慈しんでほしいものね」
「私ってば、あなたには甘えたがりなの。だから許して」
「そうね。棒読みで言わなかったらすごくときめくセリフなのだけれど」
「私は恥ずかしがり屋なの」
「あら、初耳。素敵な巫女さんは羞恥心など月の果てまで投げ飛ばしているものだと思っていましたわ」
「そう、もう一回御札を貼って欲しいわけね。いいわよ」
「わっ、ちょっ、霊夢っ」
「ったく、それで?」
「…?」
「今日はどうしたの?ご主人様のお世話は」
「お嬢様?ああ、ヤキモチね」
「メイド長様の頭の中はリリーが舞っているのね、おめでたい」
「そういうあなただって万年春巫女じゃない。そして今日はおやすみよ。こんなに天気がいいもの、お嬢様はベッドにこもってらっしゃるわ。だから暇を持て余したメイドは暇を出されたってわけ」
「ふうん…、そうなんだ」
「興味ないのね」
「休みなんだからもっといろんな所にいけばいいのに、って思っただけ」
「そうね、でも恋人と過ごす休日に勝るものなんて何もないわ」
「…そうね」
「だから…」




ちゅっと。
リップ音と共に唇が離される。
それは一瞬の出来事。まるで時を止めたかのような刹那のこと。
ちゃぶ台の食器は綺麗に片付けられ、しっかりと台拭きで拭かれている。
いつのまに傍に来たのだろう、なんて答えは知っているが。





「せっかくの休日、退廃的に過ごすのも良くて、よ」





気づけば、布団の上。
敷きっぱなしだったようだ。シーツの乱れが起きた時のままだから。
指をぱちんと鳴らせばピシャリと閉まる障子。能力の無駄遣い、ここに極まれり。




「咲夜!?」
「もう我慢できないの。分かるでしょ?」
「でもっ…」
「可愛いあなたが悪いのよ?私を誘惑して」
「してないっ」
「霊夢だってキスせがんだりしてじゃない。それに最近ご無沙汰だったし。ね、分かって?」




分かりたくもない。でも。
紅潮した頬に、細められた瞳。そこに映る私の顔はきっと紅魔館よりも赤いに違いない。
期待してたのは、もしかしたら私の方なのだろうか。






「………優しくしないと、殺すから」
「それは怖い。殺されないように足腰立たなくしてあげようかしら」
「……ばぁか」





そっと近づく顔を視界に映し、ぴっと御札を投げる。
今度は扉を誰にも開けられないようにする結界術のものだ。
閉じた障子に張り付いたのを確認して、安心しながら相手の唇を受け止める。
一日はまだまだ長いらしい。









おしまい
勢いで書いた。
反省はしている。後悔はしていない。

どうか皆様のお口にあいますように。
トルティニタ
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
わっふるわっふる
2.弘鷹削除
ごちそうさまでした。

ちなみにおかわりとデザートはどこでしょうか?
3.奇声を発する程度の能力削除
もっともっと
4.伏狗削除
咲夜さんに甘えまくる霊夢さん。咲夜さんも霊夢さんに甘えている。良いですね!
次回作もお願いします。
5.米を食べる程度の能力削除
読んでてにやけるのが止まらないWW
6.雪夜削除
うひょーー
もっともっとくれーー
7.雪夜削除
うひょーー
もっともっとくれーー
8.伝説の超野菜人程度の能力削除
この後は何をヤるんだ~❓^-^