「霧雨プレゼンツ」
雨の幕がひかれて数日が過ぎようとしている。
開口一番に漏れ出るため息。
怠けがちの私でも、やること自体が無ければ暇を感じる。
旧友が見れば普段通り縁側に座っているだけじゃないか。と笑うのだろうか。
気怠げな目で雨雲の覆おう空を見上げる。
そういえば、こんな雨を霧雨というのだと言っていたっけ。随分昔の話だが、あの頃は私もよく人里まで遊びに行ったものだ。
思い出しつつ苦笑を一つ。あの頃は若かった。いやいや、まだまだ若いけれども。
くすくすと一人笑みをこぼし、庭先で最近ようやく色づき始めた紫陽花に視線を向ける。
白かった花びらが薄い水色に染まった。花びらに乗っかった雨粒が良い感じだ。
濃い赤紫色も良いが、私はこの薄い水色が好きだ。
なぜならこの神社に訪れる友人達の中で、数少ない良心を持った彼女を思わせるからだ。
白く透き通った肌、日の光に輝くブロンドの髪、吸い込まれそうなほど透明な青い瞳。
端正な人形のような容姿を持つが、儚げな雰囲気を纏っている。
水色の紫陽花は、アリス・マーガトロイドを私に思わせる。霧雨の名を持つ旧友とは別に特別な人。
幻想郷で彼女と再会した時は驚いた。彼女が私を覚えている事には言葉を失いかけたのだが。
初めて会った時、彼女は相当幼かったように思うのだが。いや、それとも、日々の騒がしさに、私が時間の経過を早く感じ過ぎているのか……。
どちらにせよ雪と桜が散る中、舞い踊る彼女の美しさは忘れる事も出来ず。
彼女と顔を合わせていると、良く思い出してはドキドキしてしまう。
しとしとと雨は降り続ける。
気づけばどこから現れたのか、カタツムリが紫陽花の上を這っていた。
ぼうっと視線を向けて、その様を目で追っていると。
「こんにちは霊夢」
「っ?!」
突然かけられた声に驚く。
声の方を向くと、ずぶ濡れになったアリスが立っていた。
何でアリスが? という疑問よりも早く、ずぶ濡れになったアリスを何とかしなければと言う思考が働く。
「ど、どうしたのそれ、びしょびしょじゃない!」
「ええ、ちょっと屋根が雨漏りして」
肩をすくめて見せるアリス。雨漏りなんて濡れ方ではないと思うのだが。
髪は水を滴らせ、服が濡れて張り付いてしまっている。アリスの体のラインがばっちりわかってしまうわけで、何とも心臓に悪い。
相変わらず細いなぁと思いつつ、私は神社の奥からタオルを彼女に手渡した。
ふとアリスの後ろに気配を感じ、覗いてみると人形達が群れをなしている。いつもなら1~2体付き添いのようにいるだけなのだが、今日は数が多いようだ。これはタオル足りるかな?
「とにかく拭きなさいよ」
「ええ、ありがとう」
アリスがタオルで体の水滴をぬぐい取っていく。
どうせならもう1枚持ってきて拭いてあげれば良かった。そうすれば合法的にアリスを触り放題だったのに。
「本を魔理沙の家に移していたのよ、屋根を壊した代償。だから濡れちゃって」
魔理沙のやつなにをしでかして。
しかしなるほど、そういうことか。
「そのまま魔理沙の家にやっかいになれば良いのに」
「どうせなら想い人の家が良い」
「え?」
「何でも無いわ」
風に吹かれ良く聞こえなかった。どことなくアリスが残念そうな顔をしているように見える。
「ねぇ、シャワーかしてくれない?」
「別に良いけど、着替えは?」
「あっ、何も考えてなかったわ」
人形達は連れてくるが自分の荷物を忘れる。これもまたアリスらしいのだが。
「私の服は合うかしら」
「うーん、ちょっと小さい程度なら何とか」
「探してみるわ、シャワーをどうぞ」
「どうも」
場所は前宴会を開いたとき貸したことがあるから大丈夫だろう。それよりも人形達のタオルと、アリスに貸す服だ。
綺麗な下着あったかなぁ。
人形のように可愛らしいアリスに古くさい物は貸したくない。と言うかそれはなんだか恥ずかしい。
「う~ん? 確か綺麗なのはこの辺に……」
