梅雨明けである。
乙女心満載な、なんか普段よりむらさきっぽくなってる普通の魔法使いが、しのつく雨を自分の家の窓から眺めながら、アンニュイな気分だといいつつ、不治の病の自分を想像なんかしてみちゃったりする詩を、思いつくままに日記にしたためたりしてみるのも先週で終わり。
今日あたり、白黒はっきりとコントラストを取り戻したあいつの自宅から「あー」とかいう呻きとも叫びとも知れない声が聞こえるかもしれなかった。
そんな、幻想郷ではよくある、夏の始まりであった。
幻想郷の夏。
アイスの夏である。
それも、本塁打的なアイスの夏である。
人間たちはともかく、河童あたりは今の時代においては、すでに氷菓の製造などたやすいのであろうが。それでも、夏の季節がくるたびに、幻想郷の住民は、八雲紫が外界からもたらすそのアイスをこそ至高のもの、として尊重していたのであった。
夏にわずかな本数だけスキマ妖怪からもたらされる、そう、それは、妖怪にとっては自らの力が八雲に認められた親愛の証であり、人間にとっては八雲と直接取引ができるほどの富力を持つという財力の証でもあった。
幻想郷にとって、この外来の氷菓は自身を評価された象徴であると断言してもいいだろう。
そんな、幻想郷住民にとっては希少極まりない、例のアイスクリームバーを、橙はどこにでもあるつまらないもののように無造作に掴み取った。
橙の出自を知らぬ、例えば人里一番の豪商が見たら、あるいは衝撃で自身の心臓が止まっていたやも知れぬ。
なぜならば、幻想郷の常識では、妖怪とはいえ彼女の実力と見かけの年齢からは、あまりにもその氷菓を手に取る資格がないように思えるからだった。
そんなことにもかまわず、橙は八雲の家の縁側に腰掛け、包装を剥いたそれの側面をさもおいしそうに舐める。
「藍しゃま、ことしもこの季節がやってきましたね!」
「うんうん、ゆっくりと味わってお食べ」
簡単に形が崩れるので、周りから、木の棒に沿って、木の棒の方向にあわせ、木の棒をそそり立たせるように、橙の猫特有のざらざらした舌を触感を最大限に感じさせながら、ゆっくりと、だがあくまでも慎重に這わせていく。
そうして十分に味わった後、最後に棒の周りにとけ残ったそれを、棒の先を包み込むように口全体でやさしく含みいれる。
その後、とろけるような、例のその時間を。橙は、快感とともに
きたる独特の感触を、口内のあらゆる箇所で堪能した。
「あっ、やっぱりちょっとこぼしてしまいました」
快楽を終端まで味わった橙の切なげな表情を、藍はただひたすら見つめる。
「ふふ、それに口の周りが汚れているぞ。それにホラ、ほっぺに白いのがはしたなくたれてるぞ。綺麗にしてあげるからもうちょっと私に近寄りなさい」
「はい、藍しゃま」
素直に自分の下へ近寄る橙を、藍はさながら慈母の様に見つめた。
慈母のように見つめた。慈母のように見つめた。慈母のように見つめた。
そんな、理論上はほほえましい家族団らんの風景の光景に、ふと一筋の亀裂が入り、二人の間に割り込むように、彼女たちの主が顔をのぞかせた。
「私がハンカチで拭いてあげるわ。橙、こっち来なさい」
「そんな、紫様。ずるいですよ」
「あ゛?」
「橙、光栄だから紫様に綺麗にしてもらいなさい」
紫も同じく縁側に腰掛け、橙を抱き寄せるかのように顔を近づけさせた。そうして、慣れきったかのような手つきで、橙の顔の汚れをふき取っていった。
「紫しゃまのハンカチっていいにおいがするので、私、大好きです」
「そう?」
紫は思い出す。
「やっぱり、式と主は
似てくるのかしらね。小さい頃の藍も、ご飯で口元をよく汚してたし、この匂い好きだって言ってたし」
「そうなんですか?」
橙は、照れくさそうに聞いた。
「ええそうよ。それにしても藍、あなたも少しはこのアイス、自分で食べなさい。私がやる分、全部橙に食べさせるのではなしに。あなた、ただでさえ尻尾がたくさんあって夏弱いっていうのに」
