それは当たり前のことで。
それはありふれたことで。
でも、かけがえのないもので。
ほら、今日もまた貴女がやってきた。
▼
今日も西行寺幽々子は、白玉楼の縁側でお茶を啜っていた。
いつも繰り返していること。けれども、幽々子はこの時間が好きだった。人間からすれば時間の無駄なのかもしれない。でも、亡霊である幽々子にとって時間は在って無いと同じだった。
だから、幽々子はせめて無限の時の中で繰り返されるものを見ておきたいと思った。
移りゆく季節を。
変わりゆく風景を。
紡がれていく命を。
儚き夢を。
巡りゆく時間の中で、繰り返し、繰り返し。
幽々子にとって時間は無限と同義だ。だからこそ、幽々子にとって時間は有限だった。
「はぁ、今日もお茶が美味しいわ。」
湯飲みをお盆に戻し、視線を庭に向ける。愛しい従者がいつも手入れしてくれている庭。そんな従者も今は里へと買い物に出ている。
今日の晩御飯は何かしらね。
そんなことを幽々子が考えていると、スッと目の前の空間に亀裂が走った。
「あらあら、今日はそんなところからおいでなのね。」
「別に玄関から礼儀正しく入ってきてもよいのだけれど。」
「けれど?」
「それじゃあ、芸が無いでしょ。」
「ふふっ、いつから紫は面白さに気を遣うようになったのかしら。」
「いつもでしょ。」
「いらっしゃい、紫。」
「こんにちは、幽々子。今日も美味しそうなお茶を飲んでいるわね。」
そう言って、いつもの導師服で、いつもの帽子で、いつもの胡散臭い微笑みで白玉楼にやってきた。
▼
「そう、妖夢は買い出しに。」
「えぇ、今日はどんな晩御飯にしてくれるのかしらね。」
楽しそうに言いながら幽々子は、お盆に急須といつも紫が使っている湯飲みを載せて縁側へと戻ってきた。
「だから、今日は幽々子の淹れてくれるお茶なのね。」
「あらあら、妖夢のお茶でないと飲めないかしら。」
「そんなこと言うなんて、ひどい人。」
そう言ってヨヨヨと服の袖で横顔を隠し、泣き真似をする紫。そんないつものやりとりを幽々子は、ふふふと微笑んで楽しんでいた。
コトリ
と、お盆を降ろし傍らに正座する幽々子。急須を手に取り、注ぎ口を湯飲みの淵に当て、ゆっくりと急須を傾け、お茶を注ぐ。
何でも無いような、ともすれば当たり前とも感じ取れる一連の動作。
けれども、傍らの紫はそれをとても美しいと思いながら見つめていた。急須に添えられている白く美しい手も、少し前のめりになっている体も、注がれているお茶に向けられている瞳も。見る人が見たら芸術作品に見えたかもしれない。紫もそんな感覚を覚えていた。
けれども、紫が違っていたのは、そこに愛しさがあるということだ。
それは、幽々子が妖夢に向けるような無邪気な愛ではなく。
それは、紫が可愛がっている巫女に向けるような、慈愛でもなく。
今、この瞬間、紫が幽々子に向けている愛しさは………。
「ねぇ、幽々子。」
「なぁに、紫。」
幽々子が傾けていた急須を起こし、お盆に置いた。そして、熱いお茶が注がれた湯飲みを紫に差し出した。
「はい、どうぞ。熱いから気をつけてね。」
「………。」
「どうしたの、紫?」
紫はじっと幽々子を見て動かない。
縁側に腰かけ、両手を膝の上で組み、顔を右へ向けて幽々子を見つめている。
真っ直ぐに。
しっかりと。
何かに捕われているように。
「紫。」
幽々子が呼びかける。
「紫。」
もう一度幽々子は呼びかける。
「えい。」
幽々子は手に持っていた湯飲みを紫の唇に押し当てた。
お茶は淹れたてである。
「おあちゃああああああああああ!」
紫は熱さに普段上げ無いような、何とも滑稽な叫び声を上げてしまった。
傍らの幽々子は、楽しそうにその光景を眺めている。もちろん、紫が叫ぶ前にひっこめた湯飲みはしっかりと手に持っている。
「ようやく気がついた。」
「いきなり何するのよ、幽々子っ!」
唇に両手で風を送りながら、紫は幽々子に詰め寄った。だが、当の幽々子はそんなことどこ吹く風というように微笑んだ。
「だって、呆けていたようだったから…つい。」
「何がついよ。熱かったわ。」
「あらあら、それはごめんなさい。」
持っていた湯飲みを再びお盆に戻すと、幽々子はふふっといたずらっ子のような笑みを紫に向けた。
「はぁ、やけどしちゃったかも。」
「まぁ、それは大変ね。」
「そうね、治療が必要だわ。」
何ともわざとらしく言葉を紡ぐ紫。
「あら、じゃあどんな治療をすればいいのかしら。」
こちらも負けず劣らず、わざとらしく言葉を紡ぐ幽々子。
「そうねぇ………。」
煽いでいた両手の内、右手を顎に当てる。いつもの、何かどうでもいいようなでもそうでもないようなことを真剣に考えている時のポーズ。大体、この時の紫の口から飛び出す言葉は碌なことがない。
うんうん唸りながら、まっすぐに幽々子を見つめながら考える紫。そして、
「こうすれば、治るわ。」
と、言うが早いか、空いていた左手を幽々子の頬に添えた。
「ふふっ、やけどの治療のしかたを考えていたんじゃなかったのかしら。」
「そうよ。そして……。」
ゆっくりと紫の顔が幽々子の顔に近づく。それは、二人の距離が縮まるということであり、同時に唇の距離が近づくということでもある。
「もう、強引。」
「あら、今回は結構自然な流れだったと思うけど。」
「どこが。」
「そんなに拗ねないの。可愛い顔が台無しよ。」
「余計なお世話よ。」
「本当に愛しい人。」
「………バカ。」
その言葉を皮切りに観念したとばかりに瞼を閉じる幽々子。そして、それに応えるように唇の距離を縮めていく紫。
そして、二人の距離が無くなろうとした。その時、
「幽々子様。ただ今戻りました。」
幽々子の可愛い従者の声が聞こえてきた。
▼
夕暮れ。
陽は傾き、全てのものを等しく照らし伸びた影を作らせる。
それは、縁側で言葉を交わしていた二人も同じだった。
「はぁ、あのタイミングで妖夢が帰ってくるとは。」
「残念だったわね、紫。」
そう、妖夢の声が聞こえた瞬間、幽々子は素早く紫から離れ口づけを回避した。その結果、紫は縁側と口づけを交わすこととなった。
「今日の私は泣いてもいいわよね。」
「お好きにどうぞ。」
クスクスと幽々子は楽しそうに微笑む。
まぁ、この笑顔が見られただけでも良しとするか。
と、紫は思うのだった。
「じゃあ、そろそろお暇するわ。」
「そう、今日も楽しかったわ。」
「そう?」
「えぇ、今度はお土産を持ってきてくれるともっと嬉しいわ。」
いつも紫は思うのだった。
本当に幽々子の笑顔には勝てないな。
と。
「そう言えば。」
これから紫がスキマを開けようかと思っていた矢先、幽々子が口を開いた。
「何かしら。」
「どうしてあの時、呆けていたの?」
「あぁ……あれね。」
途端、幽々子には紫の頬に夕暮れの赤ではない朱色が差したように見えた。
何故だか紫は急にそっぽを向いてしまった。
「どうしたの、紫。」
「何でもないわよ。」
「何でもないなら、教えてほしいわ。どうして呆けていたの?」
「そんなことどうでもいいじゃない。」
「どうでも良くないわ。」
「どうして?」
と、そっぽを向いていた紫が幽々子の方を振り向くと、目と鼻の先に幽々子の顔があった。
「あっ、なっ。」
突然のことにしどろもどろになる紫。自分でも頬が熱くなっていくのを感じた。
「紫が胡散臭くて嘘つきなのは知っているけれど。」
そういって、幽々子はとても優しく微笑んだ。
「私には通用しません。」
「………呆けていたのは………。」
「いたのは?」
まるで、これから好きな人に告白するように声を絞り出す紫。
陽はもう少しで沈むところだ。
でも、紫の頬は朱く熱かった。
「お茶を淹れる幽々子の姿に見惚れていたから……よ。」
「………。」
幽々子は自分の頬に熱が灯るのを感じていた。
縁側に伸びていたお互いの影は、もう無くなろうとしていた。
「……ただ、お茶を淹れていただけよ。」
「それでもよ。」
紫は、幽々子の腰に手を回し体を抱き寄せた。
突然のことに、ふわっ!と声を出す幽々子。
距離は、無くなった。
「ゆ……かり?」
「時は無限にあるかもしれない。けれども……。」
「……けれども?」
「今日、私が美しいと、愛しいと………消えないでと願った幽々子はあの瞬間にいたわ。」
トタトタ
と、縁側に向かってくる足音が聞こえる。
でもそれは、紫と幽々子の二人には聞こえなかった。
紫と幽々子にとって時間は無限かもしれない。けれども、あの時あの一瞬にのみ存在するものが多くある。無限の時があるからこそ、そうした刹那の儚さがとても愛おしいのである。
だから、
「好きよ、幽々子。」
紫は、腕の中の愛しい人に唇を落とした。
同時に、影は闇へと融けていった。
温かくて優しくて甘い口づけは、刹那のようにも永遠のようにも二人には感じられた。
どちらともなく、唇が離れる。
「………なんか、ズルい。」
「えっ。」
「そうやって、いっつも紫ばっかり。」
「そう?」
「そうよ。私だって………。」
トタトタと音が聞こえて止まった気がしたが、構うものかと幽々子は思った。
そして、
「紫のこと……好きなんだから……。」
また、唇が重なった。
驚きに目を丸くする紫。けれどもすぐにそれは、愛しい人を想う優しさに変わっていった。
再び唇が離れる。
「ふふっ、やられたわ。」
「………紫のバカ。」
そう言い合う二人の顔は、とても楽しそうだった
永遠とも言える時間の中で、一瞬の刹那を重ねていく。けれども、この想いだけはずっと変わらないと信じて。
「また明日ね、幽々子。」
「また明日ね、紫。」
そんないつもの小さな約束を交わして、二人はまた口づけを交わすのだった。
それはありふれたことで。
でも、かけがえのないもので。
ほら、今日もまた貴女がやってきた。
▼
今日も西行寺幽々子は、白玉楼の縁側でお茶を啜っていた。
いつも繰り返していること。けれども、幽々子はこの時間が好きだった。人間からすれば時間の無駄なのかもしれない。でも、亡霊である幽々子にとって時間は在って無いと同じだった。
だから、幽々子はせめて無限の時の中で繰り返されるものを見ておきたいと思った。
移りゆく季節を。
変わりゆく風景を。
紡がれていく命を。
儚き夢を。
巡りゆく時間の中で、繰り返し、繰り返し。
幽々子にとって時間は無限と同義だ。だからこそ、幽々子にとって時間は有限だった。
「はぁ、今日もお茶が美味しいわ。」
湯飲みをお盆に戻し、視線を庭に向ける。愛しい従者がいつも手入れしてくれている庭。そんな従者も今は里へと買い物に出ている。
今日の晩御飯は何かしらね。
そんなことを幽々子が考えていると、スッと目の前の空間に亀裂が走った。
「あらあら、今日はそんなところからおいでなのね。」
「別に玄関から礼儀正しく入ってきてもよいのだけれど。」
「けれど?」
「それじゃあ、芸が無いでしょ。」
「ふふっ、いつから紫は面白さに気を遣うようになったのかしら。」
「いつもでしょ。」
「いらっしゃい、紫。」
「こんにちは、幽々子。今日も美味しそうなお茶を飲んでいるわね。」
そう言って、いつもの導師服で、いつもの帽子で、いつもの胡散臭い微笑みで白玉楼にやってきた。
▼
「そう、妖夢は買い出しに。」
「えぇ、今日はどんな晩御飯にしてくれるのかしらね。」
楽しそうに言いながら幽々子は、お盆に急須といつも紫が使っている湯飲みを載せて縁側へと戻ってきた。
「だから、今日は幽々子の淹れてくれるお茶なのね。」
「あらあら、妖夢のお茶でないと飲めないかしら。」
「そんなこと言うなんて、ひどい人。」
そう言ってヨヨヨと服の袖で横顔を隠し、泣き真似をする紫。そんないつものやりとりを幽々子は、ふふふと微笑んで楽しんでいた。
コトリ
と、お盆を降ろし傍らに正座する幽々子。急須を手に取り、注ぎ口を湯飲みの淵に当て、ゆっくりと急須を傾け、お茶を注ぐ。
何でも無いような、ともすれば当たり前とも感じ取れる一連の動作。
けれども、傍らの紫はそれをとても美しいと思いながら見つめていた。急須に添えられている白く美しい手も、少し前のめりになっている体も、注がれているお茶に向けられている瞳も。見る人が見たら芸術作品に見えたかもしれない。紫もそんな感覚を覚えていた。
けれども、紫が違っていたのは、そこに愛しさがあるということだ。
それは、幽々子が妖夢に向けるような無邪気な愛ではなく。
それは、紫が可愛がっている巫女に向けるような、慈愛でもなく。
今、この瞬間、紫が幽々子に向けている愛しさは………。
「ねぇ、幽々子。」
「なぁに、紫。」
幽々子が傾けていた急須を起こし、お盆に置いた。そして、熱いお茶が注がれた湯飲みを紫に差し出した。
「はい、どうぞ。熱いから気をつけてね。」
「………。」
「どうしたの、紫?」
紫はじっと幽々子を見て動かない。
縁側に腰かけ、両手を膝の上で組み、顔を右へ向けて幽々子を見つめている。
真っ直ぐに。
しっかりと。
何かに捕われているように。
「紫。」
幽々子が呼びかける。
「紫。」
もう一度幽々子は呼びかける。
「えい。」
幽々子は手に持っていた湯飲みを紫の唇に押し当てた。
お茶は淹れたてである。
「おあちゃああああああああああ!」
紫は熱さに普段上げ無いような、何とも滑稽な叫び声を上げてしまった。
傍らの幽々子は、楽しそうにその光景を眺めている。もちろん、紫が叫ぶ前にひっこめた湯飲みはしっかりと手に持っている。
「ようやく気がついた。」
「いきなり何するのよ、幽々子っ!」
唇に両手で風を送りながら、紫は幽々子に詰め寄った。だが、当の幽々子はそんなことどこ吹く風というように微笑んだ。
「だって、呆けていたようだったから…つい。」
「何がついよ。熱かったわ。」
「あらあら、それはごめんなさい。」
持っていた湯飲みを再びお盆に戻すと、幽々子はふふっといたずらっ子のような笑みを紫に向けた。
「はぁ、やけどしちゃったかも。」
「まぁ、それは大変ね。」
「そうね、治療が必要だわ。」
何ともわざとらしく言葉を紡ぐ紫。
「あら、じゃあどんな治療をすればいいのかしら。」
こちらも負けず劣らず、わざとらしく言葉を紡ぐ幽々子。
「そうねぇ………。」
煽いでいた両手の内、右手を顎に当てる。いつもの、何かどうでもいいようなでもそうでもないようなことを真剣に考えている時のポーズ。大体、この時の紫の口から飛び出す言葉は碌なことがない。
うんうん唸りながら、まっすぐに幽々子を見つめながら考える紫。そして、
「こうすれば、治るわ。」
と、言うが早いか、空いていた左手を幽々子の頬に添えた。
「ふふっ、やけどの治療のしかたを考えていたんじゃなかったのかしら。」
「そうよ。そして……。」
ゆっくりと紫の顔が幽々子の顔に近づく。それは、二人の距離が縮まるということであり、同時に唇の距離が近づくということでもある。
「もう、強引。」
「あら、今回は結構自然な流れだったと思うけど。」
「どこが。」
「そんなに拗ねないの。可愛い顔が台無しよ。」
「余計なお世話よ。」
「本当に愛しい人。」
「………バカ。」
その言葉を皮切りに観念したとばかりに瞼を閉じる幽々子。そして、それに応えるように唇の距離を縮めていく紫。
そして、二人の距離が無くなろうとした。その時、
「幽々子様。ただ今戻りました。」
幽々子の可愛い従者の声が聞こえてきた。
▼
夕暮れ。
陽は傾き、全てのものを等しく照らし伸びた影を作らせる。
それは、縁側で言葉を交わしていた二人も同じだった。
「はぁ、あのタイミングで妖夢が帰ってくるとは。」
「残念だったわね、紫。」
そう、妖夢の声が聞こえた瞬間、幽々子は素早く紫から離れ口づけを回避した。その結果、紫は縁側と口づけを交わすこととなった。
「今日の私は泣いてもいいわよね。」
「お好きにどうぞ。」
クスクスと幽々子は楽しそうに微笑む。
まぁ、この笑顔が見られただけでも良しとするか。
と、紫は思うのだった。
「じゃあ、そろそろお暇するわ。」
「そう、今日も楽しかったわ。」
「そう?」
「えぇ、今度はお土産を持ってきてくれるともっと嬉しいわ。」
いつも紫は思うのだった。
本当に幽々子の笑顔には勝てないな。
と。
「そう言えば。」
これから紫がスキマを開けようかと思っていた矢先、幽々子が口を開いた。
「何かしら。」
「どうしてあの時、呆けていたの?」
「あぁ……あれね。」
途端、幽々子には紫の頬に夕暮れの赤ではない朱色が差したように見えた。
何故だか紫は急にそっぽを向いてしまった。
「どうしたの、紫。」
「何でもないわよ。」
「何でもないなら、教えてほしいわ。どうして呆けていたの?」
「そんなことどうでもいいじゃない。」
「どうでも良くないわ。」
「どうして?」
と、そっぽを向いていた紫が幽々子の方を振り向くと、目と鼻の先に幽々子の顔があった。
「あっ、なっ。」
突然のことにしどろもどろになる紫。自分でも頬が熱くなっていくのを感じた。
「紫が胡散臭くて嘘つきなのは知っているけれど。」
そういって、幽々子はとても優しく微笑んだ。
「私には通用しません。」
「………呆けていたのは………。」
「いたのは?」
まるで、これから好きな人に告白するように声を絞り出す紫。
陽はもう少しで沈むところだ。
でも、紫の頬は朱く熱かった。
「お茶を淹れる幽々子の姿に見惚れていたから……よ。」
「………。」
幽々子は自分の頬に熱が灯るのを感じていた。
縁側に伸びていたお互いの影は、もう無くなろうとしていた。
「……ただ、お茶を淹れていただけよ。」
「それでもよ。」
紫は、幽々子の腰に手を回し体を抱き寄せた。
突然のことに、ふわっ!と声を出す幽々子。
距離は、無くなった。
「ゆ……かり?」
「時は無限にあるかもしれない。けれども……。」
「……けれども?」
「今日、私が美しいと、愛しいと………消えないでと願った幽々子はあの瞬間にいたわ。」
トタトタ
と、縁側に向かってくる足音が聞こえる。
でもそれは、紫と幽々子の二人には聞こえなかった。
紫と幽々子にとって時間は無限かもしれない。けれども、あの時あの一瞬にのみ存在するものが多くある。無限の時があるからこそ、そうした刹那の儚さがとても愛おしいのである。
だから、
「好きよ、幽々子。」
紫は、腕の中の愛しい人に唇を落とした。
同時に、影は闇へと融けていった。
温かくて優しくて甘い口づけは、刹那のようにも永遠のようにも二人には感じられた。
どちらともなく、唇が離れる。
「………なんか、ズルい。」
「えっ。」
「そうやって、いっつも紫ばっかり。」
「そう?」
「そうよ。私だって………。」
トタトタと音が聞こえて止まった気がしたが、構うものかと幽々子は思った。
そして、
「紫のこと……好きなんだから……。」
また、唇が重なった。
驚きに目を丸くする紫。けれどもすぐにそれは、愛しい人を想う優しさに変わっていった。
再び唇が離れる。
「ふふっ、やられたわ。」
「………紫のバカ。」
そう言い合う二人の顔は、とても楽しそうだった
永遠とも言える時間の中で、一瞬の刹那を重ねていく。けれども、この想いだけはずっと変わらないと信じて。
「また明日ね、幽々子。」
「また明日ね、紫。」
そんないつもの小さな約束を交わして、二人はまた口づけを交わすのだった。
百合のパーセンテージが満たされて溶けそう‥‥ありがとうございます!
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