貧乏性の私は古い物から着回す癖がある。
「あったあった」
綺麗な服と下着、ありったけのタオルを手に持ちお風呂場へと赴く。
ずぶ濡れになった人形達が主人の戻りを待つ子犬のように寄り添い、お風呂場に続く扉の前に集まっていた。
体温は無いのだろうが、どことなく寒そうで可哀想に見える。
そんな彼女達にタオルを手渡してあげると、喜んでお互いを拭き合うようにタオルをこすりつけだした。なんだか無性に可愛い。
しかし、予想通りタオルが足りないな……。
順番待ちでタオルに群がっている子達を一人掴み上げ、自分の前に座らせると洗面台からドライヤーを取り出した。
「アリスー上海達にドライヤーって大丈夫ー?」
「え? なに? シャワーの音で聞こえない」
「あー、やっぱ何でも無いわ」
一応確認を取りたかったのだが、まぁ弾幕勝負に出てくるような屈強な人形達だ。ドライヤーぐらいなんのそのだろう。
上海の背中側に座り込み、風力を一番弱くして温風を当てる。
はわぁっ! と言いたそうな表情を上海が一瞬浮かべ、頭上から顔にいきなり風を吹きかけてしまったことを後悔した。
「ご、ごめんごめん、良い子にしててね~?」
優しく、壊れ物を扱うかのように上海の髪を梳いていく。
アリスの指と違って私の指は細くないので櫛でもほしいのだが、生憎そんな便利な物は無い。だって使わないし。
「ごめんね、ちょっと痛いかな?」
気遣うような言葉をかけてみると、大丈夫だと言わんばかりに上海が腕をビシッと上げた。やっぱりこの子達可愛いなぁ。
大切に大切に乾かしていると、なにやら複数の視線を感じる。
手元から視線を上げると、拭きあいっこをしていた上海達が手を止めこちらを見て居た。
「あ、あれ? なんかまずいことした?」
こちらを見る子達に表情はない。
ドライヤーを止め、乾かしてあげていた上海の顔を覗くと満足そうに目を細めている。
「ごめんごめん、何か言った霊夢?」
と、そこに湯気を纏ったアリスがお風呂場から出てきた。
生まれたままの姿から水滴がぽたりぽたりとお風呂場の床に落ちる。
その姿を呆然と眺める私と、驚愕の表情で固まったアリス。
「シャンハーイ!」
手元で乾かしていた上海のジャンプアッパーが見事に私の顎をとらえた。
「あぁ、あの子達嫉妬してたのよたぶん」
私の貸した浴衣に身を包んだアリスが顔を赤くしたまま言う。
「なによそれ……」
私も真っ赤な顔で、うつむき気味に返すと、アリスが上海達を拭いていた手を止め、こちらを見て続けた。
「家では毎日そうやってドライヤーで一人一人乾かしてあげるのよ」
「え? じゃあアリスがやった方が良いんじゃないの、これ」
私はアリスが脱衣所から持ってきたドライヤーを止めて彼女の方に向ける。
「良いわよ、大切に扱ってくれてるみたいだし、上海達も嬉しそうにしてる」
「そう?」
人形が嫉妬か……。
じっと上海の顔を見つめてみる。
こちらの視線に気づいた上海が不思議そうに首を傾げて見せた。
まぁこんな反応を見せるのだから嫉妬もするのかも知れない。
「それにしても、霊夢は上海達に優しいわね」
「なんだかちっちゃいアリス見てるみたいでほっとけないのよねぇ」
首を傾げ、口元に手を当てる上海をにやけ顔で見つめながら何気なく口を出た言葉。
ガタンと上海達が乗っていたテーブルが揺れた。
「わわわっ」
「な、なにいって!」
アリスが中腰に立ち上がりかけている。
どうやら立ち上がろうとして足をぶつけたようだ。
「ちょ、ちょっとアリス大丈夫?」
「だ、大丈夫よ」
真っ赤になったアリスが落ち着かない様子で腰を下ろす。
「そう? 気をつけなさいよ~」
上海の頭をうりうりしながらそんな言葉を投げかける。
あぁそれにしてもアリスの体綺麗だったなぁ、なんて。
そんな事を思いながら、私たちは上海を乾かし他愛も無い会話を続けるのだった。
雨の幕がひかれて数日が過ぎようとしている。
