「みここここー! さあ始まりました毎度お馴染み、あやみこラジオ! パーソナリティーは私、射命丸文と」
「夏の暑さに負けつつある、博麗霊夢でお送りするわ」
オープニング曲の『恋風綺想』が流れる。
机に顎を乗せて、ぐだぐだだらだらとした態度の霊夢。声もふにゃふにゃっとしていて、やる気が全く感じられない。
「もうっ、しっかりしてくださいよ。ただでさえ怠惰な巫女なのに、この放送でより怠惰っぷりアピールしてどうするんですか」
「……なんであんたは、そんなに元気なのよ」
「いや、仕事ですし」
「あんたってそういうところ、しっかりしてるわよね。褒めてやるわ」
「なんでちょっと上から目線なんですか。ほら、お便りいきますよー」
「うぃー」
「……ちゃんとした返事しましょうよ」
机の下からお便りボックスを取り出し、そこから一つお便りを取り出す。
「えーPN正体不明さんから。『未だに新しい生活と環境に慣れません。どうしたらいいですか?』ですって。悩み相談みたいな感じですねー。霊夢さん、どうすれば良いと思います?」
「え、あ? 増えるわかめがどうしたって?」
「一言もそんな話してないですよ! ちゃんと聞いてて下さいよ、もう。えっと、正体不明さんはあれです、きっと時間が解決してくれますよ! よっぽどコミュニケーションが下手じゃなければ!」
「……さらっときついわね。それじゃ、次私が読むわよ。PN三さんから。『霊夢さんや文さんは、何か怖いものとかないんですか?』だって」
「新聞契約されるのが怖いですねー」
「あー私はお賽銭が怖いわねー」
「……」
「……」
「それじゃ、一旦CMね」
「この流れで!?」
~少女CM中~
「レミリアさん、私気付いたんです」
「あんたなんで白衣なんて身に纏ってるのよ」
何故かさとりは白衣を身に纏い、とても良い笑顔をしている。これを目の前にして、レミリアはなんか正直気持ち悪いなこいつ、などと思った。
「心に病や悩みを抱える人のため、私はこの能力を活かし悩み相談を始めようかなと。古明地さとりのお悩み相談室、地霊殿にて毎週日曜日朝九時から開始してます。よろしければ、是非いらしてください」
「へぇ、あんたが悩み相談ねぇ。具体的には、どういうことしてくれるわけ?」
「もう悩まなくて良いように、その人のトラウマをたくさんたくさん掘り返して心を完全に壊してあげます」
「何それ怖っ!? トラウマを取り除いてあげる、とかじゃないの!?」
「……おぉ、その発想はありませんでした」
「私からすれば、あんたのその歪んだ発想こそ無いわよ」
「と、いうわけで古明地さとりとレミリア・スカーレットのお悩み相談室は毎週日曜日朝九時から夕方五時までです。気軽に地霊殿まで、いらしてください」
「なんか勝手に巻き込まれてる気がするのだけど!?」
そもそも気軽に地底に行けるわけないだろう、とそれを聴いていた者たちはそう思った。
~少女CM終了~
「さぁ、ゲストコーナー! 今回は命蓮寺から! 優しく穏やかなオーラを纏っているが、怒らせると怖そうな人幻想郷トップ3に入っていると密かに噂されている! 肉体派魔法使い、聖白蓮さんです!」
「……えっと、どうも命蓮寺の聖白蓮です。本日は命蓮寺の宣伝になるかなと思い、こうしてやって来ました。よろしくお願いします」
「さらっと宣伝目的だって言ったわね。はい、というわけで、今日のゲストは白蓮だったわ。じゃあね」
「霊夢さん何帰らそうとしてるんですか!? 白蓮さん、今来たばっかですよ!」
「えー……だって私こいつ、なんか苦手なのよねぇ」
「……本人目の前にして、よく堂々と言えますね。ほら、白蓮さん悲しそうな顔してるじゃないですか」
そう言われて霊夢が白蓮の方を見ると、そこにはまるで捨てられた子犬のようなオーラを纏った白蓮が居た。霊夢よりいろいろと大きいのに、確かに小動物オーラを纏っている。
今にも「きゅーん」とでも鳴きそうな、そんな白蓮の様子に、霊夢はうぐっとなる。
「霊夢さん、私のことお嫌いですか?」
「ぅ、うざい! そういう目で私を見るな!」
