Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

さとりは暑がり

2012/06/13 01:03:07
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※ 百合です。
 
 
 
 
 古明地さとりはソファーに腰かけ水ようかんを食べていた。ほほをゆるめて実においしそうに口に運ぶ。かたわらには麦茶もある。
 
「はー、極楽極楽」
「他人の部屋でどれだけくつろいでいるんですか。あとここは地獄です」

 じっとりとした目付きで四季映姫が言った。だがさとりはまるで気にした様子はなく、竹楊枝で羊羹を刺している。

「え、何かいけませんか?」
「真顔で聞き返さないで下さい。いきなり来たかと思えば勝手に冷蔵庫をあさって! その麦茶も水ようかんも私のなんですよ!」

 うがー、と映姫が怒りをあらわにする。
 幻想郷が日ごとに暑さをまし急速に夏めいてきたある日の午前、さとりは突然是非曲直庁を訊ねてきた。

「いいじゃないですか、どうせお中元でしょう」
「そういう問題じゃないです」

 悪びれず羊羹を食べるさとりの姿に映姫のこめかみがひくつく。

「だいたいなんで突然やってきたんです。地霊殿の報告はまだ先でしょう」
「いやあ、もう暑くて暑くて部屋にいられなくなりまして。地霊殿って下が灼熱地獄なのでこの時期は大変なんですよ」
「だからって涼みに来ないで下さい。旧都でもどこへでもいけばいいでしょう」
「クーラーがあるのここしか無いんです」
「ここ! 執務室!! 私! 仕事中!!」

 怒りのあまり思わずカタコトになる映姫だった。

「何をそんなに怒っているんです。さては映姫も夏バテですか」
「いいえ、あなたのせいです」
「もしかして羊羹を勝手に食べたことですか? 大丈夫、抹茶はとっておいてありますよ」
「そういうことじゃないです。抹茶味は好きですけど」
「ふう、おいしかった。ごちそうさま」

 羊羹と麦茶をお腹に片付けて、さとりは手を合わせる。映姫はもはやツッコム気力も起きない。
 さとりは立ち上がると、ふらふらと映姫の後ろの棚へ向かって歩いた。

「さーて、戸棚には何があるかしら」
「勝手に人の部屋を物色しないで下さい!」
「あ、お中元のそうめんがあるじゃないですか。映姫、お昼はこれにしましょうよ」
「言ってるそばから!」
「大丈夫、今日は私がゆでてあげますよ」
「なんで上から目線なんですか?」

 映姫の制止を一顧だにせずさとりは執務室に併設されたキッチンへ向かう。

「もうすぐ正午ですし、準備しちゃっていいですよね。お鍋借りますよー」

 映姫は机の上で頭を抱えた。
 
 ややして、宙に向かって叫ぶ

「ああもう! 仕事にならない!」
 
 風鈴がチリンと鳴った。
 
 
 

 
 
 ズズズッ。
 ズゾゾゾッ。
 

 映姫の執務室にそうめんを啜る音が響く。
 映姫とさとりは執務室のテーブルをはさみ向かい合わせになって昼食を食べていた。
 さとりが笑顔で尋ねる。
 
「どうですか、映姫?」
「…………」ズゾー
「おいしくないですか?」
「いや、おいしいですけど」
「そう、よかった」
 
 さとりは嬉しそうに笑う。
『だからこれは私のお中元なんです!』という映姫の心の叫びは無視された。
 
「そうだ映姫、旧都に新しいビアホールができたんですよ。仕事が終わったら一緒に行きませんか?」
「そうですね。ええ、仕事が終わったら。仕事が終わったら。大事なことなので二回言いました」
「なんかの雑誌で特集されていたんです。私ビアホールって行ったこと無くて」
「私の心の訴えは無視ですか。そうですか」

 ヤケ気味に映姫はそうめんをすする。あら、とさとりが声を上げた。

「映姫の部屋に雑誌なんて珍しい……おやこれは」
 
 さとりが手にとった雑誌は表紙に映姫が写っていた。カラーのグラビア写真でやわらかく微笑んでいる。
 映姫がそうめんをすすりながら言った。

「ああ、今月出る是非曲直庁の広報誌ですよ。見本をもらったんです」
「これって……映姫ですよね」
「ええ、恥ずかしながら今月の表紙モデルをやることになって、天狗に撮ってもらったんです」
「是非曲直庁の広報誌って、こんなのでしたっけ?」
「今年度からイメージ戦略の一環で紙面を大幅に改定したんです。親しみやすい閻魔庁を目指すとかで、内容も一部地上の天狗に任せたりしているんですよ」
「ほう……」