開口一番に漏れ出るため息。
怠けがちの私でも、やること自体が無ければ暇を感じる。
旧友が見れば普段通り縁側に座っているだけじゃないか。と笑うのだろうか。
気怠げな目で雨雲の覆おう空を見上げる。
そういえば、こんな雨を霧雨というのだと言っていたっけ。随分昔の話だが、あの頃は私もよく人里まで遊びに行ったものだ。
思い出しつつ苦笑を一つ。あの頃は若かった。いやいや、まだまだ若いけれども。
くすくすと一人笑みをこぼし、庭先で最近ようやく色づき始めた紫陽花に視線を向ける。
白かった花びらが薄い水色に染まった。花びらに乗っかった雨粒が良い感じだ。
濃い赤紫色も良いが、私はこの薄い水色が好きだ。
なぜならこの神社に訪れる友人達の中で、数少ない良心を持った彼女を思わせるからだ。
白く透き通った肌、日の光に輝くブロンドの髪、吸い込まれそうなほど透明な青い瞳。
端正な人形のような容姿を持つが、儚げな雰囲気を纏っている。
水色の紫陽花は、アリス・マーガトロイドを私に思わせる。霧雨の名を持つ旧友とは別に特別な人。
幻想郷で彼女と再会した時は驚いた。彼女が私を覚えている事には言葉を失いかけたのだが。
初めて会った時、彼女は相当幼かったように思うのだが。いや、それとも、日々の騒がしさに、私が時間の経過を早く感じ過ぎているのか……。
どちらにせよ雪と桜が散る中、舞い踊る彼女の美しさは忘れる事も出来ず。
彼女と顔を合わせていると、良く思い出してはドキドキしてしまう。
しとしとと雨は降り続ける。
気づけばどこから現れたのか、カタツムリが紫陽花の上を這っていた。
ぼうっと視線を向けて、その様を目で追っていると。
「こんにちは霊夢」
「っ?!」
突然かけられた声に驚く。
声の方を向くと、ずぶ濡れになったアリスが立っていた。
何でアリスが? という疑問よりも早く、ずぶ濡れになったアリスを何とかしなければと言う思考が働く。
「ど、どうしたのそれ、びしょびしょじゃない!」
「ええ、ちょっと屋根が雨漏りして」
肩をすくめて見せるアリス。雨漏りなんて濡れ方ではないと思うのだが。
髪は水を滴らせ、服が濡れて張り付いてしまっている。アリスの体のラインがばっちりわかってしまうわけで、何とも心臓に悪い。
相変わらず細いなぁと思いつつ、私は神社の奥からタオルを彼女に手渡した。
ふとアリスの後ろに気配を感じ、覗いてみると人形達が群れをなしている。いつもなら1~2体付き添いのようにいるだけなのだが、今日は数が多いようだ。これはタオル足りるかな?
「とにかく拭きなさいよ」
「ええ、ありがとう」
アリスがタオルで体の水滴をぬぐい取っていく。
どうせならもう1枚持ってきて拭いてあげれば良かった。そうすれば合法的にアリスを触り放題だったのに。
「本を魔理沙の家に移していたのよ、屋根を壊した代償。だから濡れちゃって」
魔理沙のやつなにをしでかして。
しかしなるほど、そういうことか。
「そのまま魔理沙の家にやっかいになれば良いのに」
「どうせなら想い人の家が良い」
「え?」
「何でも無いわ」
風に吹かれ良く聞こえなかった。どことなくアリスが残念そうな顔をしているように見える。
「ねぇ、シャワーかしてくれない?」
「別に良いけど、着替えは?」
「あっ、何も考えてなかったわ」
人形達は連れてくるが自分の荷物を忘れる。これもまたアリスらしいのだが。
「私の服は合うかしら」
「うーん、ちょっと小さい程度なら何とか」
「探してみるわ、シャワーをどうぞ」
「どうも」
場所は前宴会を開いたとき貸したことがあるから大丈夫だろう。それよりも人形達のタオルと、アリスに貸す服だ。
綺麗な下着あったかなぁ。
人形のように可愛らしいアリスに古くさい物は貸したくない。と言うかそれはなんだか恥ずかしい。
「う~ん? 確か綺麗なのはこの辺に……」
貧乏性の私は古い物から着回す癖がある。
「あったあった」
