Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

あけがたにさめて

2012/05/11 07:05:40
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────







「こんばんわ」

「……おはよ」





温もりに、抱えられている気がした。





「待っていたの?」

「読書ついで。罪悪感とか謝礼が欲しくてしていた訳じゃない」

「事実として聞いただけよ」

「待ってた」

「よろしい」




しなやかな指が髪を滑る。よく出来ました、とでも言われているような加減。

そんなモノを求めていたつもりは無いので、少し疎ましげに払った。


ああ何を無粋な────本音の嘆きだけは、隠れない。




「……いい寝つきだったようね」

「そう? 寝ていたから、詳しい事は」

「いつも以上に温かいから。赤ん坊でも、こんなにいい体温していたかどうか」

「代謝がいいのよ、きっと」

「……代謝、ねぇ」




軽く、頬をつまむ指は面白半分に伸ばしたり、縮めたり。




「羨ましいのでしょう」

「ええ、とっても」




弄り回していた動きを止め、撫でるように包まれる。




「手つきが卑猥、そこはかとなく」

「この程度でそんな形容していいのかしら」

「これだから人間は。すぐ発情の方向に持っていく」

「元人間が何を言ってるのか」

「あくまで元。今の私はそれ以上よ。超越者なの」

「いやらしさが?」

「発情関係から離れて頂戴」




夜気を孕んだ風が傍らを過ぎる。

火照る錯覚に佇む私を冷ましてくれるようで、ありがたい。

窓辺の席がお気に入りだった事に感謝しよう。




「いやらしさはともかく、本当に人外って気がしない。貴女は」

「慣れすぎたのよ」

「──どちらが?」

「どちらも、ね」




私は元が付いて、彼女は朱に交わり過ぎて──素養の方も、あったかも知れない。




「嫌い? 規定に収まらず、計れない異端は」

「その規定の基準が明確で、普遍の不変を信じられるモノならば、どうだったか」

「新世界でも創りなさい。全てが支持をしてくれる」

「身に余る業ね。寂れ者同士で肩を寄せ合って……そのついでにこんな鈍色の夢を繰り広げていれば、丁度いいわ」

「そう。……そうね」




あまり良い色ではないけれど、たまに覗き込む分には話のタネで収まる。

いい趣味よ、全く。




「意外よ、結構。傷の舐め合いじみた集まりが、そんなに気に入ってたなんて」

「解釈ね。私はそれほど悲観はしていない。素敵でしょう? この環境」

「悪趣味極まった問いはまさしく罠である。閉口すべし」

「一番に罠へ引き込んで欲しい性格のクセをして」

「誰の話でしょうか」

「追い詰められたいのならそう言えばいいのよ?」

「好みじゃあない、興味ではあるけど」

「残念。無理強いは旨くないものね」




魅力のある誘いならば厭う事はないと、言っているのに。

腰に回っていた腕が伸びると、指先を絡められた。──少し、冷たい。




「……体、冷やさない? こんな場所で着の身着のまま、ぽつねんと」

「赤子紛いの体温と聞いたけど」

「体感。貴女の」

「……それ程長くいた訳でも、何より、魔法遣いは冷血なの。地獄の炎にくべられても心からの哄笑で遂げられるように」

「ああ、温度がほとんど分からないって話」

「ヒトをなんとも思わないのよ、徹底して」

「孤独でも、他人が気にならないと言うことかしら」

「そんな繊細、魔道にそぐわないでしょう」

「可愛らしいとは思うけど」

「…………可愛い魔法遣いがいいの? 随分な夢想だことね」

「ひねていても、好きになれるなら」

「可愛が前提なのは結局揺るがない、と」

「それはもちろん」

「卑しいメイド」

「全てのメイドが如何わしいような言い方は止しなさいな」

「自分は?」

「可愛い魔法遣いに現を抜かしたい卑しいメイドですわ」

「俗物ね」

「言われると思った」



ぺちっ、と。


軽快な音の割りに感触はほとんど無く、ああ叩かれたという認識だけを与える見事な嗜め。

