Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

まばゆい光、良いことあるよ

2012/05/13 10:51:04
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 全地底腕相撲大会。優勝者は地底一の力持ち星熊勇儀。星で熊で勇ましい。そりゃあ強い。それでもって逆トーナメント優勝者、つまり地底最弱はそこでうなだれているお姉ちゃん。最後の最後、キスメとの白熱バトルは手に汗握る戦いだった。力こそ互角だったものの、体力で負けたのだ。

「そんなに気にしないで、お姉ちゃん。弱くても好きだよ」
「何の事です?」

 どうやらうなだれている理由を外したらしい。

「腕相撲大会のこと気にしてるんだと思ってた」
「あれ半年も前ですよ」
「そっか」
「それに今ならキスメに勝てそうな気がします。少ししか続きませんでしたが、筋トレしましたからね」

 筋トレといっても腹筋五回を三日欠かさずやっただけ。毎日三回目辺りからのお姉ちゃんの顔がすごいことになっていた。

「大人げないと思わないの」
「むしろこいしはなんでそんなに強いんですか、姉妹なのに」

 そう、私はこう見えて準優勝。男とか、他の鬼とかを抑えて。

「腕相撲って案外コツなんだよ、知ってた?」
「勇儀もコツをよく理解しているから強いのですか?」
「勇儀は意外と繊細だよ、戦いにおいては。まあでもあれはコツとかじゃどうしようもない程度には力持ち」

 どうしたどうしたって笑いながら、それじゃあこっちからいくぞ。ガン! 手の甲が割れたかと思ったくらい痛かった。

 ところで。

「お姉ちゃんどうしたの、まんじゅう腐ってたの?」
「まんじゅう? まんじゅうがあるのですか」
「多分ないです」
「そうですか」
「食べたいの?」
「そりゃ食べたいですよ」

 ちょっと生気が戻ってきた。

「してお姉ちゃんはなんでそうなっているの?」

 そう、とは絨毯の上に置かれた膝丈机に上半身だらんと足べたんと。

「もうすぐお祭りの季節なんですよ」
「はあ」
「そしたらまあ私嫌でも忙しくなるじゃないですか。それでもって、きっと色々な人と会わないといけないんですよ。私忙しいの嫌いじゃないですか、私人と会うの苦手じゃないですか」
「よく管理職やっていけてるね」
「こいし達のためですよ。代わりに働いてくれるのなら、明日、いえ、今日中には辞めます」

 それは無理かも。

「お姉ちゃん、脛かじっていい?」
「もうかじってるじゃないですか」
「じゃあ腕」
「はあ、はい?」

 お姉ちゃんの横にスライディングして、素早い動作でお姉ちゃんの腕を口に加える。はんぺんみたいに柔らかい。

「うわ、何してるんですか」
「えー、そこはアンとかイヤンとか喘ぐところじゃないの、可愛げ無い」

 口がはんぺんで一杯だから上手く声が出せない。

「こいしは私をどうしたいんです。てっきり元気づけてくれているものだと思っていました」
「元気づけようとしています」
「なるほど、こいしが人を元気にさせようとすると、エロに走るんですね」
「酷いなー、快楽って言ってほしい」
「同じです」

 口を放した。

「それじゃあ私が代わりにやってあげようか、今回だけ」

 管理職。大変だということは重々承知しているのだが、一度でいいからやってみたかったのだ。書類にハンコ。出来る気がする。あるでしょう、こういう気持ち。農家を手伝ってみたくなったり、絵描きになってみたくなったり、やたらと道を掃除したくなったり。

「それは無理ですよ。知っていますか? 地底のお祭りは企画段階ではロクな物が無いのですよ。まず一つも通らないと思った方がいい」
「へー、毎年焼きそばとかフランクフルトとか、すごい物でキスメとヤマメのやっていたお化け屋敷とか。普通だと思ってた」
「ちなみに前回そのキスメとヤマメの出してきた企画書は、リアルお化け屋敷」
「面白そう」
「本物の幽霊を雇って、来た人を取り憑かせる屋敷です」
「それはヤバいね」

 毎年お祭りの時期のお姉ちゃんと言えば、ハンコをついてついてつきまくった後は疲れたとか言って家に引きこもり、ペット達が気を使って買ってきてくれた焼きそばを食べながら、皆の心の中に浮かぶお祭りのヴィジョンを見て微笑むだけなのだった。この人は、ちっとも参加しない。……半年前の腕相撲大会は何故か参加した。

「そうだ、お姉ちゃん、今回は参加しよう。一緒にお祭り巡ろう」
「えー」

 何がそんなに嫌なのだろう。

「お祭りなんて馬鹿みたいに高い原価十倍以上の物を売って金儲けしようという不届きもの達が集まって、それに騙された人達がヤケになって無理矢理盛り上がる祭事の皮を被った何かでしょう、行きませんよ絶対に」
「あーそんなこと言う、そんなこと言う」