綺麗な服と下着、ありったけのタオルを手に持ちお風呂場へと赴く。
ずぶ濡れになった人形達が主人の戻りを待つ子犬のように寄り添い、お風呂場に続く扉の前に集まっていた。
体温は無いのだろうが、どことなく寒そうで可哀想に見える。
そんな彼女達にタオルを手渡してあげると、喜んでお互いを拭き合うようにタオルをこすりつけだした。なんだか無性に可愛い。
しかし、予想通りタオルが足りないな……。
順番待ちでタオルに群がっている子達を一人掴み上げ、自分の前に座らせると洗面台からドライヤーを取り出した。
「アリスー上海達にドライヤーって大丈夫ー?」
「え? なに? シャワーの音で聞こえない」
「あー、やっぱ何でも無いわ」
一応確認を取りたかったのだが、まぁ弾幕勝負に出てくるような屈強な人形達だ。ドライヤーぐらいなんのそのだろう。
上海の背中側に座り込み、風力を一番弱くして温風を当てる。
はわぁっ! と言いたそうな表情を上海が一瞬浮かべ、頭上から顔にいきなり風を吹きかけてしまったことを後悔した。
「ご、ごめんごめん、良い子にしててね~?」
優しく、壊れ物を扱うかのように上海の髪を梳いていく。
アリスの指と違って私の指は細くないので櫛でもほしいのだが、生憎そんな便利な物は無い。だって使わないし。
「ごめんね、ちょっと痛いかな?」
気遣うような言葉をかけてみると、大丈夫だと言わんばかりに上海が腕をビシッと上げた。やっぱりこの子達可愛いなぁ。
大切に大切に乾かしていると、なにやら複数の視線を感じる。
手元から視線を上げると、拭きあいっこをしていた上海達が手を止めこちらを見て居た。
「あ、あれ? なんかまずいことした?」
こちらを見る子達に表情はない。
ドライヤーを止め、乾かしてあげていた上海の顔を覗くと満足そうに目を細めている。
「ごめんごめん、何か言った霊夢?」
と、そこに湯気を纏ったアリスがお風呂場から出てきた。
生まれたままの姿から水滴がぽたりぽたりとお風呂場の床に落ちる。
その姿を呆然と眺める私と、驚愕の表情で固まったアリス。
「シャンハーイ!」
手元で乾かしていた上海のジャンプアッパーが見事に私の顎をとらえた。
「あぁ、あの子達嫉妬してたのよたぶん」
私の貸した浴衣に身を包んだアリスが顔を赤くしたまま言う。
「なによそれ……」
私も真っ赤な顔で、うつむき気味に返すと、アリスが上海達を拭いていた手を止め、こちらを見て続けた。
「家では毎日そうやってドライヤーで一人一人乾かしてあげるのよ」
「え? じゃあアリスがやった方が良いんじゃないの、これ」
私はアリスが脱衣所から持ってきたドライヤーを止めて彼女の方に向ける。
「良いわよ、大切に扱ってくれてるみたいだし、上海達も嬉しそうにしてる」
「そう?」
人形が嫉妬か……。
じっと上海の顔を見つめてみる。
こちらの視線に気づいた上海が不思議そうに首を傾げて見せた。
まぁこんな反応を見せるのだから嫉妬もするのかも知れない。
「それにしても、霊夢は上海達に優しいわね」
「なんだかちっちゃいアリス見てるみたいでほっとけないのよねぇ」
首を傾げ、口元に手を当てる上海をにやけ顔で見つめながら何気なく口を出た言葉。
ガタンと上海達が乗っていたテーブルが揺れた。
「わわわっ」
「な、なにいって!」
アリスが中腰に立ち上がりかけている。
どうやら立ち上がろうとして足をぶつけたようだ。
「ちょ、ちょっとアリス大丈夫?」
「だ、大丈夫よ」
真っ赤になったアリスが落ち着かない様子で腰を下ろす。
「そう? 気をつけなさいよ~」
上海の頭をうりうりしながらそんな言葉を投げかける。
あぁそれにしてもアリスの体綺麗だったなぁ、なんて。
そんな事を思いながら、私たちは上海を乾かし他愛も無い会話を続けるのだった。
お前らさっさと付き合えよ畜生!でもって末永く幸せになって下さいお願いします!
とてもいいレイアリでした!