流石とするべきか。手馴れている──扱いは全くもって不服だけど。




「まぁ……俗物でない貴女には、要領の得ない趣向でしょうけど」

「そうでもない。産み落とした人形達を可愛がる感動くらいは持ち合わせている」

「自画自賛な上に無機物対象と同列に語られるのは嫌味かしら」

「可愛いとは思えない? 人形には」

「そうねぇ…………ひねくれが作った物でもそれなりに見えるのは、如何な補正やら」

「若い頃から素直に馴染んでないと、老いてから苦労するわよ」

「素直に可愛い、って?」

「言いたいのなら」

「聞きたいのであれば」

「作り手の欲求として、当然ではあるわね」

「そう。つまり?」

「……今度、家に来なさい。自慢話で腹一杯にさせてやる」

「あら、それは楽しみ」




嬉々として。

愉快な声音は、いずれにしても隠されない。

一体何が、それ程までに可笑しいのだろうか。いやらしい奴。


いつの間に再開したのか、もうだいぶ前から髪の上を滑っている手の動きには諦めている。

私の匂いで呼吸をするように後頭部に預けられた唇が、歪む。


疲れているのだろうか。




「…………本。置いてくるわ、そろそろ」

「あら、お帰りかしら」

「そう。ここは過ごしやすいけど、寝起きするには慎みがない」

「ページに涎をかけるくらい無防備だったのに」

「……何処にシミがあるのよ」

「もちろん拭いておきましたわ」

「どうやって」

「聞きたいのなら」

「いい、ロクな結末が待ってなさそうだから」

「失礼な言い草、まったく」




嘆息もこなれた様子で、迷うことなく私の背を支える。

肩に置かれた手の温度が名残惜しいのは、錯覚ではないはず。



振り返ってやっと見た、今日初めての顔は──僅かにだけど、眠そうな青い瞳を揺らめかせている。

差し支えがあるだろうに、何を律儀にこんな端の通路外れまで来たのやら。


確約など、有って無いようなモノだというのに。



月明かりを背負った姿はそれでも、微塵の疲労などもないと訴えていて。




「……自慢話」

「ん」

「聞かせてやるから」

「そうね」




忘れるはずがない、と。笑みで首肯を。

なら大丈夫だ。


私は、今日も一人で、穏やかに。




「また、いつか」

「ええ、いつか」




一度くらいは、笑顔を向けて。





お休み、咲夜。









────
ご無沙汰です。

とか言ってみたいけどそも、そんな事実を知っている方が居ない真実。初めまして、常常社です(哀愁

サボっていた訳じゃないけど人に見せられる物を作れなかったのは確か。
後書きを愚痴の広場と錯覚する程に腐ってます、誰か駆除してぇ。

さて、今回は原点のリメイク、立ち返りを求めて書き連ねてみましたが…………いかがなんでしょうか、コレ。
もちっとあまあまにしても良かったかな……。

まぁ、そんな訳で今回も最後まで、このどうしようもない後書きまで見て下さった方も、スルーされた賢明な方も、ご読了ありがとうございます。本当。

では、お目汚しでした。


──


>奇声を発する様

コメントありがとうございます

リズム良かったですか…………一歩間違えると手抜きに落ちるので冷や冷やしております。
いまだに三人称視点の書き方が据わってないもんだから、なんちゃって一人称で誤魔化し。情景文書かなきゃなぁ。

ありがとうでした

>2様

コメントどうもです

勿体無いお言葉。何かしらを見出して貰えたのならば書き手として最低限の自信を持って……いいのかなw
またそんな言葉をかけてもらえるよう頭っからどべどべ垂れ流します。

ありがとうございました

>3様

ええ、とてもいいものです。
いろいろぼかしながらでも伝わる事が伝わってる関係はこう、ニヤリと来ます

コメント、ありがとうでした
常常社
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コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
静かにリズム良く二人の会話が進み良かったです
2.名前が無い程度の能力削除
こういう雰囲気の話好きです。
3.名前が無い程度の能力削除
咲アリはいいものだね