「あぁ、私の心に哀しみが満ちる……」
「~っ! あぁもう悪かったわよ! 私が悪かった。別にあんたのこと嫌いじゃないわよ! これで満足!?」
「はいっ、満足です。それではお便りの方、いきましょうか」
「なんかさらっと私の仕事を取られた気がするんですが!?」
さっきまでとはうってかわって、白蓮はぱぁっと明るい笑顔に切り替わった。紫や幽々子のようなタイプとはまた違った、掴み所のなさを持っている。
霊夢からすれば、自分が一方的に乱されて遊ばれてる感じがして、あまり良い気分ではなかった。
白蓮は文が持っていたお便りボックスから、一つお便りを取る。
「PNは……っとおや? 書かれてませんね? 書き忘れでしょうか。とりあえず読ませていただきますね。『博麗の巫女様のように、私も女でも人間でも強く格好良くありたいです。どうすれば博麗の巫女様みたいになれますか?』だそうです」
「あやややや、霊夢さんのファンのような何かですかね。確かに霊夢さんは、真面目なときは格好良いとは思いますが……」
「何よ、その目」
文がなんとも言えないような目で霊夢を見つめ、愛想笑いをする。
「普段がアレなので、霊夢さんみたいになるのはどうかなぁと――目が痛いっ!?」
「霊夢さん、暴力はいけませんよ! どうしてもと言うのなら、私を殴りなさい――きゃふっ!?」
霊夢は文の目を人差し指で攻撃、さらに庇った白蓮のお腹を容赦なく一発パンチ。
ぐおぉぉおと目を抑えて悶える文と、お腹を抱えてうーうー言っている白蓮。今この瞬間、そんな妙な声だけがラジオに流れているわけで、軽い放送事故だ。
「このお便りを出した方! 霊夢さんはこういうことする人ですよ! いきなり目突いてくるような人ですよ!? 良いんですか!」
「うぅ……私の肉体強化の魔法をものともしないただの右パンチとは。これが博麗の巫女の力ですか」
「いえ、むしろ霊夢さんの力な気がします。博麗関係無いと思います」
「失礼な態度をする方が悪い! えっと……お便り送ってくれた人、嬉しいけど私みたいになるってのは無理だと思うわ。私は私でしかないし、あなたはあなたでしかないのだから。誰かを目標に頑張るってのは、まぁ悪くは無いと思うけど、誰かみたいになるってのは真似の延長線上にあるようなものだし。だからあなたはあなたらしさで、私なんかよりもずっと格好良い女になれば良いと思うわ」
「……こんな風に、たまーに真面目になるから霊夢さんは反則ですよ。一瞬、惚れちゃいそうになっちゃったじゃないですか」
「ふむ、霊夢さんも真面目なときは真面目なんですね」
「……うっさい黙れ。ほ、ほら! 次のお便り、さっさといくわよ!」
文と白蓮から顔を逸らし、お便りボックスからお便りを一つ取る。
「えーっと、PNらこさんから。『私はつい最近、ちょっとしたミスをして落ち込みました。みなさんは最近何かミスをしたことや、落ち込んだような出来事はありますか?』だとさ」
「あー……私は気合いを込めて書いた新聞記事が、あまりウケなかったことですかねぇ」
「そんなものいつものことじゃないのよ、あんた」
「何を言いますか。そういう霊夢さんはどうなんですか」
「私? 私は最近、お賽銭が入らなくて落ち込んだわね」
「ははっ、それこそいつものことじゃないですか――って、二度も同じ攻撃は喰らいませんよ!」
霊夢の目潰し攻撃を、文は簡単にかわす。
がるるるると唸る霊夢に、にやにやと挑発している文。そんな二人を見て、おろおろと困った様子の白蓮。
なんとも纏まりの無い状況だった。
「文、あんた放送終わったら覚えてなさい」
「え? なんですか? 打ち上げデートのお誘いですか? きゃー霊夢さんったら大胆っ!」
「わーい殴りたーい」
「こらこらお二人とも、喧嘩はダメですよ。霊夢さんはもう少し、心にゆとりを持つべきです。そして文さんも、子どもじゃないんですから挑発なんてしちゃダメですよっ?」
分かりましたか? と、二人に諭す。その様子は、まるで保護者のようだった。
