――まるで嫌がらせのように暑い、8月の午後のこと。
風見 幽香は額から滴り落ちる汗を拭うこともせず、虚ろな表情を浮かべたまま大きなヒマワリのそばにへたり込んでいた。
トレードマークの日傘を差してはいるものの、暑いものは暑い。
紫外線はカットできても、温度まではどうこうできないのだ。
「う……うう……あづい……」
鼓膜を揺さぶるように近隣の林から響いてくるセミたちの声も、神経を逆撫でせんばかりの勢いで不快感を盛り立てる。
「しっ……静かにしなさいよぉ……」
幽香はささやかな抗議に出たが、セミたちはお構い無しにがなり立てるばかり。
♪じーわじーわ……
♪みーんみんみんみー……みーんみんみんみー……
♪じーwwwつくつくつくwwwぼーしwwwつくつくぼーしwww
普段は出来るだけ紳士的かつ穏やかな振る舞いを心がけている彼女ではあったが、皆さんご察しの通り根は短気であった。
セミたちがどうにも自分を馬鹿にしているように感じられ、我慢ならなくなり……
「ヤメロー! ヤメロー!」
日傘をたたむや否や、ジェダイばりの太刀さばきで振り回しながら猛抗議。
暑さのせいで言語中枢がやられたのか、何故かカタコトである。
豊満なバストがぶるんぶるんと円運動を繰り返してR-15的な光景が展開されたのだが、残念なことに烏天狗は来なかった。
「叫びながら傘を振り回すと余計に暑くなる」という事実に彼女が気付いたのは、最初の抗議から3分後のことであった。
「そ……そうだわ……こういう時は水分補給! 水分補給!」
うわ言のように呟きながら、鞄からファンシーなデザインの水筒を取り出し――
――中身はすでに空であった。
「ヤンナルネ……」
この世には神も仏も無いのだろうか。
悲嘆に暮れた幽香が力なく俯いた、その時。
鞄の奥底から、大きなグレープフルーツがコロコロと転がり出てきた。
これぞ天の助け。
すかさずそれを掴み取ると、幽香は蓋を開けた水筒の真上で右手にぐっと力を込めた。
「ぬぅん!!」
(実年齢はともかく)見た目がうら若き乙女チックな生物が発する掛け声としてはいかがなものかと思わなくもないが、
もう四の五の言っていられるような状況ではない。
猛暑の昼下がり。
水筒カラッポ。
鞄からフルーツ。
……これ、絞らなきゃウソね。
No 水分補給=Near Death Experience。
これ確定的に明らか。
日本人ウソばかり。
全力で握り締めると、ジュースを作るよりも早くグレープフルーツが爆発四散してしまう恐れがある。
幽香は細心の注意を払って、力加減を調節しながら果汁を搾り出す作業に専念した。
ぎゅーっ……ぎゅーっ……
(数分後)
「――よし、やったわ!」
空っぽだった水筒の中に、絞りたてのグレープフルーツ果汁が見事に納まった。
小さくガッツポーズを決めている幽香の傍らには、ボロ雑巾のように絞り込まれた(故)グレープフルーツが転がっている。
「レッツ・ドリンク!」
いかにもIQの低そうな掛け声とともに、腰に手を当てて爽やかに一飲み……
「むぐっ!?」
ここで彼女は大変なことに気がついた。
ぬるい。
いくら新鮮・絞りたてでも、人肌くらいにぬるいグレープフルーツジュースなど地球上の誰からも愛されないであろう。
やはりキンキンに冷えていなくては……。
しかし、この場で都合よく氷が見つかるはずもない。
幽香は力なく俯き、呆然と立ち尽くすばかりであった――
と、その時。
「あれっ、こんなトコで何してるのよ?」
頭上から掛けられた声に、ふと顔を上げると……そこにはチルノの姿があった。
ぱぁっ! という効果音を付けたくなるほどの勢いで、幽香の表情が輝く。
「なんて良いところに! ねえ、ここに氷を作って入れてもらえないかしら?」
「あら、あたいの力が必要かしら? 幽香から頼みごとをされちゃうなんて、あたいったら最強ね!」
チルノがピンと立てた指先に、たちまちの内に冷気が集まっていく。
「はい、できた。いくわよー、それっ!」
ぼちゃん! びしゃあっ!
「――――あ」
「……あら? どーしたの、そんな顔して」
凍りついたように動かない幽香を不審に思い、何事かと手元を覗き込んだチルノが目にしたのは……
上方から勢いよく大きな氷をブチ込まれたせいで、中身がほとんど外へ跳ね飛んでしまった空っぽ同然の水筒であった。
双方ともに無言。
黙り込む二人の周りでは、セミたちの声だけがぐるぐると渦巻いている。
「え、ええっと……不幸な事故だったわね!」
「う……ううう……うう……う……」
「ゆ、幽香。どうしたの?」
「ぐがあああああああああああ!! ちくしょううううううううううううううううううう!!(マスパ)」
「ぬわーーーーっ!!」
"Grapefruit Juice" is Dead End.
