困った、と。思った。
飛んでいる時の風の心地良さに比べれば、地上は地獄だ、と思った。神社の縁側にふわりと箒で降りると、霊夢は寝こけていた。いつものことだ。このクソ暑いのによく寝ていられるな、とは思ったが、霊夢は暑いからと言って文句を言う以上のことをするような奴じゃない。ぐずぐずと寝こけてるのも、いつも通りだった。うー、うー、唸りながら、縁側に横になっている。私は霊夢の隣に座った。ぱたぱたと傍らに落ちていたうちわで霊夢を扇いでやると、唸りは収まった。
ぼうっと空を見上げて、霊夢の顔に向けて、うちわをぱたぱた。ここでぼーっとしてても仕方ないという気分にもなるけれど、霊夢は暑いからってこんな風に毎日寝て過ごしてるんだとしたら、ご飯とか食べてるだろうか。心配になる。顔色は、別段、変わりないように見える。
何となし。うちわを置いて、霊夢の髪を薬指で少しだけ、掻き上げる。額には触れないように少しだけ。眠っている霊夢の額が見える。顔色は、別に悪そうじゃない。頬がこけてることもないし。それなりに食べてるらしい。
気をつけているから、霊夢がそれを無意識に嫌がるということもなかった。代わりに、霊夢は言葉を漏らした。さっきみたいな意味を成さない呻きではなく明瞭な。
「紫」
何か聞いてはいけないものを聞いてしまったような気分になって、困ったな、と思った。何度か目をしばたいて、そうしてから、自分がそうしている事に気付いた。
手が、霊夢の髪を撫でるように、ふわり、触れて、それも。そうしてから、そうしている自分に気付く。自分でどうしてそうしてしまったのかなんて、分からないまま。
「紫。紫」
二度、耳元囁くように、霊夢が紫の名前を呼ぶ。表情は、暑がって、眉を寄せて唸っていた時よりも、涼やかで、優しげに見える。単にうちわで扇いでいたからかもしれないけれど。
私が伸ばした手に、霊夢の手が触れる。ふわ、と優しく握り、そのまま、霊夢が身体をずり、と持ち上げて、私の膝の上に乗ってきた。
「紫」
静かな驚きを伴って、けれど、どうしてか冷静に、私は霊夢を見下ろしていた。手を握って、私の膝の上で口を半開きにして寝こけている霊夢。困ったな、と思った。霊夢は紫のことを好きとか。聞いたことはないけれど。霊夢自身、自覚した言葉でもないのかもしれないけれど。ふう、と息を吐いた。暑い。
あるいは、と思った。誰もいない神社で、霊夢が一人ぼうっとしていたり、こんな風に寝こけてる時。紫はふっと現れて、隣に寄り添っていたりするんだろうか。いや…むしろ、寄り添わないから、霊夢は夢の中で求めるのだろうか?
うにうにと霊夢の額を人差し指で触ってみた。眉を寄せて、うーん、と唸る。思わず笑みがこぼれる。はは、と声を上げた。霊夢が誰かを好きということが、不意に愛しく思えたのだ。そういう話に霊夢から積極的になることはないし、話を振っても特別気のなさそうな反応をするだけの霊夢が。
「可愛いじゃないか。お前」
頬をふにふに押してやるとますます嫌そうな顔をして、でも、手は離そうとはしない。ますます可愛くなる。不意に、私はこの無愛想で対人間能力の低そうな巫女に対して、お姉さんぶっている自分に気がついた。だけど、だからと言って、それが何かになる訳でもない。実際、霊夢よりよく物を知っている訳でもないから、お姉さんぶれる訳でもない。
強い風が吹いた。ざ、と木の葉の鳴る音がして、帽子が浮いた。慌てて手を伸ばして押さえ付け、その拍子で腰が浮いた。霊夢が目を覚ました。
「ん、む」
霊夢が身体を起こして、私を見た。
「紫?」
そう、霊夢は言ってから、目を見開いて、私を見た。それからみるみる顔が赤くなって、口元がわなわなと震えた。まずい、と思ってから、どうしたらいいかな、と思った。どうしようもなくて、にへ、と笑った。
「……ば、ばか」
霊夢はそれだけを言って、まだ握りっぱなしの私の手に気付いて、乱暴に振り払った。
1…いや、3で!
3でファイナルアンサー
となると幽々子と一緒にバカンス、2が答えだ!
霊夢へのお土産選んでいる裏でこんなことがあったと知り
一緒に連れて行けばよかったと悔しがる紫の姿が
と、ハードルを上げておく。
ゆかゆゆ、ゆかれいむの三角関係おいしいです。
無意識にゆかりんを求める霊夢さん可愛いかったです
ゆゆ様と熱海旅行中にふと霊夢の様子を見ておこうとスキマ空けたら一部始終目撃声とか
なんにせよ美味しいです