「私はいまいち食べる気がしないというか、食べたら立場上悪いような気がしまして」
「なにいってるの? これ、もともとは私が藍へのプレゼントのために持ち込んだのよ。なのに橙にばっかり食べさせて」
「そうなのですか?」
藍の言葉に、紫は多少そわそわしながら聞いた。
「気づかないの?」
「失礼ながら、紫様の深遠なる思考には卑賤な私ではとても読み解くことはできません」
そういって頭をたれる藍を、紫は忌々しげに、だがわずかに頬を染めながら叱りつける。
「HOME、藍、場、っていう寓意を込めてたの。あなたがどんなに疲れていても、外でどんなにひどい一日を送っても。私はいつまでもあなたの帰る家という欠かせない場所であり続けるわ、っていう」
「そう、なのですか」
藍はハッとした表情を見せた。
「そうよ。まったく、未熟者め」
紫はいつの間にか正座をしており、そのひざの上で、両手をもてあまし気味にこねくりまわしていた。
そうして、ふと思いついたかのように藍に向かって右手を振り上げかけた。が、五寸と振り上げないうちに、静かにひざに手を戻す。
「藍しゃまと紫しゃま、なんだかんだいって仲いいですよね」
「そうだな、橙。私は紫様の式であることを生涯光栄に思うよ」
「感謝しなさい、藍。そして、いつの日か、あなた自身が橙にとって安心できる住処となれるよう、精進なさい」
「はい!」
「はい!」藍の力強い返答につられ、思わず自分も返事してしまった橙を見て、藍と紫は、どちらともなく微笑んだのだった。
「いや、でも安心しましたよ紫様。あのアイスってそういう意味だったんですか。てっきり私はアレ的な解釈してまして。それに紫様が気づいてなくて、私が食べるとちょっとあまりにも問題だろうな、とおもって自粛してましたよ」
「アレって何?」
「私が食べると下克上的になってしまうというか、不敬罪にあたるというか、だって、あからさまっていうか、もうドストレートにいくらなんでも葬らん婆っ
乙女心満載な、なんか普段よりむらさきっぽくなってる普通の魔法使いが、しのつく雨を自分の家の窓から眺めながら、アンニュイな気分だといいつつ、不治の病の自分を想像なんかしてみちゃったりする詩を、思いつくままに日記にしたためたりしてみるのも先週で終わり。
今日あたり、白黒はっきりとコントラストを取り戻したあいつの自宅から「あー」とかいう呻きとも叫びとも知れない声が聞こえるかもしれなかった。
そんな、幻想郷ではよくある、夏の始まりであった。
幻想郷の夏。
アイスの夏である。
それも、本塁打的なアイスの夏である。
人間たちはともかく、河童あたりは今の時代においては、すでに氷菓の製造などたやすいのであろうが。それでも、夏の季節がくるたびに、幻想郷の住民は、八雲紫が外界からもたらすそのアイスをこそ至高のもの、として尊重していたのであった。
夏にわずかな本数だけスキマ妖怪からもたらされる、そう、それは、妖怪にとっては自らの力が八雲に認められた親愛の証であり、人間にとっては八雲と直接取引ができるほどの富力を持つという財力の証でもあった。
幻想郷にとって、この外来の氷菓は自身を評価された象徴であると断言してもいいだろう。
そんな、幻想郷住民にとっては希少極まりない、例のアイスクリームバーを、橙はどこにでもあるつまらないもののように無造作に掴み取った。
橙の出自を知らぬ、例えば人里一番の豪商が見たら、あるいは衝撃で自身の心臓が止まっていたやも知れぬ。
なぜならば、幻想郷の常識では、妖怪とはいえ彼女の実力と見かけの年齢からは、あまりにもその氷菓を手に取る資格がないように思えるからだった。
そんなことにもかまわず、橙は八雲の家の縁側に腰掛け、包装を剥いたそれの側面をさもおいしそうに舐める。
「藍しゃま、ことしもこの季節がやってきましたね!」
「うんうん、ゆっくりと味わってお食べ」
簡単に形が崩れるので、周りから、木の棒に沿って、木の棒の方向にあわせ、木の棒をそそり立たせるように、橙の猫特有のざらざらした舌を触感を最大限に感じさせながら、ゆっくりと、だがあくまでも慎重に這わせていく。