 ペラペラとさとりはページをめくる。表紙だけでなく巻頭カラーも映姫は飾っていて、8頁ほどが費やされていた。
 どの写真も普段の映姫と違い、にっこり笑っていたり穏やかに微笑んでいたりした。服こそ普段と同じ冥官の唐服だが、受ける印象はまったく違う。
 
 写真を見た途端、さとりは奇妙におとなしくなった。
 やがて、ポツリとこぼす。
 
「ちなみに、これいつ発行されるんですか?」
「今週中には幻想郷の書店に並ぶはずですよ」
「つまり、誰でも買えるってことですよね」
「ええ」
「そうですか……」

 さとりは独り言のようにつぶやくと、口をつぐんだ。映姫はさとりがおとなしい理由がよくわからなかった。
 再びさとりが口を開く。

「映姫、美人に撮れていますね」
「ありがとう。天狗の腕がいいからでしょうね」
「それに、普段と違って笑顔ですものね」
「あれ、さとりイライラしていません?」
「別に、してません」

 ムスッとした顔でさとりは言う。
 あきらかにイライラしている。

「だから、別にしていません。それより、なんでこんな媚びた笑顔なんですか?」
「媚びたって……。是非曲直庁のイメージアップのための仕事なんですから、笑顔くらい当然でしょう」
「知りません。映姫はずっと説教臭い閻魔のイメージでいればよかったんです」
「何気にひどくないですか」
「――映姫が美人なのは私だけが知っていればよかったんです」
「なにか言いました?」
「いいえ、別に」
「まったく、何を怒っているんです?」
「だから怒っていませんて。映姫こそ、なんでほいほいグラビアの仕事なんか引き受けたんです」
「上司の命令だったんです。なぜだか十王会議で全会一致で私が選ばれて……これでも拒否したんです。最初は水着撮影とかあったんですよ」 
「え!? 見たかっ――、コホン、えっと、それは撮らなくてよかったですね」
「ええ、私だってすすんで引き受けたわけじゃありません」

 映姫はそう言ってため息をつく。
 さとりは雑誌のページをめくった。カラーページは終わり、映姫のインタビュー記事が乗っている。
 さとりがまたむっとするのが、映姫にも分かった。

「すすんで引き受けたわけじゃないと言う割に、インタビューなんかも受けてノリノリじゃないですか」
「ですから、それは命令で無理やり……」
「もういいです。そりゃ映姫は美人ですもんね、きっとこの記事で人気が出て…………って、えええっ!?」
 
 突然さとりは叫び声を上げたかと思うと、食い入るように紙面を見た。
 やがて顔を上げたさとりは慌てふためき、口をパクパクさせている。
 
「あなた、一体、いったいな、何を考えっ」
「どうしました?」

 さとりが指差す部分の記事を映姫は読んだ。そこにはインタビュー記事にありふれた、お決まりの質問が書かれている。
 

《 記者「恋人などはいらっしゃらないんですか?」
  四季映姫「いますよ」
  記者「ええ! いるんですか?」
  四季映姫「はい」
  記者「差し支えなければぜひ聞かせて下さい!」
  四季映姫「昔からの知り合いなんですが最近では仕事でも付き合いがあります。地底に住んでいるんですが、とてもシャイで引っ込み思案で……。
        でも、とても優しい家族思いのいい子なんです」(※記者注、このとき四季様はとても可愛らしいはにかんだ笑顔でした。)
  記者「他には他には! なにかありませんか」
  四季映姫「そうですね。最近お互いの仕事が忙しくてなかなか会えないのが悩みの種で……」(以下略) 》
 
 
「ああ、これですか」

 読み終えた四季映姫が涼しい顔をしているのに対し、さとりの顔面は急速に温度を増していく。

「な、なんてこと答えているんですか。よりにもよってインタビューで!」
「いけませんでしたか?」
「い、いけませんもなにも。だいたいこういうのって本当のことは隠して『全然できないんですよー』とか『募集中です』とか答えるものでしょう」
「私、嘘つけませんから。それにちゃんとさとりの名前は伏せましたよ」
「これじゃ誰が見たってわかります! は、恥ずかしい……絶対勇儀にからかわれてパルスィに嫌味を言われる……」

 さとりは顔を手で覆い悶絶している。
 映姫はさとりの手から雑誌を取り、内容を読み直した。

「むむ、私、変なこと言ってますかね」
「内容どうこうではなく雑誌に載ったのが問題なんです。だいたい、是非曲直庁のアイドルっぽい紹介のされ方をしてるのに、恋人宣言とかいいんですか?」
「記事担当者は『おもしろいからオッケー』と言ってました」
「完全に楽しまれているじゃないですか! ああ、これが今週末には幻想郷中に……」