 これだからお姉ちゃんは。

「今回は強制参加ね! もし参加しなかったらお祭りから人さらってきて玄関に吊るして飾って腐らせる嫌がらせするから!」



   。   。   。



 お祭りの夜は人も妖怪も関係無しに皆超一流妖怪なのだ。少し強くなった気持ちになる。

「おっちゃん、豚焼き二つちょーだい!」
「じゃんけんで買ったら百円引きだよ」
「最初はグー!」

 のれんにお好み焼き風と書いてあったお好み焼きを二つもって、地底に申し訳程度に設置された神社へと向かう。

 お祭りというのは一見明かりも浴衣も売っている物も明るく見えるけれど、少し外れた、例えば空を見上げてみると酷くグレーなのだ。だからこういう暗い神社とかはカップルの格好のイチャ付き場となっている。

「はいお姉ちゃんの分。百円得したの」
「ありがとう」

 遠くの方でぼんやりと浮かぶ橙を眺めながら、お姉ちゃんはぼうっと座っていた。お姉ちゃんにお好み焼き風のどうみてもお好み焼きの豚焼きなるものを渡して、その隣に腰掛ける。お囃子の音が妙に遠い。喧噪がフィルターかかって聞こえてくる。ここは輪の外なのだ。

「ごめんねお姉ちゃん。そりゃあ、こんなに人いっぱい居るところに連れてきたら大変だよね」
「いえ、せっかくこいしが連れてきてくれたと言うのに」

 第三の目が現役ばりばりのお姉ちゃんにとって、無意識の枠を外れる勢いで浮かれた人たちの作る空気は瘴気そのものだ。知ってはいたけれど、思いの外お姉ちゃんは五分と持たずに疲れてしまった。地上には十人から十欲をいっぺんに聞ける人が現れたと聞いたけれど、祭りのこの場はそれどころの数では無い。

 青い顔をしたお姉ちゃんが自称豚焼きを口に運ぶ。

「粉っぽいですね」
「そんなもんだよ。素人の人が作ってるんだもん」

 浴衣姿の小さい女の子達が境内で花火をして遊んでいる。くじ引きで当たったのだろうか。はしゃぎすぎて花火を振り回し始めた女の子に、友達と思われる女の子が注意をしている。

「まあでも、何かオイシいですね」
「そうでしょう」

 しばらく黙って二人で石段に座って豚焼きを食べた。

「浴衣……羨ましいですね」
「着たかった?」
「そりゃあそうですよ、一度着てみたいですね」
「お姉ちゃんの浴衣かあ」

 頭の中でお姉ちゃんに似合う浴衣を探す。うーん、どう頑張っても髪の毛の色がジャマをする。

「ま、来年までには用意しようよ」
「来年も来るのですか?」
「もちろんもちろん」

 お姉ちゃんはため息をついた後、豚焼きの最後の一口をほおばって容器の隅に溜まったソースとマヨネーズを割り箸にからめて口へ運ぶ。容器の中に割り箸を挟み込み、食べている間腕に付けていた輪ゴムをぺきぺきと音を鳴らしながらかけ、自分の脇へ置いた。

「自分の管理している地底が、こんなにも活気づいているのを目の前で見るのはとても嬉しいといいますか、心温まるといいますか。良いんですけれど、やっぱり少し疲れますね」
「難儀な能力だねえ、やめちゃえば、悟り妖怪」
「いいんですか、私の脛かじれなくなっちゃいますよきっと」
「続けた方がいいねきっと」

 自分の分の豚焼きも食べ終わった。

 どちらも動かず、ぼうっと祭りの喧噪を遠くから眺めるだけ。

「かき氷でも買ってこようか?」
「ああかき氷、いいですね。でも大変でしょう」
「いいよ、待ってて」



   。   。   。



「お祭り。目の前なのに、なんだか遠いですね」
「近づいたら疲れちゃうでしょ?」
「少し寂しいです。それと、こいしはここにいなくてもいいんですよ?」

 お姉ちゃんはいちごシロップ。私はなんとなく、気分でブルーハワイ。

「いいよ、これが古明地流。人前なんて出ない方が良い」

 そうこれが悟り妖怪。

 石を投げられた日々を思い出す。帽子の両つばを掴んで頭を抱えるようにして、背中むけて小さく丸くなっていた私を守るように、いつもお姉ちゃんが泣きながら仁王立ちをしてくれていた。でも弱っちいから喧嘩になっても相手の腕に噛み付くのが精一杯で、噛み付きながらガンガンと顔を殴られる。綺麗な顔を青タンと切り傷で一杯にして、いつも「怪我はありませんか、良かった」って。