風見 幽香は額から滴り落ちる汗を拭うこともせず、虚ろな表情を浮かべたまま大きなヒマワリのそばにへたり込んでいた。
トレードマークの日傘を差してはいるものの、暑いものは暑い。
紫外線はカットできても、温度まではどうこうできないのだ。
「う……うう……あづい……」
鼓膜を揺さぶるように近隣の林から響いてくるセミたちの声も、神経を逆撫でせんばかりの勢いで不快感を盛り立てる。
「しっ……静かにしなさいよぉ……」
幽香はささやかな抗議に出たが、セミたちはお構い無しにがなり立てるばかり。
♪じーわじーわ……
♪みーんみんみんみー……みーんみんみんみー……
♪じーwwwつくつくつくwwwぼーしwwwつくつくぼーしwww
普段は出来るだけ紳士的かつ穏やかな振る舞いを心がけている彼女ではあったが、皆さんご察しの通り根は短気であった。
セミたちがどうにも自分を馬鹿にしているように感じられ、我慢ならなくなり……
「ヤメロー! ヤメロー!」
日傘をたたむや否や、ジェダイばりの太刀さばきで振り回しながら猛抗議。
暑さのせいで言語中枢がやられたのか、何故かカタコトである。
豊満なバストがぶるんぶるんと円運動を繰り返してR-15的な光景が展開されたのだが、残念なことに烏天狗は来なかった。
「叫びながら傘を振り回すと余計に暑くなる」という事実に彼女が気付いたのは、最初の抗議から3分後のことであった。
「そ……そうだわ……こういう時は水分補給! 水分補給!」
うわ言のように呟きながら、鞄からファンシーなデザインの水筒を取り出し――
――中身はすでに空であった。
「ヤンナルネ……」
この世には神も仏も無いのだろうか。
悲嘆に暮れた幽香が力なく俯いた、その時。
鞄の奥底から、大きなグレープフルーツがコロコロと転がり出てきた。
これぞ天の助け。
すかさずそれを掴み取ると、幽香は蓋を開けた水筒の真上で右手にぐっと力を込めた。
「ぬぅん!!」
(実年齢はともかく)見た目がうら若き乙女チックな生物が発する掛け声としてはいかがなものかと思わなくもないが、
もう四の五の言っていられるような状況ではない。
猛暑の昼下がり。
水筒カラッポ。
鞄からフルーツ。
……これ、絞らなきゃウソね。
No 水分補給=Near Death Experience。
これ確定的に明らか。
日本人ウソばかり。
全力で握り締めると、ジュースを作るよりも早くグレープフルーツが爆発四散してしまう恐れがある。
幽香は細心の注意を払って、力加減を調節しながら果汁を搾り出す作業に専念した。
ぎゅーっ……ぎゅーっ……
(数分後)
「――よし、やったわ!」
空っぽだった水筒の中に、絞りたてのグレープフルーツ果汁が見事に納まった。
小さくガッツポーズを決めている幽香の傍らには、ボロ雑巾のように絞り込まれた(故)グレープフルーツが転がっている。
「レッツ・ドリンク!」
いかにもIQの低そうな掛け声とともに、腰に手を当てて爽やかに一飲み……
「むぐっ!?」
ここで彼女は大変なことに気がついた。
ぬるい。
いくら新鮮・絞りたてでも、人肌くらいにぬるいグレープフルーツジュースなど地球上の誰からも愛されないであろう。
やはりキンキンに冷えていなくては……。
しかし、この場で都合よく氷が見つかるはずもない。
幽香は力なく俯き、呆然と立ち尽くすばかりであった――
と、その時。
「あれっ、こんなトコで何してるのよ?」
頭上から掛けられた声に、ふと顔を上げると……そこにはチルノの姿があった。
ぱぁっ! という効果音を付けたくなるほどの勢いで、幽香の表情が輝く。
「なんて良いところに! ねえ、ここに氷を作って入れてもらえないかしら?」
「あら、あたいの力が必要かしら? 幽香から頼みごとをされちゃうなんて、あたいったら最強ね!」
チルノがピンと立てた指先に、たちまちの内に冷気が集まっていく。
「はい、できた。いくわよー、それっ!」
ぼちゃん! びしゃあっ!
「――――あ」
「……あら? どーしたの、そんな顔して」
凍りついたように動かない幽香を不審に思い、何事かと手元を覗き込んだチルノが目にしたのは……
上方から勢いよく大きな氷をブチ込まれたせいで、中身がほとんど外へ跳ね飛んでしまった空っぽ同然の水筒であった。
双方ともに無言。
黙り込む二人の周りでは、セミたちの声だけがぐるぐると渦巻いている。
「え、ええっと……不幸な事故だったわね!」
「う……ううう……うう……う……」
「ゆ、幽香。どうしたの?」
「ぐがあああああああああああ!! ちくしょううううううううううううううううううう!!(マスパ)」
「ぬわーーーーっ!!」
"Grapefruit Juice" is Dead End.
所々で笑える箇所もあり面白かったです