 ぐったりとさとりはテーブルに突っ伏した。さすがに心配になって、映姫が覗き込む。

「どうしたんですかさとり、暑さでのぼせましたか? 顔真っ赤ですよ」

 さとりは、恥ずかしそうに言う。

「気温じゃありません、あなたのせいです」
  
 
 
 
 
 
                     (おわり)
雑誌が出た日、さとり様が本屋で十冊買ったのはまた別のお話。
 
 
 
 
 
 
久しぶりにえいさとを書きました。といってもえいさと以外あまり書かないのですが。
さとり様は暑がりなんじゃないかと思います。それで冷え性。季節の変わり目は大変なんじゃないでしょうか。
映姫様はそんなさとり様をわかって、色々文句言いながらも執務室に入れてあげているといいです。
今回最初から映姫様とさとり様は恋人同士ということになっています。説明がないとわかりづらかったかもしれません。すみません。えいさとちゅっちゅ。
 
 
それでは今回もここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
ちゃいな
コメント



1.喉飴削除
恋人同士の映姫様とさとり様美味しいです。
やはりちゃいなさんのお書きになる映姫様とさとり様は素敵ですね! とってもにやにやさせていただきました!
ごちそうさまです!
2.名前が無い程度の能力削除
この二人毎回なんか食ってんなw
だがそれがいい

色々理由つけて映姫様のところへ遊びに行くさとり様は可愛いと思いますちゅっちゅ
3.名前が無い程度の能力削除
えいさとちゅっちゅ
4.名前が無い程度の能力削除
いい
5.奇声を発する程度の能力削除
甘くて良かったです
6.名前が無い程度の能力削除
広報誌は幻想郷の外でも買えますか!?
7.名前が無い程度の能力削除
振り回されてるのに決めるトコはズバンと決める
映姫さま ステキ さとりんもかわいい
8.名前が無い程度の能力削除
寒がり編も期待しよう
9.名前が無い程度の能力削除
良いえいさとでした。
グラビア欲しいです。
10.名前が無い程度の能力削除
リバース!
11.名前が無い程度の能力削除
そうめんよーし 羊羹よーし 麦茶よーし。
さて書店に行ってきます。
12.ちゃいな削除
コメント返信失礼します。


1. 喉飴さん
一番にコメントありがとうございます! とても嬉しいです。えいさともっと流行るといいんですが……。
2. 名前が無い程度の能力さん
ちゅっちゅ
自分の書くお話しだと確かになんかしら食べています。食べている描写が好きなんです。読んでいただきありがとうございました。
3. 名前が無い程度の能力さん
えいさとちゅっちゅ
4. 名前が無い程度の能力さん
ありがとうございます。
5. 奇声を発する程度の能力さん
ありがとうございます。ちゅっちゅ
6. 名前が無い程度の能力さん
探したんですがありません。民明書房が取り扱っているらしいんですが……
読んでいただきありがとうございます
7. 名前が無い程度の能力さん
映姫様は普通にかっこいいと思います。あと、映姫様もさとり様も普段なかなか素を出せないので、二人きりの時はお互い遠慮が無くなるんだと思います。
8. 名前が無い程度の能力さん
続き書きたいけど賭けないものが多いので、過度な期待はせず待っていて下さい。
9. 名前が無い程度の能力さん
映姫様のグラビアは自分も欲しいです。ありがとうごさいました。
10. 名前が無い程度の能力さん
さとり様は基本誘い受けだと思います。
11. 名前が無い程度の能力さん
読んでいただきありがとうございます。広報誌見つかったら自分にもください。
 
皆さん読んでいただきありがとうございました。えいさとちゅっちゅ。
13.ice削除
美しすぎるヤマザナドゥ!
えいさとは、ええっと、表現が適当ではないやも知れませんけれども、リーマンラブの様な貴重な職業婦人同志の百合だと思いました。
素晴らしいです!
14.euclid削除
嫉妬さとりさんもかわいいのですけれども、まずは広報紙3冊ください話はそれからです。
15.名前が無い程度の能力削除
えいさと…こういうのもあるのか!
16.名前が無い程度の能力削除
おおっと残りの広報誌は自分がいただく!!
生真面目映姫さまとフリーダムさとりんの組み合わせが実に可愛いですね、読んででによによしちゃいました。