「はいはい、分かったわよ」
「むぅ、ゲストにそう言われては仕方ないですね。で、白蓮さんは何かミスをしたり落ち込んだこと、ありますか?」
「私はつい先日、豊聡耳神子さんにお会いしたんですが、そのときにちょっとしたミスを……今思い出しても恥ずかしいのですが」
「ほうほう、一体何を?」
「色々お話をして、互いの価値観の違いを再確認したのですが、そのときに少し熱くなってしまって。気が付いたら、神子さんの両腕を折ってました」
「怖っ! 暴力はいけないって言ってたのに、全力でやっちゃってるじゃないですか!」
「いえ、もちろん一方的にじゃないですよ? さすがは人を超えた存在と言いますか、私は歯が数本抜けました」
「……あんたたち、一体どんだけ熱くなってるのよ」
「安心してください、次の日にはちゃんとお互いに謝罪をし、傷も全て魔法で治しましたから。しかし、今思い出しても、あれは良いパンチでした。神子さんの『聖人舐めんなごらぁ!』という掛け声とともに繰り出されたあのパンチ、今思い出してもぞくぞくします。久し振りに、熱い戦いを――」
「あーもう良いから。ただでさえ暑いのに、あんたの熱い話聞きたくないわよ」
「そうですか? それは残念です」
「なんか白蓮さんの意外に熱い面を見れたところで、そろそろお時間ですねー」
ちらっと文がガラスの向こうを見ると、スタッフのにとりたちがカンペでそろそろ締めてと出していた。
「最後に何か言いたいことがあれば、言っても良いわよ」
「そうですね……困ったことがあったら、是非とも命蓮寺にいらっしゃってください。必ずとは言えませんが、きっと力になってみせます。もちろん、妖怪さん大歓迎です!」
「はい、というわけで本日のゲストは聖白蓮でしたー!」
「ありがとうございましたっ」
~少女CM中~
「あ、パルスィそれ一口ちょうだいよ」
「は? 嫌よ。ヤマメは自分のあるじゃないのよ」
「だってそっちの味も試しに食べてみたいんだもん」
片手にアイスを持ったまま、にへらっとした顔でヤマメが言う。
しかしパルスィは、首を縦に振らない。
「絶対嫌よ」
「なんでさー? あ、もしかして間接キスになるのが嫌とか? 恥ずかしいとか?」
「別にそういうわけじゃなかったけど、そうね。あんたと間接キスとか、ごめんだわ」
「あぁもうじゃあ直接キスするよ! それで良いんでしょ!」
「目的変わってるじゃない!? 一口の話どこいったのよ!」
「いいよ、パルスィ一口貰うから」
「わけが分からな――」
『このようなさりげない会話からキスへと持っていく恋愛テクニックなど、108つのテクニックを掲載。著:稗田阿求「これであなたも恋愛の達人!」近日発売』
~少女CM終了~
「はい、エンディングですねー」
エンディング曲が流れる。放送終了が近い合図だ。
文も霊夢も、やや疲れた様子だ。
「やっぱり暑いと、いつも以上に疲れますね」
「それに最後、無駄に熱い話聞かされたしね。そもそも白蓮相手にすること自体、なんか暑苦しいのよ」
「あー……何か色々と熱心というか、親身になってくれるというか。そんな感じだからですかね」
「そうそう。まるで保護者みたいに。あんたは私のお母さんかっつーの」
「それは保護者的な態度取られちゃう、霊夢さんが幼いんじゃないですか」
「あんたも注意されてたくせに」
「うぐっ……」
ジトっとした目でそう言われ、わざとらしく顔を逸らす文。
「さ、さぁ! そろそろ締めるとしましょうか! 霊夢さん、いつものお願いしますね」
「はいはい、あややややー! あ、そうだ文、忘れてないわよね?」
「はい?」
「放送終わったら、覚えてろって」
「……え?」
「良い声で鳴いてね」
「何する気ですか!? 何する気なんですか!?」
文の震えた声と霊夢の何か楽しそうな声で、今回は幕を閉じた。
ヤマパルのCMがとても和みました。
ありがとうございまするっ。
>>2様
ありがとうございます!
>>3様
肉体言語は万国共通っ!
うあーうあーありがとうございますっ。そう言っていただけると嬉しいですっ。