そうして十分に味わった後、最後に棒の周りにとけ残ったそれを、棒の先を包み込むように口全体でやさしく含みいれる。
その後、とろけるような、例のその時間を。橙は、快感とともに
きたる独特の感触を、口内のあらゆる箇所で堪能した。
「あっ、やっぱりちょっとこぼしてしまいました」
快楽を終端まで味わった橙の切なげな表情を、藍はただひたすら見つめる。
「ふふ、それに口の周りが汚れているぞ。それにホラ、ほっぺに白いのがはしたなくたれてるぞ。綺麗にしてあげるからもうちょっと私に近寄りなさい」
「はい、藍しゃま」
素直に自分の下へ近寄る橙を、藍はさながら慈母の様に見つめた。
慈母のように見つめた。慈母のように見つめた。慈母のように見つめた。
そんな、理論上はほほえましい家族団らんの風景の光景に、ふと一筋の亀裂が入り、二人の間に割り込むように、彼女たちの主が顔をのぞかせた。
「私がハンカチで拭いてあげるわ。橙、こっち来なさい」
「そんな、紫様。ずるいですよ」
「あ゛?」
「橙、光栄だから紫様に綺麗にしてもらいなさい」
紫も同じく縁側に腰掛け、橙を抱き寄せるかのように顔を近づけさせた。そうして、慣れきったかのような手つきで、橙の顔の汚れをふき取っていった。
「紫しゃまのハンカチっていいにおいがするので、私、大好きです」
「そう?」
紫は思い出す。
「やっぱり、式と主は
似てくるのかしらね。小さい頃の藍も、ご飯で口元をよく汚してたし、この匂い好きだって言ってたし」
「そうなんですか?」
橙は、照れくさそうに聞いた。
「ええそうよ。それにしても藍、あなたも少しはこのアイス、自分で食べなさい。私がやる分、全部橙に食べさせるのではなしに。あなた、ただでさえ尻尾がたくさんあって夏弱いっていうのに」
「私はいまいち食べる気がしないというか、食べたら立場上悪いような気がしまして」
「なにいってるの? これ、もともとは私が藍へのプレゼントのために持ち込んだのよ。なのに橙にばっかり食べさせて」
「そうなのですか?」
藍の言葉に、紫は多少そわそわしながら聞いた。
「気づかないの?」
「失礼ながら、紫様の深遠なる思考には卑賤な私ではとても読み解くことはできません」
そういって頭をたれる藍を、紫は忌々しげに、だがわずかに頬を染めながら叱りつける。
「HOME、藍、場、っていう寓意を込めてたの。あなたがどんなに疲れていても、外でどんなにひどい一日を送っても。私はいつまでもあなたの帰る家という欠かせない場所であり続けるわ、っていう」
「そう、なのですか」
藍はハッとした表情を見せた。
「そうよ。まったく、未熟者め」
紫はいつの間にか正座をしており、そのひざの上で、両手をもてあまし気味にこねくりまわしていた。
そうして、ふと思いついたかのように藍に向かって右手を振り上げかけた。が、五寸と振り上げないうちに、静かにひざに手を戻す。
「藍しゃまと紫しゃま、なんだかんだいって仲いいですよね」
「そうだな、橙。私は紫様の式であることを生涯光栄に思うよ」
「感謝しなさい、藍。そして、いつの日か、あなた自身が橙にとって安心できる住処となれるよう、精進なさい」
「はい!」
「はい!」藍の力強い返答につられ、思わず自分も返事してしまった橙を見て、藍と紫は、どちらともなく微笑んだのだった。
「いや、でも安心しましたよ紫様。あのアイスってそういう意味だったんですか。てっきり私はアレ的な解釈してまして。それに紫様が気づいてなくて、私が食べるとちょっとあまりにも問題だろうな、とおもって自粛してましたよ」
「アレって何?」
「私が食べると下克上的になってしまうというか、不敬罪にあたるというか、だって、あからさまっていうか、もうドストレートにいくらなんでも葬らん婆っ
ところで霊夢さん、そのあたり棒いくらで譲ってくれますか?
良い話だと思ったのにぃ
藍さまそれはあかんわー