「こいし?」
「ああ、はいはい、何?」
「地底は今日も平和ですねって」
「うん」

 地底に来てからは皆が嫌われ者だったせいか、私たちは目立って嫌われることは無くなった。嫌われ者はまとめて地面の底へ埋めるのだ。そうして出来た烏合の衆が、使われなくなった地獄を開拓してこの旧都を作った。だから、本来ならだからということでも無いのだけれども、皆お隣さん意識や仲間意識が強いのだ。

 それでもこうして遠くにいるのは、お姉ちゃん自身のこともあるけれど、やっぱり考えていることが筒抜けというのは良い気分をしない人が沢山いるから、古明地流に気を使ってのこと。

 かき氷が冷たい。

 目の前の子ども達が新しい花火の袋を開け始めた。

「何よりです。今日は良い物を見ました。そろそろ帰りましょうか」
「うん」

 バケツに新しい水を入れるため、子どもが一人走ってきた。私とお姉ちゃんに気がつく。はっとして、子どもは友達の方に走って戻ってしまった。

 まあ、こんなもん。

「……帰ろっか」
「はい」

 私たちが豚焼きのゴミを持って帰ろうと立ち上がったとき、また子どもが走ってこちらへ寄ってきたのだ。それも今度は五人。

「さとり様、こいし様……で、合ってますか?」

 お姉ちゃんと目を合わせた。同時に首をかしげる。

「あの、えっと、いつもお仕事頑張ってくれて、地底を良くしてくれて、仕事大変だってお母さんが言ってました」
「パルスィお姉ちゃんも言ってた」
「キスメちゃんも言ってたよね」
「だからね、あの、えっと、良ければ、仲良くなりたいって思って」

 心が読めないってのはたまに不便。お姉ちゃんの顔を伺う。

「私の能力を知っていますか?」

 こういうときの判断をお姉ちゃんに頼ってしまう辺り、私もまだ心を読む妖怪の癖が抜けきっていないらしい。

「もちろん!」
「心が読めるんでしょう!」
「今ウチが考えてること分かるのー?」
「何でも分かる、すごい能力!」

 子どもの言ったことが一瞬理解出来なくて、意識は外れる。

 ぼうっとしている間にお姉ちゃんと二人手を引っ張られて花火の前に連れて行かれてしまった。

「はいどうぞ!」

 花火を持たされて、腕をつかまれて蝋燭に灯された火を花火につけてしまう。

「人に向けちゃだめですからね!」

 火がひらひらした部分を焼いて登っていく。遠くから聞こえるお囃子は消え、視界の周りは一気に暗くなった。私とお姉ちゃんと、子どもたち、それと花火しか写らない。

 シュボボボボという音と共に緑色の光。音も視界も帰ってくる。ぼやけた遠くの明かりは、花火の光でここまで届いているように錯覚する。お祭りの喧噪は、遠かったはずなのに、花火の音がそれと同じ物に聞こえる。

 お祭りに、参加している!

 何を隠そう私自身一人で物を買って何となく眺めるのがお祭りだと思っていたのだ。

「綺麗だねえ」
「綺麗ですね」

 私とお姉ちゃんの後に続くように、子どもたちもそれぞれ自分の花火に火を付ける。

 皆で囲んで円を作り、光の輪を作って眺めた。

「こいし、ありがとうございます。連れてきてくれて。テーブルにうなだれていなくて良かったですよ」
「あはは、お礼を言うのはこの子たちにでしょう」
「そうですね。でもそれは、後でにしましょう。花火が終わってから。この子たちも、今の私と同様に楽しんでいるようですから」

 先に火をつけていた私とお姉ちゃんの花火が終わる。

「さて、こいし、子どもたちに負けていられませんよ!」

 お姉ちゃんは小走りに水の入ったバケツへ花火を入れると、新しい花火を取り出して火をつけた。

「うん、そうだね」

 私も急いで次の花火を選ぶ。これにしよう、なんだかしっかりした作りで、強そう!

 火をつけて、走ってお姉ちゃんと子どもたちが作っている輪の中へ入っていった。
昔流行ぁった、歌手の名前はぁ、ジッタリンジン~♪
鉄梟器師ジュディ♂
コメント



1.I・B削除
なんて可愛らしいやりとり。
二人のお祭り風景に和みました。
面白かったです。
2.奇声を発する程度の能力削除
とても心が温まりました
3.名前が無い程度の能力削除
和みました。祭りに花火にかき氷、どれも懐かしいなぁ。昔はかき氷をミックスで頼んで得した気分になってたな。
4.鉄梟器師ジュディ♂削除
>I・B様
こいしとさとりはきっとあんず飴が好き。
ありがとうございます。

>奇声を発する程度の能力様
ほんわかほんわか、何もおこらない怠惰な平和。

>3様
あのシロップって本当に味変わらないのでしょうか。実は試したことが無いのでなんとも。。。