*色々あって魔理沙はアリスの家に住んでます。
*短いです。
アリスは優しい。
私が食べたいと言ったものは何でも作ってくれるし、寝付けないときは眠くなるまで話し相手になってくれるし、研究を手伝ってくれるし、実験に失敗して大惨事になっても怒らない。
たいていのことは笑って許してくれる。ただ、一つだけどうしても許してもらえないことがあった。
「なあ、どうして外へ出るのはダメなんだ?」
「出る必要ないでしょう? 要る物は私が持ってくるし」
「ちょっと散歩するぐらいいいだろ?」
「本調子じゃないのに?」
言葉が見つからず黙り込むしかなかった。そんな私の頭を撫でて、アリスはケープを羽織り買い物に出掛けた。
アリスの言う通り、私は本調子じゃない。ここ最近、魔法が使えなくなっているのだ。今の状態で外へ出るのは危険だろう。
「退屈だ……」
欠伸を噛み殺し、カップに残った紅茶を喉に流し込んだ。
「…………ん?」
ふと対面の窓際の本棚に違和感を覚えた。よく見ると本の並びがいつもと違うし、似ているけど見慣れない背表紙のものが一冊混じっている。
好奇心から手に取ると、アリスの字が並んでいた。どうやら日記らしいと気付いて一瞬躊躇ったけど、本棚にあるものは何を読んでもいいと言われていたのを思い出して一度閉じたそれをまた開いた。だいたい日記をこんなところに置いておく方が悪い。
日記はごくごく平凡なものだった。どういう実験をしてどうなったとか、誰それと会ったとか。所々に式の走り書きがあった。
それが変わったのは四分の一を過ぎたあたりだった。
「涙、か?」
紙がよれ、字が汚くなっている。誰かが亡くなったらしい。故人を惜しむ言葉が綴られている。
「誰が死んだんだ?」
葬式に出た憶えはないし、アリスが泣いていた記憶もない。
次の日付は一週間後だった。日記というよりは研究や実験の記録に近く、所々に「自律人形」の文字が見えた。故人に似せた自律人形を作っているらしい。
一度目の失敗を経たところでドアの開く音がして、慌てて日記を元あった場所に戻した。
*
アリスがお風呂に入っている間に、私は日記を手に自室に入った。
ドアに背を向けてベッドの上に座り、人形作りの過程を辿る。
人間そっくりの姿にすることはできる。しかし自律させることは容易ではない。何度も失敗し、何度も作り直した。目的のためなら苦ではなかった。
何度目か数えるのも面倒になった頃、アリスの字が変わった。喜びで震えている。どうやらうまくいったらしい。
完成品を見たことないな、と思って、不意に寒気がした。
ありえない。どの部屋に出入りしてもいいと言われているが、どこにも等身大の人形を隠しておけるような場所はないし、自律しているなら見ていないはずがない。
震える手でページを捲る。最後の一文に眩暈がした。
『やっと魔理沙に会えた』
なんだ? どういうことだ? 私は何なんだ? 鼓動が早くなり、冷や汗が背を伝う。
見ていられなくなって日記から目を離し、何かがおかしいことに気付いた。
私はドアを閉めて明かりをつけた。明かりからここまでに影が伸びるようなものはない。
それも、人型の。
凍った背筋をドアの隙間風が冷やしていく。
一分か、あるいは一時間か。とてつもなく長く感じた膠着状態の後、ゆっくり振り向
アリスは優しい。
私が食べたいと言ったものは何でも作ってくれるし、寝付けないときは眠くなるまで話し相手になってくれるし、研究を手伝ってくれるし、実験に失敗して大惨事になっても怒らない。
たいていのことは笑って許してくれる。ただ、一つだけどうしても許してもらえないことがあった。
「なあ、どうして外へ出るのはダメなんだ?」
「あーあ、また気付かれちゃった」
アリスが自律人形を作るなら確かに魔理沙に似せそうな気がします。
過去の作品読めば理由が分かるんですか?
>2様
書き上げてから自分でも思いましたw
友達には「アリスは魔理沙嫌いなのか?」と言われましたがきっと愛故です。
>3様
いえ、過去作とは関係ありません。
自律人形を単体で置いておくと何をするかわからない+本人でないとはいえ死んだはずの魔理沙が出歩くのを見られるのはまずい、ということでアリスが自分の目の届く自宅に置いているだけです。
わかりにくくてすみません;