アリスがリスだった。
「いぢめる?」
「いぢめないぜ」
アリスの家。
魔理沙を出迎えたのは、リスの着ぐるみを着たアリスだった。
「なんだよその格好」
「リスよ」
くるみを抱えて、平然とアリスは答える。
「いや、なんでそんなもの着てるんだよ」
「解らないわ……ただ、この着ぐるみを見ていると無性に着たくなったよ。いや、着なければならない、という使命感を感じた……と言う方が正しいかもしれないわ」
「使命感?」
「ええ。そしてこうして着てみると、これが妙に落ち着くのよ。うまく言い表せないけど、あるべき姿であるという安心感というか、私は本来この姿であったのだという確信に満ちた、安らぎのようなものを感じるの」
「安らぎ……」
陶然と語るアリスに、魔理沙は引きつった笑みを浮かべる。
「わからない?」
「さっぱりわからん」
「なら魔理沙、貴方も着てみなさい。そうすればわかるわ」
「わかりたくないぜ」
魔理沙がきっぱりそう答えると、アリスは「そうね」とあっさり引き下がった。
「貴方は魔理沙だもの。リス要素は無いわ」
「どういう意味だよ」
「私はあリス。あリス・マーガトロイドなのよ」
ああ、と魔理沙は思い至る。
そういえばパチュリーのところに行ったら、レミリアや小悪魔が熊の着ぐるみを着て「あ熊」とか言っていたっけ。アリスもどうやらアレに感化されてしまったらしい。
「いぢめる?」
「いぢめないぜ」
くるみを抱えて首を傾げるアリスに、魔理沙は肩を竦める。
「んで、リスになってどうするんだよ」
「とりあえず、くるみを食べようかしら」
抱えたくるみを見下ろして、アリスはそう呟く。
「そんなでかいくるみ、どこで拾ってきたんだ?」
「湖の方に落ちてたわ」
「そうか」
アリスが納得しているなら、自分が言うことは何も無い。
「邪魔したな。あリスとして達者に暮らせよ」
魔理沙はそうひらひらと手を振って、アリスに背を向けて歩き出す。
「いやちょっとスルーしないで助けてやめて私は食べられないからぎゃー!?」
箒に乗って飛び立った魔理沙の背後で、哀れな吸血鬼の悲鳴が森に響き渡った。
ところでラッコやアライグマの着ぐるみは誰が着